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ギレイの旅

千夜ニイ

黄色い魔石

 ディセードに言った通り、儀礼は武人でない。
獅子達と比べると相手にもならない「文人」である。


 儀礼は白を連れて整備したばかりの愛華に乗り、町の裏通りへとやってきていた。
ディセードに教えてもらった店には、たくさんの魔石が店の中いっぱいに並べられていた。
赤、青、緑、白、黄色、オレンジ、たくさんの色の綺麗な宝石や、小さな石。


「愛華のパーツがね、ディセードの所にはいいものが揃ってたから、少し隙間ができたんだ。今まで、一つだけ魔石を入れてたんだけど、もう一つくらい入れる余裕ができたんだ。何かいいものがないか見てみようと思って。」
儀礼は言う。


 魔石を使うというのは、儀礼の祖父、修一郎の考えにはなかった。
儀礼が、入ってはいけない書庫の中で読んだ本から手に入れた知識だった。
その知識のおかげで、ソーラーで走る愛華が、夜にも走れるようになった。
今は愛華と相性のいい風の魔石をつないでいる。
魔石が、動力の一部を負担してくれるらしい。


「でも僕、魔石って、いまいちよく分からないんだよね。白、結構詳しいでしょう。トーラのことも高価って言ってたし。」
「私は、詳しいって程ではないけど。種類くらいならわかるよ。」
たくさんの魔石を眺めながら白は答える。
魔石の中には、滅多にないが、トーラのように精霊のついているものもあったりする。
精霊がついていなくとも、魔石の魔力に引き寄せられて、精霊たちが集まってきたりするのだ。
事実、その店の中にも、幾種類もの精霊がふわりと飛び回っていた。


「コルロさんならもっと分かると思うんだけどね。今、仕事急がしそうだし。」
たくさんの魔石を身につけた魔法使いを思い浮かべて儀礼は言う。
「コルロさん?」
白が首を傾げた。
「うん。魔石をいっぱい持ってる魔法使いだよ。『連撃の魔法使い』っていうの。」


「『連撃れんげき』……。」
ポツリと白は言葉をこぼす。
それは確か、最速と呼ばれる魔法使いのことではなかっただろうか。
有名人である。
それを、よく知った風に儀礼は語る。
(ギレイ君て、やっぱり何者だろう……。)
最近、白はそれがちょっと気になりだした。
儀礼は普通の人ではないのではないか、と。


 しかし、と白は首を横に振る。
昨日の儀礼の態度は幼子そのもの。白よりも小さな子供のようだった。
何者であったとしても、研究者である儀礼は、白よりも弱い存在であることは間違いない。
『守ってあげなくてはならない』。
昨日、白はそんな決意を新たにしていた。


「白、光か炎って白い魔石か赤い魔石ってことだよね。魔力の強さって、大きさじゃないんでしょ? 白、見分けつく?」
いくつも並んだ魔石を前に、儀礼は首をかしげていた。
「色が濃い方が魔力量は多いんだよ。でも、透明度の高いほうが宝石としては価値が高かったりするの。」
「そうなんだ。何選んだらいいかなぁ。愛華の持久力上げたいんだよね。風を付けたら速度が上がったけど、長時間の運転にもなることもあるから。」
愛華の話をする時の儀礼は楽しそうだ。
ふわりと、そよ風のような魔力が周囲に流れて、店の中にいた精霊たちが儀礼の周りへと寄ってきた。


 話しかけては来ない。そこまで高位の精霊ではないらしい。
ただ、声にならない音の様なもので、こんにちは、という挨拶のようなものを伝えてくる。
「フフッ。ギレイ君、精霊たちが集まってきてるよ。」
言いながら、白は、近くに来た精霊を手の平に乗せて儀礼へと示す。
「本当? すごいね、白は。精霊に好かれてるんだね。」
にっこりと儀礼は微笑む。
好かれているのは儀礼の方なのだが。


 コレコレ、と言うように、白の手の平に座っていた精霊が、白の指を引っ張って、一つの魔石を指し示す。
色は黄色。雷の属性である。儀礼の欲しがっていた光や炎ではない。
「これ?」
不思議そうに白は精霊に問いかける。
質は良さそうである、魔力量もとても高い。相応に、値段も高かった。


「それ?」
白の声に答えたのは、儀礼だった。
かみなり。そっか、電気か! その手があったのか! バッテリー代わりになるよね。」
何かに納得したように儀礼は大きく頷く。


 そんな儀礼を見て、小さな精霊が嬉しそうに微笑んだ。
うんうん、と頷いたひょうしに、ぴょこんと、精霊の黄色い髪の中から、猫のような尖った二つの耳が現れた。
よく見れば、精霊の羽に見えたその翼は、ふわふわとした細かい毛で覆われている。
体の所々にある、影だと思っていた黒っぽい筋は模様だったようである。
服の中から現れた、長い縞々のしっぽが、ひゅるりと嬉しそうに揺れた。
そういう、風変わりな精霊に、白は見覚えがあった。
(ギレイ君の精霊だっ!!)
その猫の耳をもった、子虎のような小さな精霊は、儀礼の手に取った黄色い魔石の中へと入り込んでいった。


「そういえば、僕の使う武器、よく勝手に電撃強化されるんだよね。愛華の中に入れちゃって大丈夫かな。……まぁ、愛華も電気で走ってるし、相性はいいか。もっと速くなったりして。」
にこりと嬉しそうに儀礼は笑う。
今の精霊について、言うべきか、気付かなかった振りをするべきなのか、白は『精霊の繋ぎ人』と呼ばれる自分の力について、深く悩むのだった。


 そこへ、なにやら騒々しく男たちが店の中へと入ってきた。
やってきたのは男が三人。
「おとなしくしろよっ。」
乱暴な口調でそう言いながら、手近にいた若い女性の店員の体に短剣を突きつけている。
残りの二人は、大きな布袋に手当たりしだいに魔石を詰め込み始めていた。
白は飛び出そうとしたが、その気配に気付き、人質を取る男が白へと睨みを利かせる。
短剣は店員の首元へと押し付けられていた。


「くぅっ。」
これでは、下手に手が出せない。
白は奥歯を噛み締める。


 ダンッ、ダンッ、ダンッ。
その時、三度の音が鳴り響いた。
店員や、客達の悲鳴の中では、小さな小さな音だった。
聞こえたのは、そばに立っていた白の耳にだけかもしれない。


 三人の武器を持った男たちは、それでドサドサと倒れ込んだ。
無事に解放された女性は、何が起こったのかわからずに呆然としている。
男達の横たわる姿に、若干固まりながら、白は問いかける。
「いいの、ギレイ君?」
武人である白よりも、早く動き、強盗たちを静めてしまった、少年に。
そして儀礼は、何事もなかった様に買い物を続行させている。


「問題無し。眠ってるだけだし。強盗して、生きて牢に入れるだけ幸せだろ。」
にっこりと儀礼は笑う。
その笑顔には、何の迷いも悪意もないようだった……。

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