ギレイの旅

千夜ニイ

白の誘拐3

 無事に脱出し、皆に会えて、白は皆にお礼を言った。
良かったね、で事件は終わろうとしていた時だった。


 ドカーン!!


大きな爆発音と共に、敵のアジトが崩れ去った。
呆然とする白たち。


 そんな中、儀礼の側に一人の男が歩み寄って来た。
背が高くて、鍛えられた体格は騎士のよう。
顔は整っていて、男らしいが知的な印象がある。
金髪に緑色の瞳。その男に、白は一度だけ、見覚えがあった。
儀礼に間違われて、管理局の部屋で会ったことがあった。
儀礼と並んだ姿はひどく似合う。


(美男美女。ギレイ君が怒りそうだ。)
白は苦笑する。


「組織の解体が完了しました。」
男が儀礼に耳打ちする。
隠すつもりはないのか、その声は白たちにも聞こえている。
「わかった。残りは?」
儀礼の真剣な声。
年上の人間に、上司のように接する儀礼の態度は珍しい。


「始末しました。」
儀礼を見ていた面々は、その言葉に驚いて男に視線を移す。
だが、本当の衝撃はその後から来た。


「わかった。」
儀礼の口から、まるで分かっていたかのような落ち着いた態度で、肯定の言葉が発されたのだ。
「っ!!?」
白と、利香と拓と獅子。四人が儀礼を凝視していた。


 信じられない出来事だった。
優しい儀礼が、人を殺すことを先導したり、肯定するということが。
そんな白や獅子たちの表情や感情を儀礼は真剣な面持ちで受け止めていた。


 そして、獅子が動いた。
しかし、怒った顔で儀礼につかみかかろうとした瞬間、緑瞳の男、アーデスが目の色を変えて間に割って入った。
お互いの腕がぶつかり合い、組み合わされた状態で睨み合いが始まった。
凄まじい衝撃波が周囲を取り巻いたようだった。
プレッシャーとピリピリとした空気が肌に刺さるようで痛い。


「獅子……。アーデス、いいよ。」
その空気を破ったのは儀礼の制止の声だった。
困ったように獅子を呼び、アーデスに制止をかける。
二人が不満げに儀礼を見た時だった。


 空から、轟音が聞こえてきた。
二人から戦う気配が消えたのが分かった。
ゴォォォォ という、音と共に現れたのは、空を飛ぶ乗り物。
利香の護衛機によく似た形で、しかし、もっとずっと大きい。
世界に数機しかないと言われる『ヘリコプター』。


 白たちは、目の前で見ることなど一生ないと思っていた。
それが、すぐ近くの平地にゆっくりと降りて来たのだ。


「ギレイ様、お話があるそうです。」
ヘリコプターの方を示し、アーデスと呼ばれた男が言う。
「様はやめてよ、アーデス。……怒られるのかなぁ。」
情けない表情で言う儀礼はいつも通りのように見える。


「こちらは私にお任せください。」
行くのを渋っているような儀礼に、安心させるようにアーデスは笑いかける。
こちらというのは、白や獅子たちを指しているようだった。


 儀礼はやはり困ったような、嫌そうな笑みを浮かべて、仕方なさそうに、ヘリコプターの方へと歩いていった。
プロペラが止まり、轟音が止むと、扉が開いて中から兵士のような人たちが数人降り立ち、代わりに儀礼が中に入っていった。
次から次にいろいろな事が起こって、白はもう頭の中が整理しきれなかった。


「あの方に道徳心を説く必要はありませんよ。」
儀礼が見えなくなると、アーデスが語り出した。
同時に、どこからか何台もの大型の車がやって来て、大量の人が崩壊した建物の方へと走って行った。


「あの方は管理局でSランクを持つ人です。あの方のために動く人員はこんなものではありません。国ですら動かせる立場にいる。」
そう語るアーデスはどこか、温かみのある視線で儀礼の入っていったヘリコプターの方を見ている。


「あの方は、Sランク保持者であって、所持者ではない。その違いが分かりますか?」
問いかけてくるアーデスの意図が白たちにはわからなかった。
(何を言おうとしてるんだろう。)
白はアーデスの緑色の瞳を見ながら考える。


「所持は永遠のもの。確定された資格です。でも、ギレイ様の場合は、持っている情報・知識に対する称号で、彼はそれらを公表することでSランクから解放されることができる。本来の所持者はギレイ様の言う通りなら、、祖父のシュウイチロウ氏だった。だが、氏はなくなり、氏の書き記した情報を解読できるのは彼だけ。公表しないのは、危険だから。登録するのは、その危険なものを他人が持たないようにするため。」
アーデスの言っていることはよくわからなかった。
何となくは分かるのだけれど、肝心のところでピントがずれているような感じがした。


「彼の持っているミサイル。」
ようやく焦点を合わせにきたのだろうか。アーデスはぽつりと言った。
「死の山を浄化する作用のある物と、町一つ飲み込む威力のある爆弾。そんな物を、シュウイチロウ氏は数十種類書き残したらしい。試したことのない物がほとんどと言ってましたが、理論上は可能らしいです。世界を破滅させられるほどの物を彼は持っている。」
アーデスはまた、動きのないヘリコプターへと視線を向ける。
それは、羨ましいとか、尊敬というより、大切な物を見る目によく似ていた。
白の父が自分の国すべてを眺めている時の目によく似ていた。


「今回の事件で、犯人が要求してきたのは爆弾の方のミサイル。この組織は今までにも大量の死者を出し、本気で世界征服を狙っていた。」
拓が眉を動かした。信じられないといった感じだ。
でもアーデスに見咎めた感じはなかった。

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