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ギレイの旅

千夜ニイ

スカイガンナー

「それで、ここはどこ?」
白衣のない状態で、外に連れ出され、儀礼は冷たい空気に腕をさすった。
「ああ、ユートラスの端っこだな。大丈夫。軍の目も届かないような片田舎だ。」
儀礼にウォーム(体を温める魔法)をかけながら、コルロは答えた。
そのコルロの全身は真っ青な服に覆われて、いて、髪の色までもが鮮やかな青色をしていた。


「なんです、その格好。」
「何って、潜入用だからな、ユートラスの。俺の特徴から離れて、目立てばいいらしいってんで、こんなだ。俺の趣味じゃねぇ。」
心外そうにコルロは言った。
「確かに、目立ちますね……。」
苦笑で儀礼は答える。


「『青いスカイガンナー』だ。それが今の俺の呼び名。」
「空のガンナー、なんかカッコイイ!」
空中を飛び回り、弾を撃ちまくる戦闘機を、儀礼は想像した。


「『スカイフライの狩人ハンター』は嫌だったからな。自分でスカイガンナーって言い続けたら通ったぞ。」
儀礼の作った銃を慣れた様子で弄びながら、コルロは言った。
その銃を使うことで、コルロは得意の魔法がなくともガンナーとして戦闘要員として名を売ることができたのだ。


 『スカイフライ』という魔物がいる。
透明で、空を飛んでいるものだが、実体がないわけではない。
クラゲや、生まれたばかりの魚の稚魚のように、透き通った体を持っているのだ。
スカイフライはまだ幼体の状態で、成体は『リリーム』と呼ばれる。
人にも見える、美しい羽を持つ高位の悪魔で、特徴は、人型に蝶の羽、魅了の力、どの固体もが美人で、吸血能力を持っている。
やっかいな魔物なので、幼体のうちに狩っておきたい魔物の一種だ。
しかし幼体のうちは、透明で見えない。


「奴ら魔力は高いからな。なんとかなった。」
なんでもないことのように、コルロは言った。


「それで、ユートラスの『スカイガンナー』さんが、僕に何のようです?」
警戒したように儀礼は問いかける。
白衣を置いてこられてしまった今の儀礼には、防御力も攻撃力もほとんど、ないに等しい。
魔力耐性の高いコルロが、ユートラスに洗脳されたとは、考えにくいのだが。


「そうだ、それだ。ギレイ。これ、弾はどうなってる?」
儀礼の作った銃を示してコルロは尋ねる。
「え? 弾は弾倉マガジンに補充してくださいって、この間見せたし、説明書にも書いてありますし、分かりますよね。」
当然のことを聞かれて儀礼は首を傾げる。


「そっちじゃなくて、1番の方だ。」
1番。儀礼は作った銃をコルロに渡すときに、「1番が魔法、2番が実弾」と、簡単な説明をした。
「……。」
儀礼は押し黙る。
「やっぱり、ないのか?」
予想はしていたのか、若干青い顔になりながらも、納得したように苦笑を浮かべてコルロは問いかけた。


「ないです。だって、魔法ですよ? 杖の代わりってだけです。」
儀礼は言う。
「じゃぁ、これは何だ?」
コルロは魔法銃に弱い魔力を込めて、手元に小さな弾のような物を出す。
実弾よりも小さく、BB弾程度の大きさで、だ円形をしている。
何かの卵や、種のようにも見える。


「何です?」
儀礼が問い返す。
「これは大地の魔法を込めた。普通に撃てば、当たった場所に俺の意思で魔法を発動できる。まぁ、単純に芽が出る。」
「……じゃぁ、種だね。」
儀礼は納得したように頷く。
コルロは、儀礼に自分の言いたいことが伝わっていない、と理解した。


 コルロはまた弱い魔力で数種類の弾を手の平に撃ち出す。
「これな、見れば分かると思うけど、赤が炎、緑が風、白が光、大地が茶、青が水、黄色が雷だ。」
「すごい、綺麗だね。」
種のような形の、変わった弾を、儀礼は楽しそうに見ている。
つやを持つ弾は、本当に何かの実か、宝石の様でもある。


「これ、何だ?」


コルロはもう一度儀礼に問いかけた。
「何って、コルロさんが出したんじゃないですか。僕知りません。」
意味が分からないと、儀礼は怒る様に言う。
人を無理やり連れてきておいて、何の話なのかと。
「これさ、撃たないで出して、使うとき、どうするよ。」
「? 使うんですか? 弾倉に入れたら壊れるかもしれないですよ?」
首を傾げながら儀礼は答える。
実弾用に作った弾倉に、この大きさの弾はサイズが合わない。
撃ち出せるかどうかも分からないが、銃か弾のどちらかが壊れるかもしれない。


「いや、だからなあ。例えば、投げたり、落としたりだな。」
「よく分からないです。僕忙しいんですよ。投げるならやってみればいいじゃないですか。」
そう言って、儀礼はコルロの手から一粒を摘み上げ、空に向かって投げた。
投げた粒は真上に上がり、そのまま降って来る。
儀礼はそれを避け、それは地面に落ちた。
 ガツッ
くぐもったような音がして、それは地面にめり込んでいた。


「何も起こりません。」
儀礼が投げたのは、青い粒。
その弾はそのまま地面に埋まり、何も起こらない。
「お前っ、危ないな。何かあったらどうすんだよ。」
顔から血の気を失くしてコルロが言う。
「だから水にしたんじゃないですか。発動しても安全でしょ。結果は何も起こりませんでした。」
儀礼は言う。


「いや、今のは俺も発動させなかったし。そうじゃなくて、こう、『水になれ』みたいに投げてみ。」
地面に落ちた弾を拾い、コルロは儀礼に手渡した。
「ああ、あっちの方にな。真上はやめろ。濡れたくねぇ。」
コルロが付け足す。


「分かりました。やってみます。」
頭の上に「?」マークを浮かせたまま、儀礼は言われたとおりにその弾の様な、石の様な、粒の様な物を投げる。


「出でよ、聖なる泉!」


唱えた言葉は儀礼の気分だ。ふざけただけ。
なのに。
弾の着地した先で、大量の水が湧きあがった。
その水は、こんこんと湧き続け、あたりに溢れる。
清らかな、透明な水。透き通った泉。


「俺、あそこまで魔力込めてねぇよ。」
額を押さえるようにしてコルロが言った。
「えっと、どの程度……。」
聞くことすら怖くて、儀礼の声は尻すぼみになる。
「水溜りだ。」
コルロは言う。
「大きな水溜りです。」
儀礼は頷く。
「湧いてる。」
コルロは泉の中心を指し示す。


「えっと、つまり、何々ですか? これは。」
儀礼は、わけがわからず、ついに声を荒げた。
「お前、分かんないのか? そんなわけないよな。あるだろ、これと同じ記述が、古代の文書に。」
コルロの言葉に、儀礼はようやく理解した。
全ての事が整理されたようにして頭の中を駆け巡る。
爽快な解明。
しかし、同時に恐ろしい、事実。
儀礼は顔面を蒼白にする。


「な、わかったか。」
溜息のようにコルロは言葉を吐き出した。
「この格好して、スカイガンナーになってから、実弾も結構使うようになってさ、もう一回、調整も込めて細かく分解したんだよ。そしたら、こいつに魔法の弾を作る機能はねぇ。」
真っ青な顔でコルロが言う。
「ないですよ。なんでそんな……。」
儀礼は言葉を詰まらせる。


 そして、二人は顔を見合わせ、諦めたように同時に呟いた。
「「マジックシード。」」と。

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