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ギレイの旅

千夜ニイ

コルロの『連撃』って何?

 知らない女の人が呼びに来て、ワルツが部屋を出て行った。
入れ替わりのようにコルロが儀礼のいる研究室へと入ってくる。
これは、もしや護衛なのか。と儀礼はようやく気付く。
知らない人間が近寄れるような場所にあるのだ、この研究室は。


 アーデスの研究室内なら安全なのに、と儀礼は思う。
アーデスの研究室前の廊下は、儀礼の仕掛けたトラップだらけだ。
今の所、突破できた研究者も冒険者もいないらしい。
突破しても、アーデスの障壁とトラップがあるのだが。
大掛かりな装置のため、移動するのは不可能。考えても仕方ないことだ。


「ちょうど良いところへ。これ、例の物です」
周囲を警戒し、声を潜めて、儀礼は両手に余るサイズの木箱をコルロに差し出す。
「お前、それどこから出した……」
せっかく儀礼が、やばい物を渡すと言う雰囲気を作ったのに、コルロは呆れたように言葉を返してきた。
 どこから。皆、儀礼の体がどうなっていると言いたいのか。まったく普通だと言うのに。


「サイズは僕のと同じです。型が同じなので。中身はだいぶ変えてみました。僕のは実弾向きだったから。使ったらデータ下さい。改良の余地がありますので」
コルロは早速箱を開く。
中には儀礼のと同じ形の銃。儀礼のは銀色、コルロのはもう少し黒に近い。


「使い方は?」
「説明書が中に。1が魔法、2が実弾です」
簡単にだけ儀礼は説明する。コルロの腕輪よりずっと親切だ。
「実弾も出るのか。アーデス転がしたやつは?」
コルロが言うのはおそらく、最初の対戦の時に使った痺れ針のことだろう、と儀礼は当たりをつける。
転がしたわけではないが。


「扱いが難しいので入れませんでした。手入れや調整ができて、僕に撃たないというなら着けても構いません」
なぜかコルロが笑った。儀礼には面白いことを言った覚えはない。コルロはきっと笑い上戸なのだろう。


 アーデスはまだ戻って来ない。手続きに時間がかかっているようだった。
生きた人間を遺体解析装置に入れるのだ、それはきっといろいろあるだろう。
面倒なことはすべてアーデスに頑張ってもらう。


「そういえば、コルロさん。『連撃の魔法使い』ってどういう意味なんですか?」
暇があるので、儀礼は聞いてみたかった二つ名の意味をコルロ自身に聞く。
穴兎に聞こうと思って忘れていた。穴兎は聞けばすぐ教えてくれるだろうが、今、コルロの前で手袋のキーを操作するのは危険だった。
 儀礼の銃を分解し始めたコルロは、やはり機械に詳しい人間だろう。魔法使いなのに……。


「魔法の発動速度が速いんだよ、俺は。結構自慢だぞ今まで速さだけは負けなしだ」
分解した銃を組み立て終えると、笑いながらコルロは言った。
「魔法の発動速度が速いと連撃なの? 連続魔法とは違うんだ?」
意味が分からず、儀礼は首を傾げる。


「連続魔法は単発魔法なんだ。見てろよ」
そう言って、コルロは手のひらを上に向ける。
パン、と音をたてて5cmほどの小さな花火がその手のひらの上に上がった。
「これがいわゆる単発魔法だろ。そんで、次は連続魔法」
パパパパパン、と連続で次々と小さな花火が上がった。
一箇所に重なるのではなく離れた場所で花火が開くので、ちょっとした花火大会だ。


「すごい、きれいだね!」
魔法の説明だということも忘れて、儀礼はその花火に見入っていた。
「ははは。今のが連続魔法一回分。だから今ので連続魔法は一撃。じゃ、次が俺の連撃な」


 パーーーンッ
音は、ほとんど一つだった。広い部屋中に所狭しと小さな花火が咲き乱れる。
儀礼は言葉を失った。
動く場もないほどの花火に囲まれているのに、儀礼に触れる火種はない。
その操る技術が精度と呼ばれるものか。


「凄い。これが『連撃』」
これは小さな見せるだけの花火だ。
しかし、これが巨大な火球なら、岩撃なら、逃げる間もない速さの雷撃だったなら。
今、コルロが発動した魔法のどれにも詠唱がなかった。予備動作も、魔力を溜めるための時間も。
儀礼の知る、わずかな魔法の知識とすら見合わない。


 説明するように、またコルロが口を開く。
「連続魔法も呪文一回唱えて出るのが、一撃。単発でも連続でも魔法一つが一撃なんだ。それぞれ一撃出すのに、手順や詠唱が必要だったりするんだが……」
そこでコルロは一度止める。その詠唱がなかったのがコルロの魔法だ。何を話そうと言うのか。

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