ギレイの旅
マジックシード
『マジックシード』。
それは、幻の存在。
「古代の書に記されてはいるが、実物はどこにも存在せず、作り出した者もない。」
「本の中によく出てきますよね。旅人が、砂漠に水の種を植え、オアシスを作り出した、とか、火の種で焚き火をおこすとか……。」
儀礼は口に指を当てて、考えるように話す。
「ギレイ。お前、考えてみろ。これに俺の魔力全て込めた弾を作るとする。作れるのは一日に一粒だけだ。だが、それはどれほどの威力だと思う?」
コルロ自身も自分の魔力の限界を試したことはないが、おそらく、小さな国の一つ位は、軽く消滅する。
儀礼は黙っている。瞳を大きく見開いて。
「それを、俺が毎日作り続けたとしたらどうだ? 何個で世界が消滅する?」
コルロの言葉に儀礼はついに諦めたかのようにすっきりとした笑顔を見せた。
「Sランク、昇格おめでとうございます。」
にっこりと儀礼は笑った。仲間が増えた、と。
儀礼の中ではすでに、アーデスとヤンはSランクの域にいる。
バクラムも武器に、朝月のようにしっかりと魔力を固定することができるようになれば間違いなくSランクになるだろう。
「ふざけんな! めでたくない! 俺は危険人物になりたくねえよ。」
「だって、もともとコルロさんの魔力です。」
僕、関係ない、と言わんばかりに儀礼は視線を逸らす。
「お前の作った武器だろ。これは多分、俺じゃなくても弾は出る。」
儀礼は奪い取るようにコルロの銃を取って撃った。
カチッ と音がしたしただけ。
「出ません。」
弾は出なかった、と儀礼は頷く。
「お前、魔法使えないだろ。」
「水溜りはできました。」
「あれは多分、もう発動するための魔力が込められてるからだ。だから、意思があれば発動する。つまりこれは、誰でも使えるってことになる。」
手の平の粒、『マジックシード』を示して、コルロは言う。
「賢者ですね。本の『マジックシード』の中でその種を作り出した人。」
コルロを示して、儀礼は言う。
「だから、俺は、Sランクになる気はねぇ。これはSランクのお前が作った物だろ。」
コルロが言う。
「……それ、移転魔法使えますか?」
拳を口に当て、考えるように儀礼は問う。
「お前、いいこと思いつくな。」
「先に言ったのはコルロさんです。この腕輪くれる時に。」
「ああ、よく覚えてるな。言ったか、そんなこと。」
コルロは思い出すように視線を上に向けた。
「結界を使えば、ばれないか。お前にとっちゃ便利だな。」
ようやく、コルロはいつものように笑い出す。
「そうそ、バレなきゃいいんです。それは元々、弾の出る銃なんですから。何の異状もありません。」
儀礼は言う。
「お前、度胸あるな。世界中騙すつもりか。しかし、アーデスやヤン相手にいつまで通用するか。」
「別の物を作ればいいんですよ。目くらましが分かりにくければ、それを本命と思います。」
儀礼は悪意の笑みを浮かべる。
「お前、本当にSランクだったんだな。どうりで、アーデスが世話を焼くわけだ。」
コルロは青い髪をかき上げる。
「知恵比べ、最強最上の研究者と知恵比べって訳か。何か手はあるのか?」
何も思い付かないコルロはお手上げとばかりに儀礼に問いかける。
「いくつかできそうなことはありますけどね。最悪の場合でも、アーデスは隠す方に手を貸してくれると思いますよ。パーティランクも『S』に上げたくないみたいなんで、コルロさんがアーデスのパーティを抜けない限りは安全です。」
にっこりと儀礼は笑った。
アーデスと儀礼。
世界を敵に回すより、この二人が味方であることに安堵するコルロだった。
「あ、そうだ。お前、そのアーデスが死人の兵士について何か聞きたがってたな。」
「死人の兵士? ですか?」
心当たりがないと、儀礼は首を傾げる。
「報告書は来てないのか?」
「その……ネットの不調がありまして。すみません。」
儀礼は曖昧な苦笑で答える。
確認してみようとノートパソコンを探ろうとして、自分が白衣を着ていないことを儀礼は思い出す。
「後で、確認してみます。」
その時、突如、知らない声がコルロにかかった。
「おい、『スカイガンナー』。こんな所で何をしている。」
どかどかとした足音と共に、軍人らしい男たちが三人、儀礼たちに近付いてきた。
咄嗟にコルロは青いマントを儀礼に羽織らせて隠す。
「そっちこそ、こんな国の端で何をしているんだ?」
警戒したようにコルロは言葉を返した。
「ふんっ、お前に教えてやる義理もないがな。先日蘇って消えたフェードのくずどもの装備が残っていると聞いてな。まぁ、このあたりは俺らがほとんど見て回ったからもう残ってもいないだろうがな。」
がははは、と中央に立つ大柄な男が笑った。
「そうかい、そんなものには俺は興味ないな。この銃一つあれば、十分だ。」
黒っぽい銃を示して、コルロは不敵に笑う。
「そいつは誰だ?」
怪しむように、一人が儀礼の方へと近付いてくる。
今現在、儀礼には、顔を隠す色眼鏡も、相手を眠らせるための麻酔薬もない。
全てを白衣と一緒に置いてきてしまっている。
「ただの知り合いだよ。」
隠すようにコルロが儀礼を引き寄せたが、そのせいでマントが少しずれ、儀礼の顔は露わになった。
「女か。」
兵士の一人が言った。
儀礼のこめかみにはうっすらと青筋が浮かぶ。
「そんな、力のない道具に頼る男でなく、俺達のような本物の兵士と仲良くなった方が得だぜ。」
近付いてきた男が儀礼に言う。
「どうぞ、お構いなく。もう帰るところですので。」
男達を無視するように儀礼は歩き出す。
「そんなこと言わないで、少しくらい遊んでいかないか?」
兵士の一人が儀礼の腕を掴んだ。
明らかに、不機嫌に儀礼の眉間はしわを刻む。
「こんな軟弱そうな男が好みなのか?」
笑うようにコルロを示し、その大柄な男が言った。
「好みを言うなら、守ってあげたくなるような人、ですね。」
くすりと笑うと、儀礼の腕を掴んでいた男は強い力で引きずられたかのようにして、儀礼の背後へと倒れこんだ。
儀礼の腕には、たいした力も入っていないように見えた。
男たちは、呆然と、細身の女性に見える儀礼を見つめる。
しかし、それもそのはず。
後ろから全てを見ていたコルロには、腕輪から白い糸が伸び、男の腕に巻き付き、凄い勢いで体を引き倒すさまがはっきりと見て取れた。
やったのは、儀礼ではなく、腕輪の力。
呆然とする男たちの横を颯爽と通り抜け、数歩過ぎた所で儀礼は足を止めコルロを振り返った。
「あの……送ってもらえますか?」
その、頼りなさげな声は、男達により一層不思議な魅力を与えていたらしい。
ただ、儀礼が一人では帰れなかっただけなのだが。
転移陣の元へ行く振りをして、コルロは途中で儀礼を元の宿へと送り返した。
その後、スカイガンナーには、めっぽう強い女がいるという、どうでもいい噂が付加されていた。
スカイフライの成体、魅了の力を持つ高位悪魔『リリーム』並みに綺麗な美女だったと、真しやかに話されている。
ユートラスでの『スカイガンナー』の立場に箔が付いたとしても、本当にどうでもいい噂なので、コルロはその話が儀礼の耳には届かないように細工をした。
『マジックシード』に関して儀礼の援護が必要な今、コルロは余計な恨みを買うのは、ごめんである。
それは、幻の存在。
「古代の書に記されてはいるが、実物はどこにも存在せず、作り出した者もない。」
「本の中によく出てきますよね。旅人が、砂漠に水の種を植え、オアシスを作り出した、とか、火の種で焚き火をおこすとか……。」
儀礼は口に指を当てて、考えるように話す。
「ギレイ。お前、考えてみろ。これに俺の魔力全て込めた弾を作るとする。作れるのは一日に一粒だけだ。だが、それはどれほどの威力だと思う?」
コルロ自身も自分の魔力の限界を試したことはないが、おそらく、小さな国の一つ位は、軽く消滅する。
儀礼は黙っている。瞳を大きく見開いて。
「それを、俺が毎日作り続けたとしたらどうだ? 何個で世界が消滅する?」
コルロの言葉に儀礼はついに諦めたかのようにすっきりとした笑顔を見せた。
「Sランク、昇格おめでとうございます。」
にっこりと儀礼は笑った。仲間が増えた、と。
儀礼の中ではすでに、アーデスとヤンはSランクの域にいる。
バクラムも武器に、朝月のようにしっかりと魔力を固定することができるようになれば間違いなくSランクになるだろう。
「ふざけんな! めでたくない! 俺は危険人物になりたくねえよ。」
「だって、もともとコルロさんの魔力です。」
僕、関係ない、と言わんばかりに儀礼は視線を逸らす。
「お前の作った武器だろ。これは多分、俺じゃなくても弾は出る。」
儀礼は奪い取るようにコルロの銃を取って撃った。
カチッ と音がしたしただけ。
「出ません。」
弾は出なかった、と儀礼は頷く。
「お前、魔法使えないだろ。」
「水溜りはできました。」
「あれは多分、もう発動するための魔力が込められてるからだ。だから、意思があれば発動する。つまりこれは、誰でも使えるってことになる。」
手の平の粒、『マジックシード』を示して、コルロは言う。
「賢者ですね。本の『マジックシード』の中でその種を作り出した人。」
コルロを示して、儀礼は言う。
「だから、俺は、Sランクになる気はねぇ。これはSランクのお前が作った物だろ。」
コルロが言う。
「……それ、移転魔法使えますか?」
拳を口に当て、考えるように儀礼は問う。
「お前、いいこと思いつくな。」
「先に言ったのはコルロさんです。この腕輪くれる時に。」
「ああ、よく覚えてるな。言ったか、そんなこと。」
コルロは思い出すように視線を上に向けた。
「結界を使えば、ばれないか。お前にとっちゃ便利だな。」
ようやく、コルロはいつものように笑い出す。
「そうそ、バレなきゃいいんです。それは元々、弾の出る銃なんですから。何の異状もありません。」
儀礼は言う。
「お前、度胸あるな。世界中騙すつもりか。しかし、アーデスやヤン相手にいつまで通用するか。」
「別の物を作ればいいんですよ。目くらましが分かりにくければ、それを本命と思います。」
儀礼は悪意の笑みを浮かべる。
「お前、本当にSランクだったんだな。どうりで、アーデスが世話を焼くわけだ。」
コルロは青い髪をかき上げる。
「知恵比べ、最強最上の研究者と知恵比べって訳か。何か手はあるのか?」
何も思い付かないコルロはお手上げとばかりに儀礼に問いかける。
「いくつかできそうなことはありますけどね。最悪の場合でも、アーデスは隠す方に手を貸してくれると思いますよ。パーティランクも『S』に上げたくないみたいなんで、コルロさんがアーデスのパーティを抜けない限りは安全です。」
にっこりと儀礼は笑った。
アーデスと儀礼。
世界を敵に回すより、この二人が味方であることに安堵するコルロだった。
「あ、そうだ。お前、そのアーデスが死人の兵士について何か聞きたがってたな。」
「死人の兵士? ですか?」
心当たりがないと、儀礼は首を傾げる。
「報告書は来てないのか?」
「その……ネットの不調がありまして。すみません。」
儀礼は曖昧な苦笑で答える。
確認してみようとノートパソコンを探ろうとして、自分が白衣を着ていないことを儀礼は思い出す。
「後で、確認してみます。」
その時、突如、知らない声がコルロにかかった。
「おい、『スカイガンナー』。こんな所で何をしている。」
どかどかとした足音と共に、軍人らしい男たちが三人、儀礼たちに近付いてきた。
咄嗟にコルロは青いマントを儀礼に羽織らせて隠す。
「そっちこそ、こんな国の端で何をしているんだ?」
警戒したようにコルロは言葉を返した。
「ふんっ、お前に教えてやる義理もないがな。先日蘇って消えたフェードのくずどもの装備が残っていると聞いてな。まぁ、このあたりは俺らがほとんど見て回ったからもう残ってもいないだろうがな。」
がははは、と中央に立つ大柄な男が笑った。
「そうかい、そんなものには俺は興味ないな。この銃一つあれば、十分だ。」
黒っぽい銃を示して、コルロは不敵に笑う。
「そいつは誰だ?」
怪しむように、一人が儀礼の方へと近付いてくる。
今現在、儀礼には、顔を隠す色眼鏡も、相手を眠らせるための麻酔薬もない。
全てを白衣と一緒に置いてきてしまっている。
「ただの知り合いだよ。」
隠すようにコルロが儀礼を引き寄せたが、そのせいでマントが少しずれ、儀礼の顔は露わになった。
「女か。」
兵士の一人が言った。
儀礼のこめかみにはうっすらと青筋が浮かぶ。
「そんな、力のない道具に頼る男でなく、俺達のような本物の兵士と仲良くなった方が得だぜ。」
近付いてきた男が儀礼に言う。
「どうぞ、お構いなく。もう帰るところですので。」
男達を無視するように儀礼は歩き出す。
「そんなこと言わないで、少しくらい遊んでいかないか?」
兵士の一人が儀礼の腕を掴んだ。
明らかに、不機嫌に儀礼の眉間はしわを刻む。
「こんな軟弱そうな男が好みなのか?」
笑うようにコルロを示し、その大柄な男が言った。
「好みを言うなら、守ってあげたくなるような人、ですね。」
くすりと笑うと、儀礼の腕を掴んでいた男は強い力で引きずられたかのようにして、儀礼の背後へと倒れこんだ。
儀礼の腕には、たいした力も入っていないように見えた。
男たちは、呆然と、細身の女性に見える儀礼を見つめる。
しかし、それもそのはず。
後ろから全てを見ていたコルロには、腕輪から白い糸が伸び、男の腕に巻き付き、凄い勢いで体を引き倒すさまがはっきりと見て取れた。
やったのは、儀礼ではなく、腕輪の力。
呆然とする男たちの横を颯爽と通り抜け、数歩過ぎた所で儀礼は足を止めコルロを振り返った。
「あの……送ってもらえますか?」
その、頼りなさげな声は、男達により一層不思議な魅力を与えていたらしい。
ただ、儀礼が一人では帰れなかっただけなのだが。
転移陣の元へ行く振りをして、コルロは途中で儀礼を元の宿へと送り返した。
その後、スカイガンナーには、めっぽう強い女がいるという、どうでもいい噂が付加されていた。
スカイフライの成体、魅了の力を持つ高位悪魔『リリーム』並みに綺麗な美女だったと、真しやかに話されている。
ユートラスでの『スカイガンナー』の立場に箔が付いたとしても、本当にどうでもいい噂なので、コルロはその話が儀礼の耳には届かないように細工をした。
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