ギレイの旅
氷の谷の忘れ人2
猫のように身軽な女性に連れられて、儀礼はワルツと共にその店の中に入る。
黒く、一つに結ばれた長い髪が、気まぐれな黒猫のしっぽのように儀礼の前でゆらゆらと揺れる。
店から出てきたアーデスの服がはだけていたことについては、儀礼は見なかったことにした。
店の入り口で、受付に立つ男性が儀礼とワルツとを観察するように見回す。
「そちらの女性は?」
男が、儀礼に訪ねる。
「まさか、ここ女性客禁止?」
儀礼は薄く笑う。
「いえ。しかし武器は預からせていただきます。」
儀礼が頷けば、ワルツは仕方なさそうに巨大なハンマーをガードマンに渡す。
そして、その男達はワルツから鎧も奪おうとする。
「待ってください。武器だけ預ければそれでいいでしょう。」
儀礼が不満そうに男を睨み付ける。
「しかし、他のお客様の安全を考えますと念のため。」
男は言う。
「心配いらない。それは後で僕が外すから。」
儀礼が男に向けて笑えば、男はなるほどと頷き、ワルツを解放した。
ワルツが微妙な顔で儀礼を睨んでいる気がするが笑顔で無視だ。
儀礼達が、通されたのは階段をいくつも下った先にある大きな部屋だった。
そこに、でっぷりとした体格の老年の男性が大きな椅子に腰掛けていた。
椅子と同化したような体型をしているが、その表情には知性があり、謀略、策略などお手の物というような、そんな存在感を示していた。
男の後ろには、たくさんのモニターがあり、町の様子や、色々な部屋の様子が映っていて、いつでも見て取れるようになっている。
「まずは初めましてだな、坊や。」
儀礼を見て、ボスらしいその男が言う。
管理局にいる高ランクの老人達と同じ、油断のならない表情だと、儀礼は感じる。
しかし、緊張を悟られないように、儀礼は平常心を心がける。
「初めまして。お招きいただきありがとうございます。」
にこやかに、儀礼は男と握手を交わす。
「どうやって、ここの地下のことを知ったのですかな?」
儀礼の手を握ったまま、店の、いや、町のボスが探るような目で儀礼の瞳を覗き込む。
「俺の連れだ。」
話の間に割り込むようにアーデスが口を開いた。
アーデスの様子を見ると、この場所に来ることには慣れているらしい。
「なぜ、待っていなかった。」
儀礼を見て、非難するような声でアーデスが言う。
「確かに、騒ぎを起こされるのも、この場所の秘密をほのめかすようなことを外で言いふらされるのも困りますな。」
儀礼の手を放すと、アーデスを見て、ボスが言った。
「僕も入れてもらいたくて。」
儀礼は無邪気を装い、笑って言う。
ボスと呼ばれる男のしゃべり方がひどく丁寧なことに儀礼は違和感を覚えていた。
それが儀礼の脳裏に警鐘を鳴らす。
儀礼が見て気付いた色町の地下。
全ての建物がこの地下の広い空間で繋がっていた。
つまりこの男は、アーデスの言う『腕のいい情報屋』たちの集う町、全ての取締りをしている者だということだ。
儀礼が、『蜃気楼』であることなど、とうに知っているのかもしれない。
「なるほど。ただ、お楽しみになりたかったと?」
まだ、疑うような視線を向ける町のボスに儀礼は照れたように笑ってみせる。
「興味はあります。」
「それならば、ご案内いたしましょう。どうぞお好きな者をお選びください。そしてこころゆくまでお楽しみください。」
営業スマイルというのだろうか、見事な、人のいい笑みを浮かべて、手を叩いて人を呼ぶ。
すぐに礼をして、一人の男が冊子のような物を持ってきた。
しかし、その冊子を見ることなく儀礼は首を横に振る。
「僕、このお姉さんが欲しいです。」
儀礼達を案内してきた、猫のような女性を示して、儀礼は妖艶に笑う。
「っお前!」「ギレイ、何を!」
指名された女性とワルツが反発したように怒鳴る。
しかし、ボスは笑う。
「そいつは言うことを聞かない女でな。用心棒くらいにしかならないんですよ。」
「構いませんよ。僕の護衛の攻撃を避けきった腕は惜しいです。それに、僕はこういう人間に言うことを聞かせるのは得意なんですよ。」
儀礼は悪意に満ちた笑みを浮かべる。
そして、その女性の耳元に小さな声で何かを囁いた。
女性の瞳が見開かれる。
「さあ、僕と一緒に来てください。」
にっこりと儀礼は優しく微笑んだ。
「……わかった。」
女性は見開いた瞳のまま、まるで、何が起こったのか分からないとでも言うように、儀礼の言葉に頷いていた。
「では、こちらのカードで扉が開きますので。」
店の男が2枚のカードを取りだし、儀礼とアーデスにそれぞれ渡す。
「ああ、1つでいいよ。」
儀礼はにやりと笑い、渡されたカードを返す。
「人が多い方が楽しめるんでね。」
そうして、儀礼達は薄暗い地下の1室へと案内された。
少し薄暗い部屋に入ると、儀礼は、すぐにワルツの鎧に手を伸ばす。
まったく警戒していなかったワルツの足を引っ掛け、ソファーへと転ばせるように座らせる。
「お、おい、ギレイ? さっきのは建前じゃないのか……?」
「誰が、建前だなんて言いました?」
焦ったように視線を揺らすワルツと、楽しむように口端を上げる儀礼。
真剣な表情で、儀礼は鎧の継ぎ目を見て、その隙間に指を入れる。
そして、少し、困ったような難しい表情を浮かべる。
「これ……どうやって外すんだろう。」
儀礼の細い指が、ワルツの脇腹辺りをくすぐり、ワルツは思わず抵抗を強めるのだった。
黒く、一つに結ばれた長い髪が、気まぐれな黒猫のしっぽのように儀礼の前でゆらゆらと揺れる。
店から出てきたアーデスの服がはだけていたことについては、儀礼は見なかったことにした。
店の入り口で、受付に立つ男性が儀礼とワルツとを観察するように見回す。
「そちらの女性は?」
男が、儀礼に訪ねる。
「まさか、ここ女性客禁止?」
儀礼は薄く笑う。
「いえ。しかし武器は預からせていただきます。」
儀礼が頷けば、ワルツは仕方なさそうに巨大なハンマーをガードマンに渡す。
そして、その男達はワルツから鎧も奪おうとする。
「待ってください。武器だけ預ければそれでいいでしょう。」
儀礼が不満そうに男を睨み付ける。
「しかし、他のお客様の安全を考えますと念のため。」
男は言う。
「心配いらない。それは後で僕が外すから。」
儀礼が男に向けて笑えば、男はなるほどと頷き、ワルツを解放した。
ワルツが微妙な顔で儀礼を睨んでいる気がするが笑顔で無視だ。
儀礼達が、通されたのは階段をいくつも下った先にある大きな部屋だった。
そこに、でっぷりとした体格の老年の男性が大きな椅子に腰掛けていた。
椅子と同化したような体型をしているが、その表情には知性があり、謀略、策略などお手の物というような、そんな存在感を示していた。
男の後ろには、たくさんのモニターがあり、町の様子や、色々な部屋の様子が映っていて、いつでも見て取れるようになっている。
「まずは初めましてだな、坊や。」
儀礼を見て、ボスらしいその男が言う。
管理局にいる高ランクの老人達と同じ、油断のならない表情だと、儀礼は感じる。
しかし、緊張を悟られないように、儀礼は平常心を心がける。
「初めまして。お招きいただきありがとうございます。」
にこやかに、儀礼は男と握手を交わす。
「どうやって、ここの地下のことを知ったのですかな?」
儀礼の手を握ったまま、店の、いや、町のボスが探るような目で儀礼の瞳を覗き込む。
「俺の連れだ。」
話の間に割り込むようにアーデスが口を開いた。
アーデスの様子を見ると、この場所に来ることには慣れているらしい。
「なぜ、待っていなかった。」
儀礼を見て、非難するような声でアーデスが言う。
「確かに、騒ぎを起こされるのも、この場所の秘密をほのめかすようなことを外で言いふらされるのも困りますな。」
儀礼の手を放すと、アーデスを見て、ボスが言った。
「僕も入れてもらいたくて。」
儀礼は無邪気を装い、笑って言う。
ボスと呼ばれる男のしゃべり方がひどく丁寧なことに儀礼は違和感を覚えていた。
それが儀礼の脳裏に警鐘を鳴らす。
儀礼が見て気付いた色町の地下。
全ての建物がこの地下の広い空間で繋がっていた。
つまりこの男は、アーデスの言う『腕のいい情報屋』たちの集う町、全ての取締りをしている者だということだ。
儀礼が、『蜃気楼』であることなど、とうに知っているのかもしれない。
「なるほど。ただ、お楽しみになりたかったと?」
まだ、疑うような視線を向ける町のボスに儀礼は照れたように笑ってみせる。
「興味はあります。」
「それならば、ご案内いたしましょう。どうぞお好きな者をお選びください。そしてこころゆくまでお楽しみください。」
営業スマイルというのだろうか、見事な、人のいい笑みを浮かべて、手を叩いて人を呼ぶ。
すぐに礼をして、一人の男が冊子のような物を持ってきた。
しかし、その冊子を見ることなく儀礼は首を横に振る。
「僕、このお姉さんが欲しいです。」
儀礼達を案内してきた、猫のような女性を示して、儀礼は妖艶に笑う。
「っお前!」「ギレイ、何を!」
指名された女性とワルツが反発したように怒鳴る。
しかし、ボスは笑う。
「そいつは言うことを聞かない女でな。用心棒くらいにしかならないんですよ。」
「構いませんよ。僕の護衛の攻撃を避けきった腕は惜しいです。それに、僕はこういう人間に言うことを聞かせるのは得意なんですよ。」
儀礼は悪意に満ちた笑みを浮かべる。
そして、その女性の耳元に小さな声で何かを囁いた。
女性の瞳が見開かれる。
「さあ、僕と一緒に来てください。」
にっこりと儀礼は優しく微笑んだ。
「……わかった。」
女性は見開いた瞳のまま、まるで、何が起こったのか分からないとでも言うように、儀礼の言葉に頷いていた。
「では、こちらのカードで扉が開きますので。」
店の男が2枚のカードを取りだし、儀礼とアーデスにそれぞれ渡す。
「ああ、1つでいいよ。」
儀礼はにやりと笑い、渡されたカードを返す。
「人が多い方が楽しめるんでね。」
そうして、儀礼達は薄暗い地下の1室へと案内された。
少し薄暗い部屋に入ると、儀礼は、すぐにワルツの鎧に手を伸ばす。
まったく警戒していなかったワルツの足を引っ掛け、ソファーへと転ばせるように座らせる。
「お、おい、ギレイ? さっきのは建前じゃないのか……?」
「誰が、建前だなんて言いました?」
焦ったように視線を揺らすワルツと、楽しむように口端を上げる儀礼。
真剣な表情で、儀礼は鎧の継ぎ目を見て、その隙間に指を入れる。
そして、少し、困ったような難しい表情を浮かべる。
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