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ギレイの旅

千夜ニイ

フロアキュール 儀礼の戦い

 解析装置内で寝ていた儀礼は、装置内の異常な温度上昇で目が覚めた。
サウナにいるような暑さだった。
枕元でガラスコップに入った、水分補給用の水が沸騰している。
「……何これ。暑い」
いじってあったロック部分に手を入れ、蓋をこじ開ければ、涼しい風。


 そして、ほぼ同時に轟音と共にその研究室の扉が破られた。
扉の破片が飛び散り、儀礼のいる装置の障壁に当たってさらに小さく砕けた。
他人の研究室は不可侵地帯。侵入者は間違いなく犯罪者であり、敵である。
儀礼は解析装置から飛び降り、近くにあった白衣を手に取る。靴を履く余裕はない。


「まさか、『双璧』は人体蘇生術を完成させたと言うのか……」
物凄い顔をして、侵入してきた男たちが儀礼を見て驚いている。
いい隙ができたので、儀礼は白衣を羽織り、ポケットから気化性の強い麻酔薬の瓶を取り出すと、床に向かって投げつけた。
瓶の割れる音で男たちは我に返るが、何をする間もなく、バタリバタリと倒れていく。


 白衣から改造銃を取り出し、指の出る手袋をはめると、儀礼はすぐに穴兎に連絡を試みた。
儀礼:“フロアキュールで何が起こってるかわかる?”
メッセージを送り、儀礼は白衣の中の装備を確認する。
「アーデス達がやられたとも思えないし、何があった?」


 一人ごちながら儀礼は操作パネルに駆け寄る。
解析結果を奪われないよう隠そうとしたが、儀礼にもアクセスできないようにされていた。
儀礼にできないなら、奴らにも無理だろう。アナザーに頼んで持ち出す必要もない。
ところが、儀礼が飛び出そうとした扉の外に、驚愕の表情をした男がまだ数人立っていた。
麻酔薬は研究室内にこもり、廊下にまで回らなかったようだ。


一番近くにいる、黒い剣を構える男は隙のない気配から、儀礼の戦える相手ではないことはすぐにわかる。
「くっ、逃げろっ!」
儀礼は誰もいるはずのない解析装置に向かって叫んでみた。
同時にポケットの中でリモコンを操作すれば、誰も履いていない靴が研究室内を走るように動き出す。
「なっ、本命はあっちか!」


 儀礼を突き飛ばすように押し、黒い剣を持つ男はその靴を追いかける。
「待て、殺すな! 連れ帰って調べる」
他の男達も、先回りするようにその靴の行く先へと走りこむ。
すなわち、男達は麻酔のこもる研究室に入り、儀礼の前で扉周りが開いた。
儀礼は突き飛ばされた勢いのまま、足を止めることなく研究室を飛び出した。
靴だけで動く仕掛けなどすぐにばれてしまうだろうが、まさか引っかかるとは。


穴兎:“キュールにドラゴンが出たらしい”
廊下に出た儀礼の眼前に、穴兎からの返答があった。
「ドラゴン! 見たい!」
状況を忘れ、儀礼は叫んでいた。
我に返り、儀礼は走りながら手袋のキーを押す。走りにくさがもどかしい。


儀礼:“じゃぁ、アーデス達はそっちに行ったんだ。なんか、アーデスの借りた研究室が襲われてるんだけど?”
穴兎の返答に少しの間があった。
儀礼は身の安全を考え、トラップだらけのアーデスの研究室を目指す。
穴兎:“まさかとは思うが、……お前、どこにいる?”
儀礼:“いるてか、いた。古人解析装置の中。”
穴兎:“お前か!!”


 穴兎の反応から、襲撃者の狙いがアーデスの研究なのだと確信した。
複数の気配が儀礼を追ってきている。
儀礼の前方にも、複数の人影。
鎧をまとい、武器を持ったその冒険者達は臨戦態勢で、間違いなく敵だった。
苦い表情で儀礼は改造銃を構えると、その離れた位置から冒険者達を狙い撃つ。


 倒れた男達を確認し、敵に見つからない逃げ道を探るため、腕輪に意識を込めれば、いきなりフロアキュールの全体像が頭に浮かび上がった。
「うっ……」
視界を奪われるような強制力に眉をひそめ、儀礼はその光景を考える。
フロアキュール内に臨戦態勢で立つ冒険者の数々。


儀礼:“空調動かせない? 全体に”
短い思考の末、儀礼は穴兎に頼む。
穴兎:“全体? できるが、全部が敵なのか? 脱出は? 護衛どもは陽動されたってことかよ。”
穴兎のメッセージが流れる間にも空調の流れが変わったのが分かった。
儀礼は近くにあった空気の吸い込み口に、麻酔薬を霧状に噴射する機械を放り込む。
一瓶。それで、フロアキュール全体が眠りにつくはずだった。


儀礼:“アーデスの研究室に逃げ込もうかなって。キュールの下層並みにトラップたくさんだから”
穴兎:“どこの遺跡だって?”
儀礼:“アーデス遺跡? 廊下に仕掛けたのは僕だけど。”


 そのアーデスの研究室が見えてきた。
トラップだらけの廊下にも複数の敵がいて、儀礼に気付き、武器を構えて立ちはだかる。
儀礼は走りながら、その廊下の壁に向けて銃を撃った。
仕掛けてあったトラップが作動し、儀礼に対峙しようとしていた冒険者達に強力な電撃を食らわせる。
鎧を纏う冒険者達は雷に弱いことが多い。呻き声を上げ、邪魔者は倒れた。
予想通り、その電撃は儀礼の仕掛けた倍以上の威力だったが、今は問題ないことにする。
自分の仕掛けたトラップ道をかいくぐり、儀礼は扉を壊す勢いでアーデスの研究室へと飛び込んだ。

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