ギレイの旅
町の復興
現れた三人に、儀礼はパチパチと瞳を瞬く。
「連絡くれれば結界解くのに。」
当たり前のように入ってくるヤンやアーデスが異常なのである。
普通の魔法使いには、朝月の結界を通り抜けて入ってくるのは大変な困難で、結界を張る本人の了承を得なければ通り抜けることは不可能に近い。
「ランジェシカが居なけりゃ、入れなかったよ。」
苦笑を浮かべてマフレは隣りのランジェシカを見る。
長髪の少女はおっとりとした表情でふわりと笑ってみせた。
「久しぶりだね。元気だった?」
儀礼もにっこりと笑い返す。
「あなたも、元気そう、だった。」
にっこりとランジェシカは微笑む。
「……うん。元気だった。」
まさか泣きそうだったとは言えない。
と言うか、元気そうだったとは、つまり、いつの間にかランジェシカには遠視されて確認されていたらしい。
「今日はどうしたの? いきなり移転魔法なんてしてきて。」
話題を変えるように、儀礼はクリームへと問いかけた。
「あたしは、いつも通り転移陣を通ろうとしたんだが、こいつら二人揃ってて、止める間もなくって感じだよ。ったく、人の話なんか聞きやしねぇ。」
「なおったの。」
クリームの言葉を遮るようにランジェシカが言う。
確かに、説教を聞くつもりはないらしい。
「なおったの?」
儀礼は問い返す。
「町。」
嬉しそうに、ランジェシカは微笑んだ。
「わっ、すごい。もう復旧したの? はやいね。」
嬉しそうに儀礼も笑い返す。
どうやら、ヒガが壊した町が直ったらしい。
「メッセージで知らせようとしたんだが、しばらくお前に連絡つかなかっただろ。」
何か、睨むようにクリームが言う。
呪われたナイフについては、クリームはまだ知らないはずだった。
あのナイフの持ち主が儀礼だと、今現在知っているのは、関係者以外では、穴兎ぐらい。
「ちょっと、ネットの不調で……。」
「ネットの不調な。」
怪しむようにクリームは儀礼を見る。
「おい、儀礼。何だ、そいつら。」
普通ではない気配を放つクリームたちに拓が警戒するように問いかける。
利香と白が別室に居てよかった。
一緒だったら、きっともっと殺気立った気配を儀礼は送られることになっていただろう。
「友達。クリームと、ランジェシカと、マフレさん。」
一人ずつを手で示して、儀礼は紹介した。
「クリームは『砂神の勇者』だよ。」
にやりと儀礼は笑う。
「お前か。了と一緒に遺跡を探索したって『勇者』は。」
感心したように拓は頷いた。
古代に関する知識のない獅子と一緒に、遺跡探索するなんて、それは本当に勇者だ。
別の意味で儀礼は頷く。
「いたい。」
儀礼は頭を押さえた。
「お前、今なんか変なこと考えてただろ。」
「ない。」
いきなり殴った獅子に儀礼は恨みがましい目を向ける。
しかし、当然ながら獅子に気圧される様子はない。
「リョウ? って?」
拓の言葉にクリームが首を捻る。
「獅子のこと。リョウ・シシクラ。獅子の本名だよ。」
「ああ、そういやそうか。『黒獅子』が通ってるからつい、忘れてたな。」
今度はクリームが頷く。
「で、町の作業は終わるんだが、ヒガはうちで預かってていいのか?」
町の復旧の連絡と、それを聞きたかったらしい。
「うん。それがたぶん、お互いに一番安全だと思うんだけど、仲間外れとか、ケンカとかにならないなら。」
「……新しい奴らが二人ほどヒガに噛み付いてるが、本人はどこ吹く風だな。気にもしてねぇ。預かっていいってんなら、もうしばらく借りておく。」
「借りるって、人なのに。僕の配下でもないし。」
言いながらも、儀礼はクリームの仲間が増えていくことに、なんとなく嬉しさを感じる。
出会った時の、クリームからの寂しさを、儀礼はもう感じない気がした。
「ああ、新しい助手候補が居るんだったか?」
「いないから!」
クリームの言葉を儀礼は即座に否定する。
どうやら、先程からの会話の流れから、儀礼の呪われたナイフの騒動をクリームは知っていると判断していいようだった。
厳重に隠しているわけでもないが、耳の早いことだ、と儀礼は溜息を吐く。
まさかクリームと、儀礼の情報屋である『アナザー』が繋がっているとは、儀礼は思ってもいない。
「で、ギレイ。その偉そうな奴は誰だ?」
拓を目線で示してクリームが問う。
偉そうな、と言う言葉に儀礼はくすりと笑い、怒気に身を固まらせる。
「僕の村の、次期領主様。タク・タマシロ。獅子の許婚のお兄さん。」
儀礼は慌てて拓を紹介する。
偉そうではなく、事実偉いことを証明した。
平民の儀礼からすれば、貴族の拓は目上の人だ。
「「……。」」
クリームとマフレは口を閉ざして考える。
Sランクと次期領主、どちらが上の存在か。
真実は考えなくても分かるのだが、やはり、次期領主の方が偉そうな態度だった。
いや、そういう仕草に慣れている、という感じだった。
「とりあえず、座って座って。町はどんな感じなの? もう問題なく暮らせるようになった?」
儀礼は3人にテーブルの椅子を勧める。
「ああ。大体は片付いたからな。町の方はもう前のように活気を取り戻している。いや、前以上だと町の人は言っていたな。」
椅子に座ると楽しげにクリームは笑う。
「そうなんだ、よかった。」
「町外れの方も、手を入れて、新しく人が住める環境を作っている。町はさらに発展するだろうな。」
マフレの言葉に、儀礼は笑う。
「いい方向に向かってるんだね。人は強いね。」
そう言う、儀礼の背後に、白い魔法陣が浮き上がった。結界を破る転移の陣。
現れたのは、全身目の覚めるような青色の服を着た男だった。
髪の色までもが青く染められている。
ただちに警戒する戦闘員達をよそに、その男か軽い感じの声で言葉を告げた。
「悪い、ちょっとこいつ借りてく。」
そう言いながら、男は儀礼の白衣を剥ぎ取って、落とし、身軽にしてから抱え上げる。
「そんな、髪の青い人に知り合いは居ません。」
儀礼もまた、緊迫感のない声でそんなことを言った。
「お前、ふざけてる場合じゃねぇ。緊急事態だ!」
男はそう言いながら、再び白い魔法陣と共に消えてしまった。
「追う?」
ランジェシカがいつもらしからぬ、鋭い目線で問いかけた。
「いや、いい。」
答えたのはクリームではなく獅子だった。
「多分、知り合いだ。あの様子なら問題ねぇ。」
「だな。本気でやばかったらこっち見て『行ってきます』とか言うだろうな。」
拓も言う。
「それ……言葉の使い方、すげぇ、間違ってるだろ。」
呆れたようにクリームは言った。
こうして、天才と言われる少年は、青い何者かに連れ攫われたのだった。
「一応探っておく。ラン、どうだ? 捉えてるか?」
「なんとか。でも細い。」
冷や汗を流し、真剣な表情でランジェシカが答えた。
本気で、男と儀礼の魔力を追跡しているらしい。
「あの男、攻撃系の魔法使いっぽかったのに、なんて精度だよ。補助魔法も一流だ。」
マフレが驚いたように言った。
マフレはすでに追尾できないほどの速さで逃げられてしまっていた。
組織で元、ナンバー2だったランジェシカだからこそ、相手を捉えていられるのだ。
しかし、ランジェシカは、他人を運ぶことができない。
追っていっても、一対一であの魔法使いと戦うことになるのだ。
「無理をすることはない。別ルートを使うから。本当に問題ないんだな?」
確認するようにクリームは獅子を見る。
「儀礼の車が動いてねぇから、大丈夫だよ。あいつも子供じゃねぇんだし、出かけたりもするさ。」
獅子は言う。
「いや、出かけたって言うか、今のどう見てもさらわれた、だろ。」
「ん? 村の年長の女共がいつもあんな感じだったよな。」
今度は獅子が拓に確認するように問う。
拓はにやりと笑った。
「あいつがどんな目に合うかは知らねぇがな。」
それは、本当に楽しそうな笑みだった。
村のお姉さん方に連れ去られた儀礼の運命、そのほとんどが、着せ替え人形と化していたのは、儀礼の忘れたい記憶の一つである。
「連絡くれれば結界解くのに。」
当たり前のように入ってくるヤンやアーデスが異常なのである。
普通の魔法使いには、朝月の結界を通り抜けて入ってくるのは大変な困難で、結界を張る本人の了承を得なければ通り抜けることは不可能に近い。
「ランジェシカが居なけりゃ、入れなかったよ。」
苦笑を浮かべてマフレは隣りのランジェシカを見る。
長髪の少女はおっとりとした表情でふわりと笑ってみせた。
「久しぶりだね。元気だった?」
儀礼もにっこりと笑い返す。
「あなたも、元気そう、だった。」
にっこりとランジェシカは微笑む。
「……うん。元気だった。」
まさか泣きそうだったとは言えない。
と言うか、元気そうだったとは、つまり、いつの間にかランジェシカには遠視されて確認されていたらしい。
「今日はどうしたの? いきなり移転魔法なんてしてきて。」
話題を変えるように、儀礼はクリームへと問いかけた。
「あたしは、いつも通り転移陣を通ろうとしたんだが、こいつら二人揃ってて、止める間もなくって感じだよ。ったく、人の話なんか聞きやしねぇ。」
「なおったの。」
クリームの言葉を遮るようにランジェシカが言う。
確かに、説教を聞くつもりはないらしい。
「なおったの?」
儀礼は問い返す。
「町。」
嬉しそうに、ランジェシカは微笑んだ。
「わっ、すごい。もう復旧したの? はやいね。」
嬉しそうに儀礼も笑い返す。
どうやら、ヒガが壊した町が直ったらしい。
「メッセージで知らせようとしたんだが、しばらくお前に連絡つかなかっただろ。」
何か、睨むようにクリームが言う。
呪われたナイフについては、クリームはまだ知らないはずだった。
あのナイフの持ち主が儀礼だと、今現在知っているのは、関係者以外では、穴兎ぐらい。
「ちょっと、ネットの不調で……。」
「ネットの不調な。」
怪しむようにクリームは儀礼を見る。
「おい、儀礼。何だ、そいつら。」
普通ではない気配を放つクリームたちに拓が警戒するように問いかける。
利香と白が別室に居てよかった。
一緒だったら、きっともっと殺気立った気配を儀礼は送られることになっていただろう。
「友達。クリームと、ランジェシカと、マフレさん。」
一人ずつを手で示して、儀礼は紹介した。
「クリームは『砂神の勇者』だよ。」
にやりと儀礼は笑う。
「お前か。了と一緒に遺跡を探索したって『勇者』は。」
感心したように拓は頷いた。
古代に関する知識のない獅子と一緒に、遺跡探索するなんて、それは本当に勇者だ。
別の意味で儀礼は頷く。
「いたい。」
儀礼は頭を押さえた。
「お前、今なんか変なこと考えてただろ。」
「ない。」
いきなり殴った獅子に儀礼は恨みがましい目を向ける。
しかし、当然ながら獅子に気圧される様子はない。
「リョウ? って?」
拓の言葉にクリームが首を捻る。
「獅子のこと。リョウ・シシクラ。獅子の本名だよ。」
「ああ、そういやそうか。『黒獅子』が通ってるからつい、忘れてたな。」
今度はクリームが頷く。
「で、町の作業は終わるんだが、ヒガはうちで預かってていいのか?」
町の復旧の連絡と、それを聞きたかったらしい。
「うん。それがたぶん、お互いに一番安全だと思うんだけど、仲間外れとか、ケンカとかにならないなら。」
「……新しい奴らが二人ほどヒガに噛み付いてるが、本人はどこ吹く風だな。気にもしてねぇ。預かっていいってんなら、もうしばらく借りておく。」
「借りるって、人なのに。僕の配下でもないし。」
言いながらも、儀礼はクリームの仲間が増えていくことに、なんとなく嬉しさを感じる。
出会った時の、クリームからの寂しさを、儀礼はもう感じない気がした。
「ああ、新しい助手候補が居るんだったか?」
「いないから!」
クリームの言葉を儀礼は即座に否定する。
どうやら、先程からの会話の流れから、儀礼の呪われたナイフの騒動をクリームは知っていると判断していいようだった。
厳重に隠しているわけでもないが、耳の早いことだ、と儀礼は溜息を吐く。
まさかクリームと、儀礼の情報屋である『アナザー』が繋がっているとは、儀礼は思ってもいない。
「で、ギレイ。その偉そうな奴は誰だ?」
拓を目線で示してクリームが問う。
偉そうな、と言う言葉に儀礼はくすりと笑い、怒気に身を固まらせる。
「僕の村の、次期領主様。タク・タマシロ。獅子の許婚のお兄さん。」
儀礼は慌てて拓を紹介する。
偉そうではなく、事実偉いことを証明した。
平民の儀礼からすれば、貴族の拓は目上の人だ。
「「……。」」
クリームとマフレは口を閉ざして考える。
Sランクと次期領主、どちらが上の存在か。
真実は考えなくても分かるのだが、やはり、次期領主の方が偉そうな態度だった。
いや、そういう仕草に慣れている、という感じだった。
「とりあえず、座って座って。町はどんな感じなの? もう問題なく暮らせるようになった?」
儀礼は3人にテーブルの椅子を勧める。
「ああ。大体は片付いたからな。町の方はもう前のように活気を取り戻している。いや、前以上だと町の人は言っていたな。」
椅子に座ると楽しげにクリームは笑う。
「そうなんだ、よかった。」
「町外れの方も、手を入れて、新しく人が住める環境を作っている。町はさらに発展するだろうな。」
マフレの言葉に、儀礼は笑う。
「いい方向に向かってるんだね。人は強いね。」
そう言う、儀礼の背後に、白い魔法陣が浮き上がった。結界を破る転移の陣。
現れたのは、全身目の覚めるような青色の服を着た男だった。
髪の色までもが青く染められている。
ただちに警戒する戦闘員達をよそに、その男か軽い感じの声で言葉を告げた。
「悪い、ちょっとこいつ借りてく。」
そう言いながら、男は儀礼の白衣を剥ぎ取って、落とし、身軽にしてから抱え上げる。
「そんな、髪の青い人に知り合いは居ません。」
儀礼もまた、緊迫感のない声でそんなことを言った。
「お前、ふざけてる場合じゃねぇ。緊急事態だ!」
男はそう言いながら、再び白い魔法陣と共に消えてしまった。
「追う?」
ランジェシカがいつもらしからぬ、鋭い目線で問いかけた。
「いや、いい。」
答えたのはクリームではなく獅子だった。
「多分、知り合いだ。あの様子なら問題ねぇ。」
「だな。本気でやばかったらこっち見て『行ってきます』とか言うだろうな。」
拓も言う。
「それ……言葉の使い方、すげぇ、間違ってるだろ。」
呆れたようにクリームは言った。
こうして、天才と言われる少年は、青い何者かに連れ攫われたのだった。
「一応探っておく。ラン、どうだ? 捉えてるか?」
「なんとか。でも細い。」
冷や汗を流し、真剣な表情でランジェシカが答えた。
本気で、男と儀礼の魔力を追跡しているらしい。
「あの男、攻撃系の魔法使いっぽかったのに、なんて精度だよ。補助魔法も一流だ。」
マフレが驚いたように言った。
マフレはすでに追尾できないほどの速さで逃げられてしまっていた。
組織で元、ナンバー2だったランジェシカだからこそ、相手を捉えていられるのだ。
しかし、ランジェシカは、他人を運ぶことができない。
追っていっても、一対一であの魔法使いと戦うことになるのだ。
「無理をすることはない。別ルートを使うから。本当に問題ないんだな?」
確認するようにクリームは獅子を見る。
「儀礼の車が動いてねぇから、大丈夫だよ。あいつも子供じゃねぇんだし、出かけたりもするさ。」
獅子は言う。
「いや、出かけたって言うか、今のどう見てもさらわれた、だろ。」
「ん? 村の年長の女共がいつもあんな感じだったよな。」
今度は獅子が拓に確認するように問う。
拓はにやりと笑った。
「あいつがどんな目に合うかは知らねぇがな。」
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