ギレイの旅
生み出された武器
「妖刀の作り方だ。」
何を話していた、というバクラムの問いに、蒼刃剣を示しながらアーデスが答えた。
「妖刀なら、妖魔が入り込んだんだろう。」
僅かに眉をしかめ、当たり前のことのようにバクラムは言う。
人に作れるような物なら、とっくに大量に出回っている。
「精霊に頼んだらしい。」
呆れに近い顔で、ソファーに丸まる儀礼の頭を指差して、アーデスが言う。
とても、何かを言いたそうに。
「頼んだ? 妖刀を作れって?」
驚いたように瞳を開き、バクラムは儀礼を見下ろす。
「違います。剣を守るように、お願いしたんです。壊れないように。他に武器もなかったし、金属と相性のいい朝月ならできると思って。そんな物騒な物、作りません。」
ソファーの上で膝をかかえ、完全に丸まって儀礼は頬を膨らませた。
その姿は年齢以上に幼く見える。9歳のノウエルの方が大きく感じるほどだ。
隣りに座るラーシャが、くすりと笑って、儀礼の頭を撫でた。
「ラーシャの手、気持ちいい。」
嬉しそうに言って、儀礼は目を細める。
しかし、その少年はそういう物騒な物を、大量に作ったからこそ『Sランク』に認定されているのだ。
バクラムはゆっくりとその少年に視線を下ろす。
「儀礼様、お返しします。」
アーデスが儀礼の手に針金でできた猫じゃらしを持たせた。
それを受け取り、くるくると手持ち無沙汰に針金を回す儀礼に、アーデスの意図に気付いた様子はない。
ソファーの上に丸まり、気ままに動く、小さな体。
視線はくるくると回る猫じゃらしを追い、撫でられれば気持ち良さそうに目を細める。
ひとたび動き出せば、その身は身軽で俊敏。
人懐こく見えてその実、爪を隠して常に周囲に警戒している。
「猫か。」
猫じゃらしを回す儀礼の手が止まった。
「お前ら飼いたがってたな、そう言えば。」
以前から、子供たちの何人かがそんなことを言っていたのを、バクラムは思い出した。
「いいかもしれんな。」
今までは、子供が育つだけで手一杯だった。しかし、上二人がすでに育った。
「情操教育にはいいんだろう?」
教師の資格を持つという少年にバクラムは聞いてみる。
「えっと、猫の話、ですよね。」
なぜか、頬に冷や汗を流して儀礼が聞き返す。
「当たり前だろう。」
バクラムは、見下ろすようにして答えた。
この少年を常に家の中に置くのは、正直に言って、小さな子供たちには危険すぎる。
今は、アーデスとシュリとカナル。バクラムとメルを合わせ5人ものAランク冒険者がいる。
それに家に張った結界があるからこそ、赤ん坊がいるこの家に儀礼を連れて来れた。
大きな娘にも別な意味で危険な気はするが。
「どんな生き物でも育てるというのは大変なことなので、ミーやチーシャがもう少し大きくなってからでも、いいとは思いますけどね。兄弟と接することは十分、心を育ててると思います。この家はすごく温かいです。」
太陽でも覗いたかのように、儀礼は目を細めて家の中を見た。
つられてバクラムが見た家の中は、いつもと同じはずなのに、とても明るいものに見えた気がした。
「はい、あげる。」
にっこりと無邪気な笑みを浮かべ儀礼は、ラーシャに小さな白い花を手渡していた。
「お前は、油断も隙も……。」
溜息を吐くようにバクラムは苦笑する。
「っ綺麗!」
その細い針金でできた白く光る花を見つめ、息を飲むようにラーシャは言った。
「うん。綺麗だよね。光に惹かれるのは、生き物の特性だよ、きっと。」
そう言いながら、儀礼はその花飾りをラーシャの編まれた髪に差し込む。
なぜ、この少年はそういうことに手馴れているのだろうか。
「それ、危険ないんですか?」
頬を引きつらせ、アーデスが聞く。
儀礼が手を離した後も、その針金の花は、淡く白い光を放っていた。
「大丈夫だよ。ほら、カナルもノウエルもなんともないでしょ。この程度の魔力なら平気ってこと。」
「実験するなら言ってくださいと、言いませんでしたか?」
『Sランク』の人間が行う実験。それは、どこから目をつけられるか分からないもの。
警戒を促すのは当然のことだろう。
「実験じゃないし。光らせただけ。」
アーデスの言う言葉の意味を全く理解していない様子で、儀礼はアーデスを見上げている。
「魔力なのか? ギレイ、その花はなぜ光ってる?」
バクラムの問いに、儀礼は首を傾げる。
「魔力です。」
「だから、魔力をどうやったら、そうなるんだ。吸着されたような……魔力が放散されないなど、どうやってその状況を作った。」
ラーシャの髪飾りを覗き込むように見て、バクラムはいつの間にか声を荒げていた。
「朝月の、魔力だと思います。」
他に表現のしようがないと言う風に、儀礼は眉尻を下げる。
「魔力を圧縮して刃にコーティングさせたらしい。」
アーデスが溜息を吐くようにバクラムに言った。
「剣の時もそうだった。手を離しても魔力が固定されたみたいに付いてて、消えないんだ。」
シュリが、真剣な顔で説明する。
「魔力をコーティング。……固定。」
息をするように小さな声で呟き、バクラムは眉間にしわを寄せた。
『青い刃がないなら、白い刃に変えるまでっ。』
バクラムは、儀礼がシュリやカナルと戦うために、壊れた剣に白い刃を作り出した様子を思い出した。
「使える武器がなかったから、『自分の武器を自分で作った』。まるで、師匠のようなことを……。」
バクラムは考えるように真剣に自分の武器を見る。使い慣れた大きな槌。
マスターは武器の威力を上げるために、身体強化のための魔力を武器に注ぐことを可能にした。
そして、その魔力に耐えられる、強い武器を作り出すことにもこだわった。
作り出された武器は何十年に渡って使うことが可能だった。
それでもさらに強いものを求めたマスターが目指したものとは……。
「強大な魔力をより濃く厚く、武器を『強化する』ために。」
それを試すかのように、バクラムはじっと大槌に視線を注ぐ。
いつもの魔力強化のための力ではない。それは厚く守るように固定させていく、必要なのは想像以上の大量の魔力。
長い時間をかけ、バクラムの額には流れ出すほどの汗が浮いていた。そして――。
「――そうか、これか。こういうことだったのか。『マスター』の目指したものは……。」
呆然と、その大槌を覆う黒い魔力を見てバクラムは言う。
バクラムの黒い魔力は、炎のように揺らぐことなく、薄っすらとだが、確かに物質として固定されていた。
これはまだ完成ではない。バクラムの全ての力を注いだところでその片鱗が見えただけでしかない。
しかし、これは確かに新たに生み出された武器。
「分かったぞ! これだったんだ!」
家中を揺らすような大きな声でバクラムは叫んだ。
「ギレイ、『蒼刃剣』確かに預かろう。必ずうちの師匠も、鍛冶の師匠も納得させてやる。完全に直せるかはまだ、分からない。何年もかかることになるかもしれん。しかし……。」
バクラムは儀礼の顔を見て、言葉を区切った。その瞳には強い力が満ちていた。
マスター・ロワルゼンが始め、二つに分裂してしまったロワルゼン流。
それは、二つに分けるべきではなった。
それが今、はっきりとバクラムにはわかった。年老いたマスターの教えを直接受けた、最後の弟子に。
「マスターの進んだ道が、ようやく見えたんだ。俺は必ず、これを直せる者を見つけよう。」
バクラムでは『蒼刃剣』を直すのは無理だった。
青い刃であったなら、水の魔力を操る者が必要だ。
それも剣を魔力強化できるほどに腕を上げ、さらに、魔力を固定させるという技術まで身につけさせなければならない。
マスターがなぜ、あんなにも大勢の弟子を両方の道に進めたのか。
バクラムにもようやく理解できた気がした。両方でなくてはならなかったのだ。
古代の遺産でしか存在しなかった数千年の時を保つ武器、『魔剣』を作り出すためには。
「しかし、ギレイ。お前どうするつもりだ?」
儀礼に問いかけながら、知らぬうちに、バクラムの表情は険しいものになっていた。
『マスター』と呼ばれた者が成せなかったように、世界中の研究者にも冒険者にも果たせていない技術、『魔剣』の生成。
広めた所で、できる者がいないので、今の所は安全と言えるだろうが。
しかし、儀礼の作り出した物は妖刀だった。
もしも儀礼が何者かに利用でもされ、その剣を大量に作り出し、世界にばらまかれでもすれば混乱は免れない。
気付けば、睨むようにバクラムはその少年を見下ろしていた。
「あの……僕、何かしました?」
困ったように首を傾げ、泣き出しそうな情けない顔で儀礼はバクラムを見上げる。
少年はその偉業を、むしろ理解していないようだった。
『マスター』ロワルゼンの目指し、成せなかった魔剣の作成。
そこに到達するための一歩を、踏み込んだことに儀礼は気付いていない。
妖刀を作り出したなら、儀礼の腕輪の内に入ったものは妖魔だ。
妖魔の要素を持つ光の精霊。そんなものがこの世に存在するのだろうか。
しかし、実際それ以外に考えられない状況でもあった。
「儀礼様、とりあえず、妖刀の類は生産なさらないよう。」
「そんなもの作ろうと思って作ったことないよ!」
胡散臭い笑みを浮かべたアーデスに、頬を膨らませて儀礼が怒る。
「お前はいっそ清々しいな。」
バクラムはその小柄な少年の頭を撫でる。
人類未踏の地に足を入れ、平然と帰ってくる。
帰ってくるのだ。人の道に。
今、この家の中にはもう一人いる。人類未踏の地に平然と行く奴が。
「最近、変わったことありませんか?」
その先駆者がいる限りは、儀礼に関してはそこまで心配する必要はないのかもしれない。
バクラムよりも先に立って、出合った時には子供だった男が、いつの間にか保護者の顔をしていた。
儀礼の周囲に妖魔がいるのであれば、異変が起こってもおかしくはない。
確かに注意が必要になるだろう。
「あ、よく女の人とか子供に間違われます。」
真剣な表情で儀礼はアーデスに訴える。
「異常ないですね。」
にっこりと微笑み、アーデスはばっさりとその訴えを切り捨てた。
「異常なしか。」
バクラムも納得した。
この少年にとって、妖魔の存在などたいした問題ではないらしい。
何を話していた、というバクラムの問いに、蒼刃剣を示しながらアーデスが答えた。
「妖刀なら、妖魔が入り込んだんだろう。」
僅かに眉をしかめ、当たり前のことのようにバクラムは言う。
人に作れるような物なら、とっくに大量に出回っている。
「精霊に頼んだらしい。」
呆れに近い顔で、ソファーに丸まる儀礼の頭を指差して、アーデスが言う。
とても、何かを言いたそうに。
「頼んだ? 妖刀を作れって?」
驚いたように瞳を開き、バクラムは儀礼を見下ろす。
「違います。剣を守るように、お願いしたんです。壊れないように。他に武器もなかったし、金属と相性のいい朝月ならできると思って。そんな物騒な物、作りません。」
ソファーの上で膝をかかえ、完全に丸まって儀礼は頬を膨らませた。
その姿は年齢以上に幼く見える。9歳のノウエルの方が大きく感じるほどだ。
隣りに座るラーシャが、くすりと笑って、儀礼の頭を撫でた。
「ラーシャの手、気持ちいい。」
嬉しそうに言って、儀礼は目を細める。
しかし、その少年はそういう物騒な物を、大量に作ったからこそ『Sランク』に認定されているのだ。
バクラムはゆっくりとその少年に視線を下ろす。
「儀礼様、お返しします。」
アーデスが儀礼の手に針金でできた猫じゃらしを持たせた。
それを受け取り、くるくると手持ち無沙汰に針金を回す儀礼に、アーデスの意図に気付いた様子はない。
ソファーの上に丸まり、気ままに動く、小さな体。
視線はくるくると回る猫じゃらしを追い、撫でられれば気持ち良さそうに目を細める。
ひとたび動き出せば、その身は身軽で俊敏。
人懐こく見えてその実、爪を隠して常に周囲に警戒している。
「猫か。」
猫じゃらしを回す儀礼の手が止まった。
「お前ら飼いたがってたな、そう言えば。」
以前から、子供たちの何人かがそんなことを言っていたのを、バクラムは思い出した。
「いいかもしれんな。」
今までは、子供が育つだけで手一杯だった。しかし、上二人がすでに育った。
「情操教育にはいいんだろう?」
教師の資格を持つという少年にバクラムは聞いてみる。
「えっと、猫の話、ですよね。」
なぜか、頬に冷や汗を流して儀礼が聞き返す。
「当たり前だろう。」
バクラムは、見下ろすようにして答えた。
この少年を常に家の中に置くのは、正直に言って、小さな子供たちには危険すぎる。
今は、アーデスとシュリとカナル。バクラムとメルを合わせ5人ものAランク冒険者がいる。
それに家に張った結界があるからこそ、赤ん坊がいるこの家に儀礼を連れて来れた。
大きな娘にも別な意味で危険な気はするが。
「どんな生き物でも育てるというのは大変なことなので、ミーやチーシャがもう少し大きくなってからでも、いいとは思いますけどね。兄弟と接することは十分、心を育ててると思います。この家はすごく温かいです。」
太陽でも覗いたかのように、儀礼は目を細めて家の中を見た。
つられてバクラムが見た家の中は、いつもと同じはずなのに、とても明るいものに見えた気がした。
「はい、あげる。」
にっこりと無邪気な笑みを浮かべ儀礼は、ラーシャに小さな白い花を手渡していた。
「お前は、油断も隙も……。」
溜息を吐くようにバクラムは苦笑する。
「っ綺麗!」
その細い針金でできた白く光る花を見つめ、息を飲むようにラーシャは言った。
「うん。綺麗だよね。光に惹かれるのは、生き物の特性だよ、きっと。」
そう言いながら、儀礼はその花飾りをラーシャの編まれた髪に差し込む。
なぜ、この少年はそういうことに手馴れているのだろうか。
「それ、危険ないんですか?」
頬を引きつらせ、アーデスが聞く。
儀礼が手を離した後も、その針金の花は、淡く白い光を放っていた。
「大丈夫だよ。ほら、カナルもノウエルもなんともないでしょ。この程度の魔力なら平気ってこと。」
「実験するなら言ってくださいと、言いませんでしたか?」
『Sランク』の人間が行う実験。それは、どこから目をつけられるか分からないもの。
警戒を促すのは当然のことだろう。
「実験じゃないし。光らせただけ。」
アーデスの言う言葉の意味を全く理解していない様子で、儀礼はアーデスを見上げている。
「魔力なのか? ギレイ、その花はなぜ光ってる?」
バクラムの問いに、儀礼は首を傾げる。
「魔力です。」
「だから、魔力をどうやったら、そうなるんだ。吸着されたような……魔力が放散されないなど、どうやってその状況を作った。」
ラーシャの髪飾りを覗き込むように見て、バクラムはいつの間にか声を荒げていた。
「朝月の、魔力だと思います。」
他に表現のしようがないと言う風に、儀礼は眉尻を下げる。
「魔力を圧縮して刃にコーティングさせたらしい。」
アーデスが溜息を吐くようにバクラムに言った。
「剣の時もそうだった。手を離しても魔力が固定されたみたいに付いてて、消えないんだ。」
シュリが、真剣な顔で説明する。
「魔力をコーティング。……固定。」
息をするように小さな声で呟き、バクラムは眉間にしわを寄せた。
『青い刃がないなら、白い刃に変えるまでっ。』
バクラムは、儀礼がシュリやカナルと戦うために、壊れた剣に白い刃を作り出した様子を思い出した。
「使える武器がなかったから、『自分の武器を自分で作った』。まるで、師匠のようなことを……。」
バクラムは考えるように真剣に自分の武器を見る。使い慣れた大きな槌。
マスターは武器の威力を上げるために、身体強化のための魔力を武器に注ぐことを可能にした。
そして、その魔力に耐えられる、強い武器を作り出すことにもこだわった。
作り出された武器は何十年に渡って使うことが可能だった。
それでもさらに強いものを求めたマスターが目指したものとは……。
「強大な魔力をより濃く厚く、武器を『強化する』ために。」
それを試すかのように、バクラムはじっと大槌に視線を注ぐ。
いつもの魔力強化のための力ではない。それは厚く守るように固定させていく、必要なのは想像以上の大量の魔力。
長い時間をかけ、バクラムの額には流れ出すほどの汗が浮いていた。そして――。
「――そうか、これか。こういうことだったのか。『マスター』の目指したものは……。」
呆然と、その大槌を覆う黒い魔力を見てバクラムは言う。
バクラムの黒い魔力は、炎のように揺らぐことなく、薄っすらとだが、確かに物質として固定されていた。
これはまだ完成ではない。バクラムの全ての力を注いだところでその片鱗が見えただけでしかない。
しかし、これは確かに新たに生み出された武器。
「分かったぞ! これだったんだ!」
家中を揺らすような大きな声でバクラムは叫んだ。
「ギレイ、『蒼刃剣』確かに預かろう。必ずうちの師匠も、鍛冶の師匠も納得させてやる。完全に直せるかはまだ、分からない。何年もかかることになるかもしれん。しかし……。」
バクラムは儀礼の顔を見て、言葉を区切った。その瞳には強い力が満ちていた。
マスター・ロワルゼンが始め、二つに分裂してしまったロワルゼン流。
それは、二つに分けるべきではなった。
それが今、はっきりとバクラムにはわかった。年老いたマスターの教えを直接受けた、最後の弟子に。
「マスターの進んだ道が、ようやく見えたんだ。俺は必ず、これを直せる者を見つけよう。」
バクラムでは『蒼刃剣』を直すのは無理だった。
青い刃であったなら、水の魔力を操る者が必要だ。
それも剣を魔力強化できるほどに腕を上げ、さらに、魔力を固定させるという技術まで身につけさせなければならない。
マスターがなぜ、あんなにも大勢の弟子を両方の道に進めたのか。
バクラムにもようやく理解できた気がした。両方でなくてはならなかったのだ。
古代の遺産でしか存在しなかった数千年の時を保つ武器、『魔剣』を作り出すためには。
「しかし、ギレイ。お前どうするつもりだ?」
儀礼に問いかけながら、知らぬうちに、バクラムの表情は険しいものになっていた。
『マスター』と呼ばれた者が成せなかったように、世界中の研究者にも冒険者にも果たせていない技術、『魔剣』の生成。
広めた所で、できる者がいないので、今の所は安全と言えるだろうが。
しかし、儀礼の作り出した物は妖刀だった。
もしも儀礼が何者かに利用でもされ、その剣を大量に作り出し、世界にばらまかれでもすれば混乱は免れない。
気付けば、睨むようにバクラムはその少年を見下ろしていた。
「あの……僕、何かしました?」
困ったように首を傾げ、泣き出しそうな情けない顔で儀礼はバクラムを見上げる。
少年はその偉業を、むしろ理解していないようだった。
『マスター』ロワルゼンの目指し、成せなかった魔剣の作成。
そこに到達するための一歩を、踏み込んだことに儀礼は気付いていない。
妖刀を作り出したなら、儀礼の腕輪の内に入ったものは妖魔だ。
妖魔の要素を持つ光の精霊。そんなものがこの世に存在するのだろうか。
しかし、実際それ以外に考えられない状況でもあった。
「儀礼様、とりあえず、妖刀の類は生産なさらないよう。」
「そんなもの作ろうと思って作ったことないよ!」
胡散臭い笑みを浮かべたアーデスに、頬を膨らませて儀礼が怒る。
「お前はいっそ清々しいな。」
バクラムはその小柄な少年の頭を撫でる。
人類未踏の地に足を入れ、平然と帰ってくる。
帰ってくるのだ。人の道に。
今、この家の中にはもう一人いる。人類未踏の地に平然と行く奴が。
「最近、変わったことありませんか?」
その先駆者がいる限りは、儀礼に関してはそこまで心配する必要はないのかもしれない。
バクラムよりも先に立って、出合った時には子供だった男が、いつの間にか保護者の顔をしていた。
儀礼の周囲に妖魔がいるのであれば、異変が起こってもおかしくはない。
確かに注意が必要になるだろう。
「あ、よく女の人とか子供に間違われます。」
真剣な表情で儀礼はアーデスに訴える。
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