ギレイの旅
『アナザー』の誕生
ある月の終わりの休日、ギレイがいつもとは違う端末からディセードへと連絡してきた。
『どこにいるんだ?』
とディセードが聞けば、儀礼は
『町の管理局』と言う。
確かに、発信元をたどれば、ドルエドの小さな町の管理局からだった。
『何やってんだ? 今一人か?』
5歳の儀礼が一人で管理局に行けるはずがないと、不思議に思って問いかければ、
『父さんの用事があるから、ついてきたの。今は一人だけど、受付に知ってるおじさんがいる。』
と言う返事。
受付が知り合いなら、大丈夫だろうと、ディセードは世間話のようなものを5歳児と語る。
どこどこの遺跡のマップが完成したとか、魔物の名前で古今東西とか、5歳児との、世間話だ。
魔物の名前の古今東西。
これが、パソコンで検索しているディセードに負けないほどの名を、ギレイが挙げてくる。
なぜそんなに魔獣の名前を知っているのか、聞いたら、周りの森に出るらしい。
小さいのから、大きいのまで。
ドルエドって国は、人の住むそんなに近くに、魔獣の出る国だっただろうか。
ディセードはちょっと調べてみたが、そんなことはない。
やはり、ギレイの住む「シエン」という場所だけが特別なようだった。
「シエン」、その名にはディセードも聞き覚えがあった。
「シエンの戦士」、ドルエドの歴史に幾度か現れ、国王の窮地を救ったりした英雄たちのことだ。
そういう戦士の生まれた所で、ギレイは育っているらしい。
そのギレイと、ディセードはあくまで、「世間話」を続けていた。
そんな時に、ギレイが、
『知り合いのおじさんの部屋に行ってくる。』
と言う。
ギレイとは遊んでいただけのディセードは、
『またな。』
と送って、パソコンを切った。
切ったはずのパソコンが突如、煙を上げたのは、その数分後のことだった。
***
ギレイとの会話を終えたディセードは短い時間、別の作業に没頭していた。
主に、世界中の情報に目を配るという最近はまっている趣味になのだが。
そして何か異変を感じて、ディセードがふと見ると、消したはずのパソコンが煙りを上げている事に気付いた。
今まで、そんなことは一度もなかった。
慌てて様子を見れば、内部の回線が焼け焦げている。
「ああ……、宿題のデータがパァだ。」
嘆くディセード。
しかし、それがギレイと会話していたパソコンなのがどうもにも気になる。
嫌な予感、虫の知らせ。そう言う言葉がディセードの胸の内を走った。
さっそくディセードは別のパソコンからギレイのいると言う、管理局へアクセスする。
監視カメラから、受付横のパソコンの前に座るギレイの映像を見つけた。
ふわふわとした金髪。小さな体。
横顔しか見えないが、茶色の瞳に、天使のような容姿の、少女と見紛うような綺麗な顔をした少年。
楽しそうにパソコンに文字を打ち込む子供の姿は微笑ましい。
そこへ近付く、茶色い長い髪の男。
ぼさぼさ頭に、汚れた白衣。
よくある研究者の姿ではあるが、見るからに怪しい、という者だ。
「おいおい、……どこが大丈夫なんだよ、ギレイ。」
冷や汗と共にディセードは呟く。
その男は、儀礼の髪をなで、手を撫で、周りを見回して、両頬を掴む。
『いつ見ても、綺麗だ。』
『今日も可愛いねえ。』
『ずっとそのまま、綺麗だったら素敵だと思わないかい?』
その男の吐く言葉は、明らかに、おかしいセリフだ。
『おいしいジュースがあるんだよ。おじさんの部屋にお人形を見に来ない?』
そう言われて、ギレイはパソコンに、穴兎宛と思われる文章を打ち込み、その男について行ってしまった。
モニターに表示された時刻からはすでに、10分近くが経っている。
「……これって、……まずいよなっ。事件だ! って。」
ディセードは無我夢中で、管理局のパスワードをこじ開ける。
システムに侵入し、非常ベルを鳴らした。
何事かと、慌てて研究室から出てくる研究者や事務員たち。
その中には、ギレイの父親らしき男もいる。
茶髪の多いドルエドで、礼一の黒髪はとても目立っていた。
非常ベルの音が、何事を知らせているのかわからずに、管理局内はパニックに陥っているが、ギレイの父親はとりあえず我が子を探しているようだった。
受付けの前にいたはずと、ディセードの見張るその場に姿を現す。
パソコンの前にいたことに気付いていたようなので、ディセードは回線から入り込み、そのパソコンに、さっきのギレイと男の、監視カメラから捉えた会話と映像を表示させる。
それを見て顔色を青くした父親が、ギレイの連れ去られた方へと走っていく。
その姿に一安心して、ディセードは詰めていた息を吐いた。
そして、管理局に侵入したことを誰にも気付かれないよう痕跡を消しながら、回線を切断する。
また別の回線から、今度はカメラだけに接続し、ディセードはギレイの無事を確かめた。
今度こそ本当に安心して、ディセードは椅子の背もたれに倒れこむ。
今、ディセードは初めてネット社会のルールを破った。
他国の管理局に入り込んだのだ。
バレない様にはできたはずだが、ドキドキと興奮と不安が入り混じる。
「ギレイ。この借りはいつか返してもらうぞ?」
遠い国の小さな少年に、ディセードは未来の貸しを作った。
そしてその後、自分の技術で十分ネットを渡り歩くことができると知ったディセードは、間もなく縦横無尽にネットの世界を駆け回るようになり、いつしか『アナザー』という二つ名で呼ばれるようにまでなったのだった。
『どこにいるんだ?』
とディセードが聞けば、儀礼は
『町の管理局』と言う。
確かに、発信元をたどれば、ドルエドの小さな町の管理局からだった。
『何やってんだ? 今一人か?』
5歳の儀礼が一人で管理局に行けるはずがないと、不思議に思って問いかければ、
『父さんの用事があるから、ついてきたの。今は一人だけど、受付に知ってるおじさんがいる。』
と言う返事。
受付が知り合いなら、大丈夫だろうと、ディセードは世間話のようなものを5歳児と語る。
どこどこの遺跡のマップが完成したとか、魔物の名前で古今東西とか、5歳児との、世間話だ。
魔物の名前の古今東西。
これが、パソコンで検索しているディセードに負けないほどの名を、ギレイが挙げてくる。
なぜそんなに魔獣の名前を知っているのか、聞いたら、周りの森に出るらしい。
小さいのから、大きいのまで。
ドルエドって国は、人の住むそんなに近くに、魔獣の出る国だっただろうか。
ディセードはちょっと調べてみたが、そんなことはない。
やはり、ギレイの住む「シエン」という場所だけが特別なようだった。
「シエン」、その名にはディセードも聞き覚えがあった。
「シエンの戦士」、ドルエドの歴史に幾度か現れ、国王の窮地を救ったりした英雄たちのことだ。
そういう戦士の生まれた所で、ギレイは育っているらしい。
そのギレイと、ディセードはあくまで、「世間話」を続けていた。
そんな時に、ギレイが、
『知り合いのおじさんの部屋に行ってくる。』
と言う。
ギレイとは遊んでいただけのディセードは、
『またな。』
と送って、パソコンを切った。
切ったはずのパソコンが突如、煙を上げたのは、その数分後のことだった。
***
ギレイとの会話を終えたディセードは短い時間、別の作業に没頭していた。
主に、世界中の情報に目を配るという最近はまっている趣味になのだが。
そして何か異変を感じて、ディセードがふと見ると、消したはずのパソコンが煙りを上げている事に気付いた。
今まで、そんなことは一度もなかった。
慌てて様子を見れば、内部の回線が焼け焦げている。
「ああ……、宿題のデータがパァだ。」
嘆くディセード。
しかし、それがギレイと会話していたパソコンなのがどうもにも気になる。
嫌な予感、虫の知らせ。そう言う言葉がディセードの胸の内を走った。
さっそくディセードは別のパソコンからギレイのいると言う、管理局へアクセスする。
監視カメラから、受付横のパソコンの前に座るギレイの映像を見つけた。
ふわふわとした金髪。小さな体。
横顔しか見えないが、茶色の瞳に、天使のような容姿の、少女と見紛うような綺麗な顔をした少年。
楽しそうにパソコンに文字を打ち込む子供の姿は微笑ましい。
そこへ近付く、茶色い長い髪の男。
ぼさぼさ頭に、汚れた白衣。
よくある研究者の姿ではあるが、見るからに怪しい、という者だ。
「おいおい、……どこが大丈夫なんだよ、ギレイ。」
冷や汗と共にディセードは呟く。
その男は、儀礼の髪をなで、手を撫で、周りを見回して、両頬を掴む。
『いつ見ても、綺麗だ。』
『今日も可愛いねえ。』
『ずっとそのまま、綺麗だったら素敵だと思わないかい?』
その男の吐く言葉は、明らかに、おかしいセリフだ。
『おいしいジュースがあるんだよ。おじさんの部屋にお人形を見に来ない?』
そう言われて、ギレイはパソコンに、穴兎宛と思われる文章を打ち込み、その男について行ってしまった。
モニターに表示された時刻からはすでに、10分近くが経っている。
「……これって、……まずいよなっ。事件だ! って。」
ディセードは無我夢中で、管理局のパスワードをこじ開ける。
システムに侵入し、非常ベルを鳴らした。
何事かと、慌てて研究室から出てくる研究者や事務員たち。
その中には、ギレイの父親らしき男もいる。
茶髪の多いドルエドで、礼一の黒髪はとても目立っていた。
非常ベルの音が、何事を知らせているのかわからずに、管理局内はパニックに陥っているが、ギレイの父親はとりあえず我が子を探しているようだった。
受付けの前にいたはずと、ディセードの見張るその場に姿を現す。
パソコンの前にいたことに気付いていたようなので、ディセードは回線から入り込み、そのパソコンに、さっきのギレイと男の、監視カメラから捉えた会話と映像を表示させる。
それを見て顔色を青くした父親が、ギレイの連れ去られた方へと走っていく。
その姿に一安心して、ディセードは詰めていた息を吐いた。
そして、管理局に侵入したことを誰にも気付かれないよう痕跡を消しながら、回線を切断する。
また別の回線から、今度はカメラだけに接続し、ディセードはギレイの無事を確かめた。
今度こそ本当に安心して、ディセードは椅子の背もたれに倒れこむ。
今、ディセードは初めてネット社会のルールを破った。
他国の管理局に入り込んだのだ。
バレない様にはできたはずだが、ドキドキと興奮と不安が入り混じる。
「ギレイ。この借りはいつか返してもらうぞ?」
遠い国の小さな少年に、ディセードは未来の貸しを作った。
そしてその後、自分の技術で十分ネットを渡り歩くことができると知ったディセードは、間もなく縦横無尽にネットの世界を駆け回るようになり、いつしか『アナザー』という二つ名で呼ばれるようにまでなったのだった。
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