ギレイの旅
5分で忘れる
『5分で忘れる。』
以前、アーデスがアナザーと会話した時に、アナザーは儀礼の抜けた資料について、「本人に聞け」と言っていた。
しかし、「5分で忘れる」とそう付け足して。
その意味が、未だにアーデスにはわからない。
儀礼の魔法に関する姿勢と関係が有るのだろうか。
「なぜ魔法書は読まない? お前には普通の魔法も、精霊魔法でも扱える素質がある。」
「あるんだ。」
疑うように言ったアーデスの言葉に、驚いたように儀礼が瞬きを繰り返す。
アーデスは呆れたように息を吐く。
今までの出来事の中で、儀礼は一度もそのことに気付かなかったとでも言うのだろうか。
「読むとどうしても長くなりそうだから。先に興味あるのばっかり読んじゃって。時間がある時に、まとめて読みたいなって思ってたんだ。」
笑って言う儀礼だが、情報の整理を終えた後、暇をもて余したように、トラップの改良をしていたのだ。
それは、アーデスが身を引きたくなるような物をいくつも作るほどに時間をかけて。
 
「それで、ギレイ。その資料には何が書かれているんだ?」
アーデスが問えば儀礼はまた目を細める。
アーデスの目の奥、思考の先を探るように。
「……なんでそんなに気にするんです?」
薄ら笑いのようなものを浮かべて儀礼は言う。
「お前は気にならないのか? それとも知っているのか?」
「知りません。見たことないんで。そう言われると気になっちゃうじゃないですか。見に行こうにも遠すぎますし……、僕、ちょっと今、父さんと顔合わせずらいんですよ。」
冷や汗を流して儀礼が苦笑する。
「何かあったのか?」
話を聞く限りでは儀礼の家族仲はいいようだった。
「あの……旅に出ると言って家を出て、1年近く何の連絡もしなかった場合って、どう思うでしょうか……。」
言いずらそうに儀礼は声を小さくする。
「ふむ。行方不明か、家出だな。」
アーデスが言えば儀礼は顔を青くする。
「ですよね。やっぱり……。」
「連絡もしてないのか?」
ずいぶんと仲のいい様子を聞いていただけに、アーデスに取っても意外な発言だった。
「してないんです。色々あって、忙しくて、忘れてるうちにどんどん連絡しずらくなってしまって。」
儀礼は肩を落とす。
「連絡ついでに資料について聞いてみたらどうだ? 父親は読めるんだろう、その資料も。」
「怒られるのがわかってて――」
儀礼が言いかけたところで研究室の扉がバン、と音をたてて開いた。
鍵をかけてあったはずだが。
「アーデス! 氷の谷の不明者が一人見つかった!」
言いながら室内へと入ってきたのはワルツだった。
「げっ、ギレイもいたのか。聞いちまったよな、今の……。」
ワルツが引きつった笑みを浮かべる。
「不明者が見つかったんですか!? どこです、無事ですか?」
問い詰めるように儀礼はワルツに詰め寄る。
「落ち着け、ギレイ。悪いがまだ前情報の段階だ。今、情報屋が詳しく探ってる。」
ワルツに押し留められて、儀礼は仕方なく息を吐き出す。
「行くんですよね、探しに。」
儀礼はアーデスを振り返る。
儀礼がこの場にいなければ、アーデス達だけで動いていたことだろう。
そして、儀礼には事後報告だけが届く。
それでは、儀礼は納得しない。だってもう、聞いてしまったのだから。
「僕も行きます。」
にっこりと笑って儀礼は困った顔をしているアーデスとワルツに告げた。
氷の谷の行方不明者捜索は儀礼が最優先で進めているプログラムの一つだ。
Sランクとしてその腕を振るっている事象である。
置いて行くと言ってももはや聞かないだろう。
アーデスはタイミングの悪いワルツに睨むような視線を送りつつ、深い溜息をついた。
『5分で忘れる。』
確かに今、儀礼の中では5分前にアーデスが切り出した話のことなど、吹き飛んでしまったことだろう。
掘り返そうとしても、頑として聞き入れたりはしないだろう。
それどころか、アーデスまでもが、それどころではない状況へと振り落とされたのだ。
以前、儀礼の体を調べようと解析装置に入れた時もそうだった。
事件に見舞われて、結局解析などしている場合ではなくなった。
まるで事件が、周囲が、世界が、そのことを邪魔しているかのように、物事がうまくいかない。
そんなことが、あるのだろうか。
だから、アーデスはこの少年に興味を引かれる。
世界を動かす力を感じるのだ。
今もそう。
アーデス自身も気付かない。
自分が、先程まで気にしていた資料のことをすっかりと忘れさてしまっていることなど。
氷の谷の新たな不明者の発見。
歴史の生き証人の発見だ。
アーデスにとっては新しい仕事の始まりだった。
以前、アーデスがアナザーと会話した時に、アナザーは儀礼の抜けた資料について、「本人に聞け」と言っていた。
しかし、「5分で忘れる」とそう付け足して。
その意味が、未だにアーデスにはわからない。
儀礼の魔法に関する姿勢と関係が有るのだろうか。
「なぜ魔法書は読まない? お前には普通の魔法も、精霊魔法でも扱える素質がある。」
「あるんだ。」
疑うように言ったアーデスの言葉に、驚いたように儀礼が瞬きを繰り返す。
アーデスは呆れたように息を吐く。
今までの出来事の中で、儀礼は一度もそのことに気付かなかったとでも言うのだろうか。
「読むとどうしても長くなりそうだから。先に興味あるのばっかり読んじゃって。時間がある時に、まとめて読みたいなって思ってたんだ。」
笑って言う儀礼だが、情報の整理を終えた後、暇をもて余したように、トラップの改良をしていたのだ。
それは、アーデスが身を引きたくなるような物をいくつも作るほどに時間をかけて。
 
「それで、ギレイ。その資料には何が書かれているんだ?」
アーデスが問えば儀礼はまた目を細める。
アーデスの目の奥、思考の先を探るように。
「……なんでそんなに気にするんです?」
薄ら笑いのようなものを浮かべて儀礼は言う。
「お前は気にならないのか? それとも知っているのか?」
「知りません。見たことないんで。そう言われると気になっちゃうじゃないですか。見に行こうにも遠すぎますし……、僕、ちょっと今、父さんと顔合わせずらいんですよ。」
冷や汗を流して儀礼が苦笑する。
「何かあったのか?」
話を聞く限りでは儀礼の家族仲はいいようだった。
「あの……旅に出ると言って家を出て、1年近く何の連絡もしなかった場合って、どう思うでしょうか……。」
言いずらそうに儀礼は声を小さくする。
「ふむ。行方不明か、家出だな。」
アーデスが言えば儀礼は顔を青くする。
「ですよね。やっぱり……。」
「連絡もしてないのか?」
ずいぶんと仲のいい様子を聞いていただけに、アーデスに取っても意外な発言だった。
「してないんです。色々あって、忙しくて、忘れてるうちにどんどん連絡しずらくなってしまって。」
儀礼は肩を落とす。
「連絡ついでに資料について聞いてみたらどうだ? 父親は読めるんだろう、その資料も。」
「怒られるのがわかってて――」
儀礼が言いかけたところで研究室の扉がバン、と音をたてて開いた。
鍵をかけてあったはずだが。
「アーデス! 氷の谷の不明者が一人見つかった!」
言いながら室内へと入ってきたのはワルツだった。
「げっ、ギレイもいたのか。聞いちまったよな、今の……。」
ワルツが引きつった笑みを浮かべる。
「不明者が見つかったんですか!? どこです、無事ですか?」
問い詰めるように儀礼はワルツに詰め寄る。
「落ち着け、ギレイ。悪いがまだ前情報の段階だ。今、情報屋が詳しく探ってる。」
ワルツに押し留められて、儀礼は仕方なく息を吐き出す。
「行くんですよね、探しに。」
儀礼はアーデスを振り返る。
儀礼がこの場にいなければ、アーデス達だけで動いていたことだろう。
そして、儀礼には事後報告だけが届く。
それでは、儀礼は納得しない。だってもう、聞いてしまったのだから。
「僕も行きます。」
にっこりと笑って儀礼は困った顔をしているアーデスとワルツに告げた。
氷の谷の行方不明者捜索は儀礼が最優先で進めているプログラムの一つだ。
Sランクとしてその腕を振るっている事象である。
置いて行くと言ってももはや聞かないだろう。
アーデスはタイミングの悪いワルツに睨むような視線を送りつつ、深い溜息をついた。
『5分で忘れる。』
確かに今、儀礼の中では5分前にアーデスが切り出した話のことなど、吹き飛んでしまったことだろう。
掘り返そうとしても、頑として聞き入れたりはしないだろう。
それどころか、アーデスまでもが、それどころではない状況へと振り落とされたのだ。
以前、儀礼の体を調べようと解析装置に入れた時もそうだった。
事件に見舞われて、結局解析などしている場合ではなくなった。
まるで事件が、周囲が、世界が、そのことを邪魔しているかのように、物事がうまくいかない。
そんなことが、あるのだろうか。
だから、アーデスはこの少年に興味を引かれる。
世界を動かす力を感じるのだ。
今もそう。
アーデス自身も気付かない。
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