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ギレイの旅

千夜ニイ

極北への侵入者?

 極北の研究所に侵入者というアラートを受けて、アーデスは緊張感を持ってその研究所内へと足を踏み入れた。
ここの警戒は厳重で、アーデスのパーティたち以外、誰も簡単には中に入ることはできない。
そこへ、何者かが侵入したのだ。
ワルツたちではない。
そのことは、すぐに確認できた。
ならば儀礼か。
だが、侵入者は二人。
一人ならば儀礼で説明がつくが、二人というのには納得がいかない。


 どこかの国か、研究組織のスパイと考えるのが妥当だろう。
そう思い、気配を断ったまま、アーデスはそっと極北の研究所内へと忍び込んだ。
自分の家へと入るのに、この警戒振りとは、と情けなく思いながらも、様子を探る。
すでに窓のトラップは解除されていて、開閉が自由になっているのをパソコンからの信号で確認した。


 そして、剣を構えた状態でアーデスがその窓に近付けば、すぐに子供の笑い声が聞こえてきた。
その一つにはよく効き覚えがある。
間違いなく儀礼だった。


「何をしている。」
見れば分かる雪遊びの光景に呆れながらも、アーデスは一応問いかけた。
「あ、アーデス。お邪魔してます。」
にっこりと、悪びれた様子もなく儀礼は笑う。
「すみません、勝手にお邪魔してます。」
戸惑ったように深くお辞儀をするのは儀礼の友人、黒獅子だ。


「アーデスも混ざる? 雪遊び。」
雪玉を手の中に握り締めて、儀礼は笑う。
それを、アーデスに当てようというのか。
二人とも、すでに雪まみれだ。


「子供と一緒に遊べるか。」
警戒していただけに、バカを見た気分になり、アーデスは剣を納めると不機嫌そうに答える。
「じゃぁさ、アーデス、あそこのトラップ外してよ。僕、ソリがしたい。」
まったく、悪びれた様子もなく、庭先の小さな丘を指差して儀礼が言う。
アーデスのこめかみに青筋が浮く。


 その時、研究所の室内に白い光がともった。
現れたのはワルツ。
アーデスの、極北に侵入者かもしれないという報せを受けて、警戒してやってきたのだろう。
ワルツは油断なく周囲に視線を送る。
アーデスに気付くと、ワルツはすぐに近寄ってきた。
侵入者をアーデスが始末した後とでも思ったのだろう、警戒はすぐに解かれた。


「ワルツ、侵入者だ。」
アーデスはそんなワルツに、儀礼と獅子とを指差して示す。
「はっ?」
おかしな声を出しながら、ワルツの顔が引きつった。
そこには雪まみれになった白と黒の二人の少年。


「ワルツ。ワルツは一緒に遊ぶ?」
やはり、悪びれた態度などどこにもなく、陽気に笑う儀礼の姿。
「お前……。」
ワルツは痛そうに頭を抱えた。


「アーデス、あそこの罠、外していい? それからあの辺の障壁解除してよ。結界も取って。」
雪山、平原、白い世界のあちこちを指差して、儀礼はアーデスへと注文をする。
「こらっ、儀礼!」
アーデスの返答も待たずに罠を解除し始めた儀礼に獅子が注意する。
「お前は、いつもそんななのか? 人に迷惑かけるなって――」
獅子が言い終える前に、儀礼はその口を塞ぐ。


「アーデスは平気。無敵だもん。」
楽しそうに微笑む儀礼。
「無敵だろうが、何だろうが、迷惑かけていい理由にはならねぇ!」
怒る獅子に、儀礼は怯える。


「何だか、兄弟みたいだな。」
二人のやり取りを見て、笑うワルツとアーデス。


 そこへ、もう一度室内が光り、もう一人別の人物が現れた。
やって来たのはシュリだった。
「侵入者が出たって、親父に聞いて。」
戸惑ったようにシュリはアーデスへと問いかける。


「もう一人の兄が来たぞ。」
くすりとアーデスが笑う。
「おい、シュリ。会いたがってた黒獅子だ。」
アーデスが言う。


「こいつが、黒獅子……? 思ってたより小さいような。」
ぽつりと呟くようにシュリは言った。
『黒鬼』、獅子倉重気をそのままイメージしていたなら、獅子はまだ小さく見えるだろう。


「お前より一つ年下だからな。儀礼と同じ歳だ。カナルともか。」
ワルツが言う。


「獅子、こっちがシュリだよ。シュリ・ノーグ。カナルとラーシャのお兄さん。シュリ、こっちが獅子。」
儀礼が双方を紹介する。
「よろしく、シュリだ。話はギレイやカナルたちから聞いてる。噂でもな。」
にやりと笑って、人懐こい瞳で、シュリは獅子へと右手を差し出す。
その手を握り返して、獅子もまた、相手の強さを感じ取って知らず笑みを浮かべていた。


「折角来たんだから、シュリも遊ぼうよ。だからさ、アーデス、あの辺も使えるようにして。」
儀礼はマイペースにトラップを外しながらアーデスへと注文する。


「儀礼っ!」
再び怒った獅子に、儀礼は慌ててシュリを盾にする。
「こらっ、儀礼!」
シュリの後ろの儀礼に向かって獅子は怒鳴る。


「シュリ、戦いたがってただろう! 噂の『黒獅子』だよ。」
「このタイミングでか?」
背中の儀礼を振り返りながら、呆れたようにシュリが言う。


「シエンの戦士『黒獅子』対、挑戦者、ノーグ家のアックス、シュリ・ノーグ!」
儀礼は二人の間に立ち、審判のごとく宣言する。
「レディー、ファイッ!!」


「「お前が言うな!」」


 呆れたように武器を構えながらも、怒鳴る二人の息はぴったりだ。
そして、こんな成り行きでも、戦うつもりはあるらしい。
互いに顔を見合って、笑うようにしてその笑みを合図に獅子とシュリは戦いを始めた。

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