ギレイの旅

千夜ニイ

護衛役ヤンの番

 眠気の覚めた儀礼の目の前で、コルロの右腕の腕輪が次々に光り出した。チカチカと光る様子は電飾みたいだった。
「悪い、儀礼。俺、ちょっと人に呼ばれた。ここにいろよ」
そう言ってコルロは部屋を出ていく。
「呼び出しなんだ、あれ。どうやるんだろ」
言いながら、儀礼は他人の探索魔法などでも腕輪が光ることを思い出す。
魔法が使えれば可能なのかもしれない。
カラフルにピカピカと光るのは面白かった。儀礼は一瞬、コルロの腕が機械の腕かと思ったほどだ。


 コルロが出ていき、すぐに床に白い光が現れ、ヤンがやってきた。
「ギレイさんっ。聞きました、どうしてこんな危険なこと……」
心配そうにヤンが瞳を潤ませて儀礼を見る。
「別に、危険はないよ。大丈夫だから」


そう言って笑う儀礼だが、
(次々に知り合いが会いに来る。あれ? これって死亡フラグってやつじゃ……)
儀礼は背中に冷たいものが流れた気がした。


「装置の外側と、部屋の外にも障壁を作りました。侵入防止のための結界も張りました。これで外部からの魔力探査も、武力行使にもたえられるはずです。でもっ、内部のことには私、何もできませんっ」
ヤンが目に涙を浮かべる。まるで、今生の別れのようだ。
 

「そんなに心配しなくても、これは、人を殺すための道具じゃないから」
大きな寝台のような装置を撫で、儀礼は笑う。
「何かあれば私、すぐに脱出魔法で助け出しますから。回復も、精神ケアもできるように待ってますからっ……」
(あれ? 僕、おかしくなるの前提?)
必死なヤンに、儀礼は苦笑する。


 儀礼は警戒するように周囲を見回す。
ヤンの張った結界があるために人がいるはずもなく、儀礼の腕輪にも探索魔法の気配はない。
儀礼はヤンの肩に手をかけ、引き寄せるようにして顔を近付ける。
「実はさ、もう手を入れてあるんだ。この装置、中から開けられるの。アーデスには内緒ね」
その耳元に囁き、儀礼は悪戯な笑みを浮かべた。
 その余裕ある儀礼の姿を見て、ようやくヤンは微笑んだ。安心したように。
 

「あと、枕と飲み物と本と灯り用意すれば完璧」
にこにこと楽しそうに儀礼は笑う。
装置に腰かけたまま、ゆらゆらと足を揺らす。
この寝台のような装置に、重たい蓋を閉めて、解析装置は動き出す。
それがスキャナーとなり、この部屋全体に解析のための機械が繋がっている。
 



「あ、ギレイさん。あのっ。転移陣を使うようになったとお聞きしました。それで、転移陣の危険性を説明しておきたくて、私」
室内を見回していた儀礼に、思い出したようにヤンが声を出した。
伺うようにヤンは儀礼を見上げる。心配そうに両の手で杖を握りしめていた。
「危険性?」
儀礼は少し眉を寄せる。


「はい。転移陣は誰にでも使えると言う利点がありますが、もともとある魔力の流れを利用しています。道の途中に網を張っておくなどして妨害される可能性があります。他にも、例えばギレイさんがこのフロアキュールにいつ頃いらっしゃるか予測できれば、転移陣の前で構えて着いた瞬間に囚える、ということも考えられます」
ヤンの言葉を真剣に聞き、儀礼は頷く。
アーデスが儀礼に使い方を教えなかった理由はきっとそれだ、と儀礼は思った。


 儀礼は好き放題に一人であちこちに行くつもりでいた。
早いうちに聞いておいてよかった、となんとなくヤンの頭を撫でる。
「あ、あのっそれから、稀にですが、妨害にあってまったく別の場所に飛ばされることもあるんですっ」
ヤンは顔を赤くして、慌てたように付け足す。
 「心配してくれるんだ。ヤンさんは優しいよね。ありがとう。ごめんね、僕は頼りなくて」
ヤンの頭に手を置いたまま儀礼は言った。


「い、いえ。そのっ。だから、移転魔法が使えないギレイさんは飛ばされてしまった場合に帰ることもできなくなってしまうかもしれませんので、連絡下さればいつでもお迎えに上がりますから、呼んでください」
焦ったように、ヤンは早口に言う。
儀礼の手の下でヤンの顔がみるみると赤くなっていく。
優しい魔法使いはあがり症のようだと、儀礼はおかしそうに笑った。

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