ギレイの旅
精霊の森6
『精霊の神子』はとても温かそうな格好をしている。
もこもことした服を何枚も重ね着し、毛糸の帽子に、イヤーマフラーまで身につけている。
これで、少女が凍えることはないだろう。
儀礼たちも温かい格好をして、再び森の奥へと進入した。
今度は、精霊たちからの攻撃がないため、すんなりと入ることができた。
やってきたのは、昨日と同じ場所。
巨大な木が何本も立っていて、一際大きな木が一本真ん中に立っている森の最深部とでも呼ぶべきような、精霊の聖域。
昨日はよく見る暇もなかったが、枝葉が天を覆いつくすように伸びているのだが、不思議とあたりは暗くなかった。
白の周囲にいるのは、いつの間にかほとんどが水の精霊で、たまに、大地の精霊がいて、ほんの少しの光の精霊と闇の精霊と風の精霊がいる。
火の精霊の姿はほとんどない。
というか、儀礼が連れて来たフィオだけだ。
「ギレイ君、この森やっぱりちょっと変わってるね。」
不安を訴えるように、白は一歩、儀礼の側へと近付いた。
「うん。僕もそう思う。」
ポケットの中に手を入れて、考え込むように儀礼も周囲を見回している。
獅子だけは、何も考えていないのか、魔物が出ないためか、のんびりと構えているようだ。
村人達は連れて来ていない。
この森の深奥に来るだけでも、相当な時間がかかってしまう。
そこに、道に慣れていない村人を連れてくるのは、足手まといだった。
《儀式を始める前に、一つ大きな問題がある。》
森を統べるという水の精霊が、真剣な顔で言い出した。
《お主、精霊への影響が大きすぎる。このままでは、我等が誕生し変わっても、お主の配下にされてしまいかねない。》
儀礼を指差して、精霊は言う。
当然、その声は儀礼には聞こえていない。
「えっと、どういうこと?」
白が代わりに水の精霊に問う。
《ここにいられては儀式の邪魔だということじゃ。》
……その結果、儀礼は精霊の聖域から少し離れた場所で、一人、ぽつんと待たされることになった。
「なんか、納得いかない。」
儀礼は一人、深い森の中で、ポツリと言葉を漏らした。
《大丈夫だギレイ、俺がいるから。》
ポンポン、と儀礼の肩を叩いて、慰めるようにフィオは言った。
が、残念ながらその声は儀礼には届かない。
しかし、暖かい空気に包まれて、儀礼は穏やかな表情で微笑んだ。
そしてその頃、精霊の聖域の内部では、少女が大きな水の精霊と姿を重ねていた。
大地に水色の巨大な魔法陣が描かれ始める。
「《この森に集いし、数多の精霊たちよ、我、水の精霊たる主が希う。》」
少女の言葉に従い、魔法陣はどんどんスピードを速めて地面へと描かれていく。
次第に大きな円ができていった。
その魔法陣に導かれるように魔法陣の中へと、精霊たちが飛び込んでゆく。
多くの水の精霊に、大地の精霊、光の精霊、闇の精霊、風の精霊。
「《ここに集まりてその力を我と共にせよ。》」
魔法陣の中で、精霊たちは魔力の塊のような光へと姿を変えてゆく。
たくさんの光が陣の中で光り、辺りに幻想的な光景を作り出していた。
収束していく光の中で、中心にいた水の精霊の姿はどんどん成長していく。
子供サイズから、少女の背の高さへ、そして、少女を超え大人の背の高さまで美しく姿を変えていく。
「《新たな精霊の誕生に神なるものの祝福を!》」
少女と精霊が同時に叫べば、周囲の光は一層明るいものになっていく。
いよいよ、儀式の完成へと向かっているのだろう。
だが、ここで、予期せぬ事態が起こっていた――。
険しい表情でシャーロットが儀式の成り行きを見守っている。
「《新たな水の精霊の王の誕生――》」
《水の王は我が一族の王ただ一人、新たなる王の誕生を認めるわけにはいかない。》
シャーロットが、儀式陣への介入を始めた。
それにより力が逆流を始める。
集まっていた精霊たちが引き離されていく。
「シャーロット!?」
驚いたように白がシャーロットの行動を止めようとするが、阻むことができない。
むしろ、シャーロットに逆らおうとすると、白の中の守護精霊との契約の陣が痛む。
契約を施行する上で必要な行動だということだ。
「どうして?」
強く痛む額に浮き出た契約陣を抑えて、白は呟くように言った。
なぜ、どうして、同じ精霊の誕生をシャーロットが阻むのか。
精霊の強さから言えば、相手の水の精霊の方が何倍もの強さを持っているはずだ。
なのに、シャーロットに引く気配はない。
《我が王がただ一人の王。新たな水の王の誕生は我が王の破滅を意味する。そんなことは私の一族がさせない。》
シャーロットの光が強まる。
同じ水の眷属である精霊たちを呼ぼうとしているようだった。
その先にいるものとは、つまり、現在の水の精霊の王。
新旧の水の精霊王の戦いが、この場で始まってしまう。
白は焦りに焦っていた。
そんなことになれば、この森はおろか、周囲の村々にまで被害が及んでしまうだろう。
どうして、こんなことになってしまったのか。
ただ、この森をなくさないために、深い森の中で、強い精霊を融合させようとしたことが、水の精霊王を誕生させる儀式になるなんて。
誰も予想もしていなかったことだった。
もこもことした服を何枚も重ね着し、毛糸の帽子に、イヤーマフラーまで身につけている。
これで、少女が凍えることはないだろう。
儀礼たちも温かい格好をして、再び森の奥へと進入した。
今度は、精霊たちからの攻撃がないため、すんなりと入ることができた。
やってきたのは、昨日と同じ場所。
巨大な木が何本も立っていて、一際大きな木が一本真ん中に立っている森の最深部とでも呼ぶべきような、精霊の聖域。
昨日はよく見る暇もなかったが、枝葉が天を覆いつくすように伸びているのだが、不思議とあたりは暗くなかった。
白の周囲にいるのは、いつの間にかほとんどが水の精霊で、たまに、大地の精霊がいて、ほんの少しの光の精霊と闇の精霊と風の精霊がいる。
火の精霊の姿はほとんどない。
というか、儀礼が連れて来たフィオだけだ。
「ギレイ君、この森やっぱりちょっと変わってるね。」
不安を訴えるように、白は一歩、儀礼の側へと近付いた。
「うん。僕もそう思う。」
ポケットの中に手を入れて、考え込むように儀礼も周囲を見回している。
獅子だけは、何も考えていないのか、魔物が出ないためか、のんびりと構えているようだ。
村人達は連れて来ていない。
この森の深奥に来るだけでも、相当な時間がかかってしまう。
そこに、道に慣れていない村人を連れてくるのは、足手まといだった。
《儀式を始める前に、一つ大きな問題がある。》
森を統べるという水の精霊が、真剣な顔で言い出した。
《お主、精霊への影響が大きすぎる。このままでは、我等が誕生し変わっても、お主の配下にされてしまいかねない。》
儀礼を指差して、精霊は言う。
当然、その声は儀礼には聞こえていない。
「えっと、どういうこと?」
白が代わりに水の精霊に問う。
《ここにいられては儀式の邪魔だということじゃ。》
……その結果、儀礼は精霊の聖域から少し離れた場所で、一人、ぽつんと待たされることになった。
「なんか、納得いかない。」
儀礼は一人、深い森の中で、ポツリと言葉を漏らした。
《大丈夫だギレイ、俺がいるから。》
ポンポン、と儀礼の肩を叩いて、慰めるようにフィオは言った。
が、残念ながらその声は儀礼には届かない。
しかし、暖かい空気に包まれて、儀礼は穏やかな表情で微笑んだ。
そしてその頃、精霊の聖域の内部では、少女が大きな水の精霊と姿を重ねていた。
大地に水色の巨大な魔法陣が描かれ始める。
「《この森に集いし、数多の精霊たちよ、我、水の精霊たる主が希う。》」
少女の言葉に従い、魔法陣はどんどんスピードを速めて地面へと描かれていく。
次第に大きな円ができていった。
その魔法陣に導かれるように魔法陣の中へと、精霊たちが飛び込んでゆく。
多くの水の精霊に、大地の精霊、光の精霊、闇の精霊、風の精霊。
「《ここに集まりてその力を我と共にせよ。》」
魔法陣の中で、精霊たちは魔力の塊のような光へと姿を変えてゆく。
たくさんの光が陣の中で光り、辺りに幻想的な光景を作り出していた。
収束していく光の中で、中心にいた水の精霊の姿はどんどん成長していく。
子供サイズから、少女の背の高さへ、そして、少女を超え大人の背の高さまで美しく姿を変えていく。
「《新たな精霊の誕生に神なるものの祝福を!》」
少女と精霊が同時に叫べば、周囲の光は一層明るいものになっていく。
いよいよ、儀式の完成へと向かっているのだろう。
だが、ここで、予期せぬ事態が起こっていた――。
険しい表情でシャーロットが儀式の成り行きを見守っている。
「《新たな水の精霊の王の誕生――》」
《水の王は我が一族の王ただ一人、新たなる王の誕生を認めるわけにはいかない。》
シャーロットが、儀式陣への介入を始めた。
それにより力が逆流を始める。
集まっていた精霊たちが引き離されていく。
「シャーロット!?」
驚いたように白がシャーロットの行動を止めようとするが、阻むことができない。
むしろ、シャーロットに逆らおうとすると、白の中の守護精霊との契約の陣が痛む。
契約を施行する上で必要な行動だということだ。
「どうして?」
強く痛む額に浮き出た契約陣を抑えて、白は呟くように言った。
なぜ、どうして、同じ精霊の誕生をシャーロットが阻むのか。
精霊の強さから言えば、相手の水の精霊の方が何倍もの強さを持っているはずだ。
なのに、シャーロットに引く気配はない。
《我が王がただ一人の王。新たな水の王の誕生は我が王の破滅を意味する。そんなことは私の一族がさせない。》
シャーロットの光が強まる。
同じ水の眷属である精霊たちを呼ぼうとしているようだった。
その先にいるものとは、つまり、現在の水の精霊の王。
新旧の水の精霊王の戦いが、この場で始まってしまう。
白は焦りに焦っていた。
そんなことになれば、この森はおろか、周囲の村々にまで被害が及んでしまうだろう。
どうして、こんなことになってしまったのか。
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