ギレイの旅
新しい友達
「儀礼、何があったんだい?」
礼一が儀礼に聞く。
一瞬、キョトンとした儀礼だが、すぐに事件のことだと思いついたようだ。
「僕、ここに座ってたら、知らない男の人が話しかけてきて、もう一人の人が、ボードゲームしにおいでって、あっちに家があるって言ったんだけど――。」
言いながら、儀礼は向かいの家を指差す。
並んだ3軒のどれかが男の家だ。
「僕が断ったら、いきなり抱っこして連れてかれそうになったから、足、持たれる前に、前にいた人蹴って、こうやって後ろの人の腕から抜けて――。」
儀礼は万歳のポーズをしてみせる。
そして、商店の並ぶ道を示す。
「あっちに一生懸命走った。管理局の扉は塞がれちゃって中に入れなかったから。人のいる方に息が切れるまで走って、あのお姉さんに会ったの。」
儀礼はツイーラルを見て示す。
ツイーラルはにっこりと笑ったが、その顔は少し青い。
儀礼は心配そうに首を傾げる。
近付けば、儀礼はツイーラルに抱きしめられた。
「本当に、怖い思いしたのね。ごめんね、そんなことになってたなんて、知らなくて。ただの迷子だと思って。怖かったわよね。」
ツイーラルの瞳から、きれいな雫が落ちた。
「大丈夫だよ。僕、男だし。慣れてるし。足だって大人より速いから逃げられる。腕と足なら縄で縛られても解けるし、もう迷子にならないように、道もいっぱい覚えるから、安心して。」
儀礼は腕を伸ばしてツイーラルの体を抱きしめる。
それらの言葉が逆効果だと、儀礼は気付いていない。やはり子供だった。
「やっぱり儀礼。村で待ってるか。もう少し大きくなるまで。」
困ったように礼一は前髪をかきあげる。
「やだよ。僕、管理局に来るの楽しみにしてるのに。」
涙を溜めて、儀礼は父に向き合う。
「でもな、お前の安全を考えると、せめてもう少し強くならないと。今回は犯人が二人だけだったから良かったけど、もっと人数がいたらどうなってたか分からないだろう? 人攫いの連中が先にお前を見つけてたら、どうなってたことか。」
礼一は本気でそのセリフを言う。
普通の人が考えるなら、突っ込みどころ満載だ。
まるで、その子が連れて行かれるのが当たり前のように言っている。
しかし、事実、その少年の綺麗な髪、愛らしい顔立ち、気品ある姿。
確かに、見ているだけで引き込まれるような、立っているだけで絵画を見ているような、印象を抱く。
高い金を払ってでも、欲しい、と言う人間はいるだろう。
「管理局にはよく来るんですか?」
シュナイが礼一に聞く。
「月の最後の日曜に。報告書を提出することになってるんです。他にも、やることを纏めて月一回で済ませるから時間がかかってしまって、5、6時間この子は一人で遊んでることになるんです。それが、楽しいというから困るんですよ。」
礼一は本当に困っている様子で頭をかく。
「その間、俺、見てましょうか。月に一日位だったら、年下のいとこと遊んでやっていいと思いますよ。なぁ、ギレイ。」
意味が分からないと言うように儀礼は首を傾げる。
「管理局に来たら、俺と一緒にレイイチさんを待ってようぜ。町で買い物してもいいし、俺の家で遊んでもいいし、管理局がいいって言うなら、ここで遊んでればいいし。」
シュナイが言えば、儀礼は瞳を輝かせる。
「あんまり甘やかさないでくれ。ただでさえ、周り中に甘やかされてるんだ。」
礼一は苦笑交じりに溜息を吐く。
確かに、この少年に涙を見せられては、甘やかさずにはいられないのだろう。
その後の笑顔もまた、格別気持ちのいいものだった。
「俺だけで、いいか?」
儀礼の頭に手を置いて、シュナイは尋ねる。子供の行動力に期待して。
「僕、お姉さんも一緒がいい! また会いたい! ねぇ、いい?」
首を傾げて、儀礼はツイーラルに聞く。
金髪の愛らしい天使が、切なげにツイーラルの手を握る。
期待を込めた目で会いたいと言い、返事を待って不安げに瞳をゆらす。
「いいわ。私もまた、ギレイ君に会いたい。一緒に居させて。」
連れ去られるかもしれない、と聞いて、放っておけるほど冷たい人間ではなかった。
だからこそ、ツイーラルは30分も歩く管理局まで、儀礼を送ってきてくれたのだ。
「じゃぁ、また来月の最後の日曜日ね。僕、待ってるね。楽しみにしてる。新しい友達ができたって言っていい?」
ツイーラルとシュナイに儀礼は聞く。
「ええ、もちろんよ。よろしくね。」
楽しそうに、ツイーラルは笑った。
「友達な。俺もか。こんな小さい友達を持つことになるとは。」
シュナイの言葉に、ツイーラルがまたおかしそうに笑った。
「またね。また今度ね。楽しみだね。」
嬉しそうに、儀礼は何度も繰り返す。
そうして、儀礼には大人の友達ができた。
その二人は、儀礼のファンだと公言し、もう数年後に結婚することになる。
そして、Bランクとなった儀礼の、様々な手続きなどを手伝う秘書のような仕事を引き受けてくれていた。
しかしそれも、儀礼がSランクになったことをきっかけに、二人の安全を図るために、儀礼は二人のその立場を断ることになった。
礼一が儀礼に聞く。
一瞬、キョトンとした儀礼だが、すぐに事件のことだと思いついたようだ。
「僕、ここに座ってたら、知らない男の人が話しかけてきて、もう一人の人が、ボードゲームしにおいでって、あっちに家があるって言ったんだけど――。」
言いながら、儀礼は向かいの家を指差す。
並んだ3軒のどれかが男の家だ。
「僕が断ったら、いきなり抱っこして連れてかれそうになったから、足、持たれる前に、前にいた人蹴って、こうやって後ろの人の腕から抜けて――。」
儀礼は万歳のポーズをしてみせる。
そして、商店の並ぶ道を示す。
「あっちに一生懸命走った。管理局の扉は塞がれちゃって中に入れなかったから。人のいる方に息が切れるまで走って、あのお姉さんに会ったの。」
儀礼はツイーラルを見て示す。
ツイーラルはにっこりと笑ったが、その顔は少し青い。
儀礼は心配そうに首を傾げる。
近付けば、儀礼はツイーラルに抱きしめられた。
「本当に、怖い思いしたのね。ごめんね、そんなことになってたなんて、知らなくて。ただの迷子だと思って。怖かったわよね。」
ツイーラルの瞳から、きれいな雫が落ちた。
「大丈夫だよ。僕、男だし。慣れてるし。足だって大人より速いから逃げられる。腕と足なら縄で縛られても解けるし、もう迷子にならないように、道もいっぱい覚えるから、安心して。」
儀礼は腕を伸ばしてツイーラルの体を抱きしめる。
それらの言葉が逆効果だと、儀礼は気付いていない。やはり子供だった。
「やっぱり儀礼。村で待ってるか。もう少し大きくなるまで。」
困ったように礼一は前髪をかきあげる。
「やだよ。僕、管理局に来るの楽しみにしてるのに。」
涙を溜めて、儀礼は父に向き合う。
「でもな、お前の安全を考えると、せめてもう少し強くならないと。今回は犯人が二人だけだったから良かったけど、もっと人数がいたらどうなってたか分からないだろう? 人攫いの連中が先にお前を見つけてたら、どうなってたことか。」
礼一は本気でそのセリフを言う。
普通の人が考えるなら、突っ込みどころ満載だ。
まるで、その子が連れて行かれるのが当たり前のように言っている。
しかし、事実、その少年の綺麗な髪、愛らしい顔立ち、気品ある姿。
確かに、見ているだけで引き込まれるような、立っているだけで絵画を見ているような、印象を抱く。
高い金を払ってでも、欲しい、と言う人間はいるだろう。
「管理局にはよく来るんですか?」
シュナイが礼一に聞く。
「月の最後の日曜に。報告書を提出することになってるんです。他にも、やることを纏めて月一回で済ませるから時間がかかってしまって、5、6時間この子は一人で遊んでることになるんです。それが、楽しいというから困るんですよ。」
礼一は本当に困っている様子で頭をかく。
「その間、俺、見てましょうか。月に一日位だったら、年下のいとこと遊んでやっていいと思いますよ。なぁ、ギレイ。」
意味が分からないと言うように儀礼は首を傾げる。
「管理局に来たら、俺と一緒にレイイチさんを待ってようぜ。町で買い物してもいいし、俺の家で遊んでもいいし、管理局がいいって言うなら、ここで遊んでればいいし。」
シュナイが言えば、儀礼は瞳を輝かせる。
「あんまり甘やかさないでくれ。ただでさえ、周り中に甘やかされてるんだ。」
礼一は苦笑交じりに溜息を吐く。
確かに、この少年に涙を見せられては、甘やかさずにはいられないのだろう。
その後の笑顔もまた、格別気持ちのいいものだった。
「俺だけで、いいか?」
儀礼の頭に手を置いて、シュナイは尋ねる。子供の行動力に期待して。
「僕、お姉さんも一緒がいい! また会いたい! ねぇ、いい?」
首を傾げて、儀礼はツイーラルに聞く。
金髪の愛らしい天使が、切なげにツイーラルの手を握る。
期待を込めた目で会いたいと言い、返事を待って不安げに瞳をゆらす。
「いいわ。私もまた、ギレイ君に会いたい。一緒に居させて。」
連れ去られるかもしれない、と聞いて、放っておけるほど冷たい人間ではなかった。
だからこそ、ツイーラルは30分も歩く管理局まで、儀礼を送ってきてくれたのだ。
「じゃぁ、また来月の最後の日曜日ね。僕、待ってるね。楽しみにしてる。新しい友達ができたって言っていい?」
ツイーラルとシュナイに儀礼は聞く。
「ええ、もちろんよ。よろしくね。」
楽しそうに、ツイーラルは笑った。
「友達な。俺もか。こんな小さい友達を持つことになるとは。」
シュナイの言葉に、ツイーラルがまたおかしそうに笑った。
「またね。また今度ね。楽しみだね。」
嬉しそうに、儀礼は何度も繰り返す。
そうして、儀礼には大人の友達ができた。
その二人は、儀礼のファンだと公言し、もう数年後に結婚することになる。
そして、Bランクとなった儀礼の、様々な手続きなどを手伝う秘書のような仕事を引き受けてくれていた。
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