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ギレイの旅

千夜ニイ

召喚されし敵

 グオオオォ!
魔力を侵されたドラゴンが瞳を怒らせ口の奥に炎を溜めこむ。
「さぁ、もっとその炎、吹いてみろよ」
笑うように口の端を上げて、ワルツはドラゴンの顔に向かい走りこむ。
二度目の炎が、ドラゴンの口から巻き起こった。
しかし、ワルツはその炎の海をものともせず、ドラゴンの顔の前に辿り着くと、強大なハンマーを振り下ろした。
ガーン
硬い音がして、ドラゴンの顔が歪む。
グギューッ
唸るような、呻くような、小さな声がドラゴンののどもとで鳴った。


直後、ドラゴンの額にある怒れる瞳が見開かれる。
放たれた紫色の閃光に包まれ、ワルツの体が超低速移動に変わる。
「なっ……!」
一人、時の流れに乗り遅れたように、ワルツの動きはスローモーションとなり驚きの表情すら、遅れて表れる。
重力に抗うように浮いた片足は地に着かないまま、ワルツの体は思うように動かない。
今、顔を殴りつけたワルツの眼前でドラゴンが牙をむく。


「紫の瞳。現段階で全てを解き明かされていない属性か」
動けずにいるワルツと、三つの凶悪な眼を興味深く見つめ、剣に魔力を込めるアーデス。
「時、重力、または両方を内包するものか」
言いながら、アーデスは走り出す。
何かを唱えながら飛び上がれば、ドラゴンの額の瞳にその長い剣を突き刺す。
ギーィァーッ
全ての瞳を閉じて、ドラゴンは苦痛に暴れ回る。
跳ね回る巨体に巻き込まれぬよう、アーデスはすぐに剣を抜き取りドラゴンから距離を取る。


 紫の光が消え、ワルツの体にも自由が戻った。
「よっしゃ、動ける」
「ワルツ、下がれよ」
言うと、コルロが何かの詠唱を始める。
両腕の腕輪が一斉に輝きだし、ドラゴンの体の下に何かの陣が浮き上がった。
ドラゴンを囲むほどの大きな円の魔法陣。
「強制送還だ、家へ帰りな」
コルロの言葉と同時に、陣から様々な色の光が飛び出し、ドラゴンに襲い掛かる。
その光りが触れた部分から、つぎつぎと、ドラゴンの体が消えていく。
魔力により分解し、異界の地へ強制的に送り出す。
そこが、魔物たちの本来の住処と考える者と、まったく別の世界と言う者とがいるが、コルロに取ってはどちらでもいい。
その世界に行ったものは、ある手順を行えば呼び出すことが可能になるのだ。
貴重な存在を捕らえた事になる。


「異界閉鎖します」
コルロの呪文が終わりきる前に、ヤンがその扉を閉める作業を始める。
満身創痍のドラゴンの姿が消えていくと共に、端の方から地面の魔法陣が欠けていく。
他人の呪文に干渉する力。そして、壊さずに速度を速めるという補助。ありえない、とコルロは笑う。


「ん?」
コルロは足元を見た。
魔法陣の形がわずかに消え残っている。
しかし、コルロの作った陣は完全にヤンが消したはずだった。現にコルロは自分の魔法の力をもう感じてはいない。
では、これは何の陣の残りだろうか。


「おい、アーデス。これわかるか?」
コルロは記憶力のいいリーダーを呼ぶ。
「陣の残りだな。消えなかったのか? ……いや」
アーデスは目を細めてソレを見ると、真剣な顔で言い直した。
「違うな、これは復元されたようだ。おそらく以前使用された魔法陣に同じ形式部分があって、さっきの魔法に反応したんだろう。完全に消されていなかった陣の一部が呼び起こされたんだな」
その陣の欠片をアーデスは睨むように見る。


「どういう意味だよ」
ワルツが消え去ったドラゴンに戦闘態勢を解き、ハンマーを肩にかつぐ。
「以前に似たような魔法を使った奴がいて消し損じたものが、コルロの異界転送で魔力が流れ込み、見えるようになったんだろう、ってよ」
バクラムが説明する。
「はいはい、兄弟子さんはものしりだねぇ」
一人意味の分からなかったワルツが拗ねたように、ぶんぶん、と強大なハンマーを手首を利用して片手で回している。
ステッキやかさでやってる人なら、よく見るが……。


「誰かが異界へ魔物を送ったのか」
バクラムの言葉に、アーデスが口の端を上げた。
「この形状、見たことがある。この三つの文字が表す魔物は決まっている。そして、これは――」
「送った、じゃなくて『召喚した』だな」
その陣の欠片を見つめ、笑うアーデスの言葉を、同じように口元を歪めてコルロが継いだ。

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