ギレイの旅
女性の行方
「あなたたち、誰にものを言ってるの? 私はグレーンの娘。オーホッホホ……。」
砂地に寝転がり、ワイヤーに包まったままの女性が、うっとりとした表情で空に向けて何かを唱え続けている。
ダンッ。
「いい天気だよね。」
静かになった空間で、懐に改造銃をしまいながら、儀礼は何事もなかったかのように、広い空を眺めた。
薄暗い曇天からは今にも雪が降り出しそうだった。
「とりあえず、連れて戻るか。どこの組織に預けるかは、後で考えよう。」
儀礼は女性に絡まるワイヤーを解き始める。
麻酔薬を中和しなければ、ジェイミーは一日眠っていることだろう。
二人分のマントで包んだ女性をヒガが担ぎ、町の方へと向かった。
ヒガとクガイのマント。儀礼のマントでは長さが足りなか……。
「くっ。」
儀礼の知りたいことは、だいたい知ることができた。
あとは管理局でも、専門の組織にでも渡して調べてもらえば、色々と引き出せることだろう。
いい立場にいたようなので、良い情報源となるはずだ。
「生きたまま」で返さないつもりなので、死なせないようによく言っておかなければならない。
「また、面倒なことしたかなぁ……。」
はぁぁ、と儀礼は重い溜息を吐く。
人違いで向こうから儀礼を襲ってきた。だから、儀礼は相手をしただけ。
(うん。大丈夫。)
自分を励ますように儀礼は頷いた。
監視を送られるようなことはしていない。
「お前ら、何してた。」
管理局に向かう途中の道で、待っていたかのように立っていたクリームに見咎められた。
特にヒガは、何時間も作業をさぼっていたことになる。
それなりの理由があると思われているのだろう。
「さ……」
『殺人鬼談義』と答えようとして、何て物騒な答えだと、儀礼は思い留まる。
そこに集まっていたのは、クガイ、ヒガ、儀礼。
元暗殺者、本物の殺人鬼、大量殺戮兵器の開発者。不穏な計画の気配しかしない。
「男同士の話です。」
こくりと頷きながら、真面目な顔で儀礼は言った。
「さぼりか?」
クリームがヒガを見上げるように睨む。
儀礼の答えは、信用していないようだ。
「男同士の話、だな……。」
苦笑するように儀礼を見て、ヒガは答えた。
「……ふーん。ゼラードの姿なら混ざれるのか?」
にやりと、いたずら心を起こした子供のような顔でクリームが三人を見る。
「フフフ、混ざる? 長いよ、クガイの話。」
楽しそうに、儀礼も笑って返す。
「何やってきたのかと思えば。お前か、クガイ。」
苦笑するようにして、クリームがクガイを見る。
「そいつの話も俺には有意義だったがな。まさか、消息の消えた名うてがシエンの山などに埋まっていたとは……。」
感慨深く言って、クガイはあごに手を当てる。
長い、クガイの話がまた始まりそうだったので、儀礼は邪魔をしないように手を振って、ヒガと共に管理局へと歩き出そうとした。
「待て。なんだ、それは。」
止められた。
ヒガの肩に乗る見るからに怪しい荷物を見て、クリームは眉をしかめる。
「マントです。」
「中身だ。」
当たり前だろ、とクリームが儀礼の頭をはたく。
「空から降ってきた。」
にっこりと笑って儀礼は答える。嘘ではないだろう、と。
「見せてみろ。」
女性を包んでいるマントの端を掴み、背伸びするようにしてクリームがその中を覗き込もうとする。
その瞳には、怪訝そうな疑いの影と、小さく輝く好奇心。
「見ない方が身のためだよ。」
その身の安全を考え、くすりと笑い儀礼はクリームの手を外した。
なのに――。
「これ、絶対間違ってる。」
儀礼は頬を膨らませて文句を言う。
「僕が何をしたって言うんだ。」
管理局の、儀礼の借りている研究室で、儀礼は怒りながら椅子に座っていた。
いや、手を椅子の背もたれに縛られ、足をそれぞれ椅子の脚へと固定され、椅子から動けないでいる。
「クリームのいじわる。」
拗ねたように儀礼が言えば、マントに包まった女性を簡易ベッドへと運ばせていたクリームが儀礼の方を振り返る。
「これは何だ。」
言いながらクリームがマントを剥げば、中から人が現れる。当たり前だが。
驚いた様子もなく、クリームはその女性を観察する。
眠っているので危険は無いとは思うが、儀礼は一応警戒しておく。
女性の傷はクガイが治しているが、服のほつれなどはそのままだ。
全身、砂まみれなのもしかたがない。
そして、寝そべった女性の服は大きくはだけていた。
「それをやったのこいつだ。」
女性の服に目を留めたクリームに、クガイが儀礼を指差して言う。
「言うんだ。」
苦い笑いで儀礼は返す。
「元々開いてたし、傷がないか確かめただけだ、何もしてない。捕虜にも人権はある。」
顔を伏せて、儀礼は言う。女性を捕虜と言った自分に呆れていた。
その姿を見たときから、利用することしか儀礼は考えていなかった。
「……魔法使いか。」
全身を眺めるように見回し、両手の魔法具に目を留め、考え込むようにクリームは言った。
「これは、誰だ。」
クリームは低い声で問いかける。
「空から降ってきた魔法使いさんです。ホウキは見つかりませんでした。」
カタカタとぜんまい仕掛けのおもちゃの様に椅子を動かして近付き、儀礼は笑うようにクリームを見上げた。
嘘は言ってない。
「説明しろ。」
儀礼の言葉は信用できないようで、溜息と共に、クリームはヒガとクガイに向き直る。
その二人が、儀礼を裏切りクリームに味方した。
勝手に戦闘に割り込んできておいて、あまりに身勝手すぎると、儀礼は二人を見上げて頬を膨らませる。
「「笑うな。」」
奇怪な儀礼の行動に肩を震わせている二人に、対峙しているはずの儀礼とクリームの声が重なった。
「それは、ユートラスの兵士だ。空中に陣を作って現れた、高位の魔法使い。ギレイが糸のようなもので陣の中から釣り上げた。」
クガイがにやりと口の端を上げ、楽しそうに言いつける。
「ターゲットと似ているらしく、間違えたようだが……襲ってきた所をこいつは網で絡めとって捕らえた。」
若干の疑いのようなものを混ぜ、ヒガが儀礼を示して言う。
釣りに網漁、言われてみればその通りだと、儀礼は可笑しくなった。
砂の海で儀礼は生まれて初めての「漁」をしてきた。
「大漁。晩飯確保~♪」
そのサイズの魚を想像し、儀礼はくすくすと笑う。
これだけ大きな魚なら、皆で分けて食べてもおなかいっぱいだろう、と儀礼は自分の名漁師振りに満足する。
クリームはうつむき、頭を押さえた。
「ユートラスか。」
呟いて顔を上げたクリームはもう、真剣な表情をしていた。
「こいつをどうするつもりだ?」
「食べる気??」
巨大な魚の調理法を考えていた儀礼は、クリームに上から落としたような頭突きを食らった。
これは、やったほうも痛くはないのだろうか。痛む頭をさすることもできず、儀礼は目に涙を溜める。
自分の周りには乱暴な人が多くて困る、と儀礼は不満げに息を吐く。
「ユートラスの、偉い軍人の娘みたい。それなりの研究施設でいろいろ調べてもらおうかと思って。死なせないようには言っとく。」
寝そべる女性を見て、儀礼は説明する。視界は涙で歪んだままだった。暴力には、賛成できない。
「調べ終わっちゃえば用はないんだけどね。返したら殺されちゃうから、いずれ面倒見ることにはなるかもな。」
儀礼が殺さないという選択肢を選び続けるなら、最終的にはそういうことになるのだろう。
俯いた視線の先、動かない自分の足を見て、儀礼は絡みつく地獄の亡者というものを思い出した。
血の池に沈む儀礼、一生を、閉じ込められて過ごす女性の人生。
彼女の驕る力は、何人の犠牲の上に手に入れた物だろうか。
案外、地獄で出会うかもしれない、と儀礼の顔には笑みが浮かぶ。
「その場合はお友達からってことになるのかな……。」
儀礼の持ち上げた顔は、真っ直ぐに見ていたらしいクリームの視線とぶつかった。
「預かる。」
短くその一言だけを言い、クリームはその女性を背負ってあっという間に、扉から出ていってしまった。
溜息のようなものを吐き、その後をクガイが追っていった。
「連れてかれちゃった。」
くすりと儀礼は笑う。そこにがっかりとした様子はない。
「ねえ、どこに連れて行くと思う?」
好奇心を瞳に込めて儀礼は、慌しいクリームたちの行動に、立ち尽くすヒガに問いかける。
ちらりと、興味もなさそうに、ヒガは儀礼を見下ろす。
「だって、ユートラスだよ。普通の組織じゃさ、きっとすぐに奪い返される。自力でだって、逃げ出すかもしれない。なのにクリーム、迷いなく連れてった。当てがあるんだよ。」
にやりと儀礼は笑う。
「管理局かな、別の組織かな。ユートラスに対処できるなら、やっぱどっかの国かな?」
言いながら、楽しそうに儀礼は笑う。
その手はするりと縄を解き、袖口に仕込まれた小さな刃物で両足を縛る紐を切った。
儀礼のした一瞬の行動に、ヒガは呆れる。
「捕まった振りか?」
「武人3人に逆らうほど、僕は愚かじゃありません。」
くすりと、また儀礼は笑う。
「なぜ俺に手の内を見せる。」
怪しむようにヒガは儀礼を見る。
「ヒガさんの手が欲しいから。」
笑うように儀礼は答える。そして、真剣にヒガを見上げる。
「『蒼刃剣』をユートラスが狙ってる。」
ヒガは、表情を変えない。知っていたのかもしれない。
「気をつけて。」
それだけ言って、儀礼はポケットの中で板状のモニターマップを確認する。
管理局内を映したマップには、クリームを示す薄茶の光が点滅している。
その光は、真っ直ぐに転移陣のある部屋へと向かっていた。
儀礼がクリームに渡したホルダーは、発信機入り。
そしてもう一つ。儀礼のいる現在地と重なる場所には青い点滅。
ヒガの持つ蒼刃剣の鞘に仕込まれた、発信機の信号。
儀礼は心の中で、にやりと笑った。
砂地に寝転がり、ワイヤーに包まったままの女性が、うっとりとした表情で空に向けて何かを唱え続けている。
ダンッ。
「いい天気だよね。」
静かになった空間で、懐に改造銃をしまいながら、儀礼は何事もなかったかのように、広い空を眺めた。
薄暗い曇天からは今にも雪が降り出しそうだった。
「とりあえず、連れて戻るか。どこの組織に預けるかは、後で考えよう。」
儀礼は女性に絡まるワイヤーを解き始める。
麻酔薬を中和しなければ、ジェイミーは一日眠っていることだろう。
二人分のマントで包んだ女性をヒガが担ぎ、町の方へと向かった。
ヒガとクガイのマント。儀礼のマントでは長さが足りなか……。
「くっ。」
儀礼の知りたいことは、だいたい知ることができた。
あとは管理局でも、専門の組織にでも渡して調べてもらえば、色々と引き出せることだろう。
いい立場にいたようなので、良い情報源となるはずだ。
「生きたまま」で返さないつもりなので、死なせないようによく言っておかなければならない。
「また、面倒なことしたかなぁ……。」
はぁぁ、と儀礼は重い溜息を吐く。
人違いで向こうから儀礼を襲ってきた。だから、儀礼は相手をしただけ。
(うん。大丈夫。)
自分を励ますように儀礼は頷いた。
監視を送られるようなことはしていない。
「お前ら、何してた。」
管理局に向かう途中の道で、待っていたかのように立っていたクリームに見咎められた。
特にヒガは、何時間も作業をさぼっていたことになる。
それなりの理由があると思われているのだろう。
「さ……」
『殺人鬼談義』と答えようとして、何て物騒な答えだと、儀礼は思い留まる。
そこに集まっていたのは、クガイ、ヒガ、儀礼。
元暗殺者、本物の殺人鬼、大量殺戮兵器の開発者。不穏な計画の気配しかしない。
「男同士の話です。」
こくりと頷きながら、真面目な顔で儀礼は言った。
「さぼりか?」
クリームがヒガを見上げるように睨む。
儀礼の答えは、信用していないようだ。
「男同士の話、だな……。」
苦笑するように儀礼を見て、ヒガは答えた。
「……ふーん。ゼラードの姿なら混ざれるのか?」
にやりと、いたずら心を起こした子供のような顔でクリームが三人を見る。
「フフフ、混ざる? 長いよ、クガイの話。」
楽しそうに、儀礼も笑って返す。
「何やってきたのかと思えば。お前か、クガイ。」
苦笑するようにして、クリームがクガイを見る。
「そいつの話も俺には有意義だったがな。まさか、消息の消えた名うてがシエンの山などに埋まっていたとは……。」
感慨深く言って、クガイはあごに手を当てる。
長い、クガイの話がまた始まりそうだったので、儀礼は邪魔をしないように手を振って、ヒガと共に管理局へと歩き出そうとした。
「待て。なんだ、それは。」
止められた。
ヒガの肩に乗る見るからに怪しい荷物を見て、クリームは眉をしかめる。
「マントです。」
「中身だ。」
当たり前だろ、とクリームが儀礼の頭をはたく。
「空から降ってきた。」
にっこりと笑って儀礼は答える。嘘ではないだろう、と。
「見せてみろ。」
女性を包んでいるマントの端を掴み、背伸びするようにしてクリームがその中を覗き込もうとする。
その瞳には、怪訝そうな疑いの影と、小さく輝く好奇心。
「見ない方が身のためだよ。」
その身の安全を考え、くすりと笑い儀礼はクリームの手を外した。
なのに――。
「これ、絶対間違ってる。」
儀礼は頬を膨らませて文句を言う。
「僕が何をしたって言うんだ。」
管理局の、儀礼の借りている研究室で、儀礼は怒りながら椅子に座っていた。
いや、手を椅子の背もたれに縛られ、足をそれぞれ椅子の脚へと固定され、椅子から動けないでいる。
「クリームのいじわる。」
拗ねたように儀礼が言えば、マントに包まった女性を簡易ベッドへと運ばせていたクリームが儀礼の方を振り返る。
「これは何だ。」
言いながらクリームがマントを剥げば、中から人が現れる。当たり前だが。
驚いた様子もなく、クリームはその女性を観察する。
眠っているので危険は無いとは思うが、儀礼は一応警戒しておく。
女性の傷はクガイが治しているが、服のほつれなどはそのままだ。
全身、砂まみれなのもしかたがない。
そして、寝そべった女性の服は大きくはだけていた。
「それをやったのこいつだ。」
女性の服に目を留めたクリームに、クガイが儀礼を指差して言う。
「言うんだ。」
苦い笑いで儀礼は返す。
「元々開いてたし、傷がないか確かめただけだ、何もしてない。捕虜にも人権はある。」
顔を伏せて、儀礼は言う。女性を捕虜と言った自分に呆れていた。
その姿を見たときから、利用することしか儀礼は考えていなかった。
「……魔法使いか。」
全身を眺めるように見回し、両手の魔法具に目を留め、考え込むようにクリームは言った。
「これは、誰だ。」
クリームは低い声で問いかける。
「空から降ってきた魔法使いさんです。ホウキは見つかりませんでした。」
カタカタとぜんまい仕掛けのおもちゃの様に椅子を動かして近付き、儀礼は笑うようにクリームを見上げた。
嘘は言ってない。
「説明しろ。」
儀礼の言葉は信用できないようで、溜息と共に、クリームはヒガとクガイに向き直る。
その二人が、儀礼を裏切りクリームに味方した。
勝手に戦闘に割り込んできておいて、あまりに身勝手すぎると、儀礼は二人を見上げて頬を膨らませる。
「「笑うな。」」
奇怪な儀礼の行動に肩を震わせている二人に、対峙しているはずの儀礼とクリームの声が重なった。
「それは、ユートラスの兵士だ。空中に陣を作って現れた、高位の魔法使い。ギレイが糸のようなもので陣の中から釣り上げた。」
クガイがにやりと口の端を上げ、楽しそうに言いつける。
「ターゲットと似ているらしく、間違えたようだが……襲ってきた所をこいつは網で絡めとって捕らえた。」
若干の疑いのようなものを混ぜ、ヒガが儀礼を示して言う。
釣りに網漁、言われてみればその通りだと、儀礼は可笑しくなった。
砂の海で儀礼は生まれて初めての「漁」をしてきた。
「大漁。晩飯確保~♪」
そのサイズの魚を想像し、儀礼はくすくすと笑う。
これだけ大きな魚なら、皆で分けて食べてもおなかいっぱいだろう、と儀礼は自分の名漁師振りに満足する。
クリームはうつむき、頭を押さえた。
「ユートラスか。」
呟いて顔を上げたクリームはもう、真剣な表情をしていた。
「こいつをどうするつもりだ?」
「食べる気??」
巨大な魚の調理法を考えていた儀礼は、クリームに上から落としたような頭突きを食らった。
これは、やったほうも痛くはないのだろうか。痛む頭をさすることもできず、儀礼は目に涙を溜める。
自分の周りには乱暴な人が多くて困る、と儀礼は不満げに息を吐く。
「ユートラスの、偉い軍人の娘みたい。それなりの研究施設でいろいろ調べてもらおうかと思って。死なせないようには言っとく。」
寝そべる女性を見て、儀礼は説明する。視界は涙で歪んだままだった。暴力には、賛成できない。
「調べ終わっちゃえば用はないんだけどね。返したら殺されちゃうから、いずれ面倒見ることにはなるかもな。」
儀礼が殺さないという選択肢を選び続けるなら、最終的にはそういうことになるのだろう。
俯いた視線の先、動かない自分の足を見て、儀礼は絡みつく地獄の亡者というものを思い出した。
血の池に沈む儀礼、一生を、閉じ込められて過ごす女性の人生。
彼女の驕る力は、何人の犠牲の上に手に入れた物だろうか。
案外、地獄で出会うかもしれない、と儀礼の顔には笑みが浮かぶ。
「その場合はお友達からってことになるのかな……。」
儀礼の持ち上げた顔は、真っ直ぐに見ていたらしいクリームの視線とぶつかった。
「預かる。」
短くその一言だけを言い、クリームはその女性を背負ってあっという間に、扉から出ていってしまった。
溜息のようなものを吐き、その後をクガイが追っていった。
「連れてかれちゃった。」
くすりと儀礼は笑う。そこにがっかりとした様子はない。
「ねえ、どこに連れて行くと思う?」
好奇心を瞳に込めて儀礼は、慌しいクリームたちの行動に、立ち尽くすヒガに問いかける。
ちらりと、興味もなさそうに、ヒガは儀礼を見下ろす。
「だって、ユートラスだよ。普通の組織じゃさ、きっとすぐに奪い返される。自力でだって、逃げ出すかもしれない。なのにクリーム、迷いなく連れてった。当てがあるんだよ。」
にやりと儀礼は笑う。
「管理局かな、別の組織かな。ユートラスに対処できるなら、やっぱどっかの国かな?」
言いながら、楽しそうに儀礼は笑う。
その手はするりと縄を解き、袖口に仕込まれた小さな刃物で両足を縛る紐を切った。
儀礼のした一瞬の行動に、ヒガは呆れる。
「捕まった振りか?」
「武人3人に逆らうほど、僕は愚かじゃありません。」
くすりと、また儀礼は笑う。
「なぜ俺に手の内を見せる。」
怪しむようにヒガは儀礼を見る。
「ヒガさんの手が欲しいから。」
笑うように儀礼は答える。そして、真剣にヒガを見上げる。
「『蒼刃剣』をユートラスが狙ってる。」
ヒガは、表情を変えない。知っていたのかもしれない。
「気をつけて。」
それだけ言って、儀礼はポケットの中で板状のモニターマップを確認する。
管理局内を映したマップには、クリームを示す薄茶の光が点滅している。
その光は、真っ直ぐに転移陣のある部屋へと向かっていた。
儀礼がクリームに渡したホルダーは、発信機入り。
そしてもう一つ。儀礼のいる現在地と重なる場所には青い点滅。
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