ギレイの旅
花火
フェードの都に、新年の時が訪れた。
その途端に上がる祝の宴の花火。
パパパパパンッと、それは突然の音で始まった。
上空へと上がっていくときにするヒューという風を切る音がしなかった。
それが魔法で起こす花火と火薬の花火の違いなのだろうか、と儀礼は空を見上げる。
美しい花火が、次々と夜空を彩る。
灰色の厚い雲に覆われた空の下、白い粉雪に混じって、振る、数々の色の火の粉。
それは、幻想的な光景だった。
白い雪に混じり、灰色の空に赤や青や金色の花が咲き、振り落ちる。
火の粉は雪に混じり、雪の色をオレンジや黄色や緑に輝かせる。
不思議に色の変わる、虹色のような空が出来上がっていた。
そこかしこで、実力ある魔法使いたちが、我こそは、と技術を競い、力を競い、美しい花を夜空に咲かせる。
それは、天候がこのような雪模様でもまったく問題などないと感じられる、むしろ、星の輝きが、月の光がない分、余計に美しく光り輝いて見せていた。
降り注ぐ光の奇跡の光景に、儀礼たちはただ、沈黙して、空を見上げていた。
感嘆の声も上がらない。
ただ純粋に美しさに見惚れていた。
一方同じ時刻の違う場所。
こちらはユートラスのとある軍事施設。
土派手な爆発音が次々と上がり、周囲には戦争の最中かと思えるような怒号が飛び交っている。
事の起こりは、派閥の違うもの同士の小競り合いだった。
それが、いつの間にか、魔法は使うは武器は使うはの大騒動と化し、戦乱の最中に紛れ込んだような騒ぎになっていた。
その中心部分に二人の人物。
一人は黒いマントにこげ茶色の布で頭を覆った隻眼の剣士。
特徴的な黒い刃の剣を持っている。
もう一人は黒く輝く銃を持ったガンナー。
全身、目の覚めるような真っ青な服装でそろえている。
「いい加減、お前の銃には苛立ちが限界だったんだ。どこでもかしこでも無遠慮にぶっ放しやがって、騒音を考えろっ!」
『隻眼の剣士』が黒い刃を振るい、『スカイガンナー』へと切りかかる。
黒い斬撃破が波のようになって青い服の青年へと襲い掛かる。
「そっちこそな! いつも澄ました顔しやがって。何が、『一人で暴走した魔法具を鎮めた』だよ。たまたま一番近くにいただけだろう。功績独り占めしやがって!」
いがみ合うように向かい合い、黒い波をいとも簡単にかわすと、スカイガンナーは銃の引き金を引く。
連続で鳴る発砲音。
飛び出た銃弾を、『隻眼の剣士』は黒い剣を振り払い、切断し、四方八方へと分断させる。
その流れ弾に当たる負傷者、多数……。
戦乱は時間の経過と共に苛烈さを増していく。
すでに、軍の将校にも止められない状況へと進展していた。
「何事だっ!!」
将校の怒号が施設内に響くが、聞き取れるものは周囲にいるわずかな者ばかり。
「わかりません。」
戦乱に巻き込まれているだけの彼らには、何が起こっているのかすら、把握できていなかった。
間もなく、施設のあちらこちらが火を噴き始める。
誰にも、止められない混乱のまま、小さな火種から始まった派閥争いの火花は、扇動者により煽られ、大きな花火となって、一つの軍施設を爆発させた。
この事件によって、ユートラス軍は大きな痛手を負った。
死者・行方不明者多数。
その中には、最近頭角を現していた『隻眼の剣士』や、『スカイガンナー』という兵の名もあったという。
これで、ユートラスの他国侵攻、『蜃気楼』の攻略作戦は大幅に遠のいたことになる。
「派手な花火が上がったものだ。」
黒いマントを炎の消し炭へと変えた男が、金色の髪を七色に変わるフェードの都の空の色に映している。
緑色の瞳が捉えるのは、鮮やかな花火の彩る王都の空。
「やれやれ、やっと開放されるのか、この派手な衣装から。」
すぐ背後に、真っ青に染められた衣服を着た男が現れて、次の瞬間にはその服を脱ぎ捨てる。
そして、先にいた男と同じ様にして、衣装を空に投げて飛ばし、一際大きな花火と共に、消し炭へと変える。
「で、またいつもの仕事に逆戻りか。どっちが大変なのかね、アーデス。」
黒い銃を指先で遊ばせながらコルロが問う。
王都の広い町の中で、口を開けて花火に見入るその少年の姿を、高い屋根の上から二人は見下ろしていた。
「先に状況の整理をしておかないとな。どっちかだと? アレから目を放している方が大変に決まってるだろう。何をしでかすか分かったもんじゃないんだからな。」
すっかり保護者気取りの男が、溜息混じりにそう返答する。
『アナザー』からの情報では、ここ数日の儀礼は、貴族のパーティーに参加してウサギを追いかけて騒ぎを起こしたり、手配書持ちの犯罪者を捕まえたり、自ら囮を買って出て暴行犯を捕まえたり、しまいには襲撃者から傷を負わされたという。
やはり、じっとなどしていなかったらしい。
「それに……、俺はあいつに聞きたいことがあるんだ。」
死者を操る魔法陣について、今回の『花火』でユートラスの施設からは消し去ってきたが、儀礼本人には確認しておきたいところであった。
儀礼が修理を依頼しに持ってきた『蒼刃剣』に隠されていた魔法陣と一致する、ユートラスの研究していた使者を蘇らせ、操る魔法陣について――。
****************
「うわっ、何か寒くなってきたね。フィオ、ウォームかけて。ウォーム。暖かくしてくれるかな。何か背筋に寒気が……。」
儀礼は白衣のフードを目深く被り、襟元を閉めて雪の冷たさとは別の寒さに身震いしていた。
その途端に上がる祝の宴の花火。
パパパパパンッと、それは突然の音で始まった。
上空へと上がっていくときにするヒューという風を切る音がしなかった。
それが魔法で起こす花火と火薬の花火の違いなのだろうか、と儀礼は空を見上げる。
美しい花火が、次々と夜空を彩る。
灰色の厚い雲に覆われた空の下、白い粉雪に混じって、振る、数々の色の火の粉。
それは、幻想的な光景だった。
白い雪に混じり、灰色の空に赤や青や金色の花が咲き、振り落ちる。
火の粉は雪に混じり、雪の色をオレンジや黄色や緑に輝かせる。
不思議に色の変わる、虹色のような空が出来上がっていた。
そこかしこで、実力ある魔法使いたちが、我こそは、と技術を競い、力を競い、美しい花を夜空に咲かせる。
それは、天候がこのような雪模様でもまったく問題などないと感じられる、むしろ、星の輝きが、月の光がない分、余計に美しく光り輝いて見せていた。
降り注ぐ光の奇跡の光景に、儀礼たちはただ、沈黙して、空を見上げていた。
感嘆の声も上がらない。
ただ純粋に美しさに見惚れていた。
一方同じ時刻の違う場所。
こちらはユートラスのとある軍事施設。
土派手な爆発音が次々と上がり、周囲には戦争の最中かと思えるような怒号が飛び交っている。
事の起こりは、派閥の違うもの同士の小競り合いだった。
それが、いつの間にか、魔法は使うは武器は使うはの大騒動と化し、戦乱の最中に紛れ込んだような騒ぎになっていた。
その中心部分に二人の人物。
一人は黒いマントにこげ茶色の布で頭を覆った隻眼の剣士。
特徴的な黒い刃の剣を持っている。
もう一人は黒く輝く銃を持ったガンナー。
全身、目の覚めるような真っ青な服装でそろえている。
「いい加減、お前の銃には苛立ちが限界だったんだ。どこでもかしこでも無遠慮にぶっ放しやがって、騒音を考えろっ!」
『隻眼の剣士』が黒い刃を振るい、『スカイガンナー』へと切りかかる。
黒い斬撃破が波のようになって青い服の青年へと襲い掛かる。
「そっちこそな! いつも澄ました顔しやがって。何が、『一人で暴走した魔法具を鎮めた』だよ。たまたま一番近くにいただけだろう。功績独り占めしやがって!」
いがみ合うように向かい合い、黒い波をいとも簡単にかわすと、スカイガンナーは銃の引き金を引く。
連続で鳴る発砲音。
飛び出た銃弾を、『隻眼の剣士』は黒い剣を振り払い、切断し、四方八方へと分断させる。
その流れ弾に当たる負傷者、多数……。
戦乱は時間の経過と共に苛烈さを増していく。
すでに、軍の将校にも止められない状況へと進展していた。
「何事だっ!!」
将校の怒号が施設内に響くが、聞き取れるものは周囲にいるわずかな者ばかり。
「わかりません。」
戦乱に巻き込まれているだけの彼らには、何が起こっているのかすら、把握できていなかった。
間もなく、施設のあちらこちらが火を噴き始める。
誰にも、止められない混乱のまま、小さな火種から始まった派閥争いの火花は、扇動者により煽られ、大きな花火となって、一つの軍施設を爆発させた。
この事件によって、ユートラス軍は大きな痛手を負った。
死者・行方不明者多数。
その中には、最近頭角を現していた『隻眼の剣士』や、『スカイガンナー』という兵の名もあったという。
これで、ユートラスの他国侵攻、『蜃気楼』の攻略作戦は大幅に遠のいたことになる。
「派手な花火が上がったものだ。」
黒いマントを炎の消し炭へと変えた男が、金色の髪を七色に変わるフェードの都の空の色に映している。
緑色の瞳が捉えるのは、鮮やかな花火の彩る王都の空。
「やれやれ、やっと開放されるのか、この派手な衣装から。」
すぐ背後に、真っ青に染められた衣服を着た男が現れて、次の瞬間にはその服を脱ぎ捨てる。
そして、先にいた男と同じ様にして、衣装を空に投げて飛ばし、一際大きな花火と共に、消し炭へと変える。
「で、またいつもの仕事に逆戻りか。どっちが大変なのかね、アーデス。」
黒い銃を指先で遊ばせながらコルロが問う。
王都の広い町の中で、口を開けて花火に見入るその少年の姿を、高い屋根の上から二人は見下ろしていた。
「先に状況の整理をしておかないとな。どっちかだと? アレから目を放している方が大変に決まってるだろう。何をしでかすか分かったもんじゃないんだからな。」
すっかり保護者気取りの男が、溜息混じりにそう返答する。
『アナザー』からの情報では、ここ数日の儀礼は、貴族のパーティーに参加してウサギを追いかけて騒ぎを起こしたり、手配書持ちの犯罪者を捕まえたり、自ら囮を買って出て暴行犯を捕まえたり、しまいには襲撃者から傷を負わされたという。
やはり、じっとなどしていなかったらしい。
「それに……、俺はあいつに聞きたいことがあるんだ。」
死者を操る魔法陣について、今回の『花火』でユートラスの施設からは消し去ってきたが、儀礼本人には確認しておきたいところであった。
儀礼が修理を依頼しに持ってきた『蒼刃剣』に隠されていた魔法陣と一致する、ユートラスの研究していた使者を蘇らせ、操る魔法陣について――。
****************
「うわっ、何か寒くなってきたね。フィオ、ウォームかけて。ウォーム。暖かくしてくれるかな。何か背筋に寒気が……。」
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