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ギレイの旅

千夜ニイ

作戦と予定

「ずるい、あの人もきっと、王都の花火見に来たんだ。なのに、僕の方が花火見れないなんてやっぱりずるい!」
突然、子供のような口調で、儀礼は口を尖らせて怒り出す。
その様子をディセードは一瞬、ポカンと見つめていた。
「……なんだって?」
気を取り直して、ディセードは聞きなおす。


「だって、あの人、今、フェードの王都にいる。」
きっぱりと儀礼は断言した。
「何だって!?」
今度は、先程とは違う口調でディセードは問い詰める。
「朝月が居場所を捉えてる。一度会った人間は、簡単に追跡できるよ。」
ニッと口の端を上げて儀礼は答える。


「僕は移転魔法使えないから追いかけられないけど、ようは、見つからないように距離取ってればいいんでしょ。この人、仲間と一緒に王都の南側に居るから、他の方にいればいいんじゃないかな。」
にっこりと笑って儀礼は祭りへの参加を依頼する。
「仲間がいるって?」
「うん。全員、金髪に青い目。アルバドリスクの人っぽい。でも、『主』って感じの人はいないんだ。だから、少し泳がせようと思ってるんだ。その主さんの所まで。」
深淵な笑みを称えて、少年は笑う。それは決して、子供の笑みではない。


「仲間と共に襲ってくる可能性は?」
真剣なディセードの質問に、儀礼は瞳を閉じる。
じっとその先の光景を見ているように意識を澄ましている。
「ないね。この人も黙ってる。手柄を独り占めしようって感じなんだと思う。仲間の中では、立場が低いみたいだし、言ったら手柄を横取りされるのかも。僕が一人でいる時を狙えば、何とかなると思ってるのかもしれない。……僕がずっとこの町にいるんだと思ってるならね。」
複雑な笑みで、儀礼は微笑む。


 その笑みで、ディセードは理解した。
王都へと行ったら、儀礼はもう、このアナスターの家には帰ってくるつもりはないことを。
「もう少し、長く楽しみたかったんだがな。」
「僕、仕事の途中なんだ。片がついたら、また、遊びに来てもいい?」
にっこりと儀礼は笑う。
あどけない笑顔。悪さなど知らない、本当の子供のような純粋な笑みで、微笑む。
「ウサギに会えた。楽しかった。嬉しかったよ。」


「まぁ、当分、お前の世話役を降りる気はないから、安心しろ。」
データでのな、という意味を含ませて、ディセードはキーを操る振りをする。
「ありがとう。ディーがいてくれれば、安心だからね。むしろ、いないと僕、かなりやばい状況に。なので、ぜひとも、安全な環境で暮らしていてください。」
頭を下げて、儀礼は言った。


 儀礼が早くにここを出て行こうとするのは、ディセードの身の安全を図るためでもあるらしい。
「ディーは冒険者ライセンスも持ってないんだもん。心配で見てられないよ。」
笑うように儀礼は言う。
「お前に言われたくない。どこに行っても狙われやがって。」
「それ、僕のせいじゃないし。」
くすくすと儀礼は笑う。
確かに、儀礼が何かをして命を狙われているのではない。
大半はその容姿のためなのだが、それに気付いていないせいで増えている部分があるのではないかとディセードは思う。


「だが、残念だなぁ。明日にはコーテルに連れてってやろうと思ってたのに。」
わざとらしく、ディセードはにやりと笑って儀礼に言う。
「コーテル?!」
それは、フェードの中枢。
全ての技術の集まる場所。


「行きたい!!」
今までの言葉を無にしたかのように、儀礼はディセードの服を引っ張る。
「身の安全はどうするよ。」
「ビーツから離れれば安全なんじゃないかな。」
パチパチと瞬いて、いい加減な様子で儀礼は答える。


「連れて行けるのはお前一人だぞ。他の連中は立ち入り許可が下りなかった。」
「って、ことは、もしかして、『Sランク』待遇?」
ちょっと不安そうに儀礼はディセードを見上げる。
「それ以外に、他国の無関係の人間を入れる手がなかった。しかし、新年の一日だぞ。人なんかいねぇよ。みんな実家に帰ってる。残ってるのはよっぽどの研究中毒者か、家に帰っても暇な連中や帰りたくない奴くらいだ。」


「ふんふん、防衛が手薄で、侵入しやすいってこと?」
「違う。」
人差し指を立て、なるほどと頷いている儀礼に、ディセードは呆れる。
警備が手薄なのは事実だが、それを補って余りあるシステムがコーテルには設置されているのだ。
フェードの遺跡の技術と、科学と、魔法の結集された場所に、この少年が、興味を示さないはずがなかった。


「とりあえずは、そのアルバドリスクから来た連中をどうにかして、新年の王都の花火と、祭りを楽しんだら、午後に俺はお前を連れてコーテルに行く。他の連中はリーシャンに任せてもいいし、マッシャー家の連中に任せてもいいと思うぞ。黒獅子がいる限り、そう、危険なこともないだろう。」
「獅子の戦い方だと、町が壊れるよ?」
経験談から、儀礼は語る。


「……お前よりは、ましだと思うぞ。誰だよ、町一つ、国一つ消すとか言ってたやつは。」
「あ……。」
気まずそうに儀礼はディセードから視線を逸らす。
そういう、他人の知らない話をされるたびに、目の前の人物が穴兎なのだと、儀礼は自覚する。


「連中に、スパイロボット送りつけておくのはどう? カメラと発信機を仕込んだ奴。盗聴器まで含めると少し大きくなるから気付かれる可能性が高くなっちゃうから、なしで。今回は位置が重要だと思うから。口の動き見れば、話は読めるし。」
ポケットからパラパラと小型の機械を取り出して儀礼は言う。
「口の動きで会話の読める奴なんてそういないぞ。」
「クリームはできるよ。」
首を傾げて儀礼は答える。


「だから、あいつら普通じゃないだろう。」
呆れたようにディセードは苦笑する。
この少年にとっては、元暗殺者の少女でさえも、普通の人間扱いになるらしい。
「まぁいい。現地に到達するまでの時間は?」
「王都まで距離があるから、少しかかるね。転移陣とか利用できると、もっと速く移動させられるんだけど、管理局はまだなし?」
小首を傾げて儀礼は問う。先日、年末は物騒だから管理局に一人で行くなとディセードは言っていた。


「管理局からならいいか。俺も行く。お前もすっかり転移陣になれたんだな。ちょっと意外だ。」
魔法音痴が、と小さな声でディセードは呟く。


「僕だって日々成長してるんですよ。」
「まともに育てよ?」
思わず、ディセードは儀礼の頭に手の平を乗せていた。
管理局のSランク。まともな育ち方ではない。
元は、祖父の遺産を引き継いだからと言っても、今現在、Sランクを保有するのは、間違いなく、この、ギレイ・マドイという少年なのだ。


「まともに育ってますよ。背だって、伸びてきたんだから。」
ぷくぅと頬を膨らませて、儀礼は不満そうに文句を言う。
ディセードは、心の成長のことを言ったのだが、儀礼に理解している様子はない。
「じゃ、今から、管理局に行って、犯罪者は泳がせて、祭りだ!」
瞳を輝かせて儀礼は言う。
自分の身を狙われているという恐怖や危機感は、ないらしい。

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