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ギレイの旅

千夜ニイ

塗り替える

 儀礼はノーグ家の全員と一緒に海に行くのは邪魔になると判断した。
「うん。わかった。じゃ、ラーシャも行こう?」
にっこりと笑ってみると、向かいの席に座っていたラーシャは照れたように赤くなる。
「私も武器を持っていくから大丈夫よ。」
それは、儀礼に対する警戒だろうか、と儀礼は首を傾げる。
どこかのお嬢様のように警戒もされないよりはいいな、と儀礼は微笑む。
「うん。」
微笑んだ儀礼の頬に冷や汗が浮いた。


「シュリもカナルももちろん一緒に行こう!」
バクラムの睨むような視線に、儀礼はさらわれる心配のないAランク冒険者の二人を誘う。
同じ年頃だし、きっと楽しいだろう。


「いいぜ、海は何回行ってもいいと思うぞ。」
にやりと笑って、カナルが言う。
大勢の水着の人で賑わう海岸。それはきっと見晴らしがいいことだろう。


「俺達三人とも抜けたらお袋が大変だろ。俺は残るよ。」
シュリが言う。
確かに、小さな子供たちばかり残して行くのは申し訳ない気がした。
「それなら、二人を護衛として一日雇うことにしてはどうですか? バクラムは変わりに休みにして置いていきましょう。」
アーデスが提案する。


「それでいいの?」
バクラムの家のことはよくわからないので、儀礼はアーデスたちに確認を取る。
「ああ。親父が休みで、俺達が仕事なら構わない。」
にやりと楽しそうにシュリが笑った。


「僕、その頃まだ護衛雇えるのかな?」
儀礼のSランクは誰かに譲ってしまえば効力は消える。
そうなれば護衛など必要なく、収入も激減する。
それまでの功績として記録は残るので、いきなり収入が無くなるということはないが、余裕はないかもしれない。


「私たちが護衛に失敗すると言うことですか?」
眉をしかめてアーデスが言う。
「違うよ。なんで僕、死ぬことになってんの。」
頬を引きつらせて儀礼はアーデスを見る。
護衛の失敗、それはすなわち、護衛対象の死だ。


「そうじゃなくてさ、僕はいつまでSランクでいられるかなって。技術は日々進歩してるし、コーテルやユートラスみたいに、優秀な人ばかり集めて、どんどん先を求めてる集団もあるわけだし。」
儀礼は、Sランクでいたいわけではない。
けれど、悪意を持った者が儀礼と同じだけの技術を持つことには不安がある。
だから、儀礼はいつまでその技術の漏洩を防ぎ、世界を守れるだろうか。


 悩み、瞳を伏せていた儀礼は、上げた視線の先で呆れた顔をしているアーデスを見つけた。
「何故、あなたがSランクなのか、ご存じですよね。」
アーデスは冷めたような目で儀礼を見る。
「……世界を滅ぼす力を持つから。」
Sランクに当てはまる条件を儀礼は上げる。


「そうです。でも、実際それだけなら管理局も黙ってはいません。Sランクを与える前に消す道を選択するでしょう。世界に貢献する力を持つ。だからこそ、あなたはSランクを与えられた。それが、他の誰にも成せないことだからこそあなたはSランクなんです。」
諭すようにアーデスは儀礼に語りかける。
「まあ、諦めて当分はSランクしててください。寿命の方が早く来るかもしれませんがね。」
最後はもう、どうでもいいことのように言って、アーデスは食事に戻る。


「え?」
寿命……? と儀礼は首を傾げる。
「最年少Sランクなんて歴史的栄誉を管理局が簡単に手放すわけないじゃないですか。歴代管理局の中でもこの時代がもっとも優秀だったと、後世に語り継ぐ種にされますね。」
「やだっ!……アーデス、塗り替えて!」
そんな危険人物として後世に名を残すなんて不名誉なこと、儀礼はしたくない。


 儀礼の功績を超える男、史上初のSSランクをアーデスに願う。
「ギレイ様、人を何だと思ってますか?」
片方の眉を軽く痙攣させてアーデスは言う。
まるで儀礼の心の内を読んだかのようだ。
儀礼は慌てて心の内を塗り替える。


 アーデスは人類の歴史で初めて、管理局ランクS、冒険者ランクSと言う奇跡の様な位を得る人物。


「アーデスならできるよ。世界一だもん!」
儀礼の知る中で、管理局の仕事にここまで精通しながら、冒険者として、Sランクを取れると言う程強い者は他にいない。
やはり、アーデスは人類において特別な一人なのだ。


「何を企んでおいでです?」
アーデスの顔色が若干悪くなった気がする。
きっと儀礼の心を読めなくなったのだろう、と儀礼は判断する。
なので、儀礼は大っぴらにその態度を広げる。


「信頼してるって事!」
その信頼を極上の笑みに乗せて、儀礼は言い放った。
嘘は付いてない。
歴史の上での儀礼という存在を超えられる人は、このアーデスただ一人だろう。
そのことを儀礼は信じて疑っていない。
嘘を付いていないからこそ、ただ向けられる信頼の瞳に、アーデスは深く戸惑っていた。


 管理局の研究者たちは、普段考えすぎていて、こういうことには慣れていないのだ。
それを知っているからこそ、儀礼は笑みの下に悪戯心を隠して、本心を伝えるのだ。
大丈夫、これは企んでいるわけじゃぁ、ない。
仲間に対する親愛の証だ。
にっこりと儀礼は微笑んでいた。

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