ギレイの旅
鬼ごっこの結末
「12人、いた。」
ランジェシカが黒い山を示して言う。
「敷地内だけの約束だろう。なんで勝手に出てくるんだ。」
しかりつけるようにクリームがランジェシカに言う。
「殺気、送ってきた。でも、殺してない。」
ふわりと、悪びれた様子もなく、ランジェシカは微笑む。
「わかったよ。とりあえず、警備隊に通報だな。あたしが捕まえた方も連れてってもらわないと。」
何か小さな端末を取り出して、クリームは操作を始める。
それで、警備隊に直接連絡を取っているらしい。
「お前ら、何人見つけた?」
少し険しい顔で獅子が問いかける。
「あたしは13人だ。予想より多かったな。相手が弱い連中ばっかで助かったが、本気でないのか、偵察に来ただけなのか……。」
考え込むようにクリームは言う。
「私は8人。私はちゃんと敷地内だけよ。外にまで狩に出てないわ。」
くすりと笑ってマリアンは言う。
その唇が艶やかに光る。
「俺は16人だ。なんだが……そのうち数人、貴族っぽいのが混じってたんだが、倒してよかったと思うか?」
「貴族?」
眉を寄せてクリームが問い返す。
「『ぜひ、我が家に。』って、言いながら、部下がでかい麻袋と縄持ってた。貴族と揉めるなって言われてたんだけどよ。」
困ったように獅子は頭をかく。
「……問題ない。それだけで証拠十分だ。」
何かを端末から送り、クリームは獅子に頷く。
「こっちは26匹。」
気配もなく、声変わり前の少年の声がした。
現れたのは12、3歳ほどの少年。
「『蜃気楼』が相手なら、敵は人間だけじゃないよ。」
そう言うと、少年、トウイは虫かごのような物の中から数体の虫型の機械を取り出す。
「この靴の周囲3m内に入るとECMが起動してスパイ型のこいつらは、動きを止めるんだ。」
ブーン、と飛んでいた蜂型の機械が、また、ポテンと少年の足元に落ちる。
「やっぱり、場所が特定されてるんだな。」
クリームは難しい表情であごに手を当てて考えている。
その時、ピピッ、と軽い音がした。
クリームは自分の端末を確認する。
儀礼から送られたメッセージが届いていた。
『それだけ虫型機械があれば、十分目くらましができるよ。ありがとう。それより、みんなして、いつの間に外に出てるんだよ。危ないだろ。』
パーティーを行っている屋敷の敷地内には、儀礼はとても疲れるが、朝月の結界が張ってある。
その中にいる限りは、誰もが安全なはずだったのだ。
なのに、皆がその結界を抜けて敵を倒しに出て行ってしまっていた。
儀礼はただ、獅子の退屈しのぎに「鬼ごっこ」をしてもらおうと思っただけだったのに。
それから、儀礼の知りたくなかった事実。
屋敷内にも、敵がいたということ。それも、貴族まで。
「ギレイ、なんだよ、トウイって奴の装備。ECMだぁ? 聞いてないぞ、『蜃気楼』。そんな物また勝手に作りやがって。人にポンポン与えるんじゃない。」
儀礼の隣りでは、ディセードが新しい怒りを蓄えていた。
蜃気楼。二つ名を大きな声で呼ばないでほしいのは、儀礼もディセードと同じなのだが。
じりじりと焼ける肌に、儀礼は慌てる。
「だって、トウイの戦い方は相手を油断させておいての攻撃だから、極端に防御力が低いんだ。避けるための素早さはないし。ミサイルみたいの飛んできたら逃げ場がないんだよ? 獅子達みたいに切り落とすこともできないんだ。そう思ったら、必要だろ。」
「お前は、本っ当に子供に甘いな。」
「当たり前だろ。子供は守られるべき存在だよ。」
パソコンのモニターを眺めて、儀礼は言い切る。
それが、絶対の意思であるように。
「わかったよ。とりあえず、全員回収だな。」
「うん。クリームたちに戻るように連絡するよ。」
そう言うと、儀礼はクリームに宛てて、獅子と共に全員屋敷に戻るようにとメッセージを送った。
儀礼たちの企画した鬼ごっこは、結局、不審者退治に変わってしまったようだった。
そうなると、勝者は一番多く敵を倒した獅子だろうか。
それとも、一番数を多く捕らえたトウイだろうか。
それとも、最後まで、獅子に見つかることなく逃げ切ったヒガの勝ちということになるのだろうか。
そのヒガはと言うと、そのただならぬ気配に、偵察者たちは一切近寄ることができずにいた。
近付けば切られる。そのプレッシャーに負け、誰一人その場所へは入らなかったのだ。
一人も倒さずに、近寄せない。
それとも。
「ここをこうして、回線を逆につないじゃえば、こっちに情報送ってくれて、元居た基地に帰っていくんだ。」
にっこりと儀礼は笑う。
トウイの持ち帰った機械を前にして。
「敵のスパイの再利用。便利だよね。ついでに相手方の受信元へ、別の研究施設の位置情報を送り合うようにしちゃえば、僕の居場所情報はバラバラになります♪」
楽しそうに儀礼は笑う。
複数の研究組織に、それぞれを警戒させて、そこに『蜃気楼』がいると思わせる。
偽の偵察情報を持って帰ったスパイロボは、寝返って、蜃気楼の手に敵方の情報を送り続ける。
最初から、最後まで、暖かな屋敷内で、ぬくぬくと自分の身の安全を確保した少年の勝利となるのだろうか。
ランジェシカが黒い山を示して言う。
「敷地内だけの約束だろう。なんで勝手に出てくるんだ。」
しかりつけるようにクリームがランジェシカに言う。
「殺気、送ってきた。でも、殺してない。」
ふわりと、悪びれた様子もなく、ランジェシカは微笑む。
「わかったよ。とりあえず、警備隊に通報だな。あたしが捕まえた方も連れてってもらわないと。」
何か小さな端末を取り出して、クリームは操作を始める。
それで、警備隊に直接連絡を取っているらしい。
「お前ら、何人見つけた?」
少し険しい顔で獅子が問いかける。
「あたしは13人だ。予想より多かったな。相手が弱い連中ばっかで助かったが、本気でないのか、偵察に来ただけなのか……。」
考え込むようにクリームは言う。
「私は8人。私はちゃんと敷地内だけよ。外にまで狩に出てないわ。」
くすりと笑ってマリアンは言う。
その唇が艶やかに光る。
「俺は16人だ。なんだが……そのうち数人、貴族っぽいのが混じってたんだが、倒してよかったと思うか?」
「貴族?」
眉を寄せてクリームが問い返す。
「『ぜひ、我が家に。』って、言いながら、部下がでかい麻袋と縄持ってた。貴族と揉めるなって言われてたんだけどよ。」
困ったように獅子は頭をかく。
「……問題ない。それだけで証拠十分だ。」
何かを端末から送り、クリームは獅子に頷く。
「こっちは26匹。」
気配もなく、声変わり前の少年の声がした。
現れたのは12、3歳ほどの少年。
「『蜃気楼』が相手なら、敵は人間だけじゃないよ。」
そう言うと、少年、トウイは虫かごのような物の中から数体の虫型の機械を取り出す。
「この靴の周囲3m内に入るとECMが起動してスパイ型のこいつらは、動きを止めるんだ。」
ブーン、と飛んでいた蜂型の機械が、また、ポテンと少年の足元に落ちる。
「やっぱり、場所が特定されてるんだな。」
クリームは難しい表情であごに手を当てて考えている。
その時、ピピッ、と軽い音がした。
クリームは自分の端末を確認する。
儀礼から送られたメッセージが届いていた。
『それだけ虫型機械があれば、十分目くらましができるよ。ありがとう。それより、みんなして、いつの間に外に出てるんだよ。危ないだろ。』
パーティーを行っている屋敷の敷地内には、儀礼はとても疲れるが、朝月の結界が張ってある。
その中にいる限りは、誰もが安全なはずだったのだ。
なのに、皆がその結界を抜けて敵を倒しに出て行ってしまっていた。
儀礼はただ、獅子の退屈しのぎに「鬼ごっこ」をしてもらおうと思っただけだったのに。
それから、儀礼の知りたくなかった事実。
屋敷内にも、敵がいたということ。それも、貴族まで。
「ギレイ、なんだよ、トウイって奴の装備。ECMだぁ? 聞いてないぞ、『蜃気楼』。そんな物また勝手に作りやがって。人にポンポン与えるんじゃない。」
儀礼の隣りでは、ディセードが新しい怒りを蓄えていた。
蜃気楼。二つ名を大きな声で呼ばないでほしいのは、儀礼もディセードと同じなのだが。
じりじりと焼ける肌に、儀礼は慌てる。
「だって、トウイの戦い方は相手を油断させておいての攻撃だから、極端に防御力が低いんだ。避けるための素早さはないし。ミサイルみたいの飛んできたら逃げ場がないんだよ? 獅子達みたいに切り落とすこともできないんだ。そう思ったら、必要だろ。」
「お前は、本っ当に子供に甘いな。」
「当たり前だろ。子供は守られるべき存在だよ。」
パソコンのモニターを眺めて、儀礼は言い切る。
それが、絶対の意思であるように。
「わかったよ。とりあえず、全員回収だな。」
「うん。クリームたちに戻るように連絡するよ。」
そう言うと、儀礼はクリームに宛てて、獅子と共に全員屋敷に戻るようにとメッセージを送った。
儀礼たちの企画した鬼ごっこは、結局、不審者退治に変わってしまったようだった。
そうなると、勝者は一番多く敵を倒した獅子だろうか。
それとも、一番数を多く捕らえたトウイだろうか。
それとも、最後まで、獅子に見つかることなく逃げ切ったヒガの勝ちということになるのだろうか。
そのヒガはと言うと、そのただならぬ気配に、偵察者たちは一切近寄ることができずにいた。
近付けば切られる。そのプレッシャーに負け、誰一人その場所へは入らなかったのだ。
一人も倒さずに、近寄せない。
それとも。
「ここをこうして、回線を逆につないじゃえば、こっちに情報送ってくれて、元居た基地に帰っていくんだ。」
にっこりと儀礼は笑う。
トウイの持ち帰った機械を前にして。
「敵のスパイの再利用。便利だよね。ついでに相手方の受信元へ、別の研究施設の位置情報を送り合うようにしちゃえば、僕の居場所情報はバラバラになります♪」
楽しそうに儀礼は笑う。
複数の研究組織に、それぞれを警戒させて、そこに『蜃気楼』がいると思わせる。
偽の偵察情報を持って帰ったスパイロボは、寝返って、蜃気楼の手に敵方の情報を送り続ける。
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