ギレイの旅
氷の谷の忘れ人1
氷の谷から連れさらわれたらしい人の情報を得るため、アーデスとワルツに連れられて、というか無理やりついてきて、儀礼はいかがわしい店の立ち並ぶ地域へとやってきていた。
「こういうところに腕のいい情報屋がいるんだ。」
アーデスが言う。
「まぁ、確かに定番ですけど……。」
儀礼は言いよどむ。
アーデスが慣れた様子でその道を歩き、ついていくワルツの後ろを儀礼が歩いていた。
前を歩くワルツの長い足が儀礼の視界に入る。足音を立てず、しなやかに動く筋肉。
町並みからすれば違和感はないのだが、男二人に露出の多い女性一人。
儀礼は周囲のまとわりつくような視線が気になった。
「お譲ちゃん、いくらだい?」
「は??」
なんとなく二人から距離を取っていた儀礼に、知らない男が話しかけてきた。
問いかけと同時に儀礼の右手は、男のあごの下に改造銃を突きつけていた。
無意識の行動とは恐ろしいものだ。
状況を理解し、ようやく、にたついていた男の顔が引きつる。
「悪いな、こいつは売り物じゃないんだ。」
儀礼の背後から現れ、にやついた顔でアーデスが言った。
絶対、この状況を見ていながら笑って見ていたのだ、と儀礼は思う。
男はアーデスの威圧に恐れをなしたように、あっという間に視界から消えていった。
「勝手にはぐれないでもらえますか? ああいう連中が多い所ですので。」
くくくっ、と笑いながらアーデスが言う。
儀礼は不満そうに頬を膨らませた。
「僕、男ですが。」
逃げていった男に言えなかった言葉を儀礼は唱える。
「だとしても、年齢制限にひっかかるんじゃないのか? 警備兵に保護されるぞ。」
ワルツまでが笑うようにして儀礼に言った。
「僕の村では12歳で成人です。」
「ドルエドは15歳だろ。お前の村どうなってんだよ。」
くすくすとワルツが笑った。儀礼の言ったことを信じていないらしい。
まもなく、アーデスの目的らしい建物に辿り着く。
そこも当然、魅惑的な衣装に身を包む美しい女性たちが親しげに迎えてくれるような店。
「お前たちは外で待ってろ。本気で警備を呼ばれても困る。」
儀礼を見て、アーデスがまた笑いをかみ殺した。
「本気で失礼ですよね。」
真剣な表情で、儀礼はアーデスの消えていった入り口を睨みつける。
こういう店に、全く興味がないとは言わないが、別にどうしても入りたいわけではない。
はぁ、と息を吐き、儀礼は周囲を見回す。
どこもかしこもそういう店ばかりが集まった繁華街。
まだ昼間だというのに、先程会ったような男が何人もうろついている。
儀礼は隣りに立つ人を見る。
儀礼よりも背丈はあるが、自信に満ちた美しい顔立ち。
目の眩むようなプロポーション。
多くの女性が着飾る町中にいて、それでも目立つ強い雰囲気。
儀礼は遠慮がちにその腕を掴む。
「僕から離れないで下さいね。」
ワルツが儀礼などよりずっと強いことは分かっているが、それでも不必要に不快な思いをさせたくはなかった。
「ああ、大丈夫。ちゃんとあたしがついてるって、心配すんな。」
笑いながらワルツは言った。
儀礼の言った言葉は、違う意味(怖いから離れないで)に取られたようだ。
儀礼は頭を抱える振りをしてそっと涙を拭った。
「おいおい、興味があるのはわかるが、そんなにじろじろ見るなよ?」
その建物を熱心に見つめる儀礼に苦笑しながらワルツが言った。
「一緒にいるあたしの方が恥ずかしいだろ。」
がしがしと、ワルツは儀礼の髪をかき混ぜた。
「すみません、ちょっと気になって。この建物何階建てかなって……。」
頬を少し赤くして儀礼は答えた。
その建物は木製で、横幅や奥向きはとても広いが、高さは2階建て。
外から通り過ぎながら見たって分かることだった。
その、儀礼の見つめていた2階部分の窓からは、胸元を大きく開いた衣装を着る女性が何人も見えていて、時折道行く人に手を振っていた。
その一人が、儀礼が少年だと気付いたようで、愛想よくひらひらと片手を振った。
儀礼は途端に頬を赤らめてうつむく。
「そんな、見て分かる嘘つかなくても。素直に気になるって言やいいじゃないか。」
ワルツが呆れたように笑う。
「いえ、そうじゃなくて……『地下』が。」
俯いたまま儀礼は答えた。
その瞬間に、周囲の空気が変わった。
ワルツは愛用の武器を構える。
目の前の店は勿論、周囲の店からまで、警備を任される用心棒達が現れた。
取り囲むように儀礼とワルツの周りに集まる。
手を振っていた女性たちが慌てたように店内へ消え、女性たちの見えた窓には重い木製の扉が閉められる。
「おいおい、儀礼。なんだってこんな所に来てまでお前は問題を起こすんだ?」
色街の用心棒という、大勢の手練れに囲まれながらも、にやりとした笑みを浮かべて、ワルツは言った。
「あの、すみません。5階までしか数えてないんで、帰してもらえません……よね。」
ははっ、と儀礼は困ったような笑みを浮かべた。
ワルツが派手に戦闘を開始する。
あたりに喧騒と金属音が鳴り響く。
儀礼は黙ってそれを見守った。
なぜか怒り満載の用心棒たちに、儀礼は太刀打ちなどできない。
ジリジリと焼ける肌の気配に、身を硬くして戦闘が収まるのを待つ。
儀礼に戦闘能力がないと気付き、一人の用心棒が儀礼に近付く。
一番最後に、目的の店から出てきた小柄な者だった。
ワルツの攻撃を軽快な動きで避け、宙返りをするようにしてその用心棒の女性は儀礼の前まで辿り着いた。
儀礼に武器を向けられて、ワルツは苦々しく歯を噛み締める。
「ボスがお呼びだ。黙ってついてこい。」
猫のように身軽な女性が儀礼に言った。
「おい、なんでバカ騒ぎになる。」
直後に、儀礼の背後から聞き覚えのある声がした。
ギギギ、と首だけを向けて儀礼が振り返れば店に入っていったはずのアーデスの姿。
「えっと、その。招待されました。」
女性にナイフを向けられ、両手を上げた状態で儀礼は答える。
「いい招待のされ方だな。」
アーデスの片頬が引きつった。
「こういうところに腕のいい情報屋がいるんだ。」
アーデスが言う。
「まぁ、確かに定番ですけど……。」
儀礼は言いよどむ。
アーデスが慣れた様子でその道を歩き、ついていくワルツの後ろを儀礼が歩いていた。
前を歩くワルツの長い足が儀礼の視界に入る。足音を立てず、しなやかに動く筋肉。
町並みからすれば違和感はないのだが、男二人に露出の多い女性一人。
儀礼は周囲のまとわりつくような視線が気になった。
「お譲ちゃん、いくらだい?」
「は??」
なんとなく二人から距離を取っていた儀礼に、知らない男が話しかけてきた。
問いかけと同時に儀礼の右手は、男のあごの下に改造銃を突きつけていた。
無意識の行動とは恐ろしいものだ。
状況を理解し、ようやく、にたついていた男の顔が引きつる。
「悪いな、こいつは売り物じゃないんだ。」
儀礼の背後から現れ、にやついた顔でアーデスが言った。
絶対、この状況を見ていながら笑って見ていたのだ、と儀礼は思う。
男はアーデスの威圧に恐れをなしたように、あっという間に視界から消えていった。
「勝手にはぐれないでもらえますか? ああいう連中が多い所ですので。」
くくくっ、と笑いながらアーデスが言う。
儀礼は不満そうに頬を膨らませた。
「僕、男ですが。」
逃げていった男に言えなかった言葉を儀礼は唱える。
「だとしても、年齢制限にひっかかるんじゃないのか? 警備兵に保護されるぞ。」
ワルツまでが笑うようにして儀礼に言った。
「僕の村では12歳で成人です。」
「ドルエドは15歳だろ。お前の村どうなってんだよ。」
くすくすとワルツが笑った。儀礼の言ったことを信じていないらしい。
まもなく、アーデスの目的らしい建物に辿り着く。
そこも当然、魅惑的な衣装に身を包む美しい女性たちが親しげに迎えてくれるような店。
「お前たちは外で待ってろ。本気で警備を呼ばれても困る。」
儀礼を見て、アーデスがまた笑いをかみ殺した。
「本気で失礼ですよね。」
真剣な表情で、儀礼はアーデスの消えていった入り口を睨みつける。
こういう店に、全く興味がないとは言わないが、別にどうしても入りたいわけではない。
はぁ、と息を吐き、儀礼は周囲を見回す。
どこもかしこもそういう店ばかりが集まった繁華街。
まだ昼間だというのに、先程会ったような男が何人もうろついている。
儀礼は隣りに立つ人を見る。
儀礼よりも背丈はあるが、自信に満ちた美しい顔立ち。
目の眩むようなプロポーション。
多くの女性が着飾る町中にいて、それでも目立つ強い雰囲気。
儀礼は遠慮がちにその腕を掴む。
「僕から離れないで下さいね。」
ワルツが儀礼などよりずっと強いことは分かっているが、それでも不必要に不快な思いをさせたくはなかった。
「ああ、大丈夫。ちゃんとあたしがついてるって、心配すんな。」
笑いながらワルツは言った。
儀礼の言った言葉は、違う意味(怖いから離れないで)に取られたようだ。
儀礼は頭を抱える振りをしてそっと涙を拭った。
「おいおい、興味があるのはわかるが、そんなにじろじろ見るなよ?」
その建物を熱心に見つめる儀礼に苦笑しながらワルツが言った。
「一緒にいるあたしの方が恥ずかしいだろ。」
がしがしと、ワルツは儀礼の髪をかき混ぜた。
「すみません、ちょっと気になって。この建物何階建てかなって……。」
頬を少し赤くして儀礼は答えた。
その建物は木製で、横幅や奥向きはとても広いが、高さは2階建て。
外から通り過ぎながら見たって分かることだった。
その、儀礼の見つめていた2階部分の窓からは、胸元を大きく開いた衣装を着る女性が何人も見えていて、時折道行く人に手を振っていた。
その一人が、儀礼が少年だと気付いたようで、愛想よくひらひらと片手を振った。
儀礼は途端に頬を赤らめてうつむく。
「そんな、見て分かる嘘つかなくても。素直に気になるって言やいいじゃないか。」
ワルツが呆れたように笑う。
「いえ、そうじゃなくて……『地下』が。」
俯いたまま儀礼は答えた。
その瞬間に、周囲の空気が変わった。
ワルツは愛用の武器を構える。
目の前の店は勿論、周囲の店からまで、警備を任される用心棒達が現れた。
取り囲むように儀礼とワルツの周りに集まる。
手を振っていた女性たちが慌てたように店内へ消え、女性たちの見えた窓には重い木製の扉が閉められる。
「おいおい、儀礼。なんだってこんな所に来てまでお前は問題を起こすんだ?」
色街の用心棒という、大勢の手練れに囲まれながらも、にやりとした笑みを浮かべて、ワルツは言った。
「あの、すみません。5階までしか数えてないんで、帰してもらえません……よね。」
ははっ、と儀礼は困ったような笑みを浮かべた。
ワルツが派手に戦闘を開始する。
あたりに喧騒と金属音が鳴り響く。
儀礼は黙ってそれを見守った。
なぜか怒り満載の用心棒たちに、儀礼は太刀打ちなどできない。
ジリジリと焼ける肌の気配に、身を硬くして戦闘が収まるのを待つ。
儀礼に戦闘能力がないと気付き、一人の用心棒が儀礼に近付く。
一番最後に、目的の店から出てきた小柄な者だった。
ワルツの攻撃を軽快な動きで避け、宙返りをするようにしてその用心棒の女性は儀礼の前まで辿り着いた。
儀礼に武器を向けられて、ワルツは苦々しく歯を噛み締める。
「ボスがお呼びだ。黙ってついてこい。」
猫のように身軽な女性が儀礼に言った。
「おい、なんでバカ騒ぎになる。」
直後に、儀礼の背後から聞き覚えのある声がした。
ギギギ、と首だけを向けて儀礼が振り返れば店に入っていったはずのアーデスの姿。
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