ギレイの旅
ディセード15歳の春休み
ディセードは春休みに知り合った少年のために本を読んであげた。
読んであげたと言う表現は少し間違っているかもしれない。
正確に言うなら、解説と言った方が近かった。
なぜ、パソコン越しで本を読むのか、ディセードには意味が分からなかったが、その少年が、フェードの言葉を覚えようとしているのだと気付いた。
幼児用の絵本から始まり、日が進むに連れ、児童書、文学本、そして休みの明けるころには――。
***
春休みの間、ディセードは暇だった。入学に向けての課題はとうに終わらせた。
卒業に必要な最終課題は、どんなに頑張っても、ディセードには『完璧』を得ることができなかったのだ。
だから、どうやっても、ディセードは優秀な者たちの行くエリートコースへ入ることはできなかった。
ディセードの成績はずっと優秀だった。
体力には自信がないが、徹夜ならば二日くらい余裕だ。
パソコンを何時間だって、触っていられる。
その技術は校内一だと自負している。
しかし、ディセードには『魔力』がない。
まったくない訳ではないが、少量しかない。
情報収集に必要な遠見や盗聴がわずかにしか使えない。
相手の張った結界を抜けるような、大量な魔力は持っていなかった。
だから、技術はあっても落ちこぼれ。
ディセードを追い越して、上級クラスへ昇っていく友人たちが嘲笑っているような気がしていた。
それでも、体質なのだから、仕方がない。
どうしようもないことなのだ。持って生まれた素質。
ふて腐れ始めていた時に、少年『ギレイ』が次に提案してきた本は「古代文明滅亡の時」という本。
解明された古代の文明をモデルに作成された物語。
大人でも、余程の物好きしか読まない。
古代の文明では~~を使いすぎたから崩壊が起きたとか、そういう説をもっともらしく、一組の男女の人生を軸にして書かれている。
最後は「死ぬ時も一緒だ」、みたいな話だった気がする。
5歳の子供に読み聞かせる物だろうか。
というか、この本には難しい言葉がたくさん出てくる。
今までの本の比ではない。
専門用語など、他国の言葉でどう表現するのかなど、ディセードは知らない。
しかし、相手はディセードのことを何でも知っている大人だと思っている。
それに、物凄く読みたいらしい。
しかし、一人では意味が分からないと。
大きくなってから読めばいいんじゃないか? とも思ったが、他に何かしようとすればディセードの頭には、嘲笑する友人たちの顔が浮かぶ。
結局、ディセードは部屋に置かれた3つのパソコンと、2つの小さな端末を駆使して、その本の解説を始めた。
初めの方を読めば、難しくて飽きるかもしれないとも思った。
ところが、少年は次々に質問を浴びせてくる。
『その遺跡のトビラはどうして前に立ったら開くの?』
『魔力がなくなったから、今は使えないの?』
『ただの家だと遺跡にはならないの?』
『障壁は通れないのに、結界は通り抜けられるの?』
『魔物が出るトラップって、魔物はどこに隠れてるの?』
物語そっちのけで、古代の暮らしや文明の方に、ギレイは本気で興味があるらしい。
一つ一つの質問の答えを仕方なく探してやる。
ディセードはこれを、自分への課題だと思うことにした。
これに答えれば、この先の人生、大概の辛いことに耐えられそうだった。
『遺跡の扉は、人に反応するセンサーが取り付けられてるんだ。』
『魔力っていう動力がなくなっただけじゃなくて、ほとんどの遺跡が機能を封印されているらしい。』
『ただ人が暮らしていただけの家には、強固な障壁や結界を張っていないから残ってないんだろうな。』
『障壁は文字の通り、壁だからな。物質は通り抜けられない。結界は魔力の膜のようなものだから、魔力や魔法は通さないが、人や物質は比較的簡単に通すんだ。』
『魔物のトラップには幾つか種類がある。壁の中に隠れていることもあるし、魔力を与えて小さな魔物を強力にする場合もあるし、別の場所から移転してくる物もある。移転とは別で、召喚するって場合もあるしな。』
ディセードは可能な限りに次々と答えていく。
その答えるまでの時間には、ほとんどよどみがない。
『今日はここまでな。』
ディセードは切り出す。
『えー、どうして?』
不満そうな少年の言葉。
『もうすぐ夕飯だろ。また明日な。明日までにもっと調べといてやるから。』
そう打ち込んでから、なぜ自分はこんなにやる気で答えしまったのかとディセードは驚く。
しかし、退屈ではなかった。
いくつものパソコンを使って、知りたい情報を集めるのが楽しくて仕方ない。
学校で習った技法を次々と試す。
魔法なんて必要ない。
世界の全てがそこに繋がっているような気がしていた。
翌日、ディセードはギレイの質問に、ストレートで答えた。
「よっしゃー。」
なぜか両腕を上げ、思わず万歳をしていた自分に驚き、笑ってしまった。
その日、進んだのはその本の約半分の量。
昨日は3分の1だったので、読めた量が少し増えている。
しかし、無駄な質問が多くて、よけいな時間がかかった。
『古代の文字の分かってるのって、何種類あるの?』とか、
『音声認識は、どのくらい発音が違っても動くの?』とか、
普通の子供なら、聞かない。
『国ごとにほとんど違うんだね。それぞれに互換性はあるの? 語訳はされてた?』
『同じ地域でも時代で違う所もあれば、場所も時代も違うのに似てる言語があるのって、人種が移動したのかな?』
『例えば、フェードとドルエドは言葉が同じでも文字が違うから、文字ではなく音声にしたってことかな。それでも多少の違いがあるから、多少の誤差を許容したとしたら、どうやって調整して、どの位を基準にしたんだろう。』
もう、子供の言う事じゃないんだ。
読んであげたと言う表現は少し間違っているかもしれない。
正確に言うなら、解説と言った方が近かった。
なぜ、パソコン越しで本を読むのか、ディセードには意味が分からなかったが、その少年が、フェードの言葉を覚えようとしているのだと気付いた。
幼児用の絵本から始まり、日が進むに連れ、児童書、文学本、そして休みの明けるころには――。
***
春休みの間、ディセードは暇だった。入学に向けての課題はとうに終わらせた。
卒業に必要な最終課題は、どんなに頑張っても、ディセードには『完璧』を得ることができなかったのだ。
だから、どうやっても、ディセードは優秀な者たちの行くエリートコースへ入ることはできなかった。
ディセードの成績はずっと優秀だった。
体力には自信がないが、徹夜ならば二日くらい余裕だ。
パソコンを何時間だって、触っていられる。
その技術は校内一だと自負している。
しかし、ディセードには『魔力』がない。
まったくない訳ではないが、少量しかない。
情報収集に必要な遠見や盗聴がわずかにしか使えない。
相手の張った結界を抜けるような、大量な魔力は持っていなかった。
だから、技術はあっても落ちこぼれ。
ディセードを追い越して、上級クラスへ昇っていく友人たちが嘲笑っているような気がしていた。
それでも、体質なのだから、仕方がない。
どうしようもないことなのだ。持って生まれた素質。
ふて腐れ始めていた時に、少年『ギレイ』が次に提案してきた本は「古代文明滅亡の時」という本。
解明された古代の文明をモデルに作成された物語。
大人でも、余程の物好きしか読まない。
古代の文明では~~を使いすぎたから崩壊が起きたとか、そういう説をもっともらしく、一組の男女の人生を軸にして書かれている。
最後は「死ぬ時も一緒だ」、みたいな話だった気がする。
5歳の子供に読み聞かせる物だろうか。
というか、この本には難しい言葉がたくさん出てくる。
今までの本の比ではない。
専門用語など、他国の言葉でどう表現するのかなど、ディセードは知らない。
しかし、相手はディセードのことを何でも知っている大人だと思っている。
それに、物凄く読みたいらしい。
しかし、一人では意味が分からないと。
大きくなってから読めばいいんじゃないか? とも思ったが、他に何かしようとすればディセードの頭には、嘲笑する友人たちの顔が浮かぶ。
結局、ディセードは部屋に置かれた3つのパソコンと、2つの小さな端末を駆使して、その本の解説を始めた。
初めの方を読めば、難しくて飽きるかもしれないとも思った。
ところが、少年は次々に質問を浴びせてくる。
『その遺跡のトビラはどうして前に立ったら開くの?』
『魔力がなくなったから、今は使えないの?』
『ただの家だと遺跡にはならないの?』
『障壁は通れないのに、結界は通り抜けられるの?』
『魔物が出るトラップって、魔物はどこに隠れてるの?』
物語そっちのけで、古代の暮らしや文明の方に、ギレイは本気で興味があるらしい。
一つ一つの質問の答えを仕方なく探してやる。
ディセードはこれを、自分への課題だと思うことにした。
これに答えれば、この先の人生、大概の辛いことに耐えられそうだった。
『遺跡の扉は、人に反応するセンサーが取り付けられてるんだ。』
『魔力っていう動力がなくなっただけじゃなくて、ほとんどの遺跡が機能を封印されているらしい。』
『ただ人が暮らしていただけの家には、強固な障壁や結界を張っていないから残ってないんだろうな。』
『障壁は文字の通り、壁だからな。物質は通り抜けられない。結界は魔力の膜のようなものだから、魔力や魔法は通さないが、人や物質は比較的簡単に通すんだ。』
『魔物のトラップには幾つか種類がある。壁の中に隠れていることもあるし、魔力を与えて小さな魔物を強力にする場合もあるし、別の場所から移転してくる物もある。移転とは別で、召喚するって場合もあるしな。』
ディセードは可能な限りに次々と答えていく。
その答えるまでの時間には、ほとんどよどみがない。
『今日はここまでな。』
ディセードは切り出す。
『えー、どうして?』
不満そうな少年の言葉。
『もうすぐ夕飯だろ。また明日な。明日までにもっと調べといてやるから。』
そう打ち込んでから、なぜ自分はこんなにやる気で答えしまったのかとディセードは驚く。
しかし、退屈ではなかった。
いくつものパソコンを使って、知りたい情報を集めるのが楽しくて仕方ない。
学校で習った技法を次々と試す。
魔法なんて必要ない。
世界の全てがそこに繋がっているような気がしていた。
翌日、ディセードはギレイの質問に、ストレートで答えた。
「よっしゃー。」
なぜか両腕を上げ、思わず万歳をしていた自分に驚き、笑ってしまった。
その日、進んだのはその本の約半分の量。
昨日は3分の1だったので、読めた量が少し増えている。
しかし、無駄な質問が多くて、よけいな時間がかかった。
『古代の文字の分かってるのって、何種類あるの?』とか、
『音声認識は、どのくらい発音が違っても動くの?』とか、
普通の子供なら、聞かない。
『国ごとにほとんど違うんだね。それぞれに互換性はあるの? 語訳はされてた?』
『同じ地域でも時代で違う所もあれば、場所も時代も違うのに似てる言語があるのって、人種が移動したのかな?』
『例えば、フェードとドルエドは言葉が同じでも文字が違うから、文字ではなく音声にしたってことかな。それでも多少の違いがあるから、多少の誤差を許容したとしたら、どうやって調整して、どの位を基準にしたんだろう。』
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