ギレイの旅
白の誘拐5
そして、クリームがいたずらに切り掛かろうとしたところで、ヘリコプターの扉が開いた。
(それにしても、あの怖い気配を放つアーデスって人によく切りかかろうとしたな、クリームさん。)
残念そうに剣を収めるクリームを白は見ていた。
扉から出てきたのは儀礼で、遠目にも落ち込んでいるのがわかる。
儀礼の後ろからは、女の人が降りてくる。
体を大きく露出した服なのに、肩や腰には実戦向きの防具が付いている。
その背中には、異様とも思える大型のハンマーを背負っていた。
儀礼が露出された女性の胸元に頭を寄せる。
女性に気にした様子はない。
「ギレイって、女好きだよな。」
皮肉っぽいクリームの声。
「そりゃ男だし。」
当然のように言う拓。
「そうじゃなくて……。」
ちょっと苛立ったクリームに、白もなんとなくクリームの言いたいことが分かった気がした。
「あの顔だからあんま警戒心もたれないし、男として見られてるはずなのにってのがな……。」
クリームは睨むように二人の姿を見ていた。
儀礼と女性のどちらを睨んでいるのかは分からない。
儀礼は頭を上げて、ゆっくりと歩いてきた。
「なにやってんだ、お前は!」
ゴン!
と、いきなり拓が儀礼の頭にげんこつを落とした。
アーデスと女の人が面白いものを見るように見ている。
「痛い。何すんだよ!」
涙を溜めて反論する儀礼。いつも通りだ。
いつも通り……、ギクシャクして儀礼の背中を見送ったのに、いつも通りの光景。
「アーデス、ワルツ、仕事だろ、今の。」
拓に言っても分が悪いのが分かったからか、儀礼が不満そうに二人に言った。
アーデスと、後ろの女の人に。
「危険は感じなかったよ。」
片方の唇をあげて、ワルツと呼ばれた女の人が言う。その表情はなんだか楽しそうだった。
「しつけは必要かと。」
アーデスが儀礼の目を見て言う。
儀礼は苦い顔をした。
「フフッ。」
白は思わず笑ってしまった。
儀礼が白を見る。
目が合うと、儀礼はにっこりと笑った。
(やっぱり、ギレイ君の笑顔は綺麗だ。)
すごく綺麗で、多分、白は自分の顔が赤くなっていることだろうと、感じていた。
「……怒られたのか?」
獅子が不器用そうな声で聞く。
「ううん。」
儀礼は首を横に振って、少し落ち込んだ声で続けた。
「ほめられた……。怒られた方がずっとよかったよ。」
ふぅ、と儀礼は息を吐く。
アーデスがワルツに促すように視線を送る。
「邪魔だった組織をやってくれてありがとう、ってさ。」
肩をすくめるような仕草でそういったワルツ。
服装は女っぽいのに、仕草や言葉はすごく男勝りだ。
しかしそれが、わざとらしくなくて、自然な感じがとても格好いい、と白には思えた。
ワルツの言葉に、アーデスは眉をしかめた。
「どこまでも利用する気か。」
呟かれた言葉には怒りはないが、どこか遠くを見ているような不透明な響きがあった。
「だから(中にいる奴)一発ずつ殴ってこようか? って聞いたら……。」
大型ハンマーを構えるように持ち、ワルツが言いかけたところで、儀礼が割り込んだ。
「やめてください。」
お願いします、というように涙を浮かせた儀礼が頭を下げた。
「お前の一撃くらったら、たいていの人は死ぬだろ。」
アーデスが呆れたように言う。
ワルツの一撃はワイバーン(小型飛竜・ランクB)の頭を潰す。
「ところで儀礼、こいつらは誰だ?」
なんとか治まりそうなところで、獅子が疑問に思っていたことを吐き出す。
「あんたは会ったことあるよな。隠密護衛? だっけ?」
拓が少しばかにしたような口調でアーデスを見る。
「ええ。お会いしましたね。その通り、我々はギレイ様の護衛をしています。」
アーデスが答える。
「護衛は確か儀礼が断ってたはずだよな。」
確かめるようにアーデスと儀礼を見比べる獅子。
「ええ、断られました。私達はギレイ様ではなく、管理局から雇われてギレイ様を見守っているという形になります。ギレイ様からは手を出さないようによく言われていますがね。」
アーデスが説明する。でもそれは表向きの理由。
「さすがに、Sランクつけた者を自由に歩かせるわけにはいかないみたいだからね。監視だよ。」
と、儀礼はなんでもないことのように言う。
そう、Sランクなんて『危険人物』と同じ意味なのだ。
守られているように見えて、実は閉じ込められている。
「私たちにそのようなつもりはありませんが。みな事実、ギレイ様の味方ですから。」
丁寧に、胸の前で腕を折ってアーデスが告げる。
「アーデス、そのしゃべり方がもう嘘臭いよ。普通にして。」
儀礼はその腕を無理やり真っ直ぐに伸ばそうと引っ張ってみている。
「失礼な。Sランクと認めているからこその態度ですよ。」
爽やかな笑顔でアーデスは答える。その腕はピクリとも動かされていない。
「まだ怒ってるの? 僕がマップ隠してたこと。ちゃんと渡して、アーデス見つけてきたじゃん。古代遺産。」
腕を動かすのを諦めて、儀礼は大きくため息を吐く。
「ですから怒っていません、敬意を表しているのです。」
「本気で怖いから、もうやめてよ。」
泣きそうな顔で儀礼は言う。
アーデスは笑って丁寧な言葉遣いを続けている。
どうやら、何か、アーデスの気に障ることを儀礼がやったらしい。
こうして、護衛兼、監視のアーデス達と獅子達は正式な出会いを果たした。
(それにしても、あの怖い気配を放つアーデスって人によく切りかかろうとしたな、クリームさん。)
残念そうに剣を収めるクリームを白は見ていた。
扉から出てきたのは儀礼で、遠目にも落ち込んでいるのがわかる。
儀礼の後ろからは、女の人が降りてくる。
体を大きく露出した服なのに、肩や腰には実戦向きの防具が付いている。
その背中には、異様とも思える大型のハンマーを背負っていた。
儀礼が露出された女性の胸元に頭を寄せる。
女性に気にした様子はない。
「ギレイって、女好きだよな。」
皮肉っぽいクリームの声。
「そりゃ男だし。」
当然のように言う拓。
「そうじゃなくて……。」
ちょっと苛立ったクリームに、白もなんとなくクリームの言いたいことが分かった気がした。
「あの顔だからあんま警戒心もたれないし、男として見られてるはずなのにってのがな……。」
クリームは睨むように二人の姿を見ていた。
儀礼と女性のどちらを睨んでいるのかは分からない。
儀礼は頭を上げて、ゆっくりと歩いてきた。
「なにやってんだ、お前は!」
ゴン!
と、いきなり拓が儀礼の頭にげんこつを落とした。
アーデスと女の人が面白いものを見るように見ている。
「痛い。何すんだよ!」
涙を溜めて反論する儀礼。いつも通りだ。
いつも通り……、ギクシャクして儀礼の背中を見送ったのに、いつも通りの光景。
「アーデス、ワルツ、仕事だろ、今の。」
拓に言っても分が悪いのが分かったからか、儀礼が不満そうに二人に言った。
アーデスと、後ろの女の人に。
「危険は感じなかったよ。」
片方の唇をあげて、ワルツと呼ばれた女の人が言う。その表情はなんだか楽しそうだった。
「しつけは必要かと。」
アーデスが儀礼の目を見て言う。
儀礼は苦い顔をした。
「フフッ。」
白は思わず笑ってしまった。
儀礼が白を見る。
目が合うと、儀礼はにっこりと笑った。
(やっぱり、ギレイ君の笑顔は綺麗だ。)
すごく綺麗で、多分、白は自分の顔が赤くなっていることだろうと、感じていた。
「……怒られたのか?」
獅子が不器用そうな声で聞く。
「ううん。」
儀礼は首を横に振って、少し落ち込んだ声で続けた。
「ほめられた……。怒られた方がずっとよかったよ。」
ふぅ、と儀礼は息を吐く。
アーデスがワルツに促すように視線を送る。
「邪魔だった組織をやってくれてありがとう、ってさ。」
肩をすくめるような仕草でそういったワルツ。
服装は女っぽいのに、仕草や言葉はすごく男勝りだ。
しかしそれが、わざとらしくなくて、自然な感じがとても格好いい、と白には思えた。
ワルツの言葉に、アーデスは眉をしかめた。
「どこまでも利用する気か。」
呟かれた言葉には怒りはないが、どこか遠くを見ているような不透明な響きがあった。
「だから(中にいる奴)一発ずつ殴ってこようか? って聞いたら……。」
大型ハンマーを構えるように持ち、ワルツが言いかけたところで、儀礼が割り込んだ。
「やめてください。」
お願いします、というように涙を浮かせた儀礼が頭を下げた。
「お前の一撃くらったら、たいていの人は死ぬだろ。」
アーデスが呆れたように言う。
ワルツの一撃はワイバーン(小型飛竜・ランクB)の頭を潰す。
「ところで儀礼、こいつらは誰だ?」
なんとか治まりそうなところで、獅子が疑問に思っていたことを吐き出す。
「あんたは会ったことあるよな。隠密護衛? だっけ?」
拓が少しばかにしたような口調でアーデスを見る。
「ええ。お会いしましたね。その通り、我々はギレイ様の護衛をしています。」
アーデスが答える。
「護衛は確か儀礼が断ってたはずだよな。」
確かめるようにアーデスと儀礼を見比べる獅子。
「ええ、断られました。私達はギレイ様ではなく、管理局から雇われてギレイ様を見守っているという形になります。ギレイ様からは手を出さないようによく言われていますがね。」
アーデスが説明する。でもそれは表向きの理由。
「さすがに、Sランクつけた者を自由に歩かせるわけにはいかないみたいだからね。監視だよ。」
と、儀礼はなんでもないことのように言う。
そう、Sランクなんて『危険人物』と同じ意味なのだ。
守られているように見えて、実は閉じ込められている。
「私たちにそのようなつもりはありませんが。みな事実、ギレイ様の味方ですから。」
丁寧に、胸の前で腕を折ってアーデスが告げる。
「アーデス、そのしゃべり方がもう嘘臭いよ。普通にして。」
儀礼はその腕を無理やり真っ直ぐに伸ばそうと引っ張ってみている。
「失礼な。Sランクと認めているからこその態度ですよ。」
爽やかな笑顔でアーデスは答える。その腕はピクリとも動かされていない。
「まだ怒ってるの? 僕がマップ隠してたこと。ちゃんと渡して、アーデス見つけてきたじゃん。古代遺産。」
腕を動かすのを諦めて、儀礼は大きくため息を吐く。
「ですから怒っていません、敬意を表しているのです。」
「本気で怖いから、もうやめてよ。」
泣きそうな顔で儀礼は言う。
アーデスは笑って丁寧な言葉遣いを続けている。
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