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ギレイの旅

千夜ニイ

儀礼魔法

 コルロが口を開く。
「そいつがな、ドルエドの王都の学生だったらしいんだ。二十年程前に卒業したはずなんだけど、まったく情報が掴めなくてな。お前、ドルエドのSランクだろ。何か知らないか?」
睨む、というよりは、単に眼つきを鋭くさせてコルロは儀礼を見る。
「う~ん、ごめんなさい。僕、その時生まれてないんで……。父さんなら何か知ってるかなぁ? 一応王都の学校行ってたらしいんですよ。途中で辞めちゃったって言ってましたけど」
拳を口に当て、考えるように儀礼は言う。


「そうか、何かわかったら教えてくれ。俺、その人尊敬してるんだ」
口が弧を描き、コルロの目が真剣と興味深さにきらめく。
「存在も分からないのにですか?」
何かを探るように、儀礼はその目を見る。
「実はな、……」
コルロは声を小さく抑え、儀礼に耳打ちするように話す。


「親父が、少しだけデータを持ってたんだ。たまたま読んでる途中だったらしくて、こっそりコピーしたんだと。うちの親父は平凡だから、結局理解できなかったみたいだけどな。そのデータ、一部しかなかったけど、俺はそれを見て、この腕輪を開発したんだ」
コルロは自分の腕に付いた複数の腕輪を示す。そして、声を潜めたまま儀礼の耳に続ける。


「この石の一個一個に魔法の陣が埋め込まれてるんだ。その陣は詠唱の役目も果たしているらしい。だから、これをつけて、石に魔力を込めるだけで、魔法が発動される」
にやりと笑うコルロに、儀礼の顔が青くなる。
それが、制限のかかっていたコルロの腕輪の情報。儀礼は自分の手にはまる腕輪をチラリと見た。


「……それ、僕に話していいんですか?」
儀礼の声は震えていた。管理局から消されたデータの一部。所在の消えた革命者。


「それがさぁ、俺、どうも気になるんだよな。お前の名前」
「名前ですか?」
青い顔のまま儀礼は首を傾げる。
儀礼ぎれいだろ」
「はい」
当たり前のことを言われ、儀礼はさらに首を傾げる。


「儀式魔法の別称を儀礼ぎれい魔法って言うんだ。その発表された文書には、『儀礼魔法の新定義』ってあった」
今度は、コルロの目が探るように儀礼を見る。
「お前の親父、王都の学校にいたって言ったよな」
何か、冷たい感触が儀礼の体の中をざわつく。儀礼には、そんな覚えは何一つない。


「まさか、僕の父さんは魔法なんて使いませんよ。魔法系の資料だって見たこともありません。あれば僕がここまで魔法知らないわけないじゃないですか」
儀礼の記憶の全てに、そんなものは存在しない。


「そうだよな……そうなんだけど。関係あるんじゃないかと思ってさ」
諦めたように、コルロは息を吐いた。
「ま、今の情報はこれの礼だと思っといてくれ」
コルロは儀礼の渡した銃を示す。コルロの腕輪と儀礼の銃。確かに同程度の価値と穴兎は言っていた。


 価値的には同等でも、儀礼は何か重たいことを聞かされた気がしていた。

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