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ギレイの旅

千夜ニイ

警備隊長との合流

「それは、そうなんだけど……。」
ベクトの『配下になりたい』という発言に、儀礼は戸惑い、ようやく、布団の上で起き上がり、手探りで色眼鏡を探した。
昨日、儀礼が管理局で聞いてきたベクトのランクはBだった。
Bランクの者を配下に持つなら、管理局のランクは、Aランク以上であることが基本だった。
薄く開けた瞳に、昨日牢に捕まりそうだ、と愚痴ってあったアナザーからの、返答のメッセージが映り込んだ。


 穴兎:“捕らえる側の人間を味方につけた。”


(意味が分からない。)
ぼんやりと儀礼は考える。寝ぼけた頭ではなおさらだった。


「ふぁ~あ、とりあえず、依頼人の所に行って、『魔剣』預かってから管理局に行くんだ。手伝ってくれるなら助かるよ。正直時間が厳しいんだ。」
大きなあくびを一つしてから、儀礼は立ち上がる。
「はい。」
青年は、嬉しそうに返事をして、儀礼の後につく。


「コレクターのモートックさんて、知ってる? そこに『マーメイド』って魔剣を預かりに行くんだ。」
「……どっちもわかります。有名ですから。」
儀礼の言葉に、一瞬、驚いたように息をのんだベクトだが、それを預かるとは、やはりすごい人だ、とますます目の前の少年への尊敬心を高める。


 いまだ寝ぼけたままの儀礼は、そんな青年の様子に気付かない。
「で、その魔剣の詳細を調べて、報告するのが今回の仕事なんだけど……。なんか、魔剣の名前からその人、幻想抱いてるみたいなんだけど、水の力を持ってる剣ってだけで、封じられた魔物は所謂いわゆる『海の鬼』なんだよね。」


「へぇ~、そうなんですか。それは知りませんでした。でも、魔剣としての力は強いんですよね。」
「うん。ちゃんと扱える人なら、川の一本くらい作れるんじゃない?」
特に興味もないように言う儀礼は、実は、半分以上目をつぶって部屋を出て、教会の廊下を歩いていた。
意識も、半分夢の中……だったりする。
それでも、危なげもなく、教会の外へと到達した。
そこで、 ドン!
行き当たり、人にぶつかった。


「すみませんっ!」
後ろにはじかれ、倒れそうになりながらも、とっさに謝る儀礼。
儀礼が倒れる前に、青年が倒れかけた儀礼を受け止める。


「ありがとう。」
後ろの青年に礼を言った後、儀礼はようやくしっかりと目を開き、ぶつかった人物を見る。
「あ……。」
それは、昨日さんざん睨み合った、町の警備隊長だった。


「寝ながら歩くなんぞ、お前、正気ではないな! 町の安全のためには捕まえてやるっ!!」
儀礼の襟首に手をかけ、絞め殺さんばかりの形相で隊長は怒鳴ってくる。
が、そこで突然隊長は苦々しい表情になり、パッパッと儀礼の身なりを整える。
「と言いたいが、……今日のところは見逃してやる。仕方ない。護衛対象を拘束したんでは、あまりに格好がつかん。」
そう、吐き捨てるように言うと、ピッと敬礼をする。
もちろん、儀礼に向かって。


「……すみません、何の冗談でしょう。」
イライラとした怒気をぶつけられて、護衛するなんて言われても、儀礼にとっては嫌がらせにしか感じられない。
「俺にもわかるか! 突然上部から指令が入ったんだ。闇の取り付いた者からお前を守るようにと。グラン様が預かったはずなのに、ナゼお前がその男を引き連れているんだ!」
本当に、憎らしいものを見るように、儀礼を見てくる警備隊長。


 儀礼には、ようやくこの状況が理解できて来た。
先ほどのアナザーからのメッセージ。
(これがその答えか。)
「グランさんから許可はいただきました。何日か僕の手伝いに回ってもらいます。引き離すようには言われていないんですよね?」
確認するように聞く儀礼。
隊長は、不満そうな顔でフンと鼻を鳴らす。
肯定、ととってよさそうである。


 何日か牢に入るかもしれない、なんて送ったから捕らえる側の人間を、護衛として送り込んできたらしい。
もちろん、アナザー得意の『裏の手』を使ってだろう。
穴兎ウサギ、いつか君の方が捕まらないか心配だよ……。)
儀礼は一瞬、瞳を伏せる。
(後で、手数料代わりになにか見繕っておこう。)


 儀礼:“受け取り完了。でも、もう少し人は選べなかったの……?”
感謝はあるが、ちょっぴり泣き言も混ぜておいた。
ごっつい男に張り付かれて、嬉しい者などいないだろう。
すぐに返信は来た。


 穴兎:“そのへんで、一番えらい奴にしといた ♪ ”
(明らかに……、迷惑承知で遊んでやがる。)
 儀礼:“了解。感謝の気持ちはどぶに捨てとく。”


 穴兎との短いやり取りを終え、儀礼は現実に向き直る。
何か、この警備隊長の機嫌を直して、スムーズな一日を……。
「あの、正直助かりました。僕ら、これから、魔剣の受け取りに行くんで、文人ぶんじん二人では何分、不安でしたから。僕の警護より、その魔剣の警護のつもりで、お願いします。」


(そう、魔剣の警護だ!)
儀礼はふっと気持ちが軽くなるのを感じる。
自分で考え付いていい考えだ! と、顔がにっこり笑えてくる。
男が張り付いているのはあくまで剣で、自分は一緒にいるだけ。
「わかった。」
警備隊長は短くうなずいただけだが、苛立ちが消えている。
そうして、儀礼とベクトが並び、その後ろから隊長が続く。
三人で、資産家モートック氏の館へと向かうのだった。


「そう、子供じゃないか。魔剣を預かるのが不安だったなんて、まさしく子供だ。子供に対して大人気ない態度はいかん。」
後方で一人ぼそぼそ呟く警備隊長だが、この町を守る警備隊長として、子供の笑顔にほだされた、と言うのは心中、必死で否定していたそうだ。

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