ギレイの旅
その頃ギルドにて2
「それがワイバーンの瞳か。色々と種類があるって聞いたが、こいつはどんな効果があるんだ?」
マスターの持つ緑色の宝石を覗き込んで獅子が問う。
「そいつはテーゼって、フェードにあるBランクの遺跡のマップを表示する機能を持ってる。あたしらはもう攻略してるから必要ない代物だよ。」
なんでもないことのようにワルツは言った。
それでも、宝石としての価値が十分、ワイバーンの瞳にはあるのだ。
「こんな高価な物をポンと支払うとは、さすがに『Sランク』の護衛だな。」
その地位に、自分がいないことへの不満を織り交ぜて、クリームが呟く。
「高価って言ってもね。余るほど持ってるからね。あたしは。」
笑いながら、ワルツは腰に下げた小さな袋の中から、いくつもの宝石を取り出す。
全てが直径4、5センチはある、ワイバーンの瞳だ。
「さすが『翼竜の狩人』。数が違うな。」
引きつるような笑みを浮かべて、獅子はそれを見る。
「この辺の、普段持ち歩く分は防御に役立つ装備品なんだ。こっちは風の力を持ってるから攻撃に役立つ。」
宝石を順に見せながらワルツは説明する。
「この黒いやつを手に入れる時にはちょっと苦労したね。何しろ相手の大きさが普通のワイバーンのサイズじゃなかったからな。」
いつの間にか、宝石の話から、それを持っていたワイバーン本体との戦いの話へと切り替わっている。
「ワイバーンの弱点は頭だ。よく、翼を落として地上戦に持ち込もうとする奴がいるが、それは割に合わない。奴ら地上戦もいける。」
快活に話すワルツの話に、獅子は興味深そうに耳を傾けている。
「なるほど。足も速いんだな。」
「ああ。だから、頭を潰すのが一番効果的だ。種類によっては炎や岩も吐くからね。」
いくつもの宝石を酒場のテーブルの上に並べてワルツは話を続けている。
その手にはいつの間にか酒の入ったジョッキが握られていた。
「岩を吐く奴なら俺も戦ったことがあるぞ。翼はなかったけどな。あれは確かに厄介だよな。」
うんうん、と獅子は頷く。
「翼のない、岩を吐く、……地竜か?」
少し考えるように間を空けて、ワルツは獅子に問いかけた。
「そう、さすがよく知ってるな。チリューだ。」
「お前、地竜を倒したのか?」
意外そうに目を丸くして、ワルツは獅子を見つめる。
「ああ。素早くて大変だったな。」
冷たいお茶の入ったコップを一気に傾けて中味を飲み干し、獅子は頷く。
思い切り動いたせいでひどくのどが渇いていた。
訓練場の修理代にお釣りがくるらしいので、ここでの飲み代はワルツのおごりということになっている。
「ふん。さすが『黒獅子』だな。やはり、本気で一度やってみたいところだ。」
にやりとワルツは笑う。
赤い唇が大きく弧を描いていた。
「了様!」
慌てたように利香が獅子の腕に抱きついてきた。
今まで、白たちと話しをしていたのに、こちらの話にも耳を傾けていたらしい。
先程の戦いでも、獅子達は無傷ではなかった。
見ているだけの利香には、耐え難く、辛いものだったのだ。
これ以上、獅子の傷つく姿を見たくはない、とその利香の涙を浮かべた瞳が語っていた。
「可愛いお譲ちゃんだねぇ。」
頬杖を付いてワルツは利香を眺める。
「大丈夫。もうあんな無茶はしないよ。あたしもこいつらの実力を知りたかっただけだからね。」
にっこりと微笑むワルツの顔は優しい表情をしていた。
その顔を見て、安心したように利香は獅子の腕に抱きついていた力を緩める。
それから、獅子の顔を見上げて目が合うと、真っ赤な顔をして、獅子の肩に顔を埋めた。
思わず、獅子はそんな利香の髪を撫でていた。
「で、そっちの話はまとまったのかい?」
獅子と利香が二人の世界に入ってしまったので、ワルツは隣りで何やら話し合っていたクリームたちの方へ向き直る。
「俺達は儀礼がどうするのかで行動が変わるからな。今はなんとも言えないな。」
テーブルの上に地図を広げていた拓がワルツに答えた。
その地図を見て、どこが安全で、どこが危険か。
利香を同行させられるのはどの範囲で、近寄らない方がいいのはどこの道かなどをクリームと白たちは話し合っていたのだ。
「そう、あたしらの行動はギレイしだいになる。」
どこか諦めたような笑い顔でクリームは答えた。
「……お前、その服、似合ってるなぁ。」
しばらくじっと白を眺めていたクリームが、意味深い響きを持たせて言った。
男物の服を着た、少年の格好をした少女。
儀礼が側にいる限り、少女とは思われないだろう。
何者かに命を狙われながら、絶対の権力を持つ少年に、守られている少女。
一時は、クリームのターゲットでもあった。
様々な思いを乗せた言葉だった。
しかし、白はその響きの意味に気付いていないようで、照れたように顔を赤くしていた。
「クリームさんも、とても似合ってて綺麗です。それに、強くて格好いいです。」
慌てたように白はクリームを褒め返す。
「ふーん。」
特に、気にも留めていないような声でクリームは返事をした。
クリームの言葉の意味に不満そうに表情を歪めたのは拓だ。
白が少女であることに、気付いていると、クリームはほのめかしたのだ。
「お前、何が言いたいんだ。」
低く、小さな声で拓はクリームを威嚇する。
しかし、クリームはそんな程度で怯えるような人間ではない。
くすりと笑うと、また、白に視線を合わせた。
「あいつも、このぐらい可愛げがあれば、いいのにな、と思ってな。」
素直で正直。簡単に考えを読めてしまえる白。
同じ顔なのに、儀礼の考えはクリームには読めない。
その思考に追いつけない。
儀礼が決断を下すまで、どれだけ他の連中と話し合ったとしても、無駄なことだと、思えていた。
「それは無理だ。あいつは生まれつき可愛げ何てない。」
クリームの言う「あいつ」が誰であるのかわかったようで、拓はすぐに答えた。
「生まれつきか、それは仕方ないな。」
ははっ、とクリームは声を上げて笑う。
生まれ付いての天才。ならば、いくら追いかけても追いつけるわけがない。
二人の会話に、白が不思議そうに首を傾げていた。
マスターの持つ緑色の宝石を覗き込んで獅子が問う。
「そいつはテーゼって、フェードにあるBランクの遺跡のマップを表示する機能を持ってる。あたしらはもう攻略してるから必要ない代物だよ。」
なんでもないことのようにワルツは言った。
それでも、宝石としての価値が十分、ワイバーンの瞳にはあるのだ。
「こんな高価な物をポンと支払うとは、さすがに『Sランク』の護衛だな。」
その地位に、自分がいないことへの不満を織り交ぜて、クリームが呟く。
「高価って言ってもね。余るほど持ってるからね。あたしは。」
笑いながら、ワルツは腰に下げた小さな袋の中から、いくつもの宝石を取り出す。
全てが直径4、5センチはある、ワイバーンの瞳だ。
「さすが『翼竜の狩人』。数が違うな。」
引きつるような笑みを浮かべて、獅子はそれを見る。
「この辺の、普段持ち歩く分は防御に役立つ装備品なんだ。こっちは風の力を持ってるから攻撃に役立つ。」
宝石を順に見せながらワルツは説明する。
「この黒いやつを手に入れる時にはちょっと苦労したね。何しろ相手の大きさが普通のワイバーンのサイズじゃなかったからな。」
いつの間にか、宝石の話から、それを持っていたワイバーン本体との戦いの話へと切り替わっている。
「ワイバーンの弱点は頭だ。よく、翼を落として地上戦に持ち込もうとする奴がいるが、それは割に合わない。奴ら地上戦もいける。」
快活に話すワルツの話に、獅子は興味深そうに耳を傾けている。
「なるほど。足も速いんだな。」
「ああ。だから、頭を潰すのが一番効果的だ。種類によっては炎や岩も吐くからね。」
いくつもの宝石を酒場のテーブルの上に並べてワルツは話を続けている。
その手にはいつの間にか酒の入ったジョッキが握られていた。
「岩を吐く奴なら俺も戦ったことがあるぞ。翼はなかったけどな。あれは確かに厄介だよな。」
うんうん、と獅子は頷く。
「翼のない、岩を吐く、……地竜か?」
少し考えるように間を空けて、ワルツは獅子に問いかけた。
「そう、さすがよく知ってるな。チリューだ。」
「お前、地竜を倒したのか?」
意外そうに目を丸くして、ワルツは獅子を見つめる。
「ああ。素早くて大変だったな。」
冷たいお茶の入ったコップを一気に傾けて中味を飲み干し、獅子は頷く。
思い切り動いたせいでひどくのどが渇いていた。
訓練場の修理代にお釣りがくるらしいので、ここでの飲み代はワルツのおごりということになっている。
「ふん。さすが『黒獅子』だな。やはり、本気で一度やってみたいところだ。」
にやりとワルツは笑う。
赤い唇が大きく弧を描いていた。
「了様!」
慌てたように利香が獅子の腕に抱きついてきた。
今まで、白たちと話しをしていたのに、こちらの話にも耳を傾けていたらしい。
先程の戦いでも、獅子達は無傷ではなかった。
見ているだけの利香には、耐え難く、辛いものだったのだ。
これ以上、獅子の傷つく姿を見たくはない、とその利香の涙を浮かべた瞳が語っていた。
「可愛いお譲ちゃんだねぇ。」
頬杖を付いてワルツは利香を眺める。
「大丈夫。もうあんな無茶はしないよ。あたしもこいつらの実力を知りたかっただけだからね。」
にっこりと微笑むワルツの顔は優しい表情をしていた。
その顔を見て、安心したように利香は獅子の腕に抱きついていた力を緩める。
それから、獅子の顔を見上げて目が合うと、真っ赤な顔をして、獅子の肩に顔を埋めた。
思わず、獅子はそんな利香の髪を撫でていた。
「で、そっちの話はまとまったのかい?」
獅子と利香が二人の世界に入ってしまったので、ワルツは隣りで何やら話し合っていたクリームたちの方へ向き直る。
「俺達は儀礼がどうするのかで行動が変わるからな。今はなんとも言えないな。」
テーブルの上に地図を広げていた拓がワルツに答えた。
その地図を見て、どこが安全で、どこが危険か。
利香を同行させられるのはどの範囲で、近寄らない方がいいのはどこの道かなどをクリームと白たちは話し合っていたのだ。
「そう、あたしらの行動はギレイしだいになる。」
どこか諦めたような笑い顔でクリームは答えた。
「……お前、その服、似合ってるなぁ。」
しばらくじっと白を眺めていたクリームが、意味深い響きを持たせて言った。
男物の服を着た、少年の格好をした少女。
儀礼が側にいる限り、少女とは思われないだろう。
何者かに命を狙われながら、絶対の権力を持つ少年に、守られている少女。
一時は、クリームのターゲットでもあった。
様々な思いを乗せた言葉だった。
しかし、白はその響きの意味に気付いていないようで、照れたように顔を赤くしていた。
「クリームさんも、とても似合ってて綺麗です。それに、強くて格好いいです。」
慌てたように白はクリームを褒め返す。
「ふーん。」
特に、気にも留めていないような声でクリームは返事をした。
クリームの言葉の意味に不満そうに表情を歪めたのは拓だ。
白が少女であることに、気付いていると、クリームはほのめかしたのだ。
「お前、何が言いたいんだ。」
低く、小さな声で拓はクリームを威嚇する。
しかし、クリームはそんな程度で怯えるような人間ではない。
くすりと笑うと、また、白に視線を合わせた。
「あいつも、このぐらい可愛げがあれば、いいのにな、と思ってな。」
素直で正直。簡単に考えを読めてしまえる白。
同じ顔なのに、儀礼の考えはクリームには読めない。
その思考に追いつけない。
儀礼が決断を下すまで、どれだけ他の連中と話し合ったとしても、無駄なことだと、思えていた。
「それは無理だ。あいつは生まれつき可愛げ何てない。」
クリームの言う「あいつ」が誰であるのかわかったようで、拓はすぐに答えた。
「生まれつきか、それは仕方ないな。」
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