ギレイの旅

千夜ニイ

白の冒険者ライセンス

「すごいな、白。最初からDランクもらえる奴は少ないんだってよ。」
宿の廊下に獅子の声が響いた。
剣を買った翌日、白が十分に短剣を使えることが分かり、獅子は白にギルドで冒険者ライセンスを取らせた。
それを受け取り、獅子と白は宿へと戻ってきたところだった。
白の取った冒険者ランクは、『D』だった。
見た目は儀礼を縮めたようなのに。
いや、儀礼も今はDランクなのだが。




白、武人・魔法タイプ
 頭脳C
 知識B
 魔法A
 戦闘B
 体力C
 力 D


 総合D
武人タイプ。体術と攻防共に高位の精霊魔法を使用可能。
 



「お前、魔法使えるんだな。」
感心したように獅子は言う。今まで、獅子の身近には魔法を扱う者はいなかった。
魔法の様に、理解不能な機械や薬品を扱う友人ならすぐそばにいたのだが。


「うん。私のは『精霊魔法』って言うんだよ。魔力を与えて、精霊に力を貸してもらうんだ。」
にっこりと笑って白は説明する。
白にいつも力を貸してくれる守護精霊は、守るだけでなく、攻撃の魔法も扱えた。
儀礼の連れる朝月には及ばないが、水の精霊シャーロットは、国一つを守護できる力を持った精霊だった。


 大した呪文も唱えずに白が魔法を使い、試験のための魔岩(魔力を込めた岩)を粉々に砕いた時には、試験官があんぐりと口を開けていた。
対人戦では、小さな体を活かして相手の懐にもぐりこみ、白はあっという間に相手を床に沈めた。
体術に関しても、儀礼の運動能力の比ではなかった。


「それよりね、シシ。私は、パーティーランクの方が気になるんだけど……。」
白はもらったばかりのパーティーライセンスを確認する。
リーダーは獅子。それに関して白に不満はない。
メンバーは儀礼と白。三人だけのパーティ。
そのパーティランクは『A』。


「ありえないよね。なんで……?」
間違いじゃないか、と白は何度かギルドの受付に問い直したのだが、間違いではなかった。
受付けの男性のほっぺたが両側共、つねった様に赤くなっていたので、夢でもないようだった。


「補正がどうとか言ってたよな。」
どうでもいいことのように獅子は軽く言う。
獅子にとって重要なのは、三人でいればAランクの仕事を請けられるということで、理由はどうでもよかった。


「パーティ補正。」
白は呟く。
ギルドの受付けの説明では、ライセンスには載っていない記録の中に、補正値というものがあるらしいのだ。
それは、仕事をこなした回数や種類などの経験値などと、実際の能力を考慮したもので、最初にライセンスを取る時には、実力から、経験の不足分がマイナスされているという。
最初にDランクを貰う者は、経験の不足を補えるだけの実力がある、と言う事らしい。


 そして、能力に関する補正。
通常、各項目でAを与えられるのは、その分野で抜き出た力を持っているということだ。
それをさらに超える者に与えられる、ライセンスに載らない補正値が「A+」。
その値は、パーティを作る際にその項目に必ず「A」を入れるのだと言う。
同じ項目に最低の値「E」を持つ者がいても、補いきれるという意味でマイナスされない。
助け合い、補い合う、それがパーティの役割。


「それにしたって、だって、シシはランクBなんでしょ? 私がDで、ギレイ君もDで……、なんで『A』になるの??」
やはり白には納得できない。


「私と獅子の二人でも『B』だよ?? 私まだDランクなのに!」
「俺と儀礼のパーティも『B』だぞ。」
叫ぶように白が言えば、獅子は落ち着いた声で返す。それが当たり前のことであるように。
『黒獅子』の強さは、冒険者ギルドの内部なかではすでに、ランクA相当と認識されているようだった。
経験値の補正に邪魔をされて、かえって獅子のランクはマイナスされている。
それが、実績不足の実力持ちの正体。


 その時、二人の前方から、宿の廊下をすれ違うように一人の女性が歩いてきた。
女性と言っても、歳はおそらく19か20歳ほど、軽い旅装のような格好をしている。
狭い廊下、甘い香りをさせて女性が微笑んだ。
やたらと目に付く桃色の髪。同じ色の瞳。強く目を引く美貌。


 羽織っただけの薄い風除けのコートは、マントのようにひらひらと長いすそを揺らしている。
大きく開かれた胸元には柔らかそうな白い肌が露出し、薄い衣でできたズボンは歩くたびに、すらりとした脚の形を浮き上がらせる。
女性の魅力を惜しげもなく晒しているのは、その女性が自分の身体に絶対の自信を持っているからだろう。
そう思えるほど、その女性の美しさは際立っていた。


 一人すれ違うのもやっとのその狭い宿の廊下で、肩を触れ合うような位置で体をわす、あでやかな女性に二人は思わず視線を奪われる。
女性が、にっこりと魅惑的な笑みを浮かべた。
その瞬間に華が咲いたような錯覚を覚える。周囲にいっそう甘い香りが漂った気がした。


「またお会いしましょう。」
美しい唇が、鈴の音のような声を二人の耳元に落としていった。
「ん?」「え?」
会った覚えもない女性に言われ、獅子と白は振り返り問いかけるが、相手は答える気もないのか、背中を見せたまま優美に歩き去っていった。
奇妙に思いながらも、首を傾げつつ、二人は儀礼が一人待っているはずの部屋に戻った。

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