ギレイの旅
精霊の森7
「やめて、シャーロット。」
願うように、白は囁く。もう、苦しさから大きな声は出なかった。
異常を悟った獅子が、白のもとへと駆け寄ってきた。
「大丈夫か白!? どうした?」
「精霊が、戦おうとしてるの。私の精霊と、ここの精霊たちが……。」
歯を噛み締めて、白は伝える。
なんとしても止めなくてはならない戦いを。
《止められない。我が王をなき者としようとするこの精霊たちを生かしておくことはできない。》
真剣な表情でシャーロットは答える。
精霊の王が、呼び出されてしまう。
神の力を持つと言われる、精霊の王が二人も、この場に立つとしたなら……、壊滅を予想される。
シャーロットと、水の精霊。
両者から巻き起こる強い魔力の嵐が、森の中を駆け巡っていた。
魔力の嵐により森の中が荒れ始めていた。
その嵐の余波は、離れた場所にいる儀礼の元へも訪れていた。
「なんか、森の様子が変だね、フィオ。」
儀礼が話しかければ、傍らで、ランプが中の炎を大きく揺らす。
《そうだな。》
と答えているようだった。
「やっぱり、僕も行った方がいいんじゃないのかな?」
周囲を見回して、余りにも不穏な気配に、儀礼は森の奥にいる三人の心配を始める。
しかし、炎は小さくなり、儀礼の言葉を否定する。
《やめておけ。》
そう、言っているようだった。
「でも、心配だよ。」
《お前が行くと、余計にややこしくなるんだよ。朝月なんて、想定外の力を持った精霊を魅了しちまってるんだぞ、お前は。精霊の王と同等の力を持ってるんだ。混乱が大きくなるだけだ。》
それ以上に、生まれてきた精霊を、儀礼が魅了してしまうことこそが、一番の問題と思われていた。
誕生した精霊は、この森を守るために存在しなければならないのだ。
儀礼を守るために、旅立ってしまうことは許されない。
「……天神地祇か。」
ポツリと儀礼は呟いた。
それは、天候の女神、水光源の言った言葉。
それらを儀礼が引き寄せると、女神は言ったのだ。
「僕には分からないよ。天の神も、地の神も。」
また一人、儀礼は退屈そうに木の根を背もたれにして座り込む。
広い森に一人ぼっちでいるのはどこか、寂しかった。
「フィオ、いてくれるよね。」
儀礼の言葉に答えるように、ランプの炎は大きく揺れる。
《当たり前だろう。》
そう、言っているようだった。
「朝月。」
そう囁けば、儀礼の腕輪が白く輝く。
「トーラ。」
ポケットから出せば、その宝石は淡く光を放つ。
「皆が、僕にとっての地祇?」
地上の神。
精霊たち。
ゴーッと、儀礼の周囲に風が唸った。
その風は儀礼の服の中から巻き起こっている。
儀礼はその風の元を辿る。
そこにあったのは、儀礼が使い慣れた、改造銃。
この銃には、風の力を利用している。
「風の精霊……?」
ゴーッと再び、儀礼の手の上に小さな竜巻が巻き起こった。
「風の神。なら、風祇?」
儀礼が呟けば、竜巻が一際大きく唸って、銃の中に収束した。
「風祇。」
もう一度呟けば、銀色の銃が、淡く、緑色に光る。
儀礼は、銃を抱きしめていた。
そこにも、儀礼を一人にしない者が、いた。
しゅるしゅるしゅるしゅる。
儀礼を取り囲むように、草花がその背を伸ばした。
慰めるように優しく儀礼の足や肌を撫でる。
「大地の精霊?」
肯定するように、草花は一気にその背丈を伸ばし、儀礼を取り囲むように大きくなった。
そして、その花の中からは、冬場にはいるはずのないチョウがひらひらと飛び立った。
その光景を、儀礼はどこかで見たことがあるような気がしていた。
どこで。
どこかの町の、地下研究施設。
そこで、儀礼は破壊した研究室を直すために、助けを求めた。
その時に、答えてくれたのは――記憶がよみがえるように儀礼の頭の中に入り込んでくる。
「大地の精霊。あの時も?」
寒いはずの森の中に、次々と色鮮やかな花が咲いてゆく。
「大地の女神。……ガイア。」
奇跡を起こす光景に、ポツリと、本当に意識せずに、儀礼の口からこぼれた知識だった。
それが、間違いなく大地の精霊に力を与えた。
奥深い森が、さらに一気に成長を見せる。
命を生み出すほどに強力な大地の精霊は、更なる力を手に入れたのだ。
「……森。」
儀礼はその森に目を見張る。
そう、ここは森なのだ。
儀礼が呼び出した水の精霊たちのせいで、バランスが崩れてしまっているが、本来、この土地に最も多くいるべきは大地の精霊であるはずだった。
けれど、大地だけでは森は育まれない。
水があり、光があり、暖かさがあり、木陰があり、風がある。
全てがあってこそ、森は正常に働き出す。
「ガイア。ここは森なんだね。君の場所だ。」
儀礼は立ち上がる。
白は、水の精霊が強くなるために融合の儀式を行うといっていた。
(でも、水だけじゃダメだ。水だけじゃ、この森は守れないよ、白。)
先程から、魔力の嵐が止まない。
森中を揺らすように、何かを破壊するように荒々しく木々を揺らしていく。
その木の枝が一つ、儀礼の頬に当たって、切れた。
願うように、白は囁く。もう、苦しさから大きな声は出なかった。
異常を悟った獅子が、白のもとへと駆け寄ってきた。
「大丈夫か白!? どうした?」
「精霊が、戦おうとしてるの。私の精霊と、ここの精霊たちが……。」
歯を噛み締めて、白は伝える。
なんとしても止めなくてはならない戦いを。
《止められない。我が王をなき者としようとするこの精霊たちを生かしておくことはできない。》
真剣な表情でシャーロットは答える。
精霊の王が、呼び出されてしまう。
神の力を持つと言われる、精霊の王が二人も、この場に立つとしたなら……、壊滅を予想される。
シャーロットと、水の精霊。
両者から巻き起こる強い魔力の嵐が、森の中を駆け巡っていた。
魔力の嵐により森の中が荒れ始めていた。
その嵐の余波は、離れた場所にいる儀礼の元へも訪れていた。
「なんか、森の様子が変だね、フィオ。」
儀礼が話しかければ、傍らで、ランプが中の炎を大きく揺らす。
《そうだな。》
と答えているようだった。
「やっぱり、僕も行った方がいいんじゃないのかな?」
周囲を見回して、余りにも不穏な気配に、儀礼は森の奥にいる三人の心配を始める。
しかし、炎は小さくなり、儀礼の言葉を否定する。
《やめておけ。》
そう、言っているようだった。
「でも、心配だよ。」
《お前が行くと、余計にややこしくなるんだよ。朝月なんて、想定外の力を持った精霊を魅了しちまってるんだぞ、お前は。精霊の王と同等の力を持ってるんだ。混乱が大きくなるだけだ。》
それ以上に、生まれてきた精霊を、儀礼が魅了してしまうことこそが、一番の問題と思われていた。
誕生した精霊は、この森を守るために存在しなければならないのだ。
儀礼を守るために、旅立ってしまうことは許されない。
「……天神地祇か。」
ポツリと儀礼は呟いた。
それは、天候の女神、水光源の言った言葉。
それらを儀礼が引き寄せると、女神は言ったのだ。
「僕には分からないよ。天の神も、地の神も。」
また一人、儀礼は退屈そうに木の根を背もたれにして座り込む。
広い森に一人ぼっちでいるのはどこか、寂しかった。
「フィオ、いてくれるよね。」
儀礼の言葉に答えるように、ランプの炎は大きく揺れる。
《当たり前だろう。》
そう、言っているようだった。
「朝月。」
そう囁けば、儀礼の腕輪が白く輝く。
「トーラ。」
ポケットから出せば、その宝石は淡く光を放つ。
「皆が、僕にとっての地祇?」
地上の神。
精霊たち。
ゴーッと、儀礼の周囲に風が唸った。
その風は儀礼の服の中から巻き起こっている。
儀礼はその風の元を辿る。
そこにあったのは、儀礼が使い慣れた、改造銃。
この銃には、風の力を利用している。
「風の精霊……?」
ゴーッと再び、儀礼の手の上に小さな竜巻が巻き起こった。
「風の神。なら、風祇?」
儀礼が呟けば、竜巻が一際大きく唸って、銃の中に収束した。
「風祇。」
もう一度呟けば、銀色の銃が、淡く、緑色に光る。
儀礼は、銃を抱きしめていた。
そこにも、儀礼を一人にしない者が、いた。
しゅるしゅるしゅるしゅる。
儀礼を取り囲むように、草花がその背を伸ばした。
慰めるように優しく儀礼の足や肌を撫でる。
「大地の精霊?」
肯定するように、草花は一気にその背丈を伸ばし、儀礼を取り囲むように大きくなった。
そして、その花の中からは、冬場にはいるはずのないチョウがひらひらと飛び立った。
その光景を、儀礼はどこかで見たことがあるような気がしていた。
どこで。
どこかの町の、地下研究施設。
そこで、儀礼は破壊した研究室を直すために、助けを求めた。
その時に、答えてくれたのは――記憶がよみがえるように儀礼の頭の中に入り込んでくる。
「大地の精霊。あの時も?」
寒いはずの森の中に、次々と色鮮やかな花が咲いてゆく。
「大地の女神。……ガイア。」
奇跡を起こす光景に、ポツリと、本当に意識せずに、儀礼の口からこぼれた知識だった。
それが、間違いなく大地の精霊に力を与えた。
奥深い森が、さらに一気に成長を見せる。
命を生み出すほどに強力な大地の精霊は、更なる力を手に入れたのだ。
「……森。」
儀礼はその森に目を見張る。
そう、ここは森なのだ。
儀礼が呼び出した水の精霊たちのせいで、バランスが崩れてしまっているが、本来、この土地に最も多くいるべきは大地の精霊であるはずだった。
けれど、大地だけでは森は育まれない。
水があり、光があり、暖かさがあり、木陰があり、風がある。
全てがあってこそ、森は正常に働き出す。
「ガイア。ここは森なんだね。君の場所だ。」
儀礼は立ち上がる。
白は、水の精霊が強くなるために融合の儀式を行うといっていた。
(でも、水だけじゃダメだ。水だけじゃ、この森は守れないよ、白。)
先程から、魔力の嵐が止まない。
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