ギレイの旅
少年は成長する
「I Th 『氷の棘』。」
「↑Λ!」
二つの声が重なった。
ぶつかる氷の棘と紫の障壁。
そして、高い声がもう二度。
「朝月! 火王!」
氷の棘、と言うには、大きすぎるツララのようなものが、儀礼の白衣から出た白いワイヤーによって粉々に打ち砕かれ、炎に包まれ、一瞬にして蒸発した。
「ふぅぅう。」
儀礼は大きく息を吐いた。
「危ない、危ないっ、危ない!」
涙目の儀礼は何度もそう叫ぶ。
「アーデスのバカ。大人気ないよ!」
「成人したといつも言っているのはどなたでしたっけ。」
悪びれた様子もなく、アーデスも答える。
「下手したら死ぬからね。『氷の巨人』なんて。」
「無傷のくせによく言いますね。ちゃんとそれ位の加減はしてますよ。」
二人は段々と互いの距離を縮めていく。
金色の髪の整った顔立ちの人間が大小、二人向かい合って、相手に文句を言っている。
「……なんだこれ、兄弟げんかかよ。」
呆れたようにワルツが呟いた。
「ギレイの奴、アーデスの魔法防ぎやがった。」
「ああ……。」
シュリとカナルが真剣な表情で驚愕している。
「今の、何が起こったんだ?」
真剣に話し合うシュリとカナルに状況の飲み込めない獅子は問いかける。
「アーデスの魔法、『氷の棘』を、ギレイが砕いた。」
砕かれた氷は『棘』というよりかは、『槍』だった様に獅子は思う。
「だから、どうやってそれをやったんだ?」
眉間に皺を寄せて獅子は聞く。
儀礼がやったことは、獅子の知る機械の力ではない。
最近、儀礼はそう言う力を多く使うようになった。
白に言わせるなら、精霊の力、と言う物だろうか。
利香の持つ護衛機に付いているという大地の精霊、英のように。
ただのランプやライターから炎の壁を湧き上がるような、火の精霊フィオという者のように。
「正直、俺の方が聞きてぇよ。魔法じゃねぇから、多分、精霊の力だ。」
不満そうにシュリが答える。
戦闘の実力では、まだ儀礼よりもシュリたちに分があるはずであった。
しかし、今回アーデスが攻撃したのは儀礼。
そして、儀礼はそれを凌ぎきった。
正直、威力は抑えてあったのだろうが、シュリや獅子、カナルには攻撃を避けることは出来ても、正面から受け止めて無効化させることは困難だと思われた。
それを、涙目になりながらも、傷一つ負うことなく、文句を言う少年がやってのけた。
同じ年頃の少年が。
「だから儀礼には敵わないんだよな。」
苦笑い、と言うような笑みを浮かべて、獅子は光の剣を背中に戻す。
「『黒獅子』でもそう思うのか?」
シュリも構えていた武器を納めると笑うようにして言った。
「あいつ、前に戦った時より強くなってるよな。ついこの間のことなのに。」
アーデスと言い合う儀礼を見て、カナルは睨むようにして考える。
「「あいつと本気で戦ったら……か。」」
カナルの言葉を引き継ぐように獅子とシュリの言葉は揃った。
三人とも考えることは同じだった。
今、アーデス達の実力に一番近いのは……儀礼だと認めざるを得ない事実。
「Dランクなのにな。」
獅子が呟く。
「お前だってランクはBだろ。」
「早くAに上げろよ。」
カナルとシュリが言う。
「やってるとこだよ。長期の仕事を受けて来なかったのが痛いな。」
「長期なら遺跡に行けよ。ランクが高いから実績が上がりやすいぞ。」
獅子の言葉にシュリが助言する。
「俺、トラップとか弱いんだよ。全く理解できねぇ。」
黒い髪をグシャグシャとかいて獅子はぼやく。
「アレ連れてけ、アレ。ついでに早くアレのランクも上げて来い。じゃないとDランクに負けたなんて思いたくねぇ。」
シュリはまだアーデスと口論を続けている儀礼を示して言った。
口論の内容はいつの間にか難しい専門用語の羅列になっている。
もはや、シュリたちには理解不能な言語だ。
「アーデスさん、なんか楽しそうだな。」
怒った顔のアーデスを見て、しかしカナルは言う。
「アーデスがあんなに語気荒くしゃべってんのなんか初めて見たよな。」
シュリも頷く。
「だから、ありゃー兄弟げんかだって、言ってんだろ。」
三人のもとにワルツが割り込み、その肩を組む。
「ワルツっ、その格好で絡むなって!」
若干顔を赤くしてシュリが怒鳴る。
カナルは真っ赤な顔で黙っている。
「あたしの格好のどこに不満があるってんだよ。ん?」
ニヤニヤと笑いながらワルツは言う。
「あえて言うなら、寒そうだな。」
獅子は答える。
「つまんねぇ奴だな。この鎧はこれで、温度管理が完璧なんだよ。暑さも寒さも感じねぇ。」
ワルツは楽しそうにケラケラと笑う。
「ワルツ、初心な青少年をからかったらかわいそう。」
アーデスとの口論を終えたようで、儀礼がワルツたちの元へとやって来た。
「お前は初心じゃないからな。」
最近ではワルツが絡んだところで、慣れてしまったように儀礼は動揺もしなくなった。
「初心ですよ。綺麗なお姉さんがたくさんいる所に行ったけど、何もして来なかったもん。」
「……お前、あれだけの事しておいて何もしてないって。」
ワルツは頬を引きつらせて言う。
ワルツと戦闘能力の張る氷の谷の人間を見つけたり、店一つ潰させたり。
「儀礼、俺が仕事に言ってる間何してたんだ?」
少々、引き気味に獅子が儀礼に問いかける。
ワルツの言い方は、何か不穏なものがある言い回しだ。
「何もしてないよ。サウルの研究施設にちょっと行ってきた。知り合いが少し増えた位。」
にっこりと儀礼は笑う。
穏やかで、温かみのある優しい微笑み。
その笑みが食えないものであると、ここにいる者達はもう、十分に学習していた。
「↑Λ!」
二つの声が重なった。
ぶつかる氷の棘と紫の障壁。
そして、高い声がもう二度。
「朝月! 火王!」
氷の棘、と言うには、大きすぎるツララのようなものが、儀礼の白衣から出た白いワイヤーによって粉々に打ち砕かれ、炎に包まれ、一瞬にして蒸発した。
「ふぅぅう。」
儀礼は大きく息を吐いた。
「危ない、危ないっ、危ない!」
涙目の儀礼は何度もそう叫ぶ。
「アーデスのバカ。大人気ないよ!」
「成人したといつも言っているのはどなたでしたっけ。」
悪びれた様子もなく、アーデスも答える。
「下手したら死ぬからね。『氷の巨人』なんて。」
「無傷のくせによく言いますね。ちゃんとそれ位の加減はしてますよ。」
二人は段々と互いの距離を縮めていく。
金色の髪の整った顔立ちの人間が大小、二人向かい合って、相手に文句を言っている。
「……なんだこれ、兄弟げんかかよ。」
呆れたようにワルツが呟いた。
「ギレイの奴、アーデスの魔法防ぎやがった。」
「ああ……。」
シュリとカナルが真剣な表情で驚愕している。
「今の、何が起こったんだ?」
真剣に話し合うシュリとカナルに状況の飲み込めない獅子は問いかける。
「アーデスの魔法、『氷の棘』を、ギレイが砕いた。」
砕かれた氷は『棘』というよりかは、『槍』だった様に獅子は思う。
「だから、どうやってそれをやったんだ?」
眉間に皺を寄せて獅子は聞く。
儀礼がやったことは、獅子の知る機械の力ではない。
最近、儀礼はそう言う力を多く使うようになった。
白に言わせるなら、精霊の力、と言う物だろうか。
利香の持つ護衛機に付いているという大地の精霊、英のように。
ただのランプやライターから炎の壁を湧き上がるような、火の精霊フィオという者のように。
「正直、俺の方が聞きてぇよ。魔法じゃねぇから、多分、精霊の力だ。」
不満そうにシュリが答える。
戦闘の実力では、まだ儀礼よりもシュリたちに分があるはずであった。
しかし、今回アーデスが攻撃したのは儀礼。
そして、儀礼はそれを凌ぎきった。
正直、威力は抑えてあったのだろうが、シュリや獅子、カナルには攻撃を避けることは出来ても、正面から受け止めて無効化させることは困難だと思われた。
それを、涙目になりながらも、傷一つ負うことなく、文句を言う少年がやってのけた。
同じ年頃の少年が。
「だから儀礼には敵わないんだよな。」
苦笑い、と言うような笑みを浮かべて、獅子は光の剣を背中に戻す。
「『黒獅子』でもそう思うのか?」
シュリも構えていた武器を納めると笑うようにして言った。
「あいつ、前に戦った時より強くなってるよな。ついこの間のことなのに。」
アーデスと言い合う儀礼を見て、カナルは睨むようにして考える。
「「あいつと本気で戦ったら……か。」」
カナルの言葉を引き継ぐように獅子とシュリの言葉は揃った。
三人とも考えることは同じだった。
今、アーデス達の実力に一番近いのは……儀礼だと認めざるを得ない事実。
「Dランクなのにな。」
獅子が呟く。
「お前だってランクはBだろ。」
「早くAに上げろよ。」
カナルとシュリが言う。
「やってるとこだよ。長期の仕事を受けて来なかったのが痛いな。」
「長期なら遺跡に行けよ。ランクが高いから実績が上がりやすいぞ。」
獅子の言葉にシュリが助言する。
「俺、トラップとか弱いんだよ。全く理解できねぇ。」
黒い髪をグシャグシャとかいて獅子はぼやく。
「アレ連れてけ、アレ。ついでに早くアレのランクも上げて来い。じゃないとDランクに負けたなんて思いたくねぇ。」
シュリはまだアーデスと口論を続けている儀礼を示して言った。
口論の内容はいつの間にか難しい専門用語の羅列になっている。
もはや、シュリたちには理解不能な言語だ。
「アーデスさん、なんか楽しそうだな。」
怒った顔のアーデスを見て、しかしカナルは言う。
「アーデスがあんなに語気荒くしゃべってんのなんか初めて見たよな。」
シュリも頷く。
「だから、ありゃー兄弟げんかだって、言ってんだろ。」
三人のもとにワルツが割り込み、その肩を組む。
「ワルツっ、その格好で絡むなって!」
若干顔を赤くしてシュリが怒鳴る。
カナルは真っ赤な顔で黙っている。
「あたしの格好のどこに不満があるってんだよ。ん?」
ニヤニヤと笑いながらワルツは言う。
「あえて言うなら、寒そうだな。」
獅子は答える。
「つまんねぇ奴だな。この鎧はこれで、温度管理が完璧なんだよ。暑さも寒さも感じねぇ。」
ワルツは楽しそうにケラケラと笑う。
「ワルツ、初心な青少年をからかったらかわいそう。」
アーデスとの口論を終えたようで、儀礼がワルツたちの元へとやって来た。
「お前は初心じゃないからな。」
最近ではワルツが絡んだところで、慣れてしまったように儀礼は動揺もしなくなった。
「初心ですよ。綺麗なお姉さんがたくさんいる所に行ったけど、何もして来なかったもん。」
「……お前、あれだけの事しておいて何もしてないって。」
ワルツは頬を引きつらせて言う。
ワルツと戦闘能力の張る氷の谷の人間を見つけたり、店一つ潰させたり。
「儀礼、俺が仕事に言ってる間何してたんだ?」
少々、引き気味に獅子が儀礼に問いかける。
ワルツの言い方は、何か不穏なものがある言い回しだ。
「何もしてないよ。サウルの研究施設にちょっと行ってきた。知り合いが少し増えた位。」
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