ギレイの旅
朝月の魔力
警備隊にとって重要な証言は、儀礼からよりも、受付けの女性から多く出た。
盗賊のような連中と女性の父、宿の主は昔から仲が悪く、対抗する姿勢を変えずにいたので、嫌がらせが始まったという。
宿の前で因縁を付け、さらには宿泊客が襲われれば、客など来なくなると考えたらしい。
完全な営業妨害だ。
それに、たまたま巻き込まれたのが、拓と儀礼だった。
絡んだ相手が悪かったために、加害者は被害者となった。
「こいつらの処分は、きっちりさせてもらう。今回は迷惑をかけて申し訳なかったな。」
廊下に出ると、白い網に包まり気絶している男たちを示して、警備隊長は力強く言った。
儀礼の言う正当防衛は通じ、残りの二件に関しても、向こうから襲ってきたという事で話がついた。
すぐに通報しなかったことに、人道的な注意を受けたが、「護衛として対象から離れられなかったので」と拓が一言告げれば、その始末書一枚は小さく丸められ、くずかご行きとなった。
それで、儀礼たち側に一切の非が無くなった。
誠実そうな次期領主の顔の裏に、儀礼は黒い悪神が笑っているのを見た気がした。
「いえ、誤解が解けてよかったです。」
全ての思考を過ぎたものと追い払い、儀礼はにっこりと笑う。
白衣の効果は覿面で、儀礼に対する異常なまでの幼い扱いはなくなった。
かわりに目の合う人合う人、視線を逸らしていく。
拓の護衛発言もあり、特徴から『蜃気楼』とバレたのかもしれなかった。
「二度と、こんなことの起きないように、他の怪しい連中も見張っておこう。」
不自然なほど慌てて儀礼から視線を逸らし、警備隊長は廊下にいた警備兵にいくつかの指示を出した。
「ありがとうございます。」
儀礼は丁寧に頭を下げた。やはり、ばれてしまったようだった。
「すみません。仕事を増やしてしまって。」
早朝から働いているところを見ても、警備隊の仕事は忙しいのだろう。
「気にすることはない、これが俺たちの仕事だからな。」
優しい笑みを浮かべ、今度はただ慰めるように、警備隊長は儀礼の頭に手を置いた。
ごつごつとした剣を持つための手。
『Sランク(危険人物)』と知ってなお、迷うことなく利き手を預けてくれる。
「警備隊長さんのようなしっかりした方が、この町にいて安心しました。」
にっこりと、嬉しそうに儀礼は笑った。信頼を示す、心からの笑顔。
それは人を惹きこむ透き通った茶色の瞳。大きく弧を描く赤い唇。
光でできたかのような金の髪に、全身を覆う清らかな白い衣。
美しい、天女のような美貌を誇る少年の、悪を知らぬ幼子のような笑顔。
その笑みを見て、あからさまに警備兵たちが一斉に視線を逸らした。
受付けの女性までが、顔を赤くして不自然に窓の外を眺めている。
「……。」
儀礼に、そこまでおかしなことをした覚えはなかった。
賊どもに絡まっていたワイヤーを回収して、罠を張り直しただけだ。
今もまだ、盗賊達を捕らえている、剣でも切れない白い網は……儀礼の仕業ではない。
困ったように瞳を伏せ、儀礼は小さく息を吐いた。
伏せられた長いまつげ、吐息を漏らす小さな唇。
「後で、網取ってあげてね。」
儀礼はポツリと呟いた。腕輪の石は応えるように淡く光る。
その声にはっとし、我を失っていたことに警備隊長は、気付いた。
「わかりました、牢に入れてからなら網は取りましょう。では、これで失礼します。どうか、これからもあのような男たちには十分、気をつけてください。現れた時の様な姿はもちろん、そのような無防備な姿はくれぐれも、さらさないよう。」
そう言って、丁重に頭を下げてから警備隊長は扉を閉めた。
ぱたりと閉まったドアの前で、儀礼は呆ける。
「え、なんで?」
最後の言葉の意味が理解できない。
丸腰だからという意味だろうか、と儀礼は考える。
まさか白衣の中に城が落とせるほどの武器が仕込まれているとは、普通の人は思わないだろう。
しかし、儀礼が丸腰状態でも、賊共を捕らえた所を警備隊は見ているはずだ。
バタバタと扉の外が騒がしくなる。
盗賊まがいの連中はかなりの人数いて、鎧や武器も持っていた。
運び出すだけでも大変な作業だと、儀礼は気付いた。
手伝った方がいいだろうか、と扉に手をかければ、叫ぶような声が廊下から聞こえてきた。
『男ですよね、男でしたよね、隊長?!』
『バカか、見ただろ! ほら、早くここを片すぞ。穢れる。』
『隊長、あの子、人間じゃないです! 天にょじゃなくて、天使ですきっと。』
罠にかけてやろうか、と儀礼は据わった瞳で銀の腕輪に指をかける。
拓がげらげらと声をあげて笑い出した。
「やめとけって。」
獅子は呆れたように溜息を吐き、儀礼の腕を掴んで止めた。
仕方なく、奥歯を噛み締めて儀礼が振り向けば、一番奥のベッドの上に、正座する利香と背中から抱きしめられ、真っ赤な顔をしている白の姿。
「利香ちゃん、放してあげて。なんか、白が可哀想なことに……。」
確実に、儀礼が同じ態勢でいれば、二人の男に殴られる。
「ち、違っ、ギレイ君。朝月さん微笑て、綺麗すぎて……。」
言いながら、ぼうっとした様に、白の焦点は合っていなかった。
たった今そこに、警備隊長の前で笑った儀礼の背後、儀礼と共に嬉しそうに微笑む朝月の姿があった。
白の瞳には背中しか映らなかったと言うのに、その美しい精霊の妖艶な気配が確かに伝わっていた。
盗賊のような連中と女性の父、宿の主は昔から仲が悪く、対抗する姿勢を変えずにいたので、嫌がらせが始まったという。
宿の前で因縁を付け、さらには宿泊客が襲われれば、客など来なくなると考えたらしい。
完全な営業妨害だ。
それに、たまたま巻き込まれたのが、拓と儀礼だった。
絡んだ相手が悪かったために、加害者は被害者となった。
「こいつらの処分は、きっちりさせてもらう。今回は迷惑をかけて申し訳なかったな。」
廊下に出ると、白い網に包まり気絶している男たちを示して、警備隊長は力強く言った。
儀礼の言う正当防衛は通じ、残りの二件に関しても、向こうから襲ってきたという事で話がついた。
すぐに通報しなかったことに、人道的な注意を受けたが、「護衛として対象から離れられなかったので」と拓が一言告げれば、その始末書一枚は小さく丸められ、くずかご行きとなった。
それで、儀礼たち側に一切の非が無くなった。
誠実そうな次期領主の顔の裏に、儀礼は黒い悪神が笑っているのを見た気がした。
「いえ、誤解が解けてよかったです。」
全ての思考を過ぎたものと追い払い、儀礼はにっこりと笑う。
白衣の効果は覿面で、儀礼に対する異常なまでの幼い扱いはなくなった。
かわりに目の合う人合う人、視線を逸らしていく。
拓の護衛発言もあり、特徴から『蜃気楼』とバレたのかもしれなかった。
「二度と、こんなことの起きないように、他の怪しい連中も見張っておこう。」
不自然なほど慌てて儀礼から視線を逸らし、警備隊長は廊下にいた警備兵にいくつかの指示を出した。
「ありがとうございます。」
儀礼は丁寧に頭を下げた。やはり、ばれてしまったようだった。
「すみません。仕事を増やしてしまって。」
早朝から働いているところを見ても、警備隊の仕事は忙しいのだろう。
「気にすることはない、これが俺たちの仕事だからな。」
優しい笑みを浮かべ、今度はただ慰めるように、警備隊長は儀礼の頭に手を置いた。
ごつごつとした剣を持つための手。
『Sランク(危険人物)』と知ってなお、迷うことなく利き手を預けてくれる。
「警備隊長さんのようなしっかりした方が、この町にいて安心しました。」
にっこりと、嬉しそうに儀礼は笑った。信頼を示す、心からの笑顔。
それは人を惹きこむ透き通った茶色の瞳。大きく弧を描く赤い唇。
光でできたかのような金の髪に、全身を覆う清らかな白い衣。
美しい、天女のような美貌を誇る少年の、悪を知らぬ幼子のような笑顔。
その笑みを見て、あからさまに警備兵たちが一斉に視線を逸らした。
受付けの女性までが、顔を赤くして不自然に窓の外を眺めている。
「……。」
儀礼に、そこまでおかしなことをした覚えはなかった。
賊どもに絡まっていたワイヤーを回収して、罠を張り直しただけだ。
今もまだ、盗賊達を捕らえている、剣でも切れない白い網は……儀礼の仕業ではない。
困ったように瞳を伏せ、儀礼は小さく息を吐いた。
伏せられた長いまつげ、吐息を漏らす小さな唇。
「後で、網取ってあげてね。」
儀礼はポツリと呟いた。腕輪の石は応えるように淡く光る。
その声にはっとし、我を失っていたことに警備隊長は、気付いた。
「わかりました、牢に入れてからなら網は取りましょう。では、これで失礼します。どうか、これからもあのような男たちには十分、気をつけてください。現れた時の様な姿はもちろん、そのような無防備な姿はくれぐれも、さらさないよう。」
そう言って、丁重に頭を下げてから警備隊長は扉を閉めた。
ぱたりと閉まったドアの前で、儀礼は呆ける。
「え、なんで?」
最後の言葉の意味が理解できない。
丸腰だからという意味だろうか、と儀礼は考える。
まさか白衣の中に城が落とせるほどの武器が仕込まれているとは、普通の人は思わないだろう。
しかし、儀礼が丸腰状態でも、賊共を捕らえた所を警備隊は見ているはずだ。
バタバタと扉の外が騒がしくなる。
盗賊まがいの連中はかなりの人数いて、鎧や武器も持っていた。
運び出すだけでも大変な作業だと、儀礼は気付いた。
手伝った方がいいだろうか、と扉に手をかければ、叫ぶような声が廊下から聞こえてきた。
『男ですよね、男でしたよね、隊長?!』
『バカか、見ただろ! ほら、早くここを片すぞ。穢れる。』
『隊長、あの子、人間じゃないです! 天にょじゃなくて、天使ですきっと。』
罠にかけてやろうか、と儀礼は据わった瞳で銀の腕輪に指をかける。
拓がげらげらと声をあげて笑い出した。
「やめとけって。」
獅子は呆れたように溜息を吐き、儀礼の腕を掴んで止めた。
仕方なく、奥歯を噛み締めて儀礼が振り向けば、一番奥のベッドの上に、正座する利香と背中から抱きしめられ、真っ赤な顔をしている白の姿。
「利香ちゃん、放してあげて。なんか、白が可哀想なことに……。」
確実に、儀礼が同じ態勢でいれば、二人の男に殴られる。
「ち、違っ、ギレイ君。朝月さん微笑て、綺麗すぎて……。」
言いながら、ぼうっとした様に、白の焦点は合っていなかった。
たった今そこに、警備隊長の前で笑った儀礼の背後、儀礼と共に嬉しそうに微笑む朝月の姿があった。
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