ギレイの旅
白の誘拐4
「1ヶ月ほど前の古代遺跡での大量虐殺事件を知ってるか?」
アーデスが聞いたのはここ最近で1番ひどい事件。
新聞でもニュースでも話題になっていた。
何者かの集団が遺跡に押し入り、周囲にいた人も含め警備兵一般人関係なく皆殺しにされ、封印してあった物を盗み出したらしい。
盗まれた物は古代の重要アイテムとしか言われなかった。
「やったのはこの組織だ。盗まれたのは離れた地で爆発を起こす魔法装置。次いで、田舎町で無差別の連続爆破事件。数建の建物を壊したこともあれば誰もいない広場に穴が開いただけのこともあった。」
聡い拓にはその背景が読めたようだった。
「試したんだな。制御力の問題か。」
「そう。古代の技術を持たない魔法使いでは、弱い威力ですら狙いを定められなかった。でも、ミサイルなら標的を設定するだけで誰にでもできる。ボタン一つで町が消せるのです。どこで奴らがその情報を得たのかはまだわかりませんが。」
アーデスの瞳に一瞬暗いものが浮く。あまりの寒気に白の腕には鳥肌が立った。
「誰かに引き渡してしまえば危険も減るのですが、悪用されるとわかってて手放せない。だから彼はSランク保持者なんです。彼を誘拐しようとした時点で世界を……たくさんの人を殺そうとした意思は明白。今日奴らを殺さなければ、明日、どこかの国が死滅していたかもしれない。」
それからまたアーデスは話を変える。
「この場所。何もないですよね。」
言われた通り広い平原だ。何もない。
「この辺りには2年前まで3つの村がありました。アジトを建てるためだけに、奴らは村人を殺して平原を作ったんですよ。……女も子供も何もかも。その後を焼き払い、魔術師がきれいさっぱり『掃除』した。……奴らは世界が簡単に姿を変えるのを知っていた。ギレイ様に心はある。だから彼は守るべきものを知っている。彼はSランク保持者だ。誰にも譲らず最高位に居続ける。お前ならどうする、『黒獅子』。明日、自分の大切な者を焼き払うかもしれない奴らを、しかもそれを単なる過程としかみない奴を生かしておけるか?」
冷たい、冷たい声。さっきの瞳と同じくらい怖い。
白に向けられた言葉ではないのに、射竦められた。身震いが、白は体が震えるのがわかった。
その時、まるで白の姿を隠すように拓が前に出た。
(これは、わざと……?)
「話が長いよ、お前。要するに、儀礼を責めるなって言うんだろ。」
拓はひらひらと手を振る。降参という仕草のようだった。
しかし、その背中には余裕があるように見えて、白は体から震えが消えていくのが分かった。
「殺伐とし過ぎてるんだよ。うちには普通の心臓を持つ女子供がいるんだぜ、血生臭い話ばっかだと女に嫌われるぞ。」
拓の言葉に、利香を見てみると、目に涙を浮かべてカタカタと震えている。
獅子のマントにしがみつきながら、何とか立っているという状態だった。
ネネは……いつの間にか消えていた。
アーデスはバツの悪い顔をした。そして、目元を隠すように頭を押さえる。
「……すみません、配慮が足りませんでした。」
頭から手をどかしたアーデスは困った顔をしていた。自分を叱咤しているようにも見える。
しかし、利香の涙は止まらなかった。
獅子が利香を抱きしめて頭を撫でるが、嗚咽が漏れてさらに泣き出す。
(泣かせてあげた方がいいのかな?)
利香を見て、白は悩む。
(でも、怖い思いなんて早く忘れた方がいいよね……どうしてたっけ、いつも。)
利香は結構よく泣く。いつもは……。
白の頭に、儀礼がしていたことが思い浮かんだ。
(私がしても、効くだろうか??)
白は悩みながらも利香の側に寄る。
「リカ、泣かないで。」
顔を覗こうとする白に、獅子は少しスペースを空けた。
白の目に、利香の頬に流れる涙が見えた。
ほんの少し背伸びして、白は利香の頬に触れる。
「しょっぱい。」
涙の味がした。
その瞬間に、利香が固まる。目を見開いて白を見ていた。
次に顔中、耳まで真っ赤に染まった。
(たしかに、これは面白い。)
利香の涙は止まっていた。
白は思わず利香に笑いかけていた。笑顔につられたのか、利香の顔は少し穏やかになった。
白が少し上を向くと、獅子がちょっと悔しそうな顔をしていた。
これも珍しい。いつも歯が立たない相手に、少し食らわせた気分だった。
(いつもギレイ君を殴ってるタクは……どうして赤い顔をしてるんだろう?)
ちょっと白には疑問が残った。
しかし、そんな顔の拓もかなり珍しい。
(うん、面白い。殴られてもやめないギレイ君の気持ち、ちょっとわかったかも。)
くすりと白は笑う。
「ギレイ様、やりすぎです。」
呆れたようなアーデスの声。
(……私、ギレイ君じゃないんだけど。)
そう思って白がアーデスを見れば、目が合った瞬間に、苦笑みたいな感じで微笑まれた。
利香を泣き止ませた感謝だったのかもしれない。
和やかな、空気になった中、
「あたしはお前と手合わせしてみたいんだがな。」
クリームが楽しそうな、(でもちょっと邪悪っぽい)笑いを浮かべて、剣に手をかけて、アーデスを挑発する。
「ギレイ様に呆れられたくないので。」
澄まし顔で断るアーデス。
「『双璧』のアーデス、だろ。」
『双璧』、それは管理局ランクA、ギルドランクAを持つ最高ランクの冒険者で、実力は化け物だ。
だが、アーデスは素知らぬふりをしていた。
アーデスが聞いたのはここ最近で1番ひどい事件。
新聞でもニュースでも話題になっていた。
何者かの集団が遺跡に押し入り、周囲にいた人も含め警備兵一般人関係なく皆殺しにされ、封印してあった物を盗み出したらしい。
盗まれた物は古代の重要アイテムとしか言われなかった。
「やったのはこの組織だ。盗まれたのは離れた地で爆発を起こす魔法装置。次いで、田舎町で無差別の連続爆破事件。数建の建物を壊したこともあれば誰もいない広場に穴が開いただけのこともあった。」
聡い拓にはその背景が読めたようだった。
「試したんだな。制御力の問題か。」
「そう。古代の技術を持たない魔法使いでは、弱い威力ですら狙いを定められなかった。でも、ミサイルなら標的を設定するだけで誰にでもできる。ボタン一つで町が消せるのです。どこで奴らがその情報を得たのかはまだわかりませんが。」
アーデスの瞳に一瞬暗いものが浮く。あまりの寒気に白の腕には鳥肌が立った。
「誰かに引き渡してしまえば危険も減るのですが、悪用されるとわかってて手放せない。だから彼はSランク保持者なんです。彼を誘拐しようとした時点で世界を……たくさんの人を殺そうとした意思は明白。今日奴らを殺さなければ、明日、どこかの国が死滅していたかもしれない。」
それからまたアーデスは話を変える。
「この場所。何もないですよね。」
言われた通り広い平原だ。何もない。
「この辺りには2年前まで3つの村がありました。アジトを建てるためだけに、奴らは村人を殺して平原を作ったんですよ。……女も子供も何もかも。その後を焼き払い、魔術師がきれいさっぱり『掃除』した。……奴らは世界が簡単に姿を変えるのを知っていた。ギレイ様に心はある。だから彼は守るべきものを知っている。彼はSランク保持者だ。誰にも譲らず最高位に居続ける。お前ならどうする、『黒獅子』。明日、自分の大切な者を焼き払うかもしれない奴らを、しかもそれを単なる過程としかみない奴を生かしておけるか?」
冷たい、冷たい声。さっきの瞳と同じくらい怖い。
白に向けられた言葉ではないのに、射竦められた。身震いが、白は体が震えるのがわかった。
その時、まるで白の姿を隠すように拓が前に出た。
(これは、わざと……?)
「話が長いよ、お前。要するに、儀礼を責めるなって言うんだろ。」
拓はひらひらと手を振る。降参という仕草のようだった。
しかし、その背中には余裕があるように見えて、白は体から震えが消えていくのが分かった。
「殺伐とし過ぎてるんだよ。うちには普通の心臓を持つ女子供がいるんだぜ、血生臭い話ばっかだと女に嫌われるぞ。」
拓の言葉に、利香を見てみると、目に涙を浮かべてカタカタと震えている。
獅子のマントにしがみつきながら、何とか立っているという状態だった。
ネネは……いつの間にか消えていた。
アーデスはバツの悪い顔をした。そして、目元を隠すように頭を押さえる。
「……すみません、配慮が足りませんでした。」
頭から手をどかしたアーデスは困った顔をしていた。自分を叱咤しているようにも見える。
しかし、利香の涙は止まらなかった。
獅子が利香を抱きしめて頭を撫でるが、嗚咽が漏れてさらに泣き出す。
(泣かせてあげた方がいいのかな?)
利香を見て、白は悩む。
(でも、怖い思いなんて早く忘れた方がいいよね……どうしてたっけ、いつも。)
利香は結構よく泣く。いつもは……。
白の頭に、儀礼がしていたことが思い浮かんだ。
(私がしても、効くだろうか??)
白は悩みながらも利香の側に寄る。
「リカ、泣かないで。」
顔を覗こうとする白に、獅子は少しスペースを空けた。
白の目に、利香の頬に流れる涙が見えた。
ほんの少し背伸びして、白は利香の頬に触れる。
「しょっぱい。」
涙の味がした。
その瞬間に、利香が固まる。目を見開いて白を見ていた。
次に顔中、耳まで真っ赤に染まった。
(たしかに、これは面白い。)
利香の涙は止まっていた。
白は思わず利香に笑いかけていた。笑顔につられたのか、利香の顔は少し穏やかになった。
白が少し上を向くと、獅子がちょっと悔しそうな顔をしていた。
これも珍しい。いつも歯が立たない相手に、少し食らわせた気分だった。
(いつもギレイ君を殴ってるタクは……どうして赤い顔をしてるんだろう?)
ちょっと白には疑問が残った。
しかし、そんな顔の拓もかなり珍しい。
(うん、面白い。殴られてもやめないギレイ君の気持ち、ちょっとわかったかも。)
くすりと白は笑う。
「ギレイ様、やりすぎです。」
呆れたようなアーデスの声。
(……私、ギレイ君じゃないんだけど。)
そう思って白がアーデスを見れば、目が合った瞬間に、苦笑みたいな感じで微笑まれた。
利香を泣き止ませた感謝だったのかもしれない。
和やかな、空気になった中、
「あたしはお前と手合わせしてみたいんだがな。」
クリームが楽しそうな、(でもちょっと邪悪っぽい)笑いを浮かべて、剣に手をかけて、アーデスを挑発する。
「ギレイ様に呆れられたくないので。」
澄まし顔で断るアーデス。
「『双璧』のアーデス、だろ。」
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