ギレイの旅
とあるパーティーの開始
「お前、何してきたんだ。」
アナスターの屋敷に付いたとたん、開口一番にディセードがそう言った。
「買い物。魔石買って来たんだ。」
にっこりと、嬉しそうに儀礼は答える。
その手には、買ってきたばかりの黄色い魔石が握り締められていた。
「……。」
気のせいだろうか、ディセードのこめかみに青筋が浮いたように見える。
怒りの気配に、儀礼の肌はじりじりと焼ける。
儀礼は、恐怖に息を飲み込んだ。
「えっと、お店の中に、邪魔なお兄さんたちが入ってきて、ちょっと眠ってもらったかな……。」
小さな声で、儀礼は答えた。
「町の中に、いきなり二人の天使が現れて、ふざけた強盗を瞬時に気絶させたって、噂がすごい勢い流れてるんだが。金の髪に茶色の瞳と白い衣と、金髪に深い青い瞳の天使だと。この情報、どこまで流させるつもりだ。」
明らかに『蜃気楼』と被る情報に、ようやく儀礼は危機感を抱いた。
ディセードは、それをもみ消そうとしてくれていたらしい。
「ごめんなさい。でも本当に僕ら何もしてないんだけど。」
困ったようにうなだれて、儀礼は言う。
そこまで騒ぎになるようなことをしたつもりはない。
やったのはいつもと同じ様なことだった。
「手配書持ちだ。」
「あ、……指名手配犯。」
ディセードの言葉に儀礼は若干顔色を青くする。
「よかったね、白。ギルドで賞金もらえるよ。僕、知らないから。」
手柄を白に押し付けて、儀礼は知らん顔で車を降りようとする。
「わかった。お前には本気で護衛が必要らしいな。」
額を押さえて、呻くように言うディセードに、儀礼は慌てて反論する。
「監視いらないっ!」
なぜ、みんな、儀礼に監視をつけようとするのだろうか。
儀礼はそんな、世界を破壊するようなことをしている覚えは全くない。
「今だって、白がいたから安全だったし、愛華もいるし。」
護衛だって必要ない。
「『黒獅子』にパーティーの間、退屈しないよう何か考えてたんだが、お前の気配はあいつら分かるって言ってたな。」
儀礼の顔を見てディセードは言う。
「どの程度だと分からないか、試してみるのは、いい案だと思わないか?」
にやりと、イタズラを思いついたような顔でディセードは儀礼に提案する。
「試すって……?」
「お前、『勇者』どもと友達なんだろ。」
口の端を上げて、ディセードは笑った。
「うわぁ、ディーは黒いね。」
「今ので分かるお前も十分、黒いよ。」
意味の分からない会話を交わし、クックックと、邪悪な笑みを浮かべる二人組みに、白は理解不能な寒気を覚えていた。
パーティーが開始した直後から、獅子は気を張っていた。
「何かに見られてる。」
そう言って、周囲を見回すと、拓に利香を放すなと言い置いて、獅子はそのパーティー会場の庭中へと走って消えていった。
それを見た儀礼とディセードはにやりと笑う。
「獅子は退屈しなさそうだね。」
くすくすと儀礼は笑う。
「どの位で見つかるかな。」
計算するかのようにディセードは考え込む。
「見つけるのは結構すぐじゃない? 庭の中って、範囲が限られてるから。でも、捕まえられるかは別の話だよね。」
くすくすと、やはり可笑しそうに儀礼は笑う。
「何人呼んだんだ?」
ディセードは訊ねる。
「えっと、手の空いてる人、全部?」
首を傾げて、儀礼が聞き返す。
「知らないのかよ。把握しておけよ。それくらい。何かあったらどうするんだ、もと暗殺者どもをパーティー内に、引き入れて。」
「大丈夫、クリームがその辺は見張ってるし、ヒガさんは違うから。」
「違うって、奴は、殺人鬼だろ。」
ガクッと、ディセードは頭を下げる。
「でもね、全員僕の連れとして入れてもらったから、多少のことは許されると思うんだ。」
「本当に良かったのか? 蜃気楼の名をここで出して。」
「あのね、招待状に、代理出席っていう欄があったの。僕の部下になってる『砂神の勇者』は立派な代理人だよ。」
にっこりと儀礼は邪悪な笑みを浮かべる。
「悪だな。」
「僕、悪いことしてないと思うけど?」
パーティーに代理人を出すことは別に悪いことではない。
やむをえない事情がある場合には。
事実、ディセードも父親の代理出席であるのだが、本人がここにいるのに、代理人に出席させるとは、意味があるのだろうか。
本人の隠れ蓑以外の理由が見当たらない。
正装に身を包んだ、若者たちの、大きな屋敷中を使った鬼ごっこが、寒空の下で行われていた。
その仕掛け人は、ぬくぬくと温かい部屋の中で暖かい料理をゆっくりと味わっている。
「僕、愛華の整備してる方が良かったんだけどな。」
そんなことを抜かす仕掛け人に、ディセードは発信機とモニターを取り出してみせる。
「加わるか? 鬼ごっこ。」
そこには、屋敷のマップの上をうごめく何種類もの色の光と、それを追いかけているらしい黒い丸印。
「あったかい部屋の中で、おいしいもの食べられて、幸せだね。」
にっこりと、天使の微笑みを浮かべて儀礼は言った。
悪意など微塵も感じさせない、純真な微笑みだった。
その微笑みに気を取られている周囲の人々に向かって、ディセードはぜひとも叫んで知らせたくなった。
こいつは天使ではない。『妖魔』だと。
アナスターの屋敷に付いたとたん、開口一番にディセードがそう言った。
「買い物。魔石買って来たんだ。」
にっこりと、嬉しそうに儀礼は答える。
その手には、買ってきたばかりの黄色い魔石が握り締められていた。
「……。」
気のせいだろうか、ディセードのこめかみに青筋が浮いたように見える。
怒りの気配に、儀礼の肌はじりじりと焼ける。
儀礼は、恐怖に息を飲み込んだ。
「えっと、お店の中に、邪魔なお兄さんたちが入ってきて、ちょっと眠ってもらったかな……。」
小さな声で、儀礼は答えた。
「町の中に、いきなり二人の天使が現れて、ふざけた強盗を瞬時に気絶させたって、噂がすごい勢い流れてるんだが。金の髪に茶色の瞳と白い衣と、金髪に深い青い瞳の天使だと。この情報、どこまで流させるつもりだ。」
明らかに『蜃気楼』と被る情報に、ようやく儀礼は危機感を抱いた。
ディセードは、それをもみ消そうとしてくれていたらしい。
「ごめんなさい。でも本当に僕ら何もしてないんだけど。」
困ったようにうなだれて、儀礼は言う。
そこまで騒ぎになるようなことをしたつもりはない。
やったのはいつもと同じ様なことだった。
「手配書持ちだ。」
「あ、……指名手配犯。」
ディセードの言葉に儀礼は若干顔色を青くする。
「よかったね、白。ギルドで賞金もらえるよ。僕、知らないから。」
手柄を白に押し付けて、儀礼は知らん顔で車を降りようとする。
「わかった。お前には本気で護衛が必要らしいな。」
額を押さえて、呻くように言うディセードに、儀礼は慌てて反論する。
「監視いらないっ!」
なぜ、みんな、儀礼に監視をつけようとするのだろうか。
儀礼はそんな、世界を破壊するようなことをしている覚えは全くない。
「今だって、白がいたから安全だったし、愛華もいるし。」
護衛だって必要ない。
「『黒獅子』にパーティーの間、退屈しないよう何か考えてたんだが、お前の気配はあいつら分かるって言ってたな。」
儀礼の顔を見てディセードは言う。
「どの程度だと分からないか、試してみるのは、いい案だと思わないか?」
にやりと、イタズラを思いついたような顔でディセードは儀礼に提案する。
「試すって……?」
「お前、『勇者』どもと友達なんだろ。」
口の端を上げて、ディセードは笑った。
「うわぁ、ディーは黒いね。」
「今ので分かるお前も十分、黒いよ。」
意味の分からない会話を交わし、クックックと、邪悪な笑みを浮かべる二人組みに、白は理解不能な寒気を覚えていた。
パーティーが開始した直後から、獅子は気を張っていた。
「何かに見られてる。」
そう言って、周囲を見回すと、拓に利香を放すなと言い置いて、獅子はそのパーティー会場の庭中へと走って消えていった。
それを見た儀礼とディセードはにやりと笑う。
「獅子は退屈しなさそうだね。」
くすくすと儀礼は笑う。
「どの位で見つかるかな。」
計算するかのようにディセードは考え込む。
「見つけるのは結構すぐじゃない? 庭の中って、範囲が限られてるから。でも、捕まえられるかは別の話だよね。」
くすくすと、やはり可笑しそうに儀礼は笑う。
「何人呼んだんだ?」
ディセードは訊ねる。
「えっと、手の空いてる人、全部?」
首を傾げて、儀礼が聞き返す。
「知らないのかよ。把握しておけよ。それくらい。何かあったらどうするんだ、もと暗殺者どもをパーティー内に、引き入れて。」
「大丈夫、クリームがその辺は見張ってるし、ヒガさんは違うから。」
「違うって、奴は、殺人鬼だろ。」
ガクッと、ディセードは頭を下げる。
「でもね、全員僕の連れとして入れてもらったから、多少のことは許されると思うんだ。」
「本当に良かったのか? 蜃気楼の名をここで出して。」
「あのね、招待状に、代理出席っていう欄があったの。僕の部下になってる『砂神の勇者』は立派な代理人だよ。」
にっこりと儀礼は邪悪な笑みを浮かべる。
「悪だな。」
「僕、悪いことしてないと思うけど?」
パーティーに代理人を出すことは別に悪いことではない。
やむをえない事情がある場合には。
事実、ディセードも父親の代理出席であるのだが、本人がここにいるのに、代理人に出席させるとは、意味があるのだろうか。
本人の隠れ蓑以外の理由が見当たらない。
正装に身を包んだ、若者たちの、大きな屋敷中を使った鬼ごっこが、寒空の下で行われていた。
その仕掛け人は、ぬくぬくと温かい部屋の中で暖かい料理をゆっくりと味わっている。
「僕、愛華の整備してる方が良かったんだけどな。」
そんなことを抜かす仕掛け人に、ディセードは発信機とモニターを取り出してみせる。
「加わるか? 鬼ごっこ。」
そこには、屋敷のマップの上をうごめく何種類もの色の光と、それを追いかけているらしい黒い丸印。
「あったかい部屋の中で、おいしいもの食べられて、幸せだね。」
にっこりと、天使の微笑みを浮かべて儀礼は言った。
悪意など微塵も感じさせない、純真な微笑みだった。
その微笑みに気を取られている周囲の人々に向かって、ディセードはぜひとも叫んで知らせたくなった。
こいつは天使ではない。『妖魔』だと。
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