ギレイの旅
精霊の森4
《精霊の集合。》
シャーロットが呟いた。
《精霊は普通、固体の意識を持たない。だから、固体同士を融合させて、より強い精霊へと進化することができるの。》
そう語るシャーロットの表情は、浮かない。
真剣に、何かを警戒するように水の精霊を見つめている。
《けれど、その中に、強い固体があれば、それは、より強い固体に吸収されるということになるわ。》
シャーロットの言葉に、水の精霊は笑う。
「《当たり前であろう。強いのは我だ。その他の弱き精霊共も、我に吸収され、一体となり最強の力を持つことを望んでおる。》」
驚いたことに、精霊と同時に、『精霊の神子』が口を開いた。
まったく同時に同じ言葉をしゃべっている。
「何?」
突然しゃべりだした少女に、儀礼は驚いている。
意識を取り戻したようには見えなかった。
「精霊と、同調してるんだと思う。精霊の言葉を伝えてるの。」
突然話し出した少女を見て、白は儀礼に説明する。
「じゃ、精霊と話ができるんだ。」
睨むように、儀礼は少女を見る。
「その子をどうするつもり? 一緒に吸収するの?」
「《我の生まれ変わりを手伝い、その後は我の神子となってもらう。我が生まれ変われば神格を得ることも可能であろう。それだけ、力が我の前に集まっておる。》」
少女は目を閉じたまま、言葉を紡ぐ。
「……無理だよ。その子は一旦休ませないと本当に死んでしまう。人間は精霊とは違うんだ。寒さにも、熱さにも弱い。こんな、凍えるような場所に長時間はいられない。食べる物も必要だ。」
言いながら、儀礼はゆっくりと気の幹に縛られている少女へと近付いていく。
「《食べ物ならばある。この森にはいくらでも。住む場所が必要ならば、ここに家を造ればよい。》」
精霊が、儀礼よりも先に少女へと近付く。
そして、少女の中に入り込んだ。
少女が眼を開く。
青い瞳が、一際明るく光って見えた。
「《邪魔をするな!》」
少女の周囲から吹雪が巻き起こる。
トーラの障壁で、儀礼はかろうじて留まるが、少しずつ、体を押されて足が後退していく。
「するよ! 他に方法はないの? その子をそんなに苦しめないと、あなたは生まれ変われないの? それは、そんなに必要なことなの?」
押し返されながらも、儀礼は踏ん張り、一歩を踏み出す。
だが、それ以上進むことができない。
視界の端に、獅子の姿が映った。
儀礼はポケットに手を入れる。
「できれば、森を傷つけたくはなかったんだけど……。」
そう言って、儀礼が取り出したのは、小型のミサイルだ。
少女を縛り付けている巨木へと狙いを定める。
「《何をする気だ。やめろ、火の匂いがする。》」
顔をしかめて、精霊と同調した少女が言う。
「ふーん、火が苦手なんだ。」
いい事を聞いたとばかりに、にやりと儀礼は笑う。
「火ならあるよ、ここに。その子を放してもらおうか。」
ライターを見せ付けて、儀礼はじっと少女を見つめる。
バキーンッ!
その時、大きな硬い音がして、少女を覆う氷の綱でできた魔法陣が切り裂かれた。
やったのは、獅子。
儀礼が精霊の注意を引いている隙に、少女へと近付いていたのだ。
少女の中に入ることで、視野が狭くなり、獅子の接近に気付かなかったらしい。
少女を手の中に抱えると、獅子はどうしたものかと儀礼へと視線を送る。
中には、精霊が入っている。
「火が苦手みたいだから、とりあえず、暖めてみよう。」
儀礼は近くから枯れ木を拾い燃料を撒くと焚き火にした。
「《くっ、おのれ、よくも……。》」
それだけ言うと、少女は静かに体から力を抜いた。
しばらくその場で焚き火に当たりながら、儀礼たちは状況の整理をしていた。
「この森には、もともと強い水の精霊がいて、僕がたくさんの精霊を呼び出したから、それを吸収してより強力な精霊になろうとしてたんだね。」
「うん。そうみたい。」
白は頷く。
「精霊の強化? 生まれ変わり? そういうのって、聞いたことある?」
首を傾げながら儀礼は白へと問いかける。
「私の守護精霊が、少し知ってるみたいだけど、精霊も、強さを求めるんだって。強さというか、魔力なのかな。」
考えるように言葉を吟味しながら白は答える。
「確かに、魔力だったら人間にもあるよね。それを吸収するつもりだったのかな? 神子にするって言ってたけど、この子は神子なんだよね。もしかして、巫女のことかな。だとすると、精霊の契約と逆の存在になるのかな。」
人の命令を聞いて、魔法を使う精霊を契約精霊と言う。
精霊の命令を聞いて動くものは、……古い資料からは巫女という言葉が出てくる。
「精霊の力を、意思を、人に伝える存在が必要ってことか。」
儀礼は眠っている少女を見る。
「だからって、これはないだろ。こいつ、本当に死に掛けたんだぞ。」
獅子が、怒りをもてあました様子で焚き火に木の枝を足す。
火の勢いが増し、さらに周囲が暖かくなる。
白の目には、炎から遠ざかって、恨めしげにこちらを見ている水の精霊が映っていた。
「炎が苦手で、氷を多く使うってことは、あの精霊、闇の属性も入ってるのかもしれない。」
白は呟く。
「へー。精霊って、いろんな種類がいるんだね。」
感心したように言う儀礼。
その儀礼の周りにこそ、おかしな精霊が多いのだと、白は言いたくなった。
シャーロットが呟いた。
《精霊は普通、固体の意識を持たない。だから、固体同士を融合させて、より強い精霊へと進化することができるの。》
そう語るシャーロットの表情は、浮かない。
真剣に、何かを警戒するように水の精霊を見つめている。
《けれど、その中に、強い固体があれば、それは、より強い固体に吸収されるということになるわ。》
シャーロットの言葉に、水の精霊は笑う。
「《当たり前であろう。強いのは我だ。その他の弱き精霊共も、我に吸収され、一体となり最強の力を持つことを望んでおる。》」
驚いたことに、精霊と同時に、『精霊の神子』が口を開いた。
まったく同時に同じ言葉をしゃべっている。
「何?」
突然しゃべりだした少女に、儀礼は驚いている。
意識を取り戻したようには見えなかった。
「精霊と、同調してるんだと思う。精霊の言葉を伝えてるの。」
突然話し出した少女を見て、白は儀礼に説明する。
「じゃ、精霊と話ができるんだ。」
睨むように、儀礼は少女を見る。
「その子をどうするつもり? 一緒に吸収するの?」
「《我の生まれ変わりを手伝い、その後は我の神子となってもらう。我が生まれ変われば神格を得ることも可能であろう。それだけ、力が我の前に集まっておる。》」
少女は目を閉じたまま、言葉を紡ぐ。
「……無理だよ。その子は一旦休ませないと本当に死んでしまう。人間は精霊とは違うんだ。寒さにも、熱さにも弱い。こんな、凍えるような場所に長時間はいられない。食べる物も必要だ。」
言いながら、儀礼はゆっくりと気の幹に縛られている少女へと近付いていく。
「《食べ物ならばある。この森にはいくらでも。住む場所が必要ならば、ここに家を造ればよい。》」
精霊が、儀礼よりも先に少女へと近付く。
そして、少女の中に入り込んだ。
少女が眼を開く。
青い瞳が、一際明るく光って見えた。
「《邪魔をするな!》」
少女の周囲から吹雪が巻き起こる。
トーラの障壁で、儀礼はかろうじて留まるが、少しずつ、体を押されて足が後退していく。
「するよ! 他に方法はないの? その子をそんなに苦しめないと、あなたは生まれ変われないの? それは、そんなに必要なことなの?」
押し返されながらも、儀礼は踏ん張り、一歩を踏み出す。
だが、それ以上進むことができない。
視界の端に、獅子の姿が映った。
儀礼はポケットに手を入れる。
「できれば、森を傷つけたくはなかったんだけど……。」
そう言って、儀礼が取り出したのは、小型のミサイルだ。
少女を縛り付けている巨木へと狙いを定める。
「《何をする気だ。やめろ、火の匂いがする。》」
顔をしかめて、精霊と同調した少女が言う。
「ふーん、火が苦手なんだ。」
いい事を聞いたとばかりに、にやりと儀礼は笑う。
「火ならあるよ、ここに。その子を放してもらおうか。」
ライターを見せ付けて、儀礼はじっと少女を見つめる。
バキーンッ!
その時、大きな硬い音がして、少女を覆う氷の綱でできた魔法陣が切り裂かれた。
やったのは、獅子。
儀礼が精霊の注意を引いている隙に、少女へと近付いていたのだ。
少女の中に入ることで、視野が狭くなり、獅子の接近に気付かなかったらしい。
少女を手の中に抱えると、獅子はどうしたものかと儀礼へと視線を送る。
中には、精霊が入っている。
「火が苦手みたいだから、とりあえず、暖めてみよう。」
儀礼は近くから枯れ木を拾い燃料を撒くと焚き火にした。
「《くっ、おのれ、よくも……。》」
それだけ言うと、少女は静かに体から力を抜いた。
しばらくその場で焚き火に当たりながら、儀礼たちは状況の整理をしていた。
「この森には、もともと強い水の精霊がいて、僕がたくさんの精霊を呼び出したから、それを吸収してより強力な精霊になろうとしてたんだね。」
「うん。そうみたい。」
白は頷く。
「精霊の強化? 生まれ変わり? そういうのって、聞いたことある?」
首を傾げながら儀礼は白へと問いかける。
「私の守護精霊が、少し知ってるみたいだけど、精霊も、強さを求めるんだって。強さというか、魔力なのかな。」
考えるように言葉を吟味しながら白は答える。
「確かに、魔力だったら人間にもあるよね。それを吸収するつもりだったのかな? 神子にするって言ってたけど、この子は神子なんだよね。もしかして、巫女のことかな。だとすると、精霊の契約と逆の存在になるのかな。」
人の命令を聞いて、魔法を使う精霊を契約精霊と言う。
精霊の命令を聞いて動くものは、……古い資料からは巫女という言葉が出てくる。
「精霊の力を、意思を、人に伝える存在が必要ってことか。」
儀礼は眠っている少女を見る。
「だからって、これはないだろ。こいつ、本当に死に掛けたんだぞ。」
獅子が、怒りをもてあました様子で焚き火に木の枝を足す。
火の勢いが増し、さらに周囲が暖かくなる。
白の目には、炎から遠ざかって、恨めしげにこちらを見ている水の精霊が映っていた。
「炎が苦手で、氷を多く使うってことは、あの精霊、闇の属性も入ってるのかもしれない。」
白は呟く。
「へー。精霊って、いろんな種類がいるんだね。」
感心したように言う儀礼。
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