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ギレイの旅

千夜ニイ

撤収

 ヤンが血の流れる儀礼の頬に触れ、傷を治す。
「他に、痛むところはありませんか?」
治療を終え、ヤンは心配そうに儀礼を眺める。
「平気、ありがとうございます」
儀礼は笑った。衝撃吸収材とワイバーンの瞳のおかげでほとんど怪我などしていない。
「皆もありがとうございます。助かりました」
儀礼は他の三人にも向き直り、丁寧に頭を下げた。
「……あれ? バクラムさんは?」


 一人足りないことに気付き、儀礼はあたりを見回す。
「バクラムなら外で暴れてるぞ。城壁ごと敵を蹴散らしてるぜ」
けらけらと笑いながらワルツが言う。
言われてみれば、ずっと地響きのような低音が聞こえていた。
近くにあった小さな窓から覗いてみれば、そこは3階程の高さがあり、少し離れた地面でバクラムがたくさんの冒険者と戦っていた。


 巨大なハンマーに黒い霧の様な物が纏わりつき、振るわれるたびに、炎のように黒い火の粉を散らす。
武器が当たってもいないのに、硬い岩でできた城壁が砕ける。
城壁の瓦礫と共に飛ばされた人間が、瓦礫の下で呻いている。見える限り、敵は全員死んでいない。
闇のような黒い魔力を込められた武器。バクラム自身は強化されていないようなのにも関わらず、超重量の大槌を棍棒か何かのように振り回している。
闘気を纏うシエンの戦い方とは違う、魔力を纏う武器。
「うわ、見たい!」


 言って、儀礼は走り出す。
が、すぐにバタンといい音をさせて転んだ。
片足に、鎖が繋がれたままだった。
その鎖は壁ではなく解剖用の台に繋がっている。
「ああ、もう邪魔!」
言いながら、儀礼はぶつけた鼻をおさえる。


 冒険者ランクAのアーデス達から見ればどんくさいことこの上ない、儀礼の動作。
仕方ない、と呟いてアーデスが剣で鎖を壊そうと近付く。
その前に、儀礼はポケットからライターを取り出すと、小さな炎で足についた鎖を炙る。
「早く、早く、頼むよ」
儀礼は急かすようにそう言う。
しかし、何をしているのか意味は不明だ。
ところが、たちまち金属の鎖が赤くなり、どろりと溶け儀礼の足は開放された。


「『魔砕の大槌』、その実力、知りたい!」
儀礼は素早く廊下へと飛び出していく。さすがに窓から飛び降りるということはしない。
無言のまま、アーデスは儀礼の落としていったライターを拾う。
その小さな炎に手を当ててみる。
じりじりと熱せられはするが、とうてい金属を溶かせるとは思えない。
アーデスは儀礼の飛び出して行った廊下を眺める。


「なぁ、あれの中身は……」
「あれの中身は血と、肉と、骨だ。いいからもうやめろ、それは! あたしでも分かってきたぞ。あいつに手を出すとまたこんなことが起こる。今回の奴らだって、こんなに早く動き出すはずがなかったんだ。だから放っといたんだろ、アーデス! なのに、儀礼が関わった途端にこれだ」
ワルツが叫ぶように言う。
アーデスは仕方なさそうに腕を組む。
「興味深いんだがな。世界を巻き込む異常性」
アーデスは名残惜しそうに廊下から目を離し、解析装置の出したわずかな時間の解析結果を見る。


 示された結果は魔力の空洞。
本来、全身に満ちているはずの魔力が、儀礼には一部欠落している。
体の中心部に、ぽっかりと穴が開いていた。その代わりというように、表面を覆う魔力の濃度が上がり、外部へと流れ出ているような状態。
それが、精霊を惹き付ける要因、なのだろうか。


 石でできた窓辺に金属の爪がかかった。
警戒したアーデス達だが、覗いた窓の外に見えたのは儀礼だった。
「アーデス、撤収っ! 管理局の始末係が来たっ、僕、見つかりたくない」
シューッ、とワイヤを強力に巻き取る音と共に、壁を走りながら儀礼が言う。
古城の外に、次々と白い陣が浮かび上がっていた。
バクラムが階段を上がり廊下から戻ってくる。


「私、まだどこにも通報してませんが」
アーデスがにっこりと笑う。
「うわ、ほんと、管理局も仕事が早いね」
そんなアーデスに顔を合わせないようにして、儀礼は落ちていた色付きの眼鏡を拾う。
ついでに、『闇の剣士』の消えた場所で儀礼の改造銃を見付けた。
その冷たい銃を手に取り、儀礼は重さを噛み締める。


「ギレイ、お前靴忘れてるだろ」
ワルツが儀礼に靴を差し出す。フロアキュールの遺体解析装置の部屋に置きっぱなしだった靴。
「ありがとう、ワルツ。でも、ソレ素手で触ったら危ない」
笑いながら儀礼は言う。受け取った靴を履き、かかとを鳴らす様に床を蹴れば、靴の後ろから鋭い刃が突き出した。
「ね。」
「ね、じゃねぇ」
にっこりと笑った儀礼にワルツが呆れた。
コルロやバクラムが声を上げて笑う。


 外での喧騒が始まり、バタバタと複数の人間が階段を駆け上がる音がする。
「ここでの用も済んだことだ、場所を変えるか」
アーデスが言って、6人の周囲を白い光が包んだ。

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