ギレイの旅
気付かれない
完全に、儀礼のくだらないいたずらに付き合わせて、白を傷つけてしまったようだった。
守ると誓った存在を、自分で傷つけてどうするのか。
儀礼は痛む程に拳を握って考えた。
「でもね、白。ラーシャは優しいから許してくれるよ。この場合、怒られるのは僕だけだから。きっと、いい友達になれるよ。」
儀礼が笑って言えば、白は安心したように微笑む。
「私ね、同じ歳くらいの友達初めてなんだよ。」
嬉しそうに白が言った。
「特にね、女の子の友達はいなかったの。」
白の、言葉に儀礼は衝撃を受けた。
儀礼にはたくさんの友達がいた。
友達と言えるものかは分からないが、儀礼が小さい頃から、毎日ひらひらした布を持って追いかけてくる熱心なお姉さん達は大勢いた。
「……ほんと、ごめん、白。」
白の、安全で貴重な友人を作る機会を儀礼は潰してしまったらしい。
(貴族って、友達できないんだったっけ? 拓ちゃんには、いるよね。あれ? 全部下僕だったっけ? いや、そんなはずは……。利香ちゃんには、いる。)
儀礼は自分の知識が本の中のから生まれている、偏りのあるものだということを知っている。
自分の常識が世間の常識でないことも、たまにはあると思っていた。
とにかく、白には同じ歳頃の友人がいなかったらしい。
身分の差があるとか、家同士の確執とか、そういう難しい関係があったのかもしれない。
しかし、白の言った「友達」という言葉は、真っ直ぐに儀礼にも向けられていた。
そのくすぐったいような嬉しい言葉に、儀礼は向き合う。
「じゃぁ、あらためて――。僕はドルエド国、シエン村の団居儀礼です。よろしくね。」
手を差し出し、儀礼は最上級の笑みを浮かべた。
「まどい ぎれい?」
その行動の意味を理解して、白は照れたように儀礼の手を握った。
そして、聞きなれない名乗りを口にした。
「シエンでの言い方なんだ。昔から、シエンではそう。苗字が先で、名前が後。シエンがドルエドに吸収されるより前からね。団居には団欒って意味があるんだよ。みんなが、仲のいいこと。それを作るのがシエンが『国』だった頃の団居家の仕事だったんだって。」
嬉しそうに、儀礼は自分のルーツを語る。
儀礼の父、団居礼一は、今もシエンで学校の教師をしている。村の暮らしを良くするために。
見た目はどれだけ違っていても、やはり儀礼はシエンの生まれで、その団居の一族なのだ。
「そうなんだ。アルバドリスクではね、聖人とか聖女の名前を付ける事が多いんだよ。私の名前もそうなんだ。それにね、祖先に有名な人とか、聖人とかがいると、それを氏として使うんだ。だから、実は、アルバドリスクには苗字も名前も聖人の名を使った人がいっぱいいるの。」
くすくすと白は笑った。可笑しそうに。
白の機嫌が治ったようで、儀礼は安心して微笑む。
「そうなんだ。いつか、行ってみたいな。母さんと、白の国、アルバドリスク……。」
そう言ってから、儀礼は机の上の黒い布のことを思い出す。
「あっ、この黒い布はバクラムさんが届けてくれたのかな?」
儀礼が頼んでおいた、黒いのに透けて見える布。それが畳まれて机の上に置いてあった。
是非これで、目が見えない振りをして獅子をからかってみたい。
もちろん、獅子には本物の目隠しをさせる。
目隠し状態の打ち合い。
獅子倉の道場ではたまにやっていたらしいが、儀礼が参加したことはない。
真剣でやるので、初心者にはお勧めできない。
というか、竹刀、もしくは木刀でやれ、と儀礼は思う。
もちろん、儀礼がやる時には木の枝でも拾ってきて勧める。
聖剣『光の剣』など、使用者が目を閉じていても、相手の位置を教えてしまいそうだ。
「ううん。シュリって男の子が持ってきたよ。」
儀礼の質問に白が答えた。
「そのシュリって人ね、私のことじっと見て、『やっぱりちょっと雰囲気が違う気がする』って言ってた。私がギレイ君じゃないって、ばれるかと思ってドキドキしっちゃったよ。」
白はそれでも楽しそうに笑っている。
「え……? あれ!? もしかして、気付かれなかったの? 誰にも?」
その白の言葉に、驚いたように儀礼は目を見張る。
「え? うん。ギレイ君は、気付かれないようにしたかったんじゃなかったの?」
驚いている儀礼に、白は心底不思議そうに首を傾げている。
白のその返答に、儀礼は本気で驚いていた。
儀礼にしてみれば、今回の『身代わりの術』は、ほんのいたずらのつもりだったのだ。
マップを届けに来たアーデスが白に、いつ気付くか試してみたくなったのだ。
儀礼がここにいると信じて、アーデスが移転魔法で入った研究室に、儀礼にそっくりの子供がいる。
そして、儀礼に兄弟はいない。
では、アーデスはこの存在をどう判断するだろうか。
『僕は何もしゃべりません』、それは、白ではなくアーデスに向けた伝言だったのだ。
この存在について、儀礼には何も語るつもりはない。知りたいならば、自分で調べろ、と。
しかし、実際の反応は『気付かない』。
そしてさらには、『誰も気付かない』。
白が、気を利かせて話さないようにしてくれたらしいが、それでも、『気付かなかった』という事実。
儀礼の優秀な護衛たちが、『年下の少女』と『護衛対象』の見分けが付かない。
「……。」
無言の憤りのようなものが、儀礼の心の中に沸いてきたとしても、仕方のないことだと思われた。
守ると誓った存在を、自分で傷つけてどうするのか。
儀礼は痛む程に拳を握って考えた。
「でもね、白。ラーシャは優しいから許してくれるよ。この場合、怒られるのは僕だけだから。きっと、いい友達になれるよ。」
儀礼が笑って言えば、白は安心したように微笑む。
「私ね、同じ歳くらいの友達初めてなんだよ。」
嬉しそうに白が言った。
「特にね、女の子の友達はいなかったの。」
白の、言葉に儀礼は衝撃を受けた。
儀礼にはたくさんの友達がいた。
友達と言えるものかは分からないが、儀礼が小さい頃から、毎日ひらひらした布を持って追いかけてくる熱心なお姉さん達は大勢いた。
「……ほんと、ごめん、白。」
白の、安全で貴重な友人を作る機会を儀礼は潰してしまったらしい。
(貴族って、友達できないんだったっけ? 拓ちゃんには、いるよね。あれ? 全部下僕だったっけ? いや、そんなはずは……。利香ちゃんには、いる。)
儀礼は自分の知識が本の中のから生まれている、偏りのあるものだということを知っている。
自分の常識が世間の常識でないことも、たまにはあると思っていた。
とにかく、白には同じ歳頃の友人がいなかったらしい。
身分の差があるとか、家同士の確執とか、そういう難しい関係があったのかもしれない。
しかし、白の言った「友達」という言葉は、真っ直ぐに儀礼にも向けられていた。
そのくすぐったいような嬉しい言葉に、儀礼は向き合う。
「じゃぁ、あらためて――。僕はドルエド国、シエン村の団居儀礼です。よろしくね。」
手を差し出し、儀礼は最上級の笑みを浮かべた。
「まどい ぎれい?」
その行動の意味を理解して、白は照れたように儀礼の手を握った。
そして、聞きなれない名乗りを口にした。
「シエンでの言い方なんだ。昔から、シエンではそう。苗字が先で、名前が後。シエンがドルエドに吸収されるより前からね。団居には団欒って意味があるんだよ。みんなが、仲のいいこと。それを作るのがシエンが『国』だった頃の団居家の仕事だったんだって。」
嬉しそうに、儀礼は自分のルーツを語る。
儀礼の父、団居礼一は、今もシエンで学校の教師をしている。村の暮らしを良くするために。
見た目はどれだけ違っていても、やはり儀礼はシエンの生まれで、その団居の一族なのだ。
「そうなんだ。アルバドリスクではね、聖人とか聖女の名前を付ける事が多いんだよ。私の名前もそうなんだ。それにね、祖先に有名な人とか、聖人とかがいると、それを氏として使うんだ。だから、実は、アルバドリスクには苗字も名前も聖人の名を使った人がいっぱいいるの。」
くすくすと白は笑った。可笑しそうに。
白の機嫌が治ったようで、儀礼は安心して微笑む。
「そうなんだ。いつか、行ってみたいな。母さんと、白の国、アルバドリスク……。」
そう言ってから、儀礼は机の上の黒い布のことを思い出す。
「あっ、この黒い布はバクラムさんが届けてくれたのかな?」
儀礼が頼んでおいた、黒いのに透けて見える布。それが畳まれて机の上に置いてあった。
是非これで、目が見えない振りをして獅子をからかってみたい。
もちろん、獅子には本物の目隠しをさせる。
目隠し状態の打ち合い。
獅子倉の道場ではたまにやっていたらしいが、儀礼が参加したことはない。
真剣でやるので、初心者にはお勧めできない。
というか、竹刀、もしくは木刀でやれ、と儀礼は思う。
もちろん、儀礼がやる時には木の枝でも拾ってきて勧める。
聖剣『光の剣』など、使用者が目を閉じていても、相手の位置を教えてしまいそうだ。
「ううん。シュリって男の子が持ってきたよ。」
儀礼の質問に白が答えた。
「そのシュリって人ね、私のことじっと見て、『やっぱりちょっと雰囲気が違う気がする』って言ってた。私がギレイ君じゃないって、ばれるかと思ってドキドキしっちゃったよ。」
白はそれでも楽しそうに笑っている。
「え……? あれ!? もしかして、気付かれなかったの? 誰にも?」
その白の言葉に、驚いたように儀礼は目を見張る。
「え? うん。ギレイ君は、気付かれないようにしたかったんじゃなかったの?」
驚いている儀礼に、白は心底不思議そうに首を傾げている。
白のその返答に、儀礼は本気で驚いていた。
儀礼にしてみれば、今回の『身代わりの術』は、ほんのいたずらのつもりだったのだ。
マップを届けに来たアーデスが白に、いつ気付くか試してみたくなったのだ。
儀礼がここにいると信じて、アーデスが移転魔法で入った研究室に、儀礼にそっくりの子供がいる。
そして、儀礼に兄弟はいない。
では、アーデスはこの存在をどう判断するだろうか。
『僕は何もしゃべりません』、それは、白ではなくアーデスに向けた伝言だったのだ。
この存在について、儀礼には何も語るつもりはない。知りたいならば、自分で調べろ、と。
しかし、実際の反応は『気付かない』。
そしてさらには、『誰も気付かない』。
白が、気を利かせて話さないようにしてくれたらしいが、それでも、『気付かなかった』という事実。
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