ギレイの旅
エリと同じ
「思うんだけどさ、ああいう連中って、胸がない時点で僕が男だって気付かないのかな?」
自分の襟元を覗くようにして儀礼は言う。
「骨格だって違うし、鎧着てても見分けつくのに、あいつら節穴だ。」
連中もあいつらも、もちろん宿の外に転がっている奴らのことだ。
「中味を知らないからだろ。」
儀礼を見て、当たり前のことの様に拓は言う。
儀礼の顔の造りは確かに、母親であるエリによく似ている。
しかし、笑顔も声も仕草も、全てが優しく慈愛に満ちたエリとは、似ても似つかない儀礼の中味。
拓は、それに気付きもしない外の連中を嘲る。
「つまり、白衣に惹かれると……。医者が好きとか、研究者がいいとかそんな感じか。」
白衣をつまみ、違う意味で大いに納得している少年。
自分のせいではなく、連中の勘違いは白衣のせいだと、儀礼は言いたいらしい。
拓の言う中身が、この性格のことだとは露ほども思っていない様子。
「事件解決。疲れたし、あったかい布団で寝るか。」
ふぁ~ぁと、眠そうに、儀礼は伸びとともにあくびをする。
静かな廊下にその声が響く。
「お前、何もしてないだろ。」
拓が儀礼の頭を殴った。
迷惑な冒険者二人と戦ったのは拓であり、儀礼はほとんど何もしていない。
「いやいや。僕、本当に徹夜。目を離すと修行に旅立っていく若者がおりまして。」
蒼刃剣を杖の様について、儀礼はふざけた口調で説明する。
「お前幾つだよ。」
苦労話を始めた儀礼に、馬鹿にしたように拓は言う。
「齢15になります。」
「残念、寿命だな。」
楽しむように拓は冷酷な笑みを浮かべた。
「そんな殺生な……。」
言いながら、ははは、と儀礼は笑う。
その寿命の時を早めるような書類を手にしても笑う、儀礼の性格。
知っていれば、ああいう連中も近付きはしないだろうにと、拓は思う。
初めから、男らしく戦っていればいいのだ、シエンの戦士のように。
拓を黒獅子と間違えて挑んできた、連中。
その冒険者との戦いの中、拓が疲れを感じた頃に、白い煙りは沸き起こった。
それを背にしていた二人の男の驚きは、拓を相手にするには大きすぎる隙だった。
それがただの偶然ならば、拓はきっと苛立ちはしないのだろう。
臆病な少年は、戦いを厭う。
それでいて、全てを読んでいたように、人に手を貸す余裕を見せる。
エリに似ていると思って触れた写真が儀礼の物で、改めて似ているのだと拓は思い知らされた。
やはり血のつながった親子で、親子である限り、エリは儀礼の身を心配する。
少女にしか見えないその写真が、殺人依頼の書類だと儀礼は笑って言った。
今さらながらに、それを手に入れた時の状況は危険だったのだと拓にはわかった。
煙の消えるようにどこかへいった不穏な書類。
自分よりも弱いはずの少年に『手を出すな』と言われた気がするのはなぜだろうか、と拓はまた心を苛立たせる。
部屋に戻れば、獅子が剣を持って扉の前で待機していた。
「せっかく利香ちゃんがいるんだから、ゆっくりしてればよかったのに。」
儀礼が笑うように獅子に言う。
「戦闘の気配がした。何やってきたんだ?」
眉をしかめて獅子が問う。
白と利香を二人で部屋に置いていく訳にいかず、獅子はうずうずとしていたようだ。
「拓ちゃんにお客さん。その面が気に入らないって感じの人たち。」
くすくすと儀礼は笑う。
「ああ、お前の顔は気に入られてたもんな。」
にやにやと拓は儀礼を見て笑い返す。
黒い髪、黒い瞳と言うだけで拓を『黒獅子』と思い込んだ連中は、その人を、知ったとしてもやはり気付きもしないだろう。
似ていても違う、エリと儀礼。
微笑めば目を奪われ、心奪われると、そう思えるほどに、整った天使のような顔立ち。
優しく見つめる、宝石のような深い青の瞳。
初めてエリに会った日の事を、拓は忘れない。
「まったく問題なし。だから、大丈夫だから出ておいでよ、白。布団の中にずっと居たの? 暑くない?」
儀礼は笑いながら、ベッドの上の丸まった布団に近付いた。
「そういや、何か預かってるって言ってたな。白ってまた狼か?」
「拓ちゃん、こんな都会に狼はいないよ。」
真面目な顔で、儀礼が拓を振り返る。
これがなぜ、他の村の連中はむかつかないのか、拓には昔から不思議だった。
「んじゃ、犬か?」
拓は儀礼の隣りに立ち、その布団の中を見ようとする。
「違うよ。ほら白、珍しいシエン人がいっぱい。面白いから見てごらん。息苦しくないの?」
儀礼は、シエン人であることを強調するように言った。
見世物にされるようで、拓の機嫌は悪くなる。
「いっぱいなんていないだ――」
「出ておいでよ。」
拓が言葉を言い終える前に、儀礼に言われて、その白は顔を出した。
長い時間布団の中に居たために、蒸れて暑かったのか、顔中が血色よく真っ赤になっている。
「やっぱり、ちょっと暑かった。」
耳に心地よい元気な声。照れたように笑う子供の姿。
ベッドの上に現れた、輝くような笑顔の持ち主。
エリと同じ、宝石のような底の見えない、深い青の瞳。
エリと同じ、日の光の様に輝く細い金の髪。
エリと同じ、緩やかに笑む、柔らかそうな赤い唇。
エリと同じ、形の良い大きな目が、儀礼を見て、次に真っ直ぐに拓を見つめた。
それはエリと同じ、天使の様に整った顔立ち。
「俺は、シエン領主の第一子、拓・玉城。結婚を前提に真剣に俺と付き合いを――」
白の前に立ち、全てを言う前に、拓は儀礼にはたかれた。
「白は男の子だ。」
「いや、エリさんと同じ――」
その白と呼ばれる子供を示し、拓は明らかに儀礼と違う所を上げようとするが、その前に儀礼に阻まれた。
「見れば分かるだろ、僕にそっくりだ。」
拓の襟首をつかみ、睨むように儀礼が言う。
儀礼と同じ、性別という。
「どういう確率だ。」
拓は苦々しくその子供を見た。
自分の襟元を覗くようにして儀礼は言う。
「骨格だって違うし、鎧着てても見分けつくのに、あいつら節穴だ。」
連中もあいつらも、もちろん宿の外に転がっている奴らのことだ。
「中味を知らないからだろ。」
儀礼を見て、当たり前のことの様に拓は言う。
儀礼の顔の造りは確かに、母親であるエリによく似ている。
しかし、笑顔も声も仕草も、全てが優しく慈愛に満ちたエリとは、似ても似つかない儀礼の中味。
拓は、それに気付きもしない外の連中を嘲る。
「つまり、白衣に惹かれると……。医者が好きとか、研究者がいいとかそんな感じか。」
白衣をつまみ、違う意味で大いに納得している少年。
自分のせいではなく、連中の勘違いは白衣のせいだと、儀礼は言いたいらしい。
拓の言う中身が、この性格のことだとは露ほども思っていない様子。
「事件解決。疲れたし、あったかい布団で寝るか。」
ふぁ~ぁと、眠そうに、儀礼は伸びとともにあくびをする。
静かな廊下にその声が響く。
「お前、何もしてないだろ。」
拓が儀礼の頭を殴った。
迷惑な冒険者二人と戦ったのは拓であり、儀礼はほとんど何もしていない。
「いやいや。僕、本当に徹夜。目を離すと修行に旅立っていく若者がおりまして。」
蒼刃剣を杖の様について、儀礼はふざけた口調で説明する。
「お前幾つだよ。」
苦労話を始めた儀礼に、馬鹿にしたように拓は言う。
「齢15になります。」
「残念、寿命だな。」
楽しむように拓は冷酷な笑みを浮かべた。
「そんな殺生な……。」
言いながら、ははは、と儀礼は笑う。
その寿命の時を早めるような書類を手にしても笑う、儀礼の性格。
知っていれば、ああいう連中も近付きはしないだろうにと、拓は思う。
初めから、男らしく戦っていればいいのだ、シエンの戦士のように。
拓を黒獅子と間違えて挑んできた、連中。
その冒険者との戦いの中、拓が疲れを感じた頃に、白い煙りは沸き起こった。
それを背にしていた二人の男の驚きは、拓を相手にするには大きすぎる隙だった。
それがただの偶然ならば、拓はきっと苛立ちはしないのだろう。
臆病な少年は、戦いを厭う。
それでいて、全てを読んでいたように、人に手を貸す余裕を見せる。
エリに似ていると思って触れた写真が儀礼の物で、改めて似ているのだと拓は思い知らされた。
やはり血のつながった親子で、親子である限り、エリは儀礼の身を心配する。
少女にしか見えないその写真が、殺人依頼の書類だと儀礼は笑って言った。
今さらながらに、それを手に入れた時の状況は危険だったのだと拓にはわかった。
煙の消えるようにどこかへいった不穏な書類。
自分よりも弱いはずの少年に『手を出すな』と言われた気がするのはなぜだろうか、と拓はまた心を苛立たせる。
部屋に戻れば、獅子が剣を持って扉の前で待機していた。
「せっかく利香ちゃんがいるんだから、ゆっくりしてればよかったのに。」
儀礼が笑うように獅子に言う。
「戦闘の気配がした。何やってきたんだ?」
眉をしかめて獅子が問う。
白と利香を二人で部屋に置いていく訳にいかず、獅子はうずうずとしていたようだ。
「拓ちゃんにお客さん。その面が気に入らないって感じの人たち。」
くすくすと儀礼は笑う。
「ああ、お前の顔は気に入られてたもんな。」
にやにやと拓は儀礼を見て笑い返す。
黒い髪、黒い瞳と言うだけで拓を『黒獅子』と思い込んだ連中は、その人を、知ったとしてもやはり気付きもしないだろう。
似ていても違う、エリと儀礼。
微笑めば目を奪われ、心奪われると、そう思えるほどに、整った天使のような顔立ち。
優しく見つめる、宝石のような深い青の瞳。
初めてエリに会った日の事を、拓は忘れない。
「まったく問題なし。だから、大丈夫だから出ておいでよ、白。布団の中にずっと居たの? 暑くない?」
儀礼は笑いながら、ベッドの上の丸まった布団に近付いた。
「そういや、何か預かってるって言ってたな。白ってまた狼か?」
「拓ちゃん、こんな都会に狼はいないよ。」
真面目な顔で、儀礼が拓を振り返る。
これがなぜ、他の村の連中はむかつかないのか、拓には昔から不思議だった。
「んじゃ、犬か?」
拓は儀礼の隣りに立ち、その布団の中を見ようとする。
「違うよ。ほら白、珍しいシエン人がいっぱい。面白いから見てごらん。息苦しくないの?」
儀礼は、シエン人であることを強調するように言った。
見世物にされるようで、拓の機嫌は悪くなる。
「いっぱいなんていないだ――」
「出ておいでよ。」
拓が言葉を言い終える前に、儀礼に言われて、その白は顔を出した。
長い時間布団の中に居たために、蒸れて暑かったのか、顔中が血色よく真っ赤になっている。
「やっぱり、ちょっと暑かった。」
耳に心地よい元気な声。照れたように笑う子供の姿。
ベッドの上に現れた、輝くような笑顔の持ち主。
エリと同じ、宝石のような底の見えない、深い青の瞳。
エリと同じ、日の光の様に輝く細い金の髪。
エリと同じ、緩やかに笑む、柔らかそうな赤い唇。
エリと同じ、形の良い大きな目が、儀礼を見て、次に真っ直ぐに拓を見つめた。
それはエリと同じ、天使の様に整った顔立ち。
「俺は、シエン領主の第一子、拓・玉城。結婚を前提に真剣に俺と付き合いを――」
白の前に立ち、全てを言う前に、拓は儀礼にはたかれた。
「白は男の子だ。」
「いや、エリさんと同じ――」
その白と呼ばれる子供を示し、拓は明らかに儀礼と違う所を上げようとするが、その前に儀礼に阻まれた。
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