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ギレイの旅

千夜ニイ

獅子の仕事内容

 その夜。
儀礼を、無理やり連れて獅子は白と共に宿に戻った。
そして夕飯の後、獅子の仕事の話が始まった。


 仕事を終えて帰って来たはずの獅子は、仕事帰りとは思えないほどに、元気だった。
「色んなパーティと仕事してきたんだよ。やべぇ、今日はめちゃくちゃ楽しかったぞ。大型の魔獣が結構いて、熊とか大猿とかサイ型とか。討伐依頼受けたら、一緒に受けたパーティの魔法使いとかが、移転魔法で森まで連れてってくれるんだよ。」
「移転してくれるんだ、さすがフェードのギルド。すごいね。」
儀礼の言葉に頷き、ベッドの上で胡坐をかき、瞳を輝かせ、楽しそうに獅子は仕事の話を続ける。


「そんで、3回目に行った先の、洞窟みたいな所には、でっかいトカゲみたいのがいてさ。ワニよりでかいんだぜ。10mはあったな。」
獅子は両手を大きく広げてそのトカゲが大きかったことを説明する。


「あんなでかいのに、名前はちょっとかわいくて、みんなチリューとか呼んでたけど、強いんだ、これがっ!! 動きは速いし、力はあるし、何より、岩吐くんだぜ? 信じられるか?! 口の中から、でっかい岩が大砲撃ち出したみたいに凄い速さで飛び出して来るんだ。」
身振り手振りを交えて、興奮した様子で獅子はその状況を説明する。


「え? チリューって、まさか地竜?」
獅子の話に、白が瞳を見開き、驚いたような声を上げる。
地竜ちりゅうとは、アースドラゴンと呼ばれる、Aランクの魔物のことだ。
空を飛ばず、地を這う翼を持たないドラゴンの一種。
最強と言われる種族の魔物だけあり、戦うのは大変な危険を伴う。


「なんか言ってた? 周りの人。」
慌てる白とは反対に、落ち着いた態度で獅子の話を聞く儀礼は、意味深な微笑みを浮かべて獅子へと問いかける。


「ああ。『Bランクのクエストに、なんでAランクの魔物が出るんだ!』って騒いでたな。」
大きく頷いて獅子は答えた。
「やっ、ホント、運がいいよな! たまたま出会った場合は、仕事請けなくても討伐できるんだもんな。俺がBランクでも関係ない。」
にやりと、獅子は笑って言う。
儀礼には、他の冒険者たちがAランクの魔物に、慌てふためき、逃げ腰になっている場面に、獅子が一人で、喜び勇んでアースドラゴンに挑みかかっていく光景が目に浮かぶようだった。
光の剣はそれはきっと煌々と輝いていたことだろう。
今日もまた、光の剣の守護者『黒獅子』伝説は更新されたはずである。


「僕らは今日は、管理局で良かったよね~、白。」
はははは、と儀礼は誰もいない壁を見つめて、乾いた笑い声を上げた。
白は小さく頷いた。
身体を動かす方が好きな白でも、さすがに、いきなりAランクの魔物ドラゴンに挑むつもりはなかった。
アースドラゴンの素早さで追われたら、魔力で身体強化をしたとしても、その鋭い爪や牙から逃れられるか、白には分からなかった。


「残りの魔獣も、全部討伐してきたの?」
獅子の挙げたたくさんの魔獣を考えて、儀礼は確認するように問いかける。


「ああ。今日一日だけで、色んな場所に行ったぞ。どこだかは詳しく聞かなかったんだけどな。次々人が誘ってくれてさ。『俺達これから、なんとかって森に行くんだけど来ないか?』とか、『荒野に行くから来ないか』とかな。」
うんうん、と頬を緩めて大きく獅子は頷いた。


「あと、枯れた草原みたいな所に、でっけぇ、鳥がいてさ。大きめな家ぐらいの大きさがあってよ、くちばしの中には余裕で人が、入れそうだったぜ。」
またも、大きな魔物のサイズを示して獅子は腕を大きく広げてみせる。
(魔物の口のに入ってどうする。)
それは食べられるということだ。一口で人を食らう魔物。
儀礼は獅子の戦った魔物を想像し、苦笑した。


「そいつは、何か倒さなくて良くて、追い払うんだって言ってたけどな。」
つまり、パーティリーダーがその場にいたメンバーでは、その魔物を『討伐不能』と判断したということだろう。
どれほど強い魔物だったかがそれで伺える。
獅子はきっと、その魔物を『追い払う』という意味に気付いていない。
体には大した傷を負った様子も見られない。
『討伐不能』だったのは、他のメンバーが『戦闘不能』になったからだろうな、と儀礼は推測する。


「羽とかすげー、でけえんだよ。羽ばたくと、風圧って言うか竜巻みたいな風を起こすんだよ。最後は戦いに飽きたのか、自分で飛んでったんだけどな、光りながら一瞬で飛んでくから、鳥って言うか、流れ星みたいだったな。」
天井を見上げ、そこにその星が見えるかのように獅子は嬉しそうな笑みを浮かべる。


「光る巨大な鳥って、まさか、まさかっ!」
白は、想像できる極彩色な鳥の姿に、声を失っていた。
そんな白を見てから、儀礼は獅子に目線を戻す。
「その鳥カラフルだった?」
「いや、緑一色だ。一色って言うか、こう……。」
何か言いたげに、獅子は開いた手をしきりに動かす。


「うん。光ってたんだね。『緑鷹りょくよう』だ。よかったね、白。『鳳凰ほうおう』じゃなくて。」
くすりと白に向かって儀礼は笑った。


 緑鷹りょくようは『グリーンホーク』とも呼ばれる、風の魔力を強く持つ魔鳥だ。
猛禽類の姿をしているが、獅子の言うように、普通の鳥とはサイズが違う。
風を操る時には、全身を緑色に光らせると言う。
普通のグリーンホークはBランクなのだが、家一軒という大きさと、高い空に飛んでも星に見えるほどの強い輝き。
その強さならば、群れていなくてもAランクになるだろう。


 しかし、そのパーティリーダーの読みは甘い。
その魔物の生態や攻撃、弱点を説明さえすれば、獅子はきっとその緑鷹グリーンホーク、一人で討伐して魅せたことだろう。
Bランクの16歳の少年が、Aランクの冒険者数人がかりで敵わない、Aランク緑鷹りょくようを一人で討伐する。
(うん、考えないだろうな。)
心の中で、儀礼は笑う。


 白の勘違いした鳳凰ほうおうというのは、魔獣ではなく神の使いとされる霊獣だ。
鳥なので、霊鳥と言うべきか。
自然界に害をなす『魔』の要素はなく、聖なる力を持っていると言われている。
だが、鳳凰は伝説の存在だ。物語の中にしか、確認されていない空想の領域の生物。


「でもさ、確かに、伝説になってる『光の剣』なんて持ってたら、いつか寄ってきそうだよね。わかる。その気持ち。」
共感を表す微笑を浮かべて、儀礼は楽しそうに白を見ていた。
もう一つの伝説と言われるような存在、ドラゴンにさえ、獅子は今日会って来たのだ。
本人は、まったく気付いていないようだが。


「結局、どれ位の仕事こなしてきたの?」
儀礼の問いに、獅子は考えるようにして指を折る。
「偶然のAランクが2件だろ。Bランクは13、4件か? ついでのCランクも4つか5つだな。一緒に行った人も色々で、あれ多分、違う国の人もいたと思うんだ。知らない言葉話してる奴とかいてさ。」
獅子の言葉に、儀礼は知らず冷や汗を流した。
それはきっと、獅子が違う国へと連れてかれていたのだろう。
どこに行っても、この男なら生きていけそうだ。さすが、『黒鬼』の息子なだけはある。
儀礼は頬に浮いた冷や汗を拭い、そこに今度は笑みを浮かべる。


「全部他の人と一緒に行ったんだ?」
「ああ。移転魔法って便利だな。近くの仕事全部終わらせちまって、帰ろうかと思ったらそうやって、声かけてくれてさ。ほんっと、楽しかった。」
ニィッ、と本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、獅子は笑う。


 その顔は、幼い顔立ちの英の笑顔とよく似ていて、白は思わず笑みを零した。
獅子の戦いを語る姿は本当に、とても楽しそうだった。


「Aランク2件か。なら獅子、もう少しでAランクになりそうだね。一人でAランクの仕事請けられるようになるよ。」
にっこりと楽しむような笑みで、儀礼は言う。
「お前は、またそういうことを――っ。」
一人で行け、と取れるような儀礼のセリフに、獅子は拳を握りしめた。
待って、と儀礼は慌てて言葉を継げたす。


「僕まだ、Dランクだよ?! 僕に合わせてたら、獅子はいつまでも力を発揮できないよ。楽しかっただろ、今日。加減するだけじゃなくて、たまには自分のために行っておいでよ。僕は、いつも見てもらってばっかで、管理局で好き放題してるんだからさ。」
真っ直ぐに獅子を見る、感謝を含んだ儀礼の笑みには、誠意が現れていた。
「好き放題……してる自覚はあるんだな。」
握った拳のやり場に困り、獅子は仕方なさそうに、短い髪を乱暴にかき上げた。


「白もありがとう。」
突然、儀礼に正面から言われ、白はキョトンと動きを止めた。
白には、感謝をされる覚えがないようだった。
「白が、いてくれるから、獅子は安心して仕事に行けたんだよ。白の前で、僕が生活崩すわけにいかないからね。それに――、白も強いし。」
儀礼の目が一瞬、泳いだ。
これだけ異常な獅子の活躍を聞いてなお、儀礼は、昼間、小さな身体の白が、絡んできた男を一瞬で仕留めた事件を、忘れてはいなかった。

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