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ギレイの旅

千夜ニイ

ベクトの研究テーマ

 ベクトの研究テーマ。
 『魔物とは何か』


 この世界の魔物が物語りに出て来るような魔物たちと一致するものかは、今はわかっていない。
物語や伝説自体が実際にあったものか創作物なのか、それさえも不確かなのだから仕方がない。
少なくとも今、魔物と呼ばれるもの達は一度死んだか、正気を失い狂暴化し、異様な姿へと変化したものたちのこと指す。
または、遠い古代に封印された、いずれも邪悪な意思を持ち、強力な魔力を有する異形の者たちのことだ。


 どちらも血を好み、破壊や殺戮さつりくを糧としている。
特に後者で力の強いものは悪魔とも呼ばれ、存在しているだけで、周囲の生き物達を狂わせてゆく。
意思の弱いものは魔物へと変化してしまうのだ。


 人は憎しみや怨みなどの念が強い。
それが新たな闇を生み出しているとも気付かず。
だが同時に、情が深いのも人間ならではで、そんな闇の者にすら情けをかけようという変わり者がたびたび現れたりする。


 まぁ、ベクトのような者だ。
だが、たいていはうまくいかない。
それも仕方のないことだろう。


 魔物となった生物はその構造が作り替えられ、草食動物であったものさえが、するどい牙を持ち、内蔵などまで血肉を求めるための構造になる。
体の中の闇を払ったとしても、その構造を元に戻す事まではできず、結局、凶暴化させてしまったり、闇を払うと同時に、その生物の命が尽きたり、意識を失ったままになってしまう。


 今までの歴史では、生きている人間が魔物に変化したとは記録されていない。
死んだ後に魔物として蘇った例はいくつかある。
ユートラスで暴れたずっと昔に死んだはずのフェード兵たちのように。


 また、魔物とまでいかなくとも、今回のように、呪いのアイテムや魔剣により操り人形のようになってしまった人は存在する。
その多くは元となったアイテムを封印するか、闇に落ちた人間を葬ることで対処してきた。


 その人間たちを人は魔物とは呼ばない。
何故なら彼等は人を食そうとはしないからだ。
ただ、数多のものを切り刻み、殺戮に酔いしれるだけだから。


 ***


 ベクトが儀礼たちと別れて数ヶ月が経った頃――。


 『魔』となるものたちに世代があり、『第一世代』は周囲への影響力が強く、世代が低くなるほど周囲への影響力が弱まることがわかった。
つまり、獣の群れの中で最初に魔獣化(魔物化)した物を『第一世代』、親とし、その親から影響を受け、魔獣化したものを『第二世代』、『第二世代』から魔獣化したものを『第三世代』……とそれらは広がってゆくが、第三世代以降は、ほとんどの生物で、同種、多種、の生物含めて『魔獣化の影響がない』ことがわかった。


 逆に言えば、『第一世代』がいる限り、周囲の生物への影響が続き、魔獣化(魔物化)は広がるが、この『親』さえ倒してしまえば、魔獣化を早期にくい止めることができる、と判明したのだ。


 ある日、世界中に表明されたそんな研究説は人々に驚きと感嘆を与えた。


 青年が儀礼たちと出会った日から半年ほど、後のことになるのだが。
ベクトの求めるもの、『魔物とは何か』その答えは、まだみつかっていないが、それでも、少しでも人類に対する、魔物と魔獣化するものの被害を減らせることができるようになったのは大きな進歩である。


 魔物を調べることが、人を救う道に繋がった。
ベクトの研究説を馬鹿にするようなものは、いつの間にか、全くいなくなったのだった。
その後、ベクト自身が闇に落ちることもなかった。
幾度か、儀礼へと助手にして欲しいと願い出ることはあったが、儀礼は何かと理由をつけて断ることにしていた。
その研究説の発表により、管理局よりAランクを与えられたベクトは、すでに、誰かの下に付く研究者ではなくなっていたのだ。


……例え、その後、封魔に成功した魔獣を何体も飼いならすベクトを、人々が『魔獣使い』などと呼ぶようになっていたとしても、神官グランの手伝いをして、魔物を封印する技術を高め、いくつもの古代遺産に似通った物質アイテムを作り出したとしても、それらはすべて、儀礼のあずかり知らない事なのであった。


 ***


 また、さらに余談ではあるが、儀礼たちが去った後の町では……。
『持ち主の分からなかった』呪われたナイフの解呪代のかわりに、町を救った礼として、グランに多くの寄付をした魔剣『マーメイド』の持ち主が、人々の尊敬を集め、町の代表者にまで上り詰めたとか。


 また、彼が、その町で長く権力者として馳せたのは、その収益の一部を、人々のために尽くす『神官グラン』に寄付し続けたのも、大きな理由になったと言われている。

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