話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ギレイの旅

千夜ニイ

食生活

 カナルや他の子ども達も食べ終わったらしく、バクラムとアーデスの周りに集まってきた。
バクラムが加工した武器を、シュリとカナルは興味深く見ている。
アーデスとバクラムは書類の作成が大変だとかなんとか二人で難しい顔で話し合っていた。


 チーシャが泣き出してメルは奥の部屋へと走っていった。
1歳のミーと2歳のネルイの面倒を姉のメルーとタシーが見ている。本当に、仲のいい姉妹だ。
ラーシャが食事の片づけを始め、手伝った方がいいかと思ったが、儀礼は男の子たちの子守を頼まれた。
はたして、儀礼に子守などできるだろうか。


「ギレイ、朝は何食べたんだ?」
ソファーの上、四人の小さな少年に囲まれた状態で、儀礼はノウエルに聞かれた。
「俺はね、パンに、麺に、卵に、肉に、サラダに、スープに、団子に……。」
指で一つずつ数えながら、ノウエルは明らかにおかしい量を上げていく。
「みんなで?」
ちょっと待って、と手で止めて、儀礼はノウエルに確認した。
「俺だよ。カナルはもっと食うからな。だから俺、カナルは無理でもシュリよりは絶対大きくなるぜ。」
笑いながらノウエルは言う。


 それが聞こえたのだろう。シュリが不満そうに、苦い顔をした。
大柄なバクラムが名の知れた冒険者であるので、体格の大きなカナルを見れば、誰もが『魔砕の大槌』の子と認める。
しかし小柄なシュリが名乗れば、これがバクラム・ノーグの長男なのか、と誰もが疑い、残念そうな目でシュリを見た。
それがずっと、シュリは悔しかった。


「そうなんだ。すごいね。でも、ノウエルが大きくなる頃には、シュリはもっと大きくなってるな。残念だね。」
くすくすと儀礼は笑う。推測だったその考えを、今さっき、儀礼は確信に変えたのだ。
「ギレイ、それっ――。」
確信を持った風な儀礼の言葉に驚き、シュリが何かを言う前に、しかし別の声が遮った。
「なんでだよっ!」
残念と言われたノウエルが、不満そうに儀礼を見ていた。


「だって、5年後として、ノウエルが14歳になる頃にはシュリは21歳だよ。ノウエルがカナル位の大きさになったとしても、身長だけはシュリのがありそうだな。シュリは骨も筋肉もしっかりしてるから。すぐにバクラムさんみたいに大きくなるよ。まぁ、どっちかっていうとアーデスみたいなタイプになると思うけど。」
にっこりと微笑んで儀礼は言った。
儀礼と違ってシュリは確実に大きくなる骨格だ。羨ましい。
儀礼の父は小さくはないが、決して大柄ではない。


 シュリは儀礼の言葉を真っ直ぐに聞いていたようだった。
ねたみながらシュリを見ていた儀礼がふと気付けば、ノウエルが、怒りの混じった目で儀礼を睨んでいた。
「えっと! ノウエルが20歳になる頃には、シュリに追いついてるよ。そのっ、カナルにもさ。」
慌てたように儀礼が言えば、しばらく不満そうに口を尖らせていたノウエルも、納得したように頷いた。


「で、儀礼は?」
ノウエルは言う。
「何が?」
まさか儀礼の身長を抜くとか言い出すのではないだろうか、と儀礼は頬が引きつるのを感じた。
「朝飯だよ。何食って来たんだ?」
まるで、食べさせろとでも言わんばかりの勢いだ。今、昼食を食べたところのはずなのだが。


 朝食と聞かれて、儀礼は一瞬考える。
「今朝はちょっとバタバタしてて。」
適当にはぐらかす。


「ああ、盗賊がいたとか言ってたな。」
話を、聞いていたらしいカナルが余計なところで口を挟んだ。
護衛達の気がイラつくのでやめてもらいたい。
盗賊とは言っても、儀礼の資料や技術が狙われたわけではないのだ。


「じゃぁ、昨日の夕飯は?」
俺はねぇ、とノウエルはまた大量の料理名を挙げていく。これは単純に、自分の大食いを自慢したいだけのようだ。
儀礼は適当に聞き流す。
「だから、ノウエルは大きくなったんだな。」
「ギレイは食べないから小さいんだな。」
その頭を撫でてあげようとして、持ち上げた儀礼の手はピタリと止まった。


「ノウエルなんか、僕に投げられるくらい軽いじゃないか。」
「俺だって、お前ぐらい投げられるね!」
今にも掴みかかろうとするノウエルの腕を、闘気を込めた手で掴んで儀礼は抑える。


「ギレイ、『夕飯』は……。」
温度の低い声が、アーデスの口から出た気がした。
儀礼の、ノウエルを使って話を逸らせよう作戦は失敗たったらしい。
その人は、さっき儀礼から取り上げたナイフを空中に投げたりして、手馴れた様子で遊ばせている。
返答しだいでは投げるとかそういうつもりだろうか。
儀礼の頬には冷たい汗が伝う。


「賊は朝だけです。解決しました。昨日は夕飯より早くに寝てしまっただけです。」
儀礼は冷や汗を流しながら答える。なぜ、護衛に食事の心配までされなければならないのだろうか。
それともやはりこれは監視なのだろうか。Sランクの人間の管理と監視。


「昨日の昼はどうした。」
今度はバクラムが言う。
「それは、昨日一緒に食べたじゃないですか。」
昨日、露店でサンドイッチのような物を買って皆で一緒に食べた。
それもやはりおいしかった。
ワルツがあっという間に三人前も食べて、儀礼はヤンと一緒に顔を見合わせて笑っていたのだ。
儀礼はにっこりと答える。


「……お前あれ、食べ損ねた朝飯だって言ってなかったか?」
表情を固め、バクラムは疑うように儀礼の顔を覗き込む。
「あっ……朝ごはん兼昼ごはんになりました。昨日あのまま帰って眠ってしまって。起きたら朝でした。」
儀礼は笑みを消し、うなだれるように答えた。
昨日も今日もなんだか、疲れることばかりだ。


「ギレイ、食わなきゃ大きくなれないぞ? 食える時にちゃんと食っとけ。」
真剣な顔で、心配そうにシュリが言う。
儀礼は知っていた。シュリには、まともに食べられない時期があっただろうことを。
「うん。わかった。……気をつけるよ。」
そう言った儀礼の頭をシュリは撫でる。すっかり、儀礼は弟扱いのようだ。


「賊は?」
まだ、アーデスが引きずっている。忘れてくれていいのに。
「原因は僕じゃなくて、元々宿の主ともめてたらしいんです。それに、村から来てる友達が巻き込まれたんです。僕がシャワー浴びてる間に室内で乱闘になってたんですよ。」
そんなもの、どう防げというのか。
結界があっても、入り口からなら普通に入れてしまうことがわかって、心配になり思わずトーラを白に預けてきてしまった。
トーラがあれば、儀礼はカナルとの戦いで怪我などしなかった。


「ギレイ、護衛増やすか?」
投げていたナイフを、吸い付くように手の中に収め、アーデスは伺うように儀礼を見た。
「やめてください!」
儀礼は叫ぶように否定した。
アーデスの一言は確実に『監視』と言う意味を含んでいた。
儀礼はまだ、世界を壊すようなことは何もしていない。

「ギレイの旅」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く