ギレイの旅
いたずらよりも嘘の重み
 ラーシャたちが帰った後は、白のいる部屋にはもう誰も来なかった。
一瞬、管理局の建物の外に何者かの気配がして、シャーロットが警戒したのだが、また別の誰かの気配が来て同時に掻き消えたという。
白には全く分からない状況だった。
《今の気配、覚えがあるわ。》
窓の外を見て、考えるようにトーラが言った。
《多分、クリームたちだと思う。》
自信はないと言うように首をかしげてトーラは言う。
《あの人たちほとんど気配を出さないから、あんなに強くて気配が薄いなんて、それでギレイを守ってるとしたら、今研究室に来た人達以外だと、それしか思い当たらないの。》
「クリームって、誰?」
白が問いかける。
《ギレイの友達よ。獅子と同じ位強いんだから。それに、もっと強い人もいるの。水の気配がそう。》
《そう。あれは、水の属性を持った魔剣ね。》
精霊どうしが、納得したように頷き合う。
それらの人たちが、アナザーの命で勝手に動いていることをトーラは知らず、それらの人たちが、暗殺者や殺人鬼であったことをトーラは白たちにあえて言わない。
にやりと、トーラはいたずらな笑みを浮かべている。
クリームたちが研究室を守っているということは、儀礼がここにいると思っているらしい。
儀礼は、アーデスにマップを管理局へと届けてもらうように連絡はしたが、出かけるという知らせは誰にもしていない。
それで儀礼が管理局にいないと気付くのは、アナザーでも難しい。
どうも、白にはよく分からない事ばかりだった。
精霊二人で分かり合ったように話し始めるし、なんとなく仲間はずれな気分になり、白は寂しい気がしてきた。
思い返してみれば、白は一人なのだ。一人で、留守番をしているのだった。
白が2冊の本を読み終えた頃だった。
扉がコンコンと鳴り、儀礼の明るい声が聞こえた。
「ただいま。遅くなってごめんね、白。お待たせ。」
自分で鍵を開け、儀礼は研究室へと入ってきた。
出ていった時と見た感じ、変わった様子はない。
怪我をしたり、落ち込んだりしている様子もない。
どこか、すっきりとしているようにさえ見えた。
「あれ? アーデス以外にも人が来たの?」
置かれている黒い布を見て、驚いたように儀礼は言った。
「うん。そうだ、人がたくさん来たんだよ、ギレイ君。えっとね、最初の人は背の高い金髪の人で、このマップを渡してくれたよ。」
白は、懐にしまった預かったマップを儀礼の手に渡す。
「来た! これだっ! やった!! 遺跡だよ。遺跡のマップ。流れて来ないマップ。さすがアーデス。うわ、もしかしてコレ、アーデスが攻略したのか? 他にないじゃん、人の名前。すごい! さすが! うわぁっ。」
叫びながら、儀礼はその数枚の紙を見て、瞳を輝かせている。
しばらくの間、話しかける白の声は儀礼に聞こえていないようだった。
「えっと、取り乱してごめん。」
恥ずかしそうに顔を赤くして、儀礼は白に謝った。
大切なマップは今は、大きな機械にかけて何かの処理中だと言う。
「次に来たのは誰?」
儀礼が問いかける。
「えっとね、青い服を着た細身の人と、大きな体の人で、細い人は床で笑い転げちゃった。」
その床を示して白は説明する。
思い返してみると、笑われたのは白になるので、少し複雑な気分だった。
「コルロさんか。そんな、うん、分かる気もする。ちょっと見てみたかったかも。」
くすくすと儀礼は笑う。
「見ても無視するけど。」
きっぱりと儀礼は言った。
「一緒に来た大きな人はバクラムさんかな。何の用事だって?」
儀礼の言葉に、白は正直に答えていいのか悩む。しかし、嘘を付くようなことでもない。
「なんか、そのコルロさん? が笑うために来たって……。」
言いにくそうに白が答えれば、儀礼の目が細められる。
「ふーん。そう。イイ情報だ。どんな仕返ししようっか、ねぇ、白?」
にっこりと楽しそうに儀礼は微笑む。
「え? 仕返し?」
白にそんな事をするつもりはなかったのだが。
「何がいいかな、寝てる間に落書きとかが一番かな?」
ねぇ? と小首をかしげて儀礼は言う。
管理局の結界の中に入り込めるような魔法使いの、寝込みを襲うなんてこと、そんな簡単にできることではない。
簡単そうに言わないで欲しい、と白は思う。
儀礼ならば、本当にやってしまいそうな気がしてくるのはなぜだろうか。
やっぱり『人間兵器』だからかな、と白は思い至った。
「あのっ、次に来たのは女の人が二人で、赤茶色の髪と、オレンジ色の目の人と、黒い髪と帽子と、木の杖を持った魔女みたいな人だったよ。」
慌てたように次の人を示せば、儀礼は頷く。
「ワルツとヤンさんか。用事あるとか聞いてなかったけど、何か言ってた?」
「ううん。ギレイ君の気配は草原の風みたいで、私は青い湖みたいだって。気付かれそうになってちょっとびっくりした。」
白は言われた言葉を思い出して、冷や汗を拭う。
それは、精霊シャーロットのことも見破られるということだ。
「それからね、その後に来たのは、カナルって大きい男の子と、シュリっていう男の子と、ラーシャって呼ばれてた可愛い女の子。」
にっこりと白は笑った。
「すごく、綺麗な子だったんだよ。なのに、私に可愛いって言ったの。綺麗な長い髪の毛で、透き通った目をしてて、体は細いのに、手とか指とかすごくしなやかに動くの。」
真似をしようとして、できないというように、白は指の先を動かしてみせる。
「わかる! ラーシャは手先が凄く器用だよね。武器を手元でくるるって回すんだけど、その一瞬が速すぎてよく見えないんだ。絶対演武とかしたら綺麗だよね。今度頼んでみようかな。」
「見たい! 私も見たい、それ。でも……。でもね、ギレイ君。私とも話してくれるかな?」
興奮したように頷き、それから、白は心配そうな顔で儀礼を見上げた。
「私、嘘吐いたみたいで。」
白は悲しそうな瞳で唇を噛んだ。
「ごめん。本当にごめんなさい。」
儀礼は真剣な様子で白に謝った。しばらくの間、儀礼の頭は深く下げられたままだった。
一瞬、管理局の建物の外に何者かの気配がして、シャーロットが警戒したのだが、また別の誰かの気配が来て同時に掻き消えたという。
白には全く分からない状況だった。
《今の気配、覚えがあるわ。》
窓の外を見て、考えるようにトーラが言った。
《多分、クリームたちだと思う。》
自信はないと言うように首をかしげてトーラは言う。
《あの人たちほとんど気配を出さないから、あんなに強くて気配が薄いなんて、それでギレイを守ってるとしたら、今研究室に来た人達以外だと、それしか思い当たらないの。》
「クリームって、誰?」
白が問いかける。
《ギレイの友達よ。獅子と同じ位強いんだから。それに、もっと強い人もいるの。水の気配がそう。》
《そう。あれは、水の属性を持った魔剣ね。》
精霊どうしが、納得したように頷き合う。
それらの人たちが、アナザーの命で勝手に動いていることをトーラは知らず、それらの人たちが、暗殺者や殺人鬼であったことをトーラは白たちにあえて言わない。
にやりと、トーラはいたずらな笑みを浮かべている。
クリームたちが研究室を守っているということは、儀礼がここにいると思っているらしい。
儀礼は、アーデスにマップを管理局へと届けてもらうように連絡はしたが、出かけるという知らせは誰にもしていない。
それで儀礼が管理局にいないと気付くのは、アナザーでも難しい。
どうも、白にはよく分からない事ばかりだった。
精霊二人で分かり合ったように話し始めるし、なんとなく仲間はずれな気分になり、白は寂しい気がしてきた。
思い返してみれば、白は一人なのだ。一人で、留守番をしているのだった。
白が2冊の本を読み終えた頃だった。
扉がコンコンと鳴り、儀礼の明るい声が聞こえた。
「ただいま。遅くなってごめんね、白。お待たせ。」
自分で鍵を開け、儀礼は研究室へと入ってきた。
出ていった時と見た感じ、変わった様子はない。
怪我をしたり、落ち込んだりしている様子もない。
どこか、すっきりとしているようにさえ見えた。
「あれ? アーデス以外にも人が来たの?」
置かれている黒い布を見て、驚いたように儀礼は言った。
「うん。そうだ、人がたくさん来たんだよ、ギレイ君。えっとね、最初の人は背の高い金髪の人で、このマップを渡してくれたよ。」
白は、懐にしまった預かったマップを儀礼の手に渡す。
「来た! これだっ! やった!! 遺跡だよ。遺跡のマップ。流れて来ないマップ。さすがアーデス。うわ、もしかしてコレ、アーデスが攻略したのか? 他にないじゃん、人の名前。すごい! さすが! うわぁっ。」
叫びながら、儀礼はその数枚の紙を見て、瞳を輝かせている。
しばらくの間、話しかける白の声は儀礼に聞こえていないようだった。
「えっと、取り乱してごめん。」
恥ずかしそうに顔を赤くして、儀礼は白に謝った。
大切なマップは今は、大きな機械にかけて何かの処理中だと言う。
「次に来たのは誰?」
儀礼が問いかける。
「えっとね、青い服を着た細身の人と、大きな体の人で、細い人は床で笑い転げちゃった。」
その床を示して白は説明する。
思い返してみると、笑われたのは白になるので、少し複雑な気分だった。
「コルロさんか。そんな、うん、分かる気もする。ちょっと見てみたかったかも。」
くすくすと儀礼は笑う。
「見ても無視するけど。」
きっぱりと儀礼は言った。
「一緒に来た大きな人はバクラムさんかな。何の用事だって?」
儀礼の言葉に、白は正直に答えていいのか悩む。しかし、嘘を付くようなことでもない。
「なんか、そのコルロさん? が笑うために来たって……。」
言いにくそうに白が答えれば、儀礼の目が細められる。
「ふーん。そう。イイ情報だ。どんな仕返ししようっか、ねぇ、白?」
にっこりと楽しそうに儀礼は微笑む。
「え? 仕返し?」
白にそんな事をするつもりはなかったのだが。
「何がいいかな、寝てる間に落書きとかが一番かな?」
ねぇ? と小首をかしげて儀礼は言う。
管理局の結界の中に入り込めるような魔法使いの、寝込みを襲うなんてこと、そんな簡単にできることではない。
簡単そうに言わないで欲しい、と白は思う。
儀礼ならば、本当にやってしまいそうな気がしてくるのはなぜだろうか。
やっぱり『人間兵器』だからかな、と白は思い至った。
「あのっ、次に来たのは女の人が二人で、赤茶色の髪と、オレンジ色の目の人と、黒い髪と帽子と、木の杖を持った魔女みたいな人だったよ。」
慌てたように次の人を示せば、儀礼は頷く。
「ワルツとヤンさんか。用事あるとか聞いてなかったけど、何か言ってた?」
「ううん。ギレイ君の気配は草原の風みたいで、私は青い湖みたいだって。気付かれそうになってちょっとびっくりした。」
白は言われた言葉を思い出して、冷や汗を拭う。
それは、精霊シャーロットのことも見破られるということだ。
「それからね、その後に来たのは、カナルって大きい男の子と、シュリっていう男の子と、ラーシャって呼ばれてた可愛い女の子。」
にっこりと白は笑った。
「すごく、綺麗な子だったんだよ。なのに、私に可愛いって言ったの。綺麗な長い髪の毛で、透き通った目をしてて、体は細いのに、手とか指とかすごくしなやかに動くの。」
真似をしようとして、できないというように、白は指の先を動かしてみせる。
「わかる! ラーシャは手先が凄く器用だよね。武器を手元でくるるって回すんだけど、その一瞬が速すぎてよく見えないんだ。絶対演武とかしたら綺麗だよね。今度頼んでみようかな。」
「見たい! 私も見たい、それ。でも……。でもね、ギレイ君。私とも話してくれるかな?」
興奮したように頷き、それから、白は心配そうな顔で儀礼を見上げた。
「私、嘘吐いたみたいで。」
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