ギレイの旅
祝杯
『闇の剣士』の起こした研究室襲撃事件を片付け終え、儀礼を見送ったアーデス達は極北の研究室で一息をつく。
「それにしても、疲れたな今回は。こう、気力の方が」
ワルツは肩を回しながら酒の瓶を持ち出すと自分のグラスについだ。
アーデスも自分のグラスを持ち出し、同じように酒を注ぐ。
「ワルツ。フロアキュールの冒険者、全てを相手にしていた場合、俺たちは奴らの本拠地に辿り着けたと思うか?」
椅子に深く腰を下ろし、アーデスはグラスの液体を飲み始める。
「全員? 全部敵だったのか。だからギレイ、奴らを眠らせたのか」
ワルツが眉根を寄せ、納得したように呟く。
「今回はお前がティーネで言ったように、『俺の』敵だった。だが結局、俺達が相手にした敵より、儀礼一人が倒した数の方が多い」
グラスの中味を一気に煽ると、片方の口端を上げてアーデスは言った。
そして、アーデスは一本の魔剣を持ち出す。
『闇の剣士』の使っていた『ダークソード』。
「お前、それ持ってきたのか」
呆れたように苦笑するバクラム。
「『闇の剣士』の実力は本物だった。本来、一撃で倒せる相手じゃない……」
その剣の短い刃を眺め、アーデスは眼光を鋭くする。
「なぜ、魔剣の刃が半分に折れている?」
アーデスの知る『ダークソード』にはその倍以上の長い刃があったはずだ。
「ダークソードは元々短剣だぞ。その特徴は角のように長い鍔と短い黒い刃だ。『闇の剣士』は普段から吸収した魔力を使って、長い刃を作り出していたんだろうな」
その特徴の黒い刃を確かめるように触れ、バクラムは言った。
「魔力の刃か。なら、奴が俺の研究室の扉を破れたのは、剣にドラゴンの魔力を吸収していたから、と考えていいんだな」
確認するようにアーデスはバクラムを見る。
「ああ。だろうな。お前とヤンの障壁を破るなど、普通では考えられん。ドラゴン程の強大な魔力がなければ無理だ」
ダークソードを作業台の上に戻し、バクラムは替わりに大きなジョッキを手に持った。
「あの、アーデス様。その剣魔力を破壊されてます」
それまで『ダークソード』をじっと見ていたヤンが遠慮がちに言った。
「破壊?」
「強力な魔力で壊されたような……その、すみません。見たことのない状態なのでうまく言えないのですが」
困ったように胸に細いグラスを押し付け、ヤンは自分でも首を傾げる。
「お前がドラゴンの障壁を破ったようにか?」
「あ、はい。それに近いです」
アーデスが問えば、こくこくとヤンは頷いた。その頭の上で黒いとんがり帽子が揺れる。
「つまり、『何か』もしくは『何者か』が、儀礼がさらわれ俺達がティーネに着くまでのわずかな時間に、剣に宿ったドラゴンの魔力を破った、と」
その短い時間を考え、アーデスの笑みに黒いものが混じる。
莫大な魔力と天才的な精度を誇るヤンでさえ、それをするために30分を要した。
儀礼の呼びかけを聞いてから、アーデス達がティーネに着くまでに10分とかかっていないはずだった。
そして、あの場にいてそれをやったと思える人物は、一人しかいない。
「ドラゴンを倒したのが俺達だけではなかったとはな」
同じように、その可能性に気付いたバクラムが、ガハハ、と豪快に笑い声を上げる。
「しかし、転移陣で下に出た時は焦ったな」
笑いながらワルツが言う。
小さな転移陣の移動で、ワルツ達は本来陣の上に到着するべきところを、陣の下、儀礼の居た下の階に着地したのだ。
「ギレイの奴も、よくあの状況で格上の相手を挑発したもんだ」
何か親しい者の、成長と呼ぶようなものを感じ、自然ワルツの口元はほころぶ。
闇の剣士に何者だと問われ、儀礼は答えるどころか、「その質問、何度目です」、だ。
膨れ上がった『闇の剣士』の殺気に、慌てて天井を破壊して飛び出したアーデスの顔は、そうそう見られるものではなかった。
「しかも、バクラムだけ、『外』」
ゲラゲラと、コルロが腹を抱えて笑い出した。手の中で酒の缶が潰れベコリと音をたてた。
「ヤンの魔法って感じだよな」
ワルツも楽しそうに声を上げて笑い出す。
今だから笑えるが、もしも転移陣の失敗でとんでもない所に飛ばされていたら、どうなっていたことか。
「ああ、外と言えば。解析結果調べた時に見たが、フロアキュールに外部から空調をいじった形跡があったな。管理局に接続するなんてつわもの、いるんだな」
浮いた涙を拭き取りながら、コルロはまだ愉しげな笑みを浮かべている。
「ギレイの影、『アナザー』か」
三杯目をグラスに注ぎながらアーデスが言った。
「『アナザー』って、まさかあのネットの……超人」
アーデスの言葉にコルロの笑みは固まった。
「なぜかは知らないが、奴は『蜃気楼』のために動く」
椅子に深く腰掛け、アーデスはグラスを傾ける。
「ギレイが『アナザー』本人だとか?」
ワルツが問う。
「それはない、確かめた。」
アーデスはグラスの液体を見つめ、にやりと笑った。
その背後から立ち昇る不気味な暗黒オーラに、メンバーはその先を聞くのをやめ、事件が解決したことを祝って、最後の一人が寝入るまで飲み続けた。
「それにしても、疲れたな今回は。こう、気力の方が」
ワルツは肩を回しながら酒の瓶を持ち出すと自分のグラスについだ。
アーデスも自分のグラスを持ち出し、同じように酒を注ぐ。
「ワルツ。フロアキュールの冒険者、全てを相手にしていた場合、俺たちは奴らの本拠地に辿り着けたと思うか?」
椅子に深く腰を下ろし、アーデスはグラスの液体を飲み始める。
「全員? 全部敵だったのか。だからギレイ、奴らを眠らせたのか」
ワルツが眉根を寄せ、納得したように呟く。
「今回はお前がティーネで言ったように、『俺の』敵だった。だが結局、俺達が相手にした敵より、儀礼一人が倒した数の方が多い」
グラスの中味を一気に煽ると、片方の口端を上げてアーデスは言った。
そして、アーデスは一本の魔剣を持ち出す。
『闇の剣士』の使っていた『ダークソード』。
「お前、それ持ってきたのか」
呆れたように苦笑するバクラム。
「『闇の剣士』の実力は本物だった。本来、一撃で倒せる相手じゃない……」
その剣の短い刃を眺め、アーデスは眼光を鋭くする。
「なぜ、魔剣の刃が半分に折れている?」
アーデスの知る『ダークソード』にはその倍以上の長い刃があったはずだ。
「ダークソードは元々短剣だぞ。その特徴は角のように長い鍔と短い黒い刃だ。『闇の剣士』は普段から吸収した魔力を使って、長い刃を作り出していたんだろうな」
その特徴の黒い刃を確かめるように触れ、バクラムは言った。
「魔力の刃か。なら、奴が俺の研究室の扉を破れたのは、剣にドラゴンの魔力を吸収していたから、と考えていいんだな」
確認するようにアーデスはバクラムを見る。
「ああ。だろうな。お前とヤンの障壁を破るなど、普通では考えられん。ドラゴン程の強大な魔力がなければ無理だ」
ダークソードを作業台の上に戻し、バクラムは替わりに大きなジョッキを手に持った。
「あの、アーデス様。その剣魔力を破壊されてます」
それまで『ダークソード』をじっと見ていたヤンが遠慮がちに言った。
「破壊?」
「強力な魔力で壊されたような……その、すみません。見たことのない状態なのでうまく言えないのですが」
困ったように胸に細いグラスを押し付け、ヤンは自分でも首を傾げる。
「お前がドラゴンの障壁を破ったようにか?」
「あ、はい。それに近いです」
アーデスが問えば、こくこくとヤンは頷いた。その頭の上で黒いとんがり帽子が揺れる。
「つまり、『何か』もしくは『何者か』が、儀礼がさらわれ俺達がティーネに着くまでのわずかな時間に、剣に宿ったドラゴンの魔力を破った、と」
その短い時間を考え、アーデスの笑みに黒いものが混じる。
莫大な魔力と天才的な精度を誇るヤンでさえ、それをするために30分を要した。
儀礼の呼びかけを聞いてから、アーデス達がティーネに着くまでに10分とかかっていないはずだった。
そして、あの場にいてそれをやったと思える人物は、一人しかいない。
「ドラゴンを倒したのが俺達だけではなかったとはな」
同じように、その可能性に気付いたバクラムが、ガハハ、と豪快に笑い声を上げる。
「しかし、転移陣で下に出た時は焦ったな」
笑いながらワルツが言う。
小さな転移陣の移動で、ワルツ達は本来陣の上に到着するべきところを、陣の下、儀礼の居た下の階に着地したのだ。
「ギレイの奴も、よくあの状況で格上の相手を挑発したもんだ」
何か親しい者の、成長と呼ぶようなものを感じ、自然ワルツの口元はほころぶ。
闇の剣士に何者だと問われ、儀礼は答えるどころか、「その質問、何度目です」、だ。
膨れ上がった『闇の剣士』の殺気に、慌てて天井を破壊して飛び出したアーデスの顔は、そうそう見られるものではなかった。
「しかも、バクラムだけ、『外』」
ゲラゲラと、コルロが腹を抱えて笑い出した。手の中で酒の缶が潰れベコリと音をたてた。
「ヤンの魔法って感じだよな」
ワルツも楽しそうに声を上げて笑い出す。
今だから笑えるが、もしも転移陣の失敗でとんでもない所に飛ばされていたら、どうなっていたことか。
「ああ、外と言えば。解析結果調べた時に見たが、フロアキュールに外部から空調をいじった形跡があったな。管理局に接続するなんてつわもの、いるんだな」
浮いた涙を拭き取りながら、コルロはまだ愉しげな笑みを浮かべている。
「ギレイの影、『アナザー』か」
三杯目をグラスに注ぎながらアーデスが言った。
「『アナザー』って、まさかあのネットの……超人」
アーデスの言葉にコルロの笑みは固まった。
「なぜかは知らないが、奴は『蜃気楼』のために動く」
椅子に深く腰掛け、アーデスはグラスを傾ける。
「ギレイが『アナザー』本人だとか?」
ワルツが問う。
「それはない、確かめた。」
アーデスはグラスの液体を見つめ、にやりと笑った。
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