ギレイの旅
フィッシュ・オン!
「申し訳なかった! もう二度と致しません。私が闇などに興味を持ったばかりに、大変なご迷惑をおかけしました!」
全ての儀式が終わった後、モートックはグランの前に膝を着き、平謝りに謝っていた。
自分の身に危険が迫った状態で、あの闇を打ち払ってくれた、命の恩人なのだから。
「いいえ、私がいけなかったんだわ。大変強力な呪いだと気付いていたのに。まさか、儀式陣の中で形どるほどと思っていなくて、危険な目に遭わせてしまってお詫びのしようがございません。」
同じようにモートックの前に膝を折り、頭を下げるグラン。
「おやめください! 私が、私が魔剣を開封しようなどと思ったことがあのようなことを引き起こしたのです。申し訳ございません。どうか、どうかお許しください。」
顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべているモートック。
それを少し離れた場所で見ていたベクトたち。
儀礼はモートックの様子に安心したように息をつき、にやりと笑って見せた。
「うまくいったね。」
周りにいる僧侶達には気付かれないように、小さな声で儀礼は言った。
「本当ですね、びっくりしました。でも、危なかったじゃないですか。もしグラン様の詠唱が間に合わなかったら、どうなっていたか。」
身震いするように首を振ってベクトは儀礼に聞く。
その儀礼のそぶりはなぜか、失敗する気がなかったように見えてならない。
「僕の張った結界でも十分、時間稼ぎにはなりますからね。たまたますごい、いいタイミングでグランさんが昇華してくれたから、効果抜群♪」
満足そうに笑う儀礼に、呆れの混じるベクト。
「あなたは、気をつけたほうがいいですよ……。その(天使の)笑みに、邪気のない悪意が見え隠れするんですけど。」
なんだか、泣きそうな顔でベクトが言う。
「そんな、人を悪人みたいに……。結果的にはいいことだろ。」
困ったように一瞬口を結んでから、モートックとグランに視線を戻す儀礼。
「闇がモートック氏を襲ったことも計画通りってことですか?」
あそこまで、闇がモートック一人に標的を絞る理由がベクトにはわからない。
儀礼の言ったとおり、闇に惹かれているだけで、闇に襲われる理由が足るとは思えなかった。
「だって、僕の隣にいて、ベクトさんの前にいたんだよ?」
わからなかったの? と、逆に儀礼は首を傾げてしまった。
「え? えーっと、……僕とギレイさん、ですか?」
ベクトは、思い返す。
闇につかれたときの感覚を。
闇につかれた自分と、長く染み付いた同色の気配が、儀礼から感じられたことを。
「……つまり、僕とギレイさんがエサだったと?」
「あはは、釣り上げ成功!」
ピースサインをして、楽しそうに笑う儀礼。
まかり間違えば、まさしく自分があの死神に食われていたと知り、全身から血の気が引いていくベクト。
「お前はまた無茶をして。」
ゴン、と言う音と共に、儀礼の頭にひじを当てる獅子。
「いてっ、聞いてたのか……。」
苦笑しながら獅子を振り返る儀礼。
目を鋭くさせている獅子の横では白が、興味深そうに儀礼に視線を送ってくる。
「何? 白。何かあった?」
頭を押さえながら儀礼が聞くと、白は数回瞬きした後に、口を開いた。
「どうして、呪いに関わって、……そんなに前向きでいられるの?」
不思議そうな表情で覆われてはいるが、白の内面からは切羽詰ったような真剣さが伝わってくる。
「そうですね。なぜ闇の気配が染み付くほど長い間、呪いのアイテムを持っていて、正気でいられたんですか?」
もう一人、真剣な様子で儀礼に聞くのはベクト。
儀礼は一瞬戸惑い、考えるようにしてから話し出す。
「だから、聖布に包んでたし……。呪いなんて言ったって、要は魔物の残留魔力だよ。世界には、いたずらが過ぎて、悪魔とされた精霊もいるし、鎮める為に神として祭られてる魔物もいる。魔剣だって、魔物が封じられて力を持つわけだから、ある意味呪いと同種だろ。」
儀礼はそこまで言って獅子の剣に目を向け、表情を変える。
深く考えるようにしていた眉間のシワを消し、穏やかな笑みに。
世界を混乱に陥れる力を持ちながら、世界を守る聖なる剣『光の剣』。
持ち主は、その魔剣を持っていてもまるで変わらない。
「それに、正直、聖布に包んだ状態の邪気は、僕には有意なものだったし。」
「あんなの儀礼じゃねぇ。儀礼って言ったら一睨みで泣き出すくらいでなきゃ。」
にぃと儀礼が言えば、獅子が茶々を入れる。
「ちょっと待ってよ。僕の評価ってどこまで低いんだ、それ。」
困ったような顔で儀礼は獅子を睨む。
そんなもん効かん、とばかりに、にやりと笑っている獅子。
「ちぇ。」
あきらめたように視線を逸らすと、儀礼は再び白とベクトに向き直る。
「……だから、要するに、僕にとっては呪いって言うより、ただのアイテムだったんだよ。ちょっと物騒だけどね。でもその点、獅子の『光の剣』だって持つ人によっては戦乱を起こす力があるんだから、危険に変わりないだろ。どう使うかは自分次第だ。」
ね? と投げかけるように儀礼は返答を終える。
白の目の前に、守護精霊が飛んでくる。
《降りかかった不幸を糧にするか、枷にするかはその者しだい。》
精霊シャーロットは音でない言葉で、意味だけを白に伝えた。
《あなた次第。》
シャーロットの小さな手が、白の頬に触れた。
それは励ますような優しい触れ方。
白はその手を包むように触れ返し、自分の中に納得する答えを見つけていた。
全ての儀式が終わった後、モートックはグランの前に膝を着き、平謝りに謝っていた。
自分の身に危険が迫った状態で、あの闇を打ち払ってくれた、命の恩人なのだから。
「いいえ、私がいけなかったんだわ。大変強力な呪いだと気付いていたのに。まさか、儀式陣の中で形どるほどと思っていなくて、危険な目に遭わせてしまってお詫びのしようがございません。」
同じようにモートックの前に膝を折り、頭を下げるグラン。
「おやめください! 私が、私が魔剣を開封しようなどと思ったことがあのようなことを引き起こしたのです。申し訳ございません。どうか、どうかお許しください。」
顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべているモートック。
それを少し離れた場所で見ていたベクトたち。
儀礼はモートックの様子に安心したように息をつき、にやりと笑って見せた。
「うまくいったね。」
周りにいる僧侶達には気付かれないように、小さな声で儀礼は言った。
「本当ですね、びっくりしました。でも、危なかったじゃないですか。もしグラン様の詠唱が間に合わなかったら、どうなっていたか。」
身震いするように首を振ってベクトは儀礼に聞く。
その儀礼のそぶりはなぜか、失敗する気がなかったように見えてならない。
「僕の張った結界でも十分、時間稼ぎにはなりますからね。たまたますごい、いいタイミングでグランさんが昇華してくれたから、効果抜群♪」
満足そうに笑う儀礼に、呆れの混じるベクト。
「あなたは、気をつけたほうがいいですよ……。その(天使の)笑みに、邪気のない悪意が見え隠れするんですけど。」
なんだか、泣きそうな顔でベクトが言う。
「そんな、人を悪人みたいに……。結果的にはいいことだろ。」
困ったように一瞬口を結んでから、モートックとグランに視線を戻す儀礼。
「闇がモートック氏を襲ったことも計画通りってことですか?」
あそこまで、闇がモートック一人に標的を絞る理由がベクトにはわからない。
儀礼の言ったとおり、闇に惹かれているだけで、闇に襲われる理由が足るとは思えなかった。
「だって、僕の隣にいて、ベクトさんの前にいたんだよ?」
わからなかったの? と、逆に儀礼は首を傾げてしまった。
「え? えーっと、……僕とギレイさん、ですか?」
ベクトは、思い返す。
闇につかれたときの感覚を。
闇につかれた自分と、長く染み付いた同色の気配が、儀礼から感じられたことを。
「……つまり、僕とギレイさんがエサだったと?」
「あはは、釣り上げ成功!」
ピースサインをして、楽しそうに笑う儀礼。
まかり間違えば、まさしく自分があの死神に食われていたと知り、全身から血の気が引いていくベクト。
「お前はまた無茶をして。」
ゴン、と言う音と共に、儀礼の頭にひじを当てる獅子。
「いてっ、聞いてたのか……。」
苦笑しながら獅子を振り返る儀礼。
目を鋭くさせている獅子の横では白が、興味深そうに儀礼に視線を送ってくる。
「何? 白。何かあった?」
頭を押さえながら儀礼が聞くと、白は数回瞬きした後に、口を開いた。
「どうして、呪いに関わって、……そんなに前向きでいられるの?」
不思議そうな表情で覆われてはいるが、白の内面からは切羽詰ったような真剣さが伝わってくる。
「そうですね。なぜ闇の気配が染み付くほど長い間、呪いのアイテムを持っていて、正気でいられたんですか?」
もう一人、真剣な様子で儀礼に聞くのはベクト。
儀礼は一瞬戸惑い、考えるようにしてから話し出す。
「だから、聖布に包んでたし……。呪いなんて言ったって、要は魔物の残留魔力だよ。世界には、いたずらが過ぎて、悪魔とされた精霊もいるし、鎮める為に神として祭られてる魔物もいる。魔剣だって、魔物が封じられて力を持つわけだから、ある意味呪いと同種だろ。」
儀礼はそこまで言って獅子の剣に目を向け、表情を変える。
深く考えるようにしていた眉間のシワを消し、穏やかな笑みに。
世界を混乱に陥れる力を持ちながら、世界を守る聖なる剣『光の剣』。
持ち主は、その魔剣を持っていてもまるで変わらない。
「それに、正直、聖布に包んだ状態の邪気は、僕には有意なものだったし。」
「あんなの儀礼じゃねぇ。儀礼って言ったら一睨みで泣き出すくらいでなきゃ。」
にぃと儀礼が言えば、獅子が茶々を入れる。
「ちょっと待ってよ。僕の評価ってどこまで低いんだ、それ。」
困ったような顔で儀礼は獅子を睨む。
そんなもん効かん、とばかりに、にやりと笑っている獅子。
「ちぇ。」
あきらめたように視線を逸らすと、儀礼は再び白とベクトに向き直る。
「……だから、要するに、僕にとっては呪いって言うより、ただのアイテムだったんだよ。ちょっと物騒だけどね。でもその点、獅子の『光の剣』だって持つ人によっては戦乱を起こす力があるんだから、危険に変わりないだろ。どう使うかは自分次第だ。」
ね? と投げかけるように儀礼は返答を終える。
白の目の前に、守護精霊が飛んでくる。
《降りかかった不幸を糧にするか、枷にするかはその者しだい。》
精霊シャーロットは音でない言葉で、意味だけを白に伝えた。
《あなた次第。》
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