ギレイの旅
精霊の森2
そして、笑っていた村人たちは、儀礼の言った次の言葉で、――激昂する。
「そう言うわけで、申し訳ないんですが、ここから先は別行動で……自分達の身は自分達で守ってください。私たちはペースをあげて行きます。」
「なんだって!? こっから先、お前らだけで先に行くだと?」
村人達の怒りは、儀礼の予想通りではあった。
口々に文句を言い、しまいには武器に手をかける者まで出てきた。
「獅子。」
儀礼は村人達に視線を向けたまま、背後の獅子を呼ぶ。
「ん?」
説明を儀礼に任せ、のんびりと構えていた獅子が、数歩近付いてくる。
「先行する者の力量を決めたい。」
儀礼の言葉を聞いた獅子はフン、と楽しそうに笑い、剣を抜いた。
「俺に一撃喰らわせたものは先行を許す。」
怒気はないまま、獅子は殺気と闘気だけを練り上げて周囲に向けて放つ。
ビクリと、白が身構えるのがわかる。
前方の村人達は――武器を構えることも忘れて、固まっていた。
まるで、獰猛な獣に睨まれたかのように、身を固くし、少しでも目を付けられないよう、ただ自分が襲われないことを願っているようだ。
「決まりだな。」
獅子は言い、剣を下ろす。
「あ……お……。」
村人達のリーダーが、口をぱくぱくとさせ、何かを言おうとしているが、声になっていない。
「ま、そう言うわけなんで、ここから先は専任者に任せてください。危険な仕事は冒険者ギルドの特権なんです。」
にこりと笑って、儀礼は言った。
その無邪気な笑みに、毒気を抜かれて、村人達はおとなしくなったのだった。
「シシの殺気、よく平然としてられたね。」
森をさらに奥へと進みながら、感心したように白が儀礼に言った。
「ま、ね。」
あいまいに儀礼は笑う。得意そうな顔にも見えるのは気のせいだろうか。
「怒気は入れなかったからな。」
と、軽く言う獅子。
「でも、お前、殺気にうとかったら、いつか殺されるぞ?」
心配したように儀礼を見る獅子は、保護者の顔だ。
「いや、うといわけじゃ……。」
困ったように苦笑いを浮かべる儀礼。
なんだか和やかに歩いているが、実際には、危険な道に足を入れた道中である。
その証拠に、周囲にいる精霊達の顔は真剣そのものだ。
白にしか見えないが。
この先危険、と聞いて儀礼が立てた作戦は――様子を身ながら、強引に圧し進む、それだけである。
危険に進むにあたり、足手まといになる村人達は置いていくことにする。
精霊達が危険と言うほどだ、さっきまでいた森の中のが何倍も安全だろう。
もちろん、攫われた巫女を心配して儀礼達の後をつけてくる村人たちが、危険領域に入らないよう、村の方向に向けて、ある程度まいてきた。
「危険の正体がわからなきゃ、対処しようがないからな。白は村人の護衛してもらいたいんだけど……。」
「やだ!」
聞く前に断られた。
「私を置いて二人で危ないことするつもりでしょ。絶対一緒に行くからね!」
白を置いていけば、神子を守るためとか何とか理由をつけて、簡単に村人達の安全と、白の安全を確保できたのだが。
(仕方ないか。)
「じゃ、もしまた精霊が何か教えてくれたら言ってね。対策練るから。」
「うん。」
「そう言えば、火の精霊は?」
思いついたように儀礼が聞く。
村人達の怒りに、儀礼の肌はいつもの熱さを感じていなかったのだ。
「え?」
精霊のことを聞かれた事と、いつも儀礼のそばにいたその存在すら近くにないことに白は驚く。
「いない。フィオも、いなくなってる!?」
「そっか、いないのか……。森なのに。」
森は大地の精霊の多くいる場所だが、木が燃えるものであるように、日の光が届くように、火の精霊が、決していられない場所ではない。
「水気が高いのかな。」
ぽつりと儀礼が言った。
火の精霊と相対する位置にある水の気配が高ければ、火の精霊には居心地が悪くなる。
言われてみれば確かに、雨が降った後だとしても、水場でもないのに、白の目から見て、水の精霊がとても多い気がした。
白や儀礼には友好的だし、何か悪さをするようにも見えないから、気にもしていなかった。
(ああ、自分には見えるのに、どうして注意力がないんだろう。)
白はぐぐと目を擦る。
(気合いを入れよう。)
もしこの事件に精霊が関わっているなら、儀礼と獅子を助けられるのは白だけかもしれないのだ。
「大丈夫? 白。」
目を擦ったのを疲れからかと思ったのか、気遣うように儀礼が聞いた。
「大丈夫。」
強く答え、歩みを強める白。
「ほんとに大丈夫か? 体力なしの儀礼に心配されるぐらいじゃ終わってるぞ?」
「ナニガダ。」
「運命ガダ。」
不満そうな儀礼の声に、獅子がすぐにふざけた調子で言葉を返した。
「どういう意味ダ。」
「そういう意味ダ。」
なぜだか緊張感のない二人の会話に苦笑する白。
「体力バカ。」
「体力ガタ。」
儀礼が言えば、すぐに獅子が言い返す。
「ガタってなんだよ、ガタって。」
意味不明な言葉に、儀礼は苦笑する。
「もうガタがきてんだよ。」
「人を年寄りみたいに……。」
「俺のが年上だ、うやまえ。」
偉そうに胸を張る獅子に、儀礼は大きく溜息を吐く。
「もう何を言ってるのか、わかんないよ。」
「たてまつれ。」
「どこで覚えたんだよ、そんな難しい言葉。」
棒読みの様に答える獅子に、儀礼はおかしそうに笑う。
危険な森の中の探索が、いつの間にか、緊張感のない会話で過ぎ去っていった。
「そう言うわけで、申し訳ないんですが、ここから先は別行動で……自分達の身は自分達で守ってください。私たちはペースをあげて行きます。」
「なんだって!? こっから先、お前らだけで先に行くだと?」
村人達の怒りは、儀礼の予想通りではあった。
口々に文句を言い、しまいには武器に手をかける者まで出てきた。
「獅子。」
儀礼は村人達に視線を向けたまま、背後の獅子を呼ぶ。
「ん?」
説明を儀礼に任せ、のんびりと構えていた獅子が、数歩近付いてくる。
「先行する者の力量を決めたい。」
儀礼の言葉を聞いた獅子はフン、と楽しそうに笑い、剣を抜いた。
「俺に一撃喰らわせたものは先行を許す。」
怒気はないまま、獅子は殺気と闘気だけを練り上げて周囲に向けて放つ。
ビクリと、白が身構えるのがわかる。
前方の村人達は――武器を構えることも忘れて、固まっていた。
まるで、獰猛な獣に睨まれたかのように、身を固くし、少しでも目を付けられないよう、ただ自分が襲われないことを願っているようだ。
「決まりだな。」
獅子は言い、剣を下ろす。
「あ……お……。」
村人達のリーダーが、口をぱくぱくとさせ、何かを言おうとしているが、声になっていない。
「ま、そう言うわけなんで、ここから先は専任者に任せてください。危険な仕事は冒険者ギルドの特権なんです。」
にこりと笑って、儀礼は言った。
その無邪気な笑みに、毒気を抜かれて、村人達はおとなしくなったのだった。
「シシの殺気、よく平然としてられたね。」
森をさらに奥へと進みながら、感心したように白が儀礼に言った。
「ま、ね。」
あいまいに儀礼は笑う。得意そうな顔にも見えるのは気のせいだろうか。
「怒気は入れなかったからな。」
と、軽く言う獅子。
「でも、お前、殺気にうとかったら、いつか殺されるぞ?」
心配したように儀礼を見る獅子は、保護者の顔だ。
「いや、うといわけじゃ……。」
困ったように苦笑いを浮かべる儀礼。
なんだか和やかに歩いているが、実際には、危険な道に足を入れた道中である。
その証拠に、周囲にいる精霊達の顔は真剣そのものだ。
白にしか見えないが。
この先危険、と聞いて儀礼が立てた作戦は――様子を身ながら、強引に圧し進む、それだけである。
危険に進むにあたり、足手まといになる村人達は置いていくことにする。
精霊達が危険と言うほどだ、さっきまでいた森の中のが何倍も安全だろう。
もちろん、攫われた巫女を心配して儀礼達の後をつけてくる村人たちが、危険領域に入らないよう、村の方向に向けて、ある程度まいてきた。
「危険の正体がわからなきゃ、対処しようがないからな。白は村人の護衛してもらいたいんだけど……。」
「やだ!」
聞く前に断られた。
「私を置いて二人で危ないことするつもりでしょ。絶対一緒に行くからね!」
白を置いていけば、神子を守るためとか何とか理由をつけて、簡単に村人達の安全と、白の安全を確保できたのだが。
(仕方ないか。)
「じゃ、もしまた精霊が何か教えてくれたら言ってね。対策練るから。」
「うん。」
「そう言えば、火の精霊は?」
思いついたように儀礼が聞く。
村人達の怒りに、儀礼の肌はいつもの熱さを感じていなかったのだ。
「え?」
精霊のことを聞かれた事と、いつも儀礼のそばにいたその存在すら近くにないことに白は驚く。
「いない。フィオも、いなくなってる!?」
「そっか、いないのか……。森なのに。」
森は大地の精霊の多くいる場所だが、木が燃えるものであるように、日の光が届くように、火の精霊が、決していられない場所ではない。
「水気が高いのかな。」
ぽつりと儀礼が言った。
火の精霊と相対する位置にある水の気配が高ければ、火の精霊には居心地が悪くなる。
言われてみれば確かに、雨が降った後だとしても、水場でもないのに、白の目から見て、水の精霊がとても多い気がした。
白や儀礼には友好的だし、何か悪さをするようにも見えないから、気にもしていなかった。
(ああ、自分には見えるのに、どうして注意力がないんだろう。)
白はぐぐと目を擦る。
(気合いを入れよう。)
もしこの事件に精霊が関わっているなら、儀礼と獅子を助けられるのは白だけかもしれないのだ。
「大丈夫? 白。」
目を擦ったのを疲れからかと思ったのか、気遣うように儀礼が聞いた。
「大丈夫。」
強く答え、歩みを強める白。
「ほんとに大丈夫か? 体力なしの儀礼に心配されるぐらいじゃ終わってるぞ?」
「ナニガダ。」
「運命ガダ。」
不満そうな儀礼の声に、獅子がすぐにふざけた調子で言葉を返した。
「どういう意味ダ。」
「そういう意味ダ。」
なぜだか緊張感のない二人の会話に苦笑する白。
「体力バカ。」
「体力ガタ。」
儀礼が言えば、すぐに獅子が言い返す。
「ガタってなんだよ、ガタって。」
意味不明な言葉に、儀礼は苦笑する。
「もうガタがきてんだよ。」
「人を年寄りみたいに……。」
「俺のが年上だ、うやまえ。」
偉そうに胸を張る獅子に、儀礼は大きく溜息を吐く。
「もう何を言ってるのか、わかんないよ。」
「たてまつれ。」
「どこで覚えたんだよ、そんな難しい言葉。」
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