ギレイの旅
メッセージの送り方
とりあえず、拓にいつ見てもらえるか分からないので、メッセージを送るなら早いほうがいいと、儀礼は怪我した男をクガイたちに任せ、受付へと向かう。
クリームと獅子が儀礼についてきた。
儀礼は部屋から出る時に、残る三人に、しっかりとお願いしてきた。
クガイとマフレとランジェシカに。
「ヒガさんいじめたらだめですよ。」
お願いではないかもしれない。
「なるべく早く戻らないとな。」
少し早足で、儀礼は受付前にある備え付けのパソコンへと向かった。
「儀礼、お前本当にヒガの親父を埋めたのか?」
大またに歩きながら獅子が聞く。
「うん。骨の型が合うから間違いないよ。親子ってやっぱり遺伝があるんだ。」
儀礼が困ったように苦笑する。
「お前、一人で山に入ってたのか?」
シエンでは子供が一人で山に入るのはそれほど変わったことではないが、儀礼は強い魔獣が出た場合に対する能力が低い。
怖がって近づかないのが普通だ。
「だって、一年に2、3体は山にあるんだ。僕、そんなの食べたかもしれない熊とか狐とか食べたくなくて……。」
ぽろぽろと儀礼は涙をこぼす。
儀礼がシエンで言いたかった、言えなかったたくさんの言葉たち。
涙を見られたくなくて、儀礼は隣にいたクリームを前へと押しやった。
「まじか、そんなに?」
獅子の言葉に、クリームのコートの背を掴んだまま、こくこくと儀礼は頷く。
「山の方で、怖い気配感じて、後から見に行くとあるんだ。」
ぐしぐしと儀礼は白衣の肩で目元を擦った。
「何で一人で行くんだよ。」
不満そうに獅子は言う。
「だって、誰かに言ったら山に入るの止められるだろ。それに……知りたくなかった、だろ?」
悲しそうに儀礼は微笑んだ。それは、儀礼が時折見せる大人びた顔。
普段は幼い子供のように振舞うのに、突然大人になって周りの子供を見守るような表情をする。
両親ともが教師で、その仕事を手伝う儀礼が子供たちに大人な態度をとっても、誰も違和感を感じていなかった。
「……親父はたくさん人を殺してた。」
悩むように瞳を伏せて獅子は言った。
「僕は重気さん好きだよ。」
そんな獅子に、にっこりと儀礼は笑う。
それをじっと見る獅子。
「……能天気。」
ポツリと獅子は言った。
「ケンカ売ってる?」
言葉とは裏腹に、笑いながら儀礼は答える。
「儀礼。いつ親父が人を殺したって気付いた?」
珍しく、拗ねたような表情をしている獅子に、儀礼は首を傾げる。
「ん~、2年生位だったかな? 知り合いに聞いて。」
儀礼が答えれば獅子は驚いた顔する。
「教えてくれる奴が、いたのか?」
獅子の言葉に、儀礼はシエンの周りにはそれを語る者がいなかったことを思い出す。
今思えば、その頃からずっと儀礼は穴兎から情報をもらっていたのだ。
「僕はパソコンで外の国の人と話してたから。」
儀礼は空中でキーボードを打つ振りをする。
「話せるのか? あの箱で。」
獅子が首をかしげた。
箱、と来た。これだからドルエドの、特に田舎のシエンの人には困る、と儀礼は苦笑する。
「話すって言うか、文字のやり取り。手紙みたいにメッセージを送って、返事が来てって感じ。」
カチカチと儀礼は慣れた動作で左手袋の甲を叩く。獅子も知ってる儀礼のくせ。
嫌な時も、嬉しい時も、儀礼は本当にくせの様にいつもそのキーを押して穴兎に話しかけていた。
「……それかっ!!」
驚いたように、獅子が儀礼の手元を指差して、大きな声を上げた。
その声に、黙って歩いていたクリームが、びっくりしたように振り返った。
「うん、そう。」
照れたように、儀礼は頬を桜色に染める。仲間に、ようやく言えた、儀礼の秘密。
受付に辿り着き、儀礼はそのカウンター横のパソコンからメッセージを送る。
「メッセージってどうやって送るんだ?」
慣れた様子でキーを操作する儀礼を、後ろから覗き込むようにして獅子が聞く。
「送りたいの? 簡単だよ。」
拓へのメッセージを送り終え、瞬いて儀礼は言う。
「こいつ、何回教えても覚えないんだぞ。無理だ。」
クリームが苦い顔をして言った。何回もと言うあたり、苦労したらしい。
儀礼はにっこりと笑って、管理局の受付、三日前にも世話になった女性、トニアに向き合う。
「あの、メッセージ送って欲しいんですけど。」
儀礼が言えば、トニアはにっこりと笑ってはい、と答える。
「ドルエド国、シエン領主のご息女リカ・タマシロ様に『黒獅子』から――」
そこまで言って、儀礼はトニアがパソコンを操作する手を止めるのを待つ。
そして、儀礼は溜めていた言葉を続ける。
「愛してます、と。」
楽しそうに儀礼が言えば、トニアも笑い、獅子が目を剥く。
「たまわりました。送信いたしましたが、返答を待ちますか?」
軽い調子で言い、くすくすと笑いながらトニアが儀礼の返事を待つ。
「てめぇ、儀礼! 何勝手にっ!!」
獅子が顔を赤くして、儀礼の首に腕をかける。
確実に絞まっていく気道に、儀礼は獅子の腕を叩く。
仕方なさそうに、クリームが仲裁に入った。
「冗談だよ、冗談。ねぇ。」
首を押さえて儀礼が言えば、カウンターの中でトニアが笑う。
「はい。ご本人様以外からの依頼では、メッセージの送信はいたしません。」
のりのいいトニアに儀礼は笑みを返す。
頬を一瞬赤く染め、トニアは小さく咳払いをした。
「管理局はそう言うところしっかりしてるから、重要なこと以外だったら、受付けの人に頼めば連絡してくれるよ。返事来てないかも確認してくれるし、秘密厳守だし。」
管理局の受付になるにはそれなりにスキルが必要なのだ。
「へぇ、すごいんだな。」
感心したように獅子は頷く。
「ギルドの受付だって、ある程度の力のある人がなるでしょ。」
冒険者ギルドの受付に弱そうな人間が立っていることはない。
非力な女性に見えるなら、それはほぼ100%、魔法使いだった。
「ギルドの方は引退した冒険者が受付することが多いですね。」
トニアが付け足すように教えてくれた。
「そうなのか。情報通が多いのもそのせいか。遺跡の攻略方とか魔物の弱点に詳しい人間が多いわけだ。」
納得したようにクリームが頷く。
「あの、マドイ博士。よろしければこれ、記念にもらっていただけませんか?」
トニアが少し戸惑うように、三日前に描いた落書きのような『書類』を儀礼の前に差し出した。
少しだけ顔をかたむけ、見上げるように儀礼を見る。
「あ、それ。いいの?」
クマやウサギやたくさんの木や草、太陽に雲に根の生えた花丸。
カオスと化した落書きに儀礼は嬉しそうに手を伸ばす。
その笑顔を見て、トニアは少し待ってください、とその『書類』を一度手元に戻す。
そして、その空いたスペースに棒人間を三人分描いて、丸で囲った。
「どうぞ」
少し照れたように頬を染めて、トニアは儀礼にその紙を差し出した。
それを見て、儀礼は目を丸くする。
「……いいの? すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
にっこりと笑って儀礼はその『書類』を受け取った。
熊がウサギを襲い、人が円の中に囲われている。
花丸にはつるが延び、無数の手の様に葉があたりを埋め尽くし、根っこはたこの足の様にうねり回る。
その中心には、蝶を追いかける異様にテンションの高い棒人間。
芸術性があるとも、うまいとも言えない本当に落書きのような絵。
「……それ、嬉しいのか?」
小さな声で獅子が聞く。
「うん、すごく!!」
言って、儀礼はその絵を抱きしめた。
「どこが?」
意味が分からないという風に頭を押さえクリームが問いかける。
「僕のこと、尊敬してますって!!」
きらきらと瞳を輝かせて儀礼は答えた。
「「言ってねぇ。」」
呆れたような二人の声は揃った。
「伝わって、嬉しいです!」
しかし、照れたように頬を染め、元気な声でカウンターの中からトニアが答えた。
全く同じ時に、同じ場所にいて、トニアが儀礼に言った言葉を二人は聞き逃した覚えもない。
首を傾げる二人の言いたい事が分かったように儀礼はにやりと口の端を上げる。
「心の中で!!」
儀礼はまた、嬉しそうに笑った。
二人は受付けのトニアを見る。
「心読まれましたっ!」
トニアも、儀礼のように嬉しそうに瞳を輝かせ、両手で胸を押さえた。そして。
『秘密は守ります』
にっこりと微笑んだトニアの赤い唇には、そっとペンが添えられた。
『ギレイくんのお絵かき講座』
三人の棒人間。父と母と祖父。丸で囲って、『尊敬してます』。
幼い頃の儀礼の、難しい言葉を使った、精一杯の気持ち。
儀礼はもう一度その『書類』を抱きしめた。
「お前ら、先に戻っててくれ、さすがに心配だ。」
クリームがメッセージを送り終わった儀礼と獅子に言った。
「うん、わかった。クリームは?」
儀礼が問う。
「あたしもちょっとメッセージ送るところがあるから、終わったらすぐに行く。5分もかかんないよ。」
にっと笑ってクリームは言った。
儀礼と獅子の背中を見送り、クリームは受付横のパソコンの前に立つ。
周囲に怪しい者がいないことを確認して、クリームは「自分のアドレス」宛にメッセージを送った。
『お前を信用する。』
たった一言。
すぐにクリーム自身のアドレスから返答があった。
『その言葉、待ってたぜ。クリーム・ゼラード。』
モニター上の固い文字がつづる、怪しげな相手からの返事。
しかし、クリームは口の端を上げる。
『お前のおかげで、奴の裏をかけた。何も知らない人間の顔を見るってのはいいものだな。』
にやりと、笑みを深くして、クリームはそのメッセージをまた、自分のアドレス宛に送った。
『悪趣味だな。さすが、元暗殺のプロ。まぁ、だからこそ、頼りにしている。』
返ってきた無機質な文字の列から、笑うような雰囲気を送りつけてくる謎の通信相手。
続けてのメッセージも、クリームではなく相手からのものだった。
『俺の名はアナザー。お前は、今から俺の駒だ。』
モニターに映し出されたその言葉に、クリームはまた笑う。
「ネットの犯罪者か。同類だな。」
ぽつりと言って、クリームは最後のメッセージを送る。
『了解した。』
そして、全てのデータを削除して、クリームは仲間たちの待つ部屋へと歩き出した。
「儀礼が連絡が取りにくいと言った情報屋か。まさか、『アナザー』とはな。」
歩きながら、クリームは呟く。聞く者もない小さな声で。
『アナザー』それは、ネットの超人とまで言われる、正体不明のネットの住人。
ネットに繋がった所ならばどこにでも出没し、手に入らないデータはないと言われる。
「最強の情報屋じゃねぇか。」
全てを見通したような儀礼の目に、クリームは納得する。
「ギレイの味方なら、あたしの敵じゃねぇ。今のところはな。」
薄く笑って、クリームは廊下を進む足を速めた。
クリームと獅子が儀礼についてきた。
儀礼は部屋から出る時に、残る三人に、しっかりとお願いしてきた。
クガイとマフレとランジェシカに。
「ヒガさんいじめたらだめですよ。」
お願いではないかもしれない。
「なるべく早く戻らないとな。」
少し早足で、儀礼は受付前にある備え付けのパソコンへと向かった。
「儀礼、お前本当にヒガの親父を埋めたのか?」
大またに歩きながら獅子が聞く。
「うん。骨の型が合うから間違いないよ。親子ってやっぱり遺伝があるんだ。」
儀礼が困ったように苦笑する。
「お前、一人で山に入ってたのか?」
シエンでは子供が一人で山に入るのはそれほど変わったことではないが、儀礼は強い魔獣が出た場合に対する能力が低い。
怖がって近づかないのが普通だ。
「だって、一年に2、3体は山にあるんだ。僕、そんなの食べたかもしれない熊とか狐とか食べたくなくて……。」
ぽろぽろと儀礼は涙をこぼす。
儀礼がシエンで言いたかった、言えなかったたくさんの言葉たち。
涙を見られたくなくて、儀礼は隣にいたクリームを前へと押しやった。
「まじか、そんなに?」
獅子の言葉に、クリームのコートの背を掴んだまま、こくこくと儀礼は頷く。
「山の方で、怖い気配感じて、後から見に行くとあるんだ。」
ぐしぐしと儀礼は白衣の肩で目元を擦った。
「何で一人で行くんだよ。」
不満そうに獅子は言う。
「だって、誰かに言ったら山に入るの止められるだろ。それに……知りたくなかった、だろ?」
悲しそうに儀礼は微笑んだ。それは、儀礼が時折見せる大人びた顔。
普段は幼い子供のように振舞うのに、突然大人になって周りの子供を見守るような表情をする。
両親ともが教師で、その仕事を手伝う儀礼が子供たちに大人な態度をとっても、誰も違和感を感じていなかった。
「……親父はたくさん人を殺してた。」
悩むように瞳を伏せて獅子は言った。
「僕は重気さん好きだよ。」
そんな獅子に、にっこりと儀礼は笑う。
それをじっと見る獅子。
「……能天気。」
ポツリと獅子は言った。
「ケンカ売ってる?」
言葉とは裏腹に、笑いながら儀礼は答える。
「儀礼。いつ親父が人を殺したって気付いた?」
珍しく、拗ねたような表情をしている獅子に、儀礼は首を傾げる。
「ん~、2年生位だったかな? 知り合いに聞いて。」
儀礼が答えれば獅子は驚いた顔する。
「教えてくれる奴が、いたのか?」
獅子の言葉に、儀礼はシエンの周りにはそれを語る者がいなかったことを思い出す。
今思えば、その頃からずっと儀礼は穴兎から情報をもらっていたのだ。
「僕はパソコンで外の国の人と話してたから。」
儀礼は空中でキーボードを打つ振りをする。
「話せるのか? あの箱で。」
獅子が首をかしげた。
箱、と来た。これだからドルエドの、特に田舎のシエンの人には困る、と儀礼は苦笑する。
「話すって言うか、文字のやり取り。手紙みたいにメッセージを送って、返事が来てって感じ。」
カチカチと儀礼は慣れた動作で左手袋の甲を叩く。獅子も知ってる儀礼のくせ。
嫌な時も、嬉しい時も、儀礼は本当にくせの様にいつもそのキーを押して穴兎に話しかけていた。
「……それかっ!!」
驚いたように、獅子が儀礼の手元を指差して、大きな声を上げた。
その声に、黙って歩いていたクリームが、びっくりしたように振り返った。
「うん、そう。」
照れたように、儀礼は頬を桜色に染める。仲間に、ようやく言えた、儀礼の秘密。
受付に辿り着き、儀礼はそのカウンター横のパソコンからメッセージを送る。
「メッセージってどうやって送るんだ?」
慣れた様子でキーを操作する儀礼を、後ろから覗き込むようにして獅子が聞く。
「送りたいの? 簡単だよ。」
拓へのメッセージを送り終え、瞬いて儀礼は言う。
「こいつ、何回教えても覚えないんだぞ。無理だ。」
クリームが苦い顔をして言った。何回もと言うあたり、苦労したらしい。
儀礼はにっこりと笑って、管理局の受付、三日前にも世話になった女性、トニアに向き合う。
「あの、メッセージ送って欲しいんですけど。」
儀礼が言えば、トニアはにっこりと笑ってはい、と答える。
「ドルエド国、シエン領主のご息女リカ・タマシロ様に『黒獅子』から――」
そこまで言って、儀礼はトニアがパソコンを操作する手を止めるのを待つ。
そして、儀礼は溜めていた言葉を続ける。
「愛してます、と。」
楽しそうに儀礼が言えば、トニアも笑い、獅子が目を剥く。
「たまわりました。送信いたしましたが、返答を待ちますか?」
軽い調子で言い、くすくすと笑いながらトニアが儀礼の返事を待つ。
「てめぇ、儀礼! 何勝手にっ!!」
獅子が顔を赤くして、儀礼の首に腕をかける。
確実に絞まっていく気道に、儀礼は獅子の腕を叩く。
仕方なさそうに、クリームが仲裁に入った。
「冗談だよ、冗談。ねぇ。」
首を押さえて儀礼が言えば、カウンターの中でトニアが笑う。
「はい。ご本人様以外からの依頼では、メッセージの送信はいたしません。」
のりのいいトニアに儀礼は笑みを返す。
頬を一瞬赤く染め、トニアは小さく咳払いをした。
「管理局はそう言うところしっかりしてるから、重要なこと以外だったら、受付けの人に頼めば連絡してくれるよ。返事来てないかも確認してくれるし、秘密厳守だし。」
管理局の受付になるにはそれなりにスキルが必要なのだ。
「へぇ、すごいんだな。」
感心したように獅子は頷く。
「ギルドの受付だって、ある程度の力のある人がなるでしょ。」
冒険者ギルドの受付に弱そうな人間が立っていることはない。
非力な女性に見えるなら、それはほぼ100%、魔法使いだった。
「ギルドの方は引退した冒険者が受付することが多いですね。」
トニアが付け足すように教えてくれた。
「そうなのか。情報通が多いのもそのせいか。遺跡の攻略方とか魔物の弱点に詳しい人間が多いわけだ。」
納得したようにクリームが頷く。
「あの、マドイ博士。よろしければこれ、記念にもらっていただけませんか?」
トニアが少し戸惑うように、三日前に描いた落書きのような『書類』を儀礼の前に差し出した。
少しだけ顔をかたむけ、見上げるように儀礼を見る。
「あ、それ。いいの?」
クマやウサギやたくさんの木や草、太陽に雲に根の生えた花丸。
カオスと化した落書きに儀礼は嬉しそうに手を伸ばす。
その笑顔を見て、トニアは少し待ってください、とその『書類』を一度手元に戻す。
そして、その空いたスペースに棒人間を三人分描いて、丸で囲った。
「どうぞ」
少し照れたように頬を染めて、トニアは儀礼にその紙を差し出した。
それを見て、儀礼は目を丸くする。
「……いいの? すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
にっこりと笑って儀礼はその『書類』を受け取った。
熊がウサギを襲い、人が円の中に囲われている。
花丸にはつるが延び、無数の手の様に葉があたりを埋め尽くし、根っこはたこの足の様にうねり回る。
その中心には、蝶を追いかける異様にテンションの高い棒人間。
芸術性があるとも、うまいとも言えない本当に落書きのような絵。
「……それ、嬉しいのか?」
小さな声で獅子が聞く。
「うん、すごく!!」
言って、儀礼はその絵を抱きしめた。
「どこが?」
意味が分からないという風に頭を押さえクリームが問いかける。
「僕のこと、尊敬してますって!!」
きらきらと瞳を輝かせて儀礼は答えた。
「「言ってねぇ。」」
呆れたような二人の声は揃った。
「伝わって、嬉しいです!」
しかし、照れたように頬を染め、元気な声でカウンターの中からトニアが答えた。
全く同じ時に、同じ場所にいて、トニアが儀礼に言った言葉を二人は聞き逃した覚えもない。
首を傾げる二人の言いたい事が分かったように儀礼はにやりと口の端を上げる。
「心の中で!!」
儀礼はまた、嬉しそうに笑った。
二人は受付けのトニアを見る。
「心読まれましたっ!」
トニアも、儀礼のように嬉しそうに瞳を輝かせ、両手で胸を押さえた。そして。
『秘密は守ります』
にっこりと微笑んだトニアの赤い唇には、そっとペンが添えられた。
『ギレイくんのお絵かき講座』
三人の棒人間。父と母と祖父。丸で囲って、『尊敬してます』。
幼い頃の儀礼の、難しい言葉を使った、精一杯の気持ち。
儀礼はもう一度その『書類』を抱きしめた。
「お前ら、先に戻っててくれ、さすがに心配だ。」
クリームがメッセージを送り終わった儀礼と獅子に言った。
「うん、わかった。クリームは?」
儀礼が問う。
「あたしもちょっとメッセージ送るところがあるから、終わったらすぐに行く。5分もかかんないよ。」
にっと笑ってクリームは言った。
儀礼と獅子の背中を見送り、クリームは受付横のパソコンの前に立つ。
周囲に怪しい者がいないことを確認して、クリームは「自分のアドレス」宛にメッセージを送った。
『お前を信用する。』
たった一言。
すぐにクリーム自身のアドレスから返答があった。
『その言葉、待ってたぜ。クリーム・ゼラード。』
モニター上の固い文字がつづる、怪しげな相手からの返事。
しかし、クリームは口の端を上げる。
『お前のおかげで、奴の裏をかけた。何も知らない人間の顔を見るってのはいいものだな。』
にやりと、笑みを深くして、クリームはそのメッセージをまた、自分のアドレス宛に送った。
『悪趣味だな。さすが、元暗殺のプロ。まぁ、だからこそ、頼りにしている。』
返ってきた無機質な文字の列から、笑うような雰囲気を送りつけてくる謎の通信相手。
続けてのメッセージも、クリームではなく相手からのものだった。
『俺の名はアナザー。お前は、今から俺の駒だ。』
モニターに映し出されたその言葉に、クリームはまた笑う。
「ネットの犯罪者か。同類だな。」
ぽつりと言って、クリームは最後のメッセージを送る。
『了解した。』
そして、全てのデータを削除して、クリームは仲間たちの待つ部屋へと歩き出した。
「儀礼が連絡が取りにくいと言った情報屋か。まさか、『アナザー』とはな。」
歩きながら、クリームは呟く。聞く者もない小さな声で。
『アナザー』それは、ネットの超人とまで言われる、正体不明のネットの住人。
ネットに繋がった所ならばどこにでも出没し、手に入らないデータはないと言われる。
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