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ギレイの旅

千夜ニイ

穴兎とギレイの出会い

 ドルエド、アルバドリスクと隣り同士にある国、フェード。
魔法に関してもある程度普及しており、機械に関しても発達している。
特にインターネットの普及は他の国を引き離し群を抜いていた。
情報国家、それがフェード。


 ディセードは自室のパソコンから意味もない雑談のチャット部屋に入っていた。
ハンドルネームは『Burrow.rabbit』、穴兎。
学校で教わった『アリバイを確保するための工作』の復習なのだが。
時折窓から見える庭を覗き、何の気配もないことを確認する。
もう一方のパソコンで見ていた機密事項を閉じ、全ての痕跡を消して閉じたところだ。
ディセード・アナスター、15歳。つい先日王都の中学校を卒業したところだ。
今は春休み、というかもう10日もしたら王都の学院の生徒、つまり高校生になる。


 パソコンの画面には当たり障りのない日常会話のようなことが流れている。
参加しないのも不自然なので、ディセードは同じようにどうでもいいようなことを返していた。
その中に、ドルエドからの訪問者がいた。
(めずらしいな。)
ドルエドは農耕国家。
あまり機械文化は進んでおらず、ネットの環境があるのは金持ちか、研究者のどちらかだ。
そんな者がくだらない雑談の部屋にくる。
ちょっと気になった。


 ハンドルネームは 『girei』、ギレイ か?
金持ちの道楽かもしれないが。
そのドルエドの人物が発言した。


   girei:“こんにちは”


綴られた文字は短い。当たり前のあいさつ。


   Burrow.rabbit:“こんにちは”


と同じように返す。
だが、その先の会話がない。
2分、3分、その間にも会話が流れていく。
「お願いしますとかの挨拶もないのかよ。ルールを知らない初心者か、礼儀知らずの金持ちか。」
呆れながら待っていると、


   girei:“ぼくもみたいです。”


「?」
その場の会話とかみ合わない発言がなされた。
意味がわからず、その部屋にいたディセード以外の7人がスルーしている。
それからまた2分ほどして、


   girei:“すごいですね。”


またも会話とかみ合わない発言をする。


   Burrow.rabbit:“すごいってなにがだ?”


はじかれかけていた、『ギレイ』って奴にディセードは返事をしてみた。
わざわざドルエドから来ているのだ。それが引っかかった。
ディセードのように、何かのアリバイ作りとして参加しているなら、遅い入力にも頷ける。
探索のためにディセードは、さっき閉めたもう一台のパソコンを開いてみる。


   girei:“おまつりがたのしそうです”


『ギレイ』からの返事があった。
一瞬考えて、ディセードは画面をスクロールして会話を戻ってみる。
王都の祭りの話が出ていた。
すごい人出に大変盛り上がると会話されている。


「これか。」
2分遅れで会話に参加しているドルエドからの訪問者『ギレイ』。
ディセードは侵入用のパソコンで相手の出所を探る。


   girei:“捜索ってどういういみですか?”




 また『ギレイ』が発言した。またも全員が噛み合わない会話にスルーしている。
出てきた探索結果は、ドルエドの田舎。
周りにまったくネット回線の気配がない。
たった一本の回線からつないできているのだ。
無用心この上ない。
回線の持ち主はレイイチ・マドイ、それがこの『ギレイ』とういう奴だろうか?


 皆が年齢の会話になった。
それぞれが年齢を答える。
この中に実年齢を答えてる人間が何人いるか(笑)
ディセードも10歳上乗せし、『25』と答えた。
そう思っていると、2分遅れてギレイが答えた。


   girei:“ぼくは5さいです。”


「5歳!!」
嘘を語っている可能性も十分にある。
だがそんな手の込んだいたずらをして楽しいのだろうか。
まぁ、楽しい奴には楽しいのかもしれないが。
会話の様子や入力の遅さを考えるとありえるかもしれない、とディセードは思った。


 ディセードは別室を作り、2分遅れで会話する『girei』を招待した。
実際、会話をしてみれば、なるほど本当に5歳だった。
パソコンは父親の物らしい。
父は研究者兼、教師をしているという。
しかし、パソコンの普及してない地域で、5歳の子供が一人で操作しているなんて、信じがたい。
でも、言動が5歳だ。
『~って何? ~ってどういうこと?』
そういう疑問が会話のほとんどだった。


 年の離れた弟のいるディセードは、もう一人の弟ができたようで、少し楽しくなった。


   girei:"穴兎さんは、どんなうさぎさんですか?"


 5歳児に聞かれて、ディセードはとっさに窓の外を見る。
穴兎の名の元になった、広い庭を駆け回るウサギ。
飼っているわけではない。
勝手に棲み着いているのだ。


   Burrow.rabbit:"白くって、耳が長くて、目が赤いんだ。"
   girei:"うわぁー、ほんとのウサギだね。"


 その『ギレイ』の返答が、あまりに嬉しそうだったので、ディセードは長い間、本当のこと(ディセードが人間であること)を言い出せなかった。


 それから、10年。『ギレイ』とはすっかりチャット友達だ。
そのギレイがやってくる。このフェードに。ディセードの居る町に。

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