ギレイの旅
その頃ギルドにて1
儀礼達三人が、管理局で会談していた頃、ギルドの訓練場では。
ゴガーン!
ガラゴロゴロ……。
派手な音をさせて訓練場の至る所の壁や天井が破壊されていた。
ギルドのマスターは、凄腕の冒険者たちの戦いに心奪われながらも、修繕のことを考え、苦い笑いを浮かべている。
戦っているのはワルツと、クリームと獅子の連合チームだ。
ワルツは一人で、クリームと獅子の二人を相手にしている。
さすがに余裕とはいかないが、それでも、ワルツの方に分があるように見える戦いだ。
ワルツは己の大槌で巻き起こす暴風で容赦なく、施設の壁を壊している。
ギルドには結界が張ってあるはずなのだが、それを上回る攻撃力で壁や天井を破壊しているのだ。
その攻撃を次々に避けながら、時に獅子が直接武器を交わして受け止め、隙を突いてクリームが攻撃する。
これは、間違いなく、片方が上位にいる訓練だった。
しかし普通、訓練では、力あるものは力を加減して、訓練場を壊したりはしない。
そこに、ワルツのがさつだという性格が現れていた。
手加減など、面倒なことをはしていない。
力の限りに、攻めかかってくる二人の冒険者の相手をしていた。
相手をしているクリームと獅子が細かい傷だらけなのに対し、ワルツは若干、汗をかいているだけで無傷だ。
それでも、温度を快適に保つ鎧を身につけているワルツが、こんなにも汗をかくのは久し振りのことだった。
「楽しいねぇ。お前ら強くなるよ。」
言いながら、ワルツは大きくハンマーを振るう。
暴風が巻き起こり、それを避けたクリームと獅子の背後でまた、訓練場の壁が大きな音をたてて崩れ落ちる。
大振りな攻撃をした後のワルツには僅かな隙がある。
その隙を突いて、二人は攻撃に打って出る。
しかし、その攻撃も読んでいたかのようにワルツはかわし、ハンマーで二人の武器を受け止める。
「危ないな。お前ら、見学者のことも考えてやれ! 白、もう少し下がってよう。」
拓が利香と白を背後に庇い、訓練場の端に移動する。
「すごいね。さすがに私はあそこまで速い動きには、ついていけない。」
三人の戦いを見ながら白は真剣な瞳で語る。
少しでも強さを学ぼうと、その目は大きく見開かれている。
「了様、頑張って!」
利香が、大きな声で声援を送る。
その顔は心配そうにしながらも、生き生きと輝いている。
「お前は、緊張感がないな。」
呆れたように苦笑して、拓は利香の頭を撫でる。
次いで、真剣な表情の白の頭を撫でて、力を抜けと優しく語り掛ける。
「アレについていく必要はない。白の戦いには魔法があるんだろ。それに、白には精霊が付いてる。」
にこりと笑う拓に、白は少しの間瞬きをして、それから、安心したように大きく頷いた。
「うん。私にはいつも、精霊が付いてる。」
嬉しそうに微笑む白の笑顔は、いつもの朗らかなものだった。
ガラガラとけたたましい音をたてて、また、いっそう派手に訓練場の天井が崩れた。
もう半分以上空が丸見えになってしまっている。
「構わないよ。殺す気でかかって来な。遠慮なんかいらないよ。」
二人の武器を強くはじき、ワルツが獰猛な笑みを浮かべる。
「殺す気でいいのか? なら、言葉に甘えて、本気を出させてもらおうか。」
そう言ったのはクリームだ。
真剣な顔で二つの剣を一本に組み合わせる。そして、その短い呪文を唱える。
「『砂神』!」
「シャレにならねぇから、やめとけ。」
コン、と剣の鞘でその背後からクリームの頭をはたいて、攻撃を止めたのは一緒に戦っていた獅子だ。
「なぜ、邪魔をする!」
不満そうに眉間にしわを寄せてクリームは獅子に食って掛かる。
「俺は別に殺し合いまではしたくねぇよ。力試しをしたかっただけだ。こいつの力は十分に分かった。」
そう言って、獅子は剣を鞘に収める。
「なんだ、もう終わりかい?」
そう言いながらも、ワルツは笑いながら武器を背中に収めている。
二人に戦う気がなくなったことを肌で感じ取っていた。
「俺達二人がかりでも、コイツには敵わない。それが分かったので十分だよ。これが、儀礼の護衛だって言うならな。」
鞘に収めたまま、剣の柄を握り締め、考えるように獅子は呟いた。
敵わなかった己の力。
慢心していたつもりなどなかったのに、友人を守るには全然足りていなかった実力。
それを、思い知った気分だった。
「あんた達も強くなったと思うよ。まだまだだけどね。」
くすりと笑ってワルツは二人に背を向ける。
向かう先はギルドのマスターだ。
「悪かったね。訓練場、壊しちまって。これで修理代に当ててくれ。」
ワルツがマスターに投げて渡したのは、緑色の宝石、ワイバーンの瞳。
「それで足りるだろう。」
にやりと、笑ってワルツはギルドマスターの顔をうかがう。
「あ、ああ。十分だ……。」
手の平に乗った宝石を見て、驚いて固まるマスターに、ワルツはケラケラと楽しそうに笑う。
「おかげで楽しかったよ。外でやると町を壊しかねないからな。」
その言葉に、緑色の宝石とワルツの顔を見比べながら、ギルドマスターはしばし呆然としていた。
ゴガーン!
ガラゴロゴロ……。
派手な音をさせて訓練場の至る所の壁や天井が破壊されていた。
ギルドのマスターは、凄腕の冒険者たちの戦いに心奪われながらも、修繕のことを考え、苦い笑いを浮かべている。
戦っているのはワルツと、クリームと獅子の連合チームだ。
ワルツは一人で、クリームと獅子の二人を相手にしている。
さすがに余裕とはいかないが、それでも、ワルツの方に分があるように見える戦いだ。
ワルツは己の大槌で巻き起こす暴風で容赦なく、施設の壁を壊している。
ギルドには結界が張ってあるはずなのだが、それを上回る攻撃力で壁や天井を破壊しているのだ。
その攻撃を次々に避けながら、時に獅子が直接武器を交わして受け止め、隙を突いてクリームが攻撃する。
これは、間違いなく、片方が上位にいる訓練だった。
しかし普通、訓練では、力あるものは力を加減して、訓練場を壊したりはしない。
そこに、ワルツのがさつだという性格が現れていた。
手加減など、面倒なことをはしていない。
力の限りに、攻めかかってくる二人の冒険者の相手をしていた。
相手をしているクリームと獅子が細かい傷だらけなのに対し、ワルツは若干、汗をかいているだけで無傷だ。
それでも、温度を快適に保つ鎧を身につけているワルツが、こんなにも汗をかくのは久し振りのことだった。
「楽しいねぇ。お前ら強くなるよ。」
言いながら、ワルツは大きくハンマーを振るう。
暴風が巻き起こり、それを避けたクリームと獅子の背後でまた、訓練場の壁が大きな音をたてて崩れ落ちる。
大振りな攻撃をした後のワルツには僅かな隙がある。
その隙を突いて、二人は攻撃に打って出る。
しかし、その攻撃も読んでいたかのようにワルツはかわし、ハンマーで二人の武器を受け止める。
「危ないな。お前ら、見学者のことも考えてやれ! 白、もう少し下がってよう。」
拓が利香と白を背後に庇い、訓練場の端に移動する。
「すごいね。さすがに私はあそこまで速い動きには、ついていけない。」
三人の戦いを見ながら白は真剣な瞳で語る。
少しでも強さを学ぼうと、その目は大きく見開かれている。
「了様、頑張って!」
利香が、大きな声で声援を送る。
その顔は心配そうにしながらも、生き生きと輝いている。
「お前は、緊張感がないな。」
呆れたように苦笑して、拓は利香の頭を撫でる。
次いで、真剣な表情の白の頭を撫でて、力を抜けと優しく語り掛ける。
「アレについていく必要はない。白の戦いには魔法があるんだろ。それに、白には精霊が付いてる。」
にこりと笑う拓に、白は少しの間瞬きをして、それから、安心したように大きく頷いた。
「うん。私にはいつも、精霊が付いてる。」
嬉しそうに微笑む白の笑顔は、いつもの朗らかなものだった。
ガラガラとけたたましい音をたてて、また、いっそう派手に訓練場の天井が崩れた。
もう半分以上空が丸見えになってしまっている。
「構わないよ。殺す気でかかって来な。遠慮なんかいらないよ。」
二人の武器を強くはじき、ワルツが獰猛な笑みを浮かべる。
「殺す気でいいのか? なら、言葉に甘えて、本気を出させてもらおうか。」
そう言ったのはクリームだ。
真剣な顔で二つの剣を一本に組み合わせる。そして、その短い呪文を唱える。
「『砂神』!」
「シャレにならねぇから、やめとけ。」
コン、と剣の鞘でその背後からクリームの頭をはたいて、攻撃を止めたのは一緒に戦っていた獅子だ。
「なぜ、邪魔をする!」
不満そうに眉間にしわを寄せてクリームは獅子に食って掛かる。
「俺は別に殺し合いまではしたくねぇよ。力試しをしたかっただけだ。こいつの力は十分に分かった。」
そう言って、獅子は剣を鞘に収める。
「なんだ、もう終わりかい?」
そう言いながらも、ワルツは笑いながら武器を背中に収めている。
二人に戦う気がなくなったことを肌で感じ取っていた。
「俺達二人がかりでも、コイツには敵わない。それが分かったので十分だよ。これが、儀礼の護衛だって言うならな。」
鞘に収めたまま、剣の柄を握り締め、考えるように獅子は呟いた。
敵わなかった己の力。
慢心していたつもりなどなかったのに、友人を守るには全然足りていなかった実力。
それを、思い知った気分だった。
「あんた達も強くなったと思うよ。まだまだだけどね。」
くすりと笑ってワルツは二人に背を向ける。
向かう先はギルドのマスターだ。
「悪かったね。訓練場、壊しちまって。これで修理代に当ててくれ。」
ワルツがマスターに投げて渡したのは、緑色の宝石、ワイバーンの瞳。
「それで足りるだろう。」
にやりと、笑ってワルツはギルドマスターの顔をうかがう。
「あ、ああ。十分だ……。」
手の平に乗った宝石を見て、驚いて固まるマスターに、ワルツはケラケラと楽しそうに笑う。
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