ギレイの旅

千夜ニイ

部屋割り

 雨を降らせてすぐに儀礼たちはその村を旅立った。


 それというのも、天候の女神を呼び出し、雨を降らせたことへの感謝を次々に現れる村人たちから延々と聞かされ、神の息吹を受けたという奇跡を目の当たりにして、その恩恵に預かろうと大勢の村人が儀礼の前に群がったからだ。
「村の危機を救っていただきありがとうございました。」
「あのように美しい女神をこの目で崇めることができる日がこようとは、長生きはするものです。」
「おかげで命を繋ぐことができました。ありがとうございます。」
「神の祝福をどうか、我らにも分け与え下され。ああ、この手に握手をお願いいたします。」


 押し寄せる人の波に辟易としていた儀礼だが、「ぜひとも村に残ってください」などと言われ始め、専用の神殿を建てるなどと話し出された時には言い知れない恐怖が全身を襲っていた。
この村に捉われて逃れられなくなるのではないか、と。
村に息づく女神、水光源の手の元に。


 儀礼は宿の部屋に駆け込み荷物を纏めると、飛び乗るようにして愛華の中に入り込んだ。
仕方なく荷物を詰め込んだそのほかのメンバーに続いて、ネネまでが儀礼の車に荷物を詰め込む。
そして、儀礼の車に乗り込んだ。
結果、獅子が村で馬を買い取り、車の中に儀礼、白、利香、ネネが乗り込み、拓と獅子は雨の中、馬で進むことになった。


 それでも、夜には次の町に辿り着いた。
開いている宿を見つけ部屋をとる。
空いている部屋は二人部屋が三つだった。


 部屋割りは、利香と、なぜか付いて来ているネネ。
白と獅子。
儀礼と拓。


「なんでこの組み合わせかな。」
不満そうに儀礼は言う。
「じゃ、私とにする?」
楽しそうにネネが言う。
その手はすでに儀礼の白衣へと伸ばされている。


「じゃ、俺は白とだな。」
拓が当然のように白の肩を抱く。
「ありえないだろ!」
バコン、と儀礼は拓の頭を叩いた。
ついでに、ネネからも距離を取っておく。


 拓は白が女だと気付いている。
「お前と獅子だろ、この場合。」
男4人に女が2人となれば、女性同士が一部屋になるのは当然だ。
残りの4人で言えば、兄弟となっている白と儀礼が一緒の部屋なのは自然な流れだ。
まぁ、拓と利香の兄妹でも問題はないと思われるが。


「それこそありえんな。状況を見て言え。お前、そんなこと言って白と同じ部屋がいいんだな、スケベ。」
「違うって言ってんだろ! 拓ちゃんでしょそれは。」
「俺は真剣だし。」
 真顔で言う拓。


「その態度は真剣とは思えないね。」
キッと拓を睨みつける儀礼。
「痛くもかゆくもないな」
笑って拓はかわす。


「仕方ないだろ、俺と拓は別れた方が何かあった時、対処しやすいし、拓と白がだめって言うんなら、この組み合わせしかない。」
獅子が珍しく仲裁に入る。
宿の主の話では、どうも、この町では、隣村の干ばつの影響からか、荒れ始めていたらしい。
ここ数日、若い娘が何人も行方不明になり、不安を誘っている。


 いなくなった娘のほとんどが旅をしているか、貧しい家の、ようは探す人の少ない者。
狙っているとしか思えない。
利香に、ネネに、白。
このメンバーでは目をつけられてもおかしくない。
むしろ高確率で犯人どもは来るだろう。


 ちなみに、白とネネの部屋割りは考えられない。
高確率で白の正体がネネにバレる。
ネネは『花巫女』と呼ばれる一流の占い師で、情報屋だ。
そんな危険は冒せない。


「わかった。」
仕方なく、儀礼はこの部屋割をのんだ。
利香とネネの部屋を真ん中に、階段に近い右が獅子と白。
廊下に窓がある突き当たりの部屋、左側が儀礼と拓になった。


(何が嫌って、拓と一緒なのが嫌だ。絶対、いじめられる。)
儀礼は力ない溜息を吐く。
(弱いとか、貧弱とか、とろいとか、目障りとか。)
「うぅぅ……。」


 涙をこらえ、儀礼は、今日は早くに眠ってしまうことに決めた。
拓は見張りのため起きているらしい。退屈だからと相手をさせられてはかなわない。
(今日はいろいろ疲れたし。)
と思って、儀礼は水光源の気になる言葉を思い出す。


『明日になればわかる。』


 いや、思い出したくなかった。
このまま忘れ去って、明日にも何もなく過ぎ去ってほしかった。


 早々に眠りに入った儀礼。
夕飯を軽くすませ、風呂は後回しにした。
それがいけなかったのだが、この時は、眠ってしまう事にやけになっていた。


 それから、朝になり儀礼は目覚めた。
早くに眠ったせいか、表は薄暗いくらいだった。
拓はベッドで眠っている。
見張りは獅子と交代したのだろう。


 儀礼はベッドの上に起き上がる。が、体に何か違和感を覚える。
着ている服や、布団がなんだかごわごわとしていて、固い。
(気のせいか? 寝過ぎたか?)
頭に「?」を浮かべながら、枕もとの白衣を手に取る。
持ち上げようとして、
「重い……。」
持ち上がらなかった。しかも、出た自分の声が変だ。


 温かい雨粒とはいえ、冬場に雨に降られたのだ。
風邪をひいていてもおかしくはない。
そうなると、他のみんなの様子も気になった。


 とりあえずベッドから起き上がろうとして、履いているズボンの裾が長すぎて、儀礼はベッドの上で俯せに転んだ。
「いてぇ……くないか。」
布団の上に倒れただけだ。
しかも、受けた感触が柔らかかった。
特に胸のあたりが。
枕でも潰したか? と目を向けてみれば、我を疑う光景が……。

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