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ギレイの旅

千夜ニイ

雪の中の勝負

 白い平原の上で、二人の少年の戦闘が行われている。
武器を振り回す気迫だけで雪が飛び交い、嵐の様に周囲を巻き込む。
ぶつかり合えば、その場から外に向けての吹雪が巻き起こり、目を開けていることすら困難な状況。
雪原の中でいっそう白い光を強く輝かせる光の剣に、黒い刃に青い柄のシュリの魔力を纏わせた大きな斧。
打ち合う度に火花が散る。
楽しそうな笑顔が両方の顔に浮かぶ。
両者とも本気を出してはいないが、その力は見たところ互角のようであった。


 獅子とシュリの、そんな激しい戦闘を尻目に。
「ワルツ、今のうちに買ってきたデザート食べちゃおう。こんなに人数増えると思わなかったから。」
小さな紙箱を安全な室内のテーブルの上に置いて儀礼は言う。
「お前な……いつか仲間に殺されるぞ。」
溜息のような苦笑いでワルツが腰に手を当てる。


「その時はワルツ、守って。」
命をかけて守ると、誓ったワルツに向かって、あまりに簡単に微笑む儀礼。
その笑顔がまた、悪いものを知らないような、無垢なもので。


「こんな時だけ、調子のいい。」
文句を言いながらも、ワルツは笑ってしまう。
本当に危険な時には、助けなど求めないくせに、冗談でこんなにワルツの心を乱す。


 可愛らしい笑み、優しい心。
楽しい言葉に、幸せな時間。
そんな、たくさんのものを与えてくれるから、つい、甘やかしてしまう。
その前に立つ、誰もが。


 だから、少年はわがままに育った。
己の善と悪を信じ、我が道を行く。
『Sランク』の蜃気楼は、今日、極北の雪の中に現れた。


 白い光がまた室内に現れ、今度はカナルがこの部屋へとやってきた。
シュリの帰りが遅いので、様子を見に来たらしい。
そのシュリと獅子の勝負は、決着がつかなかったらしい。
疲れたように二人が雪の中に座り込んでいる。


 そしてそれから、極北のアーデスの研究所の庭では、雪合戦をする儀礼、獅子、シュリ、カナル、アーデスの姿が見られた。
儀礼、シュリ、獅子の儀礼チーム対、カナル、アーデスのアーデスチームで戦っている。
力的には、アーデスの方が圧倒的に有利だ。


 しかし、儀礼の陽動で、カナルを沈め、獅子とシュリは連携してアーデスに一撃当てることに成功した。
「やった!!」
驚いて嬉しそうに笑うシュリ。
初めて、アーデスに勝負で勝ったと。


「アーデス僕に警戒しすぎ。」
くすくすと笑う儀礼。
「僕、身体能力ないよ。」
楽しそうに儀礼は言う。


「雪の中に仕掛けを埋めまくってる奴の言葉じゃないな。」
「やだなぁ、安全の為だよ。アーデスの張った罠は、さっき解除しちゃったから。」


 そんな会話する二人を置いて、カナルと獅子とシュリはまた三人で雪合戦を始めている。
超、とつくような豪速で飛び交う雪の砲弾。
すでに儀礼が手を出せるレベルではない。


 楽しそうに当て合い、避け合いする三人。
まるでじゃれあう動物の子供のようだ。


「私、犬の飼い方知りませんが。」
アーデスが庭を眺めて、楽しそうに言う。
「図書館にも、本屋にも置いてるよ。飼い方の本。」
にやにやと儀礼も笑う。
そんな儀礼をじっと見下ろし、アーデスはおもむろにその背中を押した。


「うわっ!」
勢いよく押し出され、儀礼は雪の中に埋まる。
真っ白な雪の中に全身白衣の儀礼。
おそらく、はぐれたら行方不明になるだろう。
どこにいるのか分からなくなりそうだ。


「何すんだよ。」
不満そうに、儀礼は雪の中で胡坐をかく。
頭の上の雪をパタパタと叩き落とした。
そんな二人の様子に気付いて、シュリたちが近付いてくる。


「群れのリーダーが何を言うのかと思いましてね。」
ニヤリと澄まして、アーデスは言い放つ。
「誰が犬だ、誰が。」
不満に声を低くしながらも、儀礼の口は笑っている。


「くらえっ。」
大量の雪をその手から投げつける。
「当たりませんね。」
呼び動作もなく、横に避けるアーデス。
そこに遅いかかかるシュリの放った雪の塊。
アーデスは大きく避ける。


 避けた先に、カナルと獅子の雪だるまの体大の大玉が迫る。
それをアーデスは障壁で防ぐ。
その障壁の上から――。


「行っけー! 風祇!!」
儀礼の楽しそうな声。
辺りから、雪を巻き上げ、アーデスの障壁を埋め尽くすほどの吹雪を起こす。
最終的には、かまくらの様な雪の小山ができあがった。


「あははは、やった。僕らの勝ちぃ!」
声高々に儀礼の明るい声が雪原に響く。
イェーイ! と手を打ち合う少年達。


 ワルツは室内から見ていた光景にゆっくりと窓を閉めて後ろに下がった。


 半人前とはいえ、四人も揃えば最強クラスのアーデスがおもちゃにされている。
しかし、突如儀礼が固まった。
警戒したように一気にその場所から距離を取る獅子。
それに倣ってカナルとシュリも雪の小山から離れる。


 一人、固まって逃げられなかった儀礼。
雪山が動く。
白い雪の塊が爆発するようにして拡散した。
散乱する大量の雪。


 その雪の中から現れたのは、手の上に巨大な氷の塊を浮かせたアーデスの姿。
儀礼を見るその目は据わっている。
目に涙を浮かべて、カタカタと震える儀礼。
Sランクに匹敵する力を持つ冒険者の本気の怒気に、圧倒されていた。
その様は、まさに、仔猫と猛虎。または、仔犬とドラゴン。


 さすがに、見てるだけというわけにいかない状況に、ワルツが窓を開けて駆けつけようとする。
「アーデス、ギレイ! 何やってんだ、お前ら!」
しかし、ワルツは一歩間に合わなかった。
儀礼に向かって巨大な氷は放たれる――。

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