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ギレイの旅

千夜ニイ

管理局ライセンス

「可決されました。じゃねぇ! 勝手に決めるな。」
クリームが睨むように儀礼を見る。
「ランに何したんだよ。」
まだ、クリームの服を握り締めたままのランジェシカをチラリと見て、クリームは儀礼に不審の目を向ける。
「えっと、情緒制御の確立不足と言語発達障害っぽかったから、ちょっと試してみたら当たりと言うか……。」
儀礼は冷や汗を流してぼそぼそと言葉を濁す。
「どういう意味だよ。」
クリームが眉をしかめて儀礼を睨む。その腕の中で、飴玉を光に透かして見ているランジェシカ。
「綺麗」と呟きにっこりと微笑む。


「食べられるよ。」
にっこりと笑って儀礼が言えば、ランジェシカは少し迷ってアメを口に入れる。
嬉しそうに笑った。機嫌は治ったようだった。
「簡単なやり取りで騙されちゃったろ。よく言えば純粋? 無邪気とか。でも悪を知らないから、善悪の区別がつかない。欲しいものは手に入れるし、気に入らないものは消しちゃう。」
ランジェシカを見て儀礼は微笑む。
「一瞬、理解できない状態に陥ってパニックになったんだね。対処法を探して、昔の記憶にまで戻っちゃったのかも。」
クリームに視線を戻し、儀礼は苦笑する。
「だから、多分、今のが組織に入る前のランジェシカ。予想はしたけど、幼すぎてびっくりした。」


「なんで、そんなことがわかる。」
何をどう予想したのか、まったく理解できない。クリームはまた儀礼を睨む。
「相手の意識に軽く侵入したのだろう。魔力に不明な動きがあった。」
クガイが言う。
「ま、魔力? 僕に魔力ある?」
意味がわからないという困惑の表情で儀礼はクガイを見る。
「あんたの周りは魔力の変化が異常だよ。なんか常に廻ってるって言うか、満ちてくような。居心地悪くないのがなんと言うか。」
クガイに代わって答え、困ったようにマフレは短い髪をいじる。その声はだんだんと小さくなった。
「ああ。酔いそうだな。」
クガイが苦笑する。
「だね。」
マフレが俯いて笑う。
今の時点では『蜃気楼』の下で動くには二人の力は足りていない、そう感じ取ったのだった。
組織のナンバー2だった人間を、ランジェシカに戦う気がなかったとは言え、儀礼は赤子の様に操った。


「酔う?」
儀礼は頭に『?』を浮かせてテーブルを見る。
「誰かアルコール頼んだ?」
そう言って首を傾げる。
「違うし」
くすくすとマフレは笑う。
「わからないと言うなら、精神年齢が近いから、ランジェシカと通じたんじゃないのか?」
クガイが意地悪く笑えば、ランジェシカの顔を見てクリームはうなずく。
「なるほど」
「それで納得しないで。」
儀礼は頭を押さえ、落ち込んだような声を出した。
 

「お前は、こいつの下に就くのをどう思う?」
クガイがマフレに問う。
「どっちでもいいって気はしてきたよ。確かにSランク持ってる奴の下に就くのは凄いって思ったけどさ、こいつはなんか、違う?」
儀礼を見て、マフレは首を傾げる。
「凄いのはわかった。でも、こいつは私らの力を必要とはしてない。ゼラード。あんたの言った、強いくせに弱いとか、守りたいのに敵わないとか――」
そこでマフレの言葉は途切れた。その口は背後からクリームの手でふさがれていた。
「言、う、な。」
クリームの低い声に、マフレは肩を震わせ、笑いながら頷く。
「仲良しだね。」
呆れたように儀礼は笑う。


「ああ。仲良しなんだ。」
クリームの手を引き剥がし、にやりと笑って、マフレは今度は肯定した。
「だからさ、お前が上でいいかなと思うよ。ゼラード。」
引き剥がしたクリームの手を抑えたまま、マフレは言った。
意外だと言わんばかりに、クリームはマフレを見返す。
「ゼラードに、光をくれたのが蜃気楼なのだとしても、私に、私たちに光をくれたのはあんただよ。」
その言葉を肯定するように、クガイもランジェシカもクリームを見て頷く。
「クリーム、もてもて。」
あはは、と儀礼は楽しそうに笑う。


「お前はっ……ホントに最悪だなっ。」
奥歯を噛み締めて、しかし、その顔を赤く染めたまま、クリームは儀礼を睨みつける。
「褒められた。」
くすりと儀礼は笑う。
「褒めてねぇっ!」
クリームは怒鳴る。
しかし、固まることもなく、儀礼はまた嬉しそうに笑った。


「お前は、どうする?」
儀礼を咎めることを諦め、額を押さえて、クリームは寝たままの男に聞く。
「俺は……傷が治ったらになるが、いつでも手を貸そうと思う。『蜃気楼』、ギレイ・マドイと言うのか。ヒガには帰れん、他に行く当てもない。」
「なら、お前は賛成側だな。」
ヒガの言葉に、クリームは確認を取る。
「いや、本人がやめろと言うなら、下に就くつもりもない。俺は勝手に動くだけだ。」
しわがれた声で男は語る。
「勝手に動かれても……。」
儀礼は苦い笑いを浮かべる。下手をしたら、不審者扱いされて、隠れた護衛たちにばっさりと――。
「あ、あの! しばらくはクリームたちと一緒に組織作りに協力していただければっ。」
慌てたように、儀礼は男に提案してみる。
クリームたちが見ていてくれれば、男がシエンに手を出すこともなく、この男の実力があれば、作り始めのもろい組織を外部から潰されにくくなる。


「お前の、守りたいものか?」
横になったまま、男が視線だけを向けて儀礼に問う。
「えっと……はい。」
一瞬戸惑い、儀礼は頷いた。力が足りなくて、儀礼には守りきれないもの。
悩んだのは、儀礼が男の力を利用しようとしているから。なのに、男は真っ直ぐに儀礼に問いかけた。
友人を殺めようとした敵よりも、浅ましい自分に儀礼は戸惑う。結局は儀礼も、上位の研究者だった。
「わかった。」
それでも、儀礼の返事に男は満足そうに笑った気がした。


 少しの時間を空け、ふぅと大きく息を吐いて、クリームは儀礼を見た。
「わかったよ。お前の下に組織を作るのは諦める。あたしの名でギルドにパーティを作るよ。誰の仕事でも請け負う。そういうのでいいんだろ?」
クリームは、少し切なげに微笑んだ。
心が痛む気はするが、それが皆の安全の為、と儀礼は頷く。
「うん。頑張って。」
にっこりと、儀礼は笑った。


「だいたい、なんだって僕の下に組織なんて作ろうと思ったの? 研究施設持ってるわけでもないのに。」
普通はSランクともなればいくつもの個人施設を保有している。
そこで働く者は基本的にその人の部下や配下や助手などと言う名目になる。
Aランクの研究者ですらほとんどが持っているのだ、Sランクで持っていないのは若すぎる、儀礼だけ。
サウルの研究施設は儀礼がトップにいる施設ではあるが、儀礼が買い取ったわけではないので、やはり大元は管理局になる。
「お前が危なっかしいからだろ。」
クリームは答える。
「お前が泣いたりするから。」
「それは忘れて。」
管理局本部でのことだと思い当たり、儀礼は片手で顔を覆う。


「それでだ、儀礼。ちょっと頼みがあるんだ。分かってるとは思うが、こいつらは今、使える身分証明を持ってない。だからさ、あたしの時みたいに管理局のライセンス発行してもらえないか?」
首を傾げるようにして、クリームは儀礼に歩み寄る。
2歩、3歩とゆっくりと。近付くたびに、その笑みは含みのある妖しいものへと変化していく。
そっと、クリームは自分の胸元へと手を入れた。
一つ、二つ、と邪魔そうにジャケットのボタンを外していく。
「欲しいんだ。ここに、お前の――」
首周りの白い肌が見え、赤い唇があでやかに笑う。


「え? ちょっ、クリームさん?」
突然のクリームの不審な行動に、儀礼は焦る。
男が何人もいる場所で、少女のやる行動ではない。
しかし、クリームはジャケットの内ポケットから何かを取り出しただけだった。
小さい、四角い、管理局のライセンス。
「――名が入ったライセンスが、な。」
怪しい気配をかき消し、クリームはにやりと笑った。
クリーム・ゼラードの管理局ライセンス。その、所属欄を指し示す。


***************
クリーム・ゼラード ランクA
称号『砂神の勇者』
所属 ギレイ・マドイ 
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「ぅっ、あーーっ!!」
儀礼は、叫んでから、自分の口を押さえる。
「それか、やられた。」
がくりとその場にしゃがみ込み、頭を抱えるようにして、儀礼は呻く。
それはすでに、クリームが儀礼の配下である事の証。
管理局でライセンスをもらうために、最も手っ取り早かった証明の仕方が、儀礼の部下として登録することだった。
Sランクの研究員の補助役として、かなりの人数を取り込める。
アーデス達が護衛の前に、最初に提案してきたのもその立場。


「で、結局どういうことになったんだ?」
勝ち誇るように笑うクリームと、落ち込んだ儀礼を見比べ、獅子が問う。
 「獅子もすでに僕の部下だ。」
うずくまったままの儀礼の言葉に、獅子は首を傾げる。
「なんか変わんのか?」
「変わんない。今まで通り。」 
そう言って、儀礼は力なく立ち上がった。


「ギレイ。もう数百人に出してるそうじゃないか、お前の名前入りライセンス。今さら数人増えたところで、不便もないだろう?」
あざ笑うようにクリームは儀礼を見る。
氷の谷で見つかった人たちも皆、儀礼の名の入ったライセンスを持っている。
「ホントに、危ないんだよ。あの人たちはちゃんと管理局の監視下にあるからいいけど。僕の名前が入ってるだけなら問題ないから、間違っても直属の部下とか、言っちゃダメだからね。作るのは、クリームの個人の組織。」
諦めたように、儀礼は泣きそうな声で確認するようにそう言った。
「わかった、わかった。」
にやにやと笑ってクリームは答える。あまり、信じられる返事の仕方ではなかった。

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